気に入らないと物を投げる3歳の息子…「“投げる”は“助けて”のサインかもしれません」発達に関する疑問に言語聴覚士の原哲也先生が回答【子どもの発達Q&A】

この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、Q&Aの形で子どもの発達に関するさまざまなお悩みに答えていきます。

質問:3歳の息子のことばが遅く、泣いたり物を投げたりして困っています

「3歳の男児の母です。息子はことばが遅く、今も単語か時々2語文を話す程度です。

気に入らないことがあると、とにかく泣くか、おもちゃを投げます。人に向かって投げるので、園でも友だちに向かって投げていないか心配です」

3歳の男の子のお母さま

原先生の回答 『投げる』は『助けて』なのかもしれません

子どもはありとあらゆる「困ったこと」をするので子育ての悩みはつきません。子どもの「困ったこと」への対応で私が大切にしているのは「まず子どもの行動の理由を探す」ことです。

大人は「困ったこと」をしでかす子どもに向かって、つい「なんでそういう困ったことばかりするの?」「なんでそういう性格なの?」と思ってしまいがちですが、これは子どもの行動の責任と改善を子どもだけに押し付ける考え方です。この思考をまずは捨てていただきたいのです。

それを問うても何も改善しません。その代わりに、なぜその子がその行動をするか、行動の理由や背景を明らかにすることに専念しましょう。

子どもの行動の「全て」には「必ず」理由があります

子どもの行動が変わるのは、行動の理由を見つけてそこにアプローチしたときです。

このコラムでは、子どもの行動の「事情」「背景」「理由」などの情報をできるだけわかりやすくお伝えします。子どもの行動の理由がわかると子どもに対する見方が変わり、子どもとの関わり方も変わります。そうする中で子どもの「困った行動」は変わってきます。「困った行動」を何とかしたいという大人の悩みはそこではじめて解決するのです。

「止まれ」のブレーキは成長途上

最初にはっきりさせておきたいのは、このお子さんは「悪い子」でも「乱暴な子」でもない、ということです。ただ、怒った瞬間に「止まる力」がまだ育っていないのです。

衝動を止める、気持ちを切り替える、約束を覚えておく。この脳の「ブレーキとハンドル」を専門用語で「実行機能」と呼びます。(ハーバード大学 子ども発達センター)。 

出典:ハーバード大学 子ども発達センターの資料に掲載された図をもとに作成したイメージ図

図を見ると「止める・切り替える力」は3〜5歳ごろにぐんと伸び、その後も20代に至るまで少しずつ育ち続けることがわかります。
ご質問のお子さんは3歳。坂をようやっと上り始めたばかりです。

「投げちゃダメ」なことは子どももわかってる。しかし、怒った瞬間に手が止まらない。それは、「止まる力」が今ようやく育ち始めたばかりで育ちきっていないからです。

手持ちの表現方法は「泣く」と「投げる」

もう一つの鍵が、ことばです。母親2,001人を対象にしたManningらの調査では、話せる語彙が少ない幼児ほど、かんしゃくが強い傾向がありました。

大人には手持ちの表現方法がたくさんあるので、意に沿わないことが起きたとき、「やめて」「それは私のだから返してよ」「手伝ってね」など場面に応じた表現方法を駆使して周りに働きかけて、状況を改善することができます。

しかし、「単語か時々2語文を話す程度」の3歳のお子さんの手元には、表現方法の「手持ち」がほとんどありません。「泣く」と「投げる」はことばの少ないお子さんが使える数少ない、表現しやすい、そして強力な表現方法です。ですからお子さんはその表現方法を使うのです。

「記録」して理由を推測しよう

お子さんが物を投げる理由は実にさまざまです。まず、物を投げることで得たい反応を得られると学んでしまっている場合があります。

投げると「友だちがおもちゃを返す」「したくない片づけをしないですむ」など「投げると嫌なことを回避できる」と学んでしまっていたり、大人が飛んできてかまうので「投げるとかまってもらえる」と学んでしまっていたりする、という場合です。

「思い通りにならない」ときにその気持ちを発散させるために投げる場合もあります。あるいは、物が飛ぶ様子や音、腕を振る感覚そのものが楽しいという場合もあります。

同じ「投げる」でも、「求める反応を得るために投げる」場合と「投げることそのものが楽しい」場合では対策も違いますし、「どういう反応を求めているか」によっても対策は違います。

ですからまず投げる理由を突き止めましょう。そのために3日間、メモを取ります。
「ものを投げる」行動があったときに

①直前に何があったか
②何を投げたか
③その後どうなったか

を記録します。
子どもの眠さや空腹、体調、周囲の騒がしさも書いておきます。

この記録を精査することで、「注意をひきたいんだな」「おもちゃを返してほしくて投げるんだな」「ただ投げるのが楽しいのかな」など、投げる理由が見えてきます。

「物を投げる」への対応~投げる可能性を減らす。そして新しい表現方法を教える~

理由が見えてきたら、理由を踏まえて対応を考えます。

対策① 投げる可能性を減らす、投げても被害が出ないようにする

こういうときに投げるんだなというのがだいたいわかってきたらまず、投げそうという場面では投げると危ない硬い物は片づけます。そして、投げたくなる状況にならないように工夫します。例えば友だちとのトラブルが原因ならば大人がそばにいて友だちとの距離をとるなどです。

それでも投げてしまったら、まず「嫌だったから投げたのね」「こっち向いてほしかった?」と気持ちを受け止めます。
そして淡々と短く「人には投げないよ。ここに置こう」と話します。

長いお説教は怒っているときの脳には届きません。「嫌だったね」「こうしたかったね」と気持ちを受け止めることと、行動を止めることは両立します。

② 投げることそのものが楽しい場合

投げたときの音や感覚が楽しいようなら、柔らかいボールを箱に投げ入れる遊びなど、投げることを遊びにすることを考えます。

③ 手持ちの表現方法を増やす

同時に手持ちの表現方法を増やす働きかけも大事です。「大人を呼びたいときは袖を引く」という表現を覚えれば、大人に振り向いてもらうために投げることはしなくてすみます。「投げたら来てくれる」を「合図したら来てくれる」に置き換えていくのです。

・嫌なことを回避したい→「首を横に振る」「いや」と言う
・おもちゃの取り合いで困っている→親や先生のところに行って大人にしがみつく
・遊びはおしまいと言われたが、もうちょっとやりたい→両手を合わせた「お願いのポーズ」でアピールする
・おもちゃで遊んでいて、うまくいかない、助けてほしい→そのおもちゃを大人に渡す。

など、ことば以外にも伝える方法はあります。ことばで伝えることにこだわらず、「伝えられる方法」を教えてあげましょう。そしてその方法で伝えてきたらすぐに応じることが大切です。

お母さんだけで抱えなくていい。園とタッグを組みましょう

ご相談のお母さんは園での行動が心配なようです。そういうときは園の先生に正直に心配を伝えてください。そして「家で投げやすい場面」「家で投げない場面」、「園で投げる場面」「園で投げずにすんでいる場面」の情報を交換しましょう。

それらを比べる、違いを見つける中に支援のヒントが隠れていることもあります。また、園の先生と保護者が話し合って家と園でその子が使える伝え方を共有すると、お子さんは覚えた表現方法を安心して使えます。

「怒らない子」をめざす必要はありません。たくさんの友だちとたくさん関わる中で、怒ることがあるのは当たり前のことです。大事なのは、怒ったときにものを投げたり噛んだりして人を傷つけないこと、嫌だ、困った状況で「嫌」「困っている」「助けて」と伝えられることです。

それができるように「手持ち」の表現方法を一つずつ増やしてあげましょう。

参考資料

ハーバード大学 子ども発達センター(Center on the Developing Child at Harvard University)「Building the Brain’s “Air Traffic Control” System: How Early Experiences Shape the Development of Executive Function」(Working Paper No.11)

Manning BL, et al. Relations Between Toddler Expressive Language and Temper Tantrums in a Community Sample. 2019.

原先生の最新書籍

原哲也 サンマーク出版 1,760円(税込)

日常の会話、お出かけ、遊び、読み聞かせといった
ふだんの生活の中における
典型的な「子どもとのやりとり」を120の場面で紹介。
◎例(ことばが育ちやすい関わり方)と
×例(ことばが育ちにくい関わり方)を挙げ、
専門家の視点から、わかりやすく解説します。
お子さんのことばの発達に困りごとがある方、
今は大きな悩みはないけれど、
ことばや親の関わり方について知りたい方、
コミュニケーション上手な子に育てたいと思う方……
そんな親御さんをはじめ、
子どもの「周囲の大人」のみなさんのための本です。

この記事を書いたのは

原 哲也|言語聴覚士・社会福祉士

一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業、国立身体障害者リハビリテーション学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダのブリティッシュコロンビア州の障害者グループホーム、東京都文京区の障害者施設職員、長野県の信濃医療福祉センター・リハビリテーション部での勤務の後、『発達障害のある子の家族を幸せにする』ことを志に、一般社団法人 WAKUWAKU PROJECT JAPANを長野県諏訪市に創設。発達障害のある子のプライベートレッスンやワークショップ、保育士や教諭を対象にした講座を運営している。著書に『発達障害のある子と家族が幸せになる方法』(学苑社)、『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)がある。

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