子育ての中パパママのバイブル本から学ぶ「子どもの言葉を育てられない親」とは?

 

あなたは大丈夫?「子どものことばを育てられない親」はこの3タイプ

 生きた言葉の力を付けていくためには、毎日、親子の会話を心がけることが大切です。たとえば花を見たときに、大人が「きれいだね」と言ってあげることで、子どもは花を見て感じた気持ちを「きれい」ということばで表すことを知るのです。また、時間の流れや色の変化など、何かを比較することを意識させると、自分の経験や物事の変化を整理して捉えられるようになります。それに気付いた子どもが言葉を発したときは、「今、いいこと言ったね!」「その一言、おもしろい!」と多少大仰にでもほめてください。子どもは何をほめられたのか最初は見当がつきませんが、どこをほめられたかわかると誇らしく思うものです。

このように、毎日の生活の中でいろいろな言葉を教えてもらい、丁寧な対応をしてもらった子どもは、そこから自分なりに感じ、考え、それを自分の言葉にしていきます。

親は子どもとの言語感覚の違いを意識し、子どもが親の言葉を理解したかどうかを確認しながら、ゆったりとコミュニケーションをとるようにすると、考える力、言葉の力を少しずつ育てていけるのです。

子どもの教育を習い事など「外注」に頼ることが増えたことも一因ですが、家庭教育力の低下は、親の考え方、子どもへの接し方にも原因がある場合があります。「小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚」より抜粋し、あえて厳しめですが、「子どもの言葉を育てられない親」を3つのタイプに分類してみました。

その1・責任回避タイプ

責任回避タイプは面倒くさがりで、楽なほうへ流されがち

一つ目は責任回避タイプです。最近、「私は何の能力もない」「私にはできない」と言い切ってしまうお母さんが少しずつ増えている印象を受けます。
以前、あるお母さんが「私は料理ができないの。でも◯◯ちゃん(娘の名前)は何でも上手につくるのよね」と、娘さんの前で言っていました。実際に料理があまり好きではないのでしょうが「私はできないけれど子どもはできる」というような言い方をして、わが子や周囲の人たちに「私はできなくてもいいでしょ」ということを、強引に認めさせているのだと感じてしまいました。その人の発言の端々から、親としての責任を回避したがっている様子が伝わってくるのです。
このような責任回避タイプの人たちは、基本的に面倒くさがりで何事に対しても関心を持てないのかもしれません。子どものことをかわいいとは思っているのですが、子どもを進むべき方向へ向かわせようという意識が薄く、いつも自分が楽な方向へ流されがちです。

精神年齢が子どもと近く、対等な感覚な「友だち親子」

また、責任回避タイプの人に多く見られるのが、精神年齢が子どもと近く、ほぼ対等な感覚で接しているケースです。いわゆる「友だち親子」は、はた目からは楽しそうに見えますね。しかし厳しいことを言うようですが、そんな感覚で子どもと接している人は、子どもの心とことばを十分に育てられないと思うのです。
子どもは、親など大人とのかかわりの中でいろいろな経験をし、少しずつことばを自分のものとして獲得していきます。それには接する大人としての姿勢が問われますし、ときにはしかけや導きも必要です。
ところがこのタイプの人は、子どもにそういう経験を積ませることが面倒だし、子どもといっしょに乗り越えようとか、向き合おうという意識も薄いのです。一方的に言いたいことを言うだけですから、互いを理解し合うような豊かな対話は期待できません。
これでは、子どもの心は十分に育たないでしょう。子ども自身も母親と表面上仲良くすることで、つらいことや努力を要することから距離を置こうとします。楽しいことだけが大好きな、責任回避型の人間になってしまいますし、もちろん精神的な自立などできないままです。

 

その2・完璧主義タイプ

完璧タイプは子どもの気持ちより自分の都合を優先しがち

毎日の子育てでイライラするとき、多くの場合その理由は「子どもが思い通りにならない」ことではないでしょうか。これはほとんどの親が経験していることではないかと思います。
ここで特に問題なのは、お母さんやお父さんが何でも自分の思い通りにならないと気がすまない完璧主義タイプの場合です。
たとえば、子どもが砂場で水遊びをして泥んこになったとします。確かに洗濯は大変ですし、寒い時期は風邪をひいてしまうかもしれないという心配はありますね。帰ってきたときに玄関が汚れてしまうのもいやです。
やんちゃ盛りの子どもにとっては、服や靴がドロドロになってしまう経験こそ、かけがえのないものです。しかし完璧主義タイプの親は、子どもの気持ちよりも自分の都合がどうしても優先されてしまい、「そんなに汚すなんてダメでしょ」「どうしてそんなことをするの?」としかってしまうのです。常に思い通りになっていないと気がすまず、あらゆることを自分の価値に当てはめて考えているので、泥んこなど言語道断といったところでしょうか。しかしこれでは、子どもの「やりたい」「楽しい」気持ちは台無しです。いつも怒られてばかり、否定されてばかりです。

学力、話す力があっても文章がうまく書けないケースも

ずいぶん前のことですが、私がかかわったある生徒のエピソードを紹介しましょう。その生徒は学力が高く話す力もありましたが、どうしても文章がうまく書けません。不思議に思っていましたが、ふとしたきっかけでその生徒は親子関係に問題があることがわかってきました。
学校生活も進学についても、彼はこうあるべきという親の価値観に振り回され、親の期待に応えることばかり考えていました。親の価値観にはまっていて、その他の考えに目を向ける余力などありません。ですから他人の心情を読みとったり、自分の考えを客観的にまとめたり、ものごとをゆっくり考えることもできなかったのでしょう。文章を書くためには「考える力」が必要です。優秀な生徒でしたが、家庭環境が彼の考える力を抑えこんでしまったのではないかと感じました。
その後、学校でのやりとりを通して、お母さんは自分の子どもへの接し方を振り返るようになっていきました。お父さんも忙しい中、親子の緊張関係を改善しようと努力しました。子育ては自分の思い通りにならないのだという現実を受け入れ、できるだけ子どもと向き合い対応することを実践したのです。すると、もともと素直だったその子は、中学校、高校での人間関係を軸として、少しずつ考える力を身につけ、それを自分のことばで記述する力を伸ばすことができました。
多くの親はつい自分の価値観をわが子に押しつけがちです。幼児期のうちから親の都合や考えを一方的に押しつけることのないよう、子どもとの接し方を工夫してほしいと思います。

 

その3・現状不満タイプ

現状不満タイプは親がイメージしている将来と現状との落差にいら立ちがち

教育熱心なお母さんたちに多いのが、子どもの将来に夢を描いている「子どもの将来はこうならなければならない」と結論を出してしまっている現状不満タイプです。
「息子は何としても東大に入れたい。そのためには一流中学、高校に入れなければならず、そのためには小学校もお受験をして…」というような考え方です。子どもは幼いころから塾に通わされ、徹底的に勉強させられることになるわけです。しかし、子どもは思い通りにならないもの。なかなか成績が上がらず、「こんなはずじゃなかった」といつも現状に不満を感じ続けています。自分が勝手にイメージしている子どもの将来と現状との落差にいら立ってしまうのです。

プロセスに注目できず、コスパのいい結果ばかりにこだわる

また、このようなお母さんは効率を重視する傾向もあります。最近は、習い事も「コスパがいいところ」の人気が高いのだそうですね。コスパとはコスト・パフォーマンスのこと。この場合、同じ月謝を払うなら、成長や頑張りがよく見え、自分が手をかけないですむところに預けた方がお得だという意味です。
ですから、「あのスイミングスクールは、短期集中で百メートル泳げるようになるそうよ」など、お手軽に成果が見える習い事は人気です。その時間は丸投げして(親はラクをして)、効果はしっかり得たいという考えが垣間見えます。
つまり勉強にしても、習い事にしても、とにかく結果にこだわりプロセスには関心がないのです。当然、子どもに寄り添いあれこれ対話することもなおざりになります。しかし、何事も結果だけではその全容を理解することはできません。だれもが結果を出すまでには、いくつもの失敗をしたりくじけそうになったりしますね。それでも負けずに頑張ろうと決意をするなど、さまざまなドラマがあるから、達成感が得られるのです。
人は失敗を繰り返す中で、いろいろな感情が芽生え、それをことばで表現するという経験を重ねていきます。もし子どもがことばを正しく使えなかったら「その言い間違い、おもしろいね」と楽しんだり、早くやらなくてはと焦っていたら「そんなに急ぐことはないよ。ゆっくりやった方がよいものができるよ」などと声をかけてください。結果はもちろん大切ですが、そのプロセスを楽しむことができる親であってこそ、子どものことばを豊かに育てることができるのではないでしょうか。
子どもといっしょに経験し、一瞬一瞬を充実させようと努力できる親の粘り強さが、子どもに安心を与え、ことばの通い合いやすい状況をつくりあげていくのです。

子どもだけでなく、親も持っていない自己肯定感

自己肯定感のなさは子どもへのコントロールに繋がる

これらの「子どものことばを育てられない親」の姿には、だれもがどこかしら当てはまるのではないかと思います。三つのタイプすべてに当てはまってしまう人もいるかもしれません。でもだれもがそうですから落ちこまないでくださいね。
このような傾向が見られる背景には、お母さんたちの多くが、自己肯定感を持てていない現状があると思います。それは、お母さんたちの子どものすべてをコントロールしたいという思いからも見てとれます。あらゆる局面で子どもに干渉するのは、もちろんわが子のためを思い、心配しているからに違いありません。ただしそこには「自分はできなかったから、せめて子どもには」という心理も働いているのです。
「自分に自信がないし自分の人生を生きられていないから、何としても子どもだけはモノにしなければ…」お母さん自身が自己肯定感を持てていないため、せめて子どもは…と期待してしまう図式です。
しかし、親の期待が大きすぎると、いずれどこかで子どもはプレッシャーでつぶされます。お母さんに嫌われたくないから塾に通い、成績を上げようと努力します。ところが頑張っても目標にはなかなか届かないとなれば、子どもは自己肯定感など持てませんね。

いつも心に「子どもはリスペクトすべき他者」の思いを

あらためて思い出してほしいのは、子どもは親の所有物ではないということです。私自身は「子どもはリスペクトすべき他者である」と考えています。子どもを尊重し、対話を通して子どもの発することばに耳を傾けてほしいと思います。
もちろん、幼児期の子どもに何でも確認し、言うことを聞けばいいというわけではありません。よく二~三歳の子どもに「どうする?」と本人の判断を求めているお母さんの姿を見かけます。しかしこれは、子どもの主体性を尊重した行為とは言えません。母親自身に主体性がなく決めることができないから、子どもに聞いているだけのこと。これもまた、お母さん自身の自己肯定感のなさの表れではないでしょうか。

 

小学生になる前の子どもをもつ親の、バイブルとなるこの本

小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚

「小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚」

幼児期の子どもに最も大切なのは、周囲の大人が手と心をかけることです。麻布学園の国語科教師で一児の父でもある著者が、ことばの力をつけるために家庭でできることを一冊の本にまとめました。幼児期にやるべきことだけでなく、安心して小学校生活に入れるよう、入学後の国語力のつけ方、辞書の使い方、自由研究などについても紹介しています。巻末には223冊のおすすめのブックリスト付きです。
/小学館 本体1,300円

 
 
 
 
中島克治著(麻布学園国語科教諭)
麻布中学・高校を経て、東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程に進んだ後、麻布中学・高校国語科教諭となる。著書に『小学生のための読解力をつける魔法の本棚』『小学生のための読解力をつける読書紹介文ノート』『中学生のための読解力を伸ばす魔法の本棚』『本物の国語力をつけることばパズル』(全て小学館)がある。
 
 
出典/『小学校入学前にことばの力をつける魔法の本棚』 再構成/HugKum編集部 写真/繁延あづさ

編集部おすすめ

関連記事