学力低下の背景にある読書離れ
子どもたちの学力低下が心配されています。最新の全国学力テストでは、小6の国語や算数のスコアが3年前と比べて大きく低下(※1)。しかも、テレビゲームの使用時間が長いほど、またスマートフォンの使用時間が一定程度を超えると、スコアの低下が大きいことが明らかになっています。

全国学力テストの質問調査では、「読書が好き」と答えた子どもは過去最少の69.8%に減少。一方で、小学生(10歳以上)のインターネット利用時間は1日約3時間44分(※2)に上っています。
※2 こども家庭庁「令和6年度青少年のインターネット利用環境実態調査調査結果」
子どもの読書離れ「本は読み聞かせしてくれるなら好き。でも動画の方がもっと好き」

「子どもたちの学びって、すべて文字じゃないですか。教科書もプリントもテストも全部文章です。でも今は、本は好きだけど読み聞かせしてもらうなら、という条件付き。動画のほうが100倍好きというお子さんが少なくありません」と株式会社Yondemy代表の笹沼颯太さん。教育委員会も読書離れの課題を強く感じており、愛知県豊橋市でヨンデミーの実証実験をすることになりました。
●オンライン読書教育サービス「ヨンデミー」とは
ヨンデミーは、AIを活用した子ども向けのオンライン読書教育サービス。AIのヨンデミー先生が子ども一人ひとりの好みやレベルに合わせて本を選び、学年ではなく「ヨンデミーレベル」でその子の読む力に合った本を紹介してくれます。ゲーム感覚で楽しめる仕掛けもあり、子どもが自然に読書習慣を身につけることができます。
1カ月で約59冊! 豊橋市の公立小学校での実証実験で驚きの成果

豊橋市では、2025年6月から津田小学校、9月から豊小学校の2校でGIGA端末を使ってヨンデミーの利用がスタート。

一足先に導入した津田小学校の1年生は、導入初月の1カ月間で読んだ平均冊数が平均59.2冊を記録。これは通常のヨンデミー利用者の月平均25.6冊を上回る数字です。

休み時間になると、子どもたちが本の話で盛り上がるようになりました。1年生を担当する司書教諭の先生によると、子どもたちが本のことで話しかけてくることが増えたと言います。「本を借りるとき、子どもは背表紙しか見えないですけど、アプリ上だと表紙を見せやすいのがいいですね。どの学年の子どもも、読んだ本や好きな本を見せてくれるようになりました」と、アプリならではの良さを感じています。

「想定以上に読書量が増えたのはうれしいサプライズです。事前のアンケートでは、全校児童の45%が『授業以外でクラスの友だちと本について話すことはない』と答えていたんですよね。通常、ヨンデミーは自宅で一人で使いますが、学校だと友だちと一緒に楽しめて、子ども同士が刺激し合えるのがよかったのでしょう。学校に導入するメリットを実感しました」
読書がもたらした「読む力」以外の効果
さらに先生たちからは、読む力の向上だけでなく、「落ち着きが出た」「会話が増えた」「授業への集中力が上がったように感じる」といった声も。なぜ、こうした変化が起きたのでしょうか。
「読書によって語彙力がつき、自分の気持ちを表現できるようになったのが一つ。これまで手を出してしまっていたシーンでも、まずはちゃんと言葉で気持ちを伝えられるようになり、落ち着いたのでしょう。毎日本を読んでいるので、夕飯時などに今日読んだ本の話をするのが習慣になり、親子の会話が増えたという話もよく聞きます」
読む力に合った本を選ぶことの大切さ

今回の実証実験で笹沼さんの心に残っているのが、ポルトガル語で届いた保護者からのメッセージだそうです。
「月1回の保護者アンケートに初めてポルトガル語での記載があったんです。
“Fico feliz por ela conseguir ler apesar de não compreender muito a língua”
翻訳してみたら『娘が言葉をあまり理解していなくても、読めるようになったのがうれしいです』って。外国人家庭のお子さんも、学年ではなくその子の読む力に合った本を選べることで、読書を楽しめるようになった。自分に合った本を選ぶ大切さは外国人家庭に限らず、あらゆる子どもにいえることです」
読む力で広がる無限の可能性
読書はトレーニング

読書の効果はほかにもいろいろ。最近の研究では、レジリエンス(困難を乗り越える力)も読書で高まることがわかっています。
「読書を通して、いろいろな世界があることを知れるのは大きいのではないでしょうか」
動画全盛の現代ですが、笹沼さんは改めて「読む」ことの重要性を強調します。
「読書はトレーニングです。楽しむには理解して考える必要があり、時間も頭もエネルギーも使います。でも一度楽しさを知れば夢中になれる。トレーニングとはいっても、軌道に乗ればあとは楽しむだけ。これが教育的な観点で見たときの読書の一番の魅力です」

本が読めれば、どんなことでも本から学べる
「私自身、学生で起業したときはビジネスの知識はゼロで、会社経営の基礎はすべて本から学びました。やりたいことができたときに、それを実現する手段を本から得られれば、人生が大きく前進します」
今は動画でもあらゆるノウハウがあふれていますが、子どもには本のほうがおすすめとのこと。
「動画はわかったつもりになりやすいですし、そもそも情報密度も違います。本1冊の内容を動画で語ろうとすると30分の動画10本くらいになりますから。また、質の面でも本は編集がきちんとされていて、安心感があります。とくに子どもは情報リテラシーがない状態なので、本のほうが安心して触れさせられると思います」
生成AIの時代、ますます言語能力が大切に
子どもはもちろん、大人にとっても言語能力の重要性はさらに増しています。
「大人になっても読むこと、書くことからは逃げられませんよね。昨今、仕事のやりとりはテキストベースが基本。生成AIの時代になり、ChatGPTなどを使ってみるとわかりますが、どんなプロンプトで指示を出せるか、つまり言語能力次第で得られる結果がまったく違ってくる。5年前はプログラミングが重要と言われていましたが、今後はいかに正しい言葉でAIと向き合えるかどうかが大きな差を生むことになりそうです」
家庭でできる読書習慣づくりのヒント
お気に入りの一冊に出合うためには、子どもに合った本を選ぶこと

子どもが本を読まないと悩む親へのアドバイスを聞くと、「子どもに合う本を選ぶこと」だと笹沼さん。
「本好きになるきっかけは、お気に入りの1冊に出合えるかどうか。それには、お子さんに合う本を選ぶことが大切です。ヨンデミーではサイトで読む力のレベル判定が無料でできますし、YouTubeでレベル別の本を紹介しているので、ぜひ活用してみてください」
子どもたちが悩みがちな夏休みの読書感想文も、お気に入りの1冊を見つけるのが早道。
「読むのに精一杯だと感想も出てきません。読書が苦手なら簡単な本を選びましょう。小学6年生が絵本で感想文を書いたっていいんです。10回20回平気で読める本なら、考える余裕が出てきます」
本を選ぶ時間も、感想を話す時間も、すべてが読書体験

笹沼さんは、本を読んでいる瞬間だけが読書ではないと話します。
「どの本を読もうか考えているときも、感想を話しているときも読書体験です。夕飯時など1日1回、ぜひ本の話題を出してみてください。読み聞かせの思い出話でも、ご両親が今読みたい本の話でもいい。楽しい会話の中に本が溶け込んでいくと、子どもは自然と読みたいと思うようになります」
引き続き、学校をはじめ、学童や塾など教育現場とヨンデミーとの連携を進めていきたいとのこと。「今はまだ小中学生向けのサービスですが、いずれは中高生や大人向けの展開もしていきたいですね」と意欲を見せます。
読む力は、すべての土台になる

「最後に改めてお伝えしたいのは、読むことがすべての土台になること。土台がない状態で何かを積み上げようとしても、すぐに崩れてしまう。受験に限った話ではありません。人生のいろいろな場面で努力が無駄になってしまうのはすごくもったいないですよね。読む力は土台として本当に重要だということを、まずは知っていただきたいと思います」
動画やゲームが当たり前の現代だからこそ、今後は読む力が子どもの強みになっていきそうです。まずは今夜の夕食で、お子さんに本の話をすることから始めてみるのもよさそうです。
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お話を伺ったのは
2023年、東京大学経済学部経営学科卒。
教育に読書を取り入れる分野で第一人者の澤田英輔氏の指導を受ける。英語多読講師の経験も活かし、大学在学中の2020年4月に中学以来の友人と「Yondemy」を起業。「子どもの読書離れ」という課題の解決に向けて、同年12月にオンライン読書教育「ヨンデミーオンライン」のサービス提供を開始。2年間で累計3500人以上の会員登録者数を誇る。
取材・文/古屋江美子

