中学受験はするべき?子どもがかわいそう?浮き上がってきたリアルな悩みとは【おおたとしまささん×パパママが本音で座談会 前編】

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中学受験と聞くとどんなイメージが浮かびますか。「つらい」「大変」「かわいそう」そんな言葉を思い浮かべる人もいるかもしれません。また中学受験真っ只中の人も、するかしないかこの瞬間も迷っている人もいるでしょう。はたして本当に中学受験はつらくて大変で、やるかやらないかの決断を迫られるものなのでしょうか。

HugKum編集部ではある一冊の本をきっかけに、親たちの中学受験の本音を聞くべく、7月某日夜にZoomでオンライン座談会を開催しました。座談会の参加者は、その本の著者である教育ジャーナリストのおおたとしまささん小学生のママパパたち5名です。自分や子どもの体験談、いまの悩み、葛藤、希望…、さまざまな思いを抱える親の本音をたっぷり2時間。中学受験の本質に迫る座談会の一部始終を前編・後編の2回に分けてレポートします!

座談会のきっかけになった1冊

今回の座談会開催のきっかけはおおたとしまささんの書いたこちらの本です。

「二月の勝者 中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉」

あるママは「この本を受験前に読んでいたら怖いものなしだったのにな」といいます。大ヒット中の受験漫画『二月の勝者』とコラボしたこの本は6月に発売後、即重版が決定。その人気ぶりからも、中学受験に何かしらヒントがもらえる本であることは間違いなさそうです。今回は座談会に著書のおおたとしまささんをお迎えし、参加者全員にも事前に本を読んでもらいました。

座談会の参加メンバー

佐々岡さん(IT企業勤務)小2と年長の男子2人のパパ。自身は地方で中受を経験。子供の小学校選びをきっかけに地方へ移住。オルタナティブ教育に詳しいが、王道の中学受験にも関心がある。

 

 

 

高津さん(大学教員)小4男子と小2女子のパパ。自身は中学受験、高校受験の両方を経験。中受予定の長男には数学を好きになってほしいとパパ自ら算数を教える。息子の野球チームのコーチも務める。

 

 

 

原さん(出版社勤務)小5女子の娘が中受予定。塾の課題はパパがタスク管理し、娘の勉強を全力サポート中。自身も中高一貫男子校で過ごした経験が人生の財産と実感しているため、中学受験は賛成派。

 

 

 

矢野さん(専業主婦)小5、小4、小1の男子3兄弟のママ。長男が小4で「塾に行きたい」と通塾をスタート。塾と野球の両立が大変な日々。夫は中学受験にやや消極的で受験をやり通せるか不安もある。

 

 

 

与田さん(キャリアカウンセラー)中1女子、小2男子のママ。長女は6年夏に受験を決断。近所の中高一貫共学校を受験し現在通学中。長男も同じ学校に進んでくれたらといまは思っている。

 

 

 

中学受験生はかわいそうなの?

「中学受験生はかわいそう」と言われがちです。これについて皆さんの意見はいかがですか。

©︎高瀬志帆/小学館「ビックコミックスピリッツ」連載中(以下同)

勉強で個性を発揮する子もたくさんいる

佐々岡さん:ぼくはかわいそうだとは思わないですね。小学生の時って足速い子がモテるじゃないですか。僕は足は速くなかったので学校では個性が出しづらかった。でも少し勉強が得意だったこともあって塾がすごく楽しかったんです。塾に自分の居場所ができた。

いま思えばやることは勉強でもサッカーでも野球でも何でもいい。自分はここにいていいんだと思えて、自分の個性を発揮できる場所があることが大きかった。親戚からはかわいそう扱いされましたけど、自分はそんな風には思っていませんでしたね。自尊心や自己肯定感があることが大事なんだと。中学受験って実はそういう側面がすごく大きいし、一定の子どもたちを支えていると思います。

勉強はきらいだけど、塾は楽しい

高津さん:勉強するのはイヤだけど受験のためにたくさん勉強しなきゃいけない、だからかわいそうというのはあるかもしれない。

僕は小学生のとき勉強することはきらいでした。でも塾に行くのは楽しかったんですよ。学校では真面目なキャラで、でも塾に行くと先生の話も面白くて自分も弾けられた。小4の息子にもときどき「もう塾やめろ」って言うんですけど、塾はやめたくないって言うんです。勉強すること自体は嫌いなんだけど、塾は楽しいという感覚はなんとなくわかります。

放課後の塾も部活の朝練も同じこと

原さん:ぼくも中学受験がかわいそうだとは思わないですね。うちの娘は小5で跳び箱がまったく飛べないんです。体育ではまったく活躍できない。だから娘にとっては、朝6時に部活の朝練に行かなきゃいけない方がかわいそうと思うかもしれないです。やっていることが朝練ではなく、放課後に塾に行って勉強しているだけだと思うんです。

ー娘さんは勉強をやりたくないとか言わないですか?

原さん:言います言います!面倒とか眠いとか言います。でもそれって朝練行くのに眠いと言うのと同じ。

一方で、難しい問題が解けたときやテストでいい点とったときには嬉しそうに話してくれるんですよ。先週は社会ができなくてすごく悔しがっていました。これって、たとえば野球で「いいプレイができた!」と喜んだり「負けて悔しい!」というのと一緒。だからかわいそうというのとは違うなと思いますね。

辛い瞬間は必ずある

おおたさん:勉強が嫌い、でも塾はたのしい。この微妙な感覚って、私たちの仕事もそうじゃないですかね。全体としてはその仕事が好きだけど、ポイントポイントでは「あとこのくらいやらなきゃいけない」って辛い瞬間が必ずあります。スポーツでも同じです。子供は語彙が少ないから、勉強が嫌いというネガティブ表現になってしまいがちです。でもこれは必要だ、やらなきゃいけないということはわかっている。その見極めはしてあげなきゃいけないと思います。

どうしてこんなに勉強しなきゃいけないの?

「どうしてこんなに勉強しなきゃいけないの?」と子どもに聞かれたら、なんと答えますか。

答えられなかった質問、でも次はちゃんと伝えたい

矢野さん:まさにこの質問、小5の息子に聞かれて私は答えられなかったんです。周りの友達が塾に行っていて、小4で自分から「塾に通いたい」とスタートしたんですが。4年生までは勉強量もさほどではないし、学校の友達に塾で会えるから楽しいという感覚でした。でも5年生になって、格段にスピードもアップして量も増えて。野球との両立で時間があまり持てず、取りこぼしが多くなりテストの点数も悪く、本人も苦しんでいます。

「やめてもいいんだよ」と言うと「やめない」と言うんですね。塾をやめる=塾に負けた、という感覚になっているのかなと。自分から言い出して始めた通塾ですが、この状況だと親が受験をさせている感じで、息子も母親が喜ぶからやっているのかもと…。

おおたさん:塾に負けたという行為を認めたくない、ということですが、息子さんは塾をやめたらどうなっちゃうんだろうという不安を抱えているのかもしれない。頑張っている周りの人をみて「自分もああならなきゃいけない」と思っている。頑張れる自分になりたいと思っているから、塾にいたいと思っている。なりたい自分になれていない、頑張れていない自分をわかっているんだと思います。そこをわかってあげて、子どもと会話してあげるといいのかもしれないですね。

矢野さん:そうですね。息子のそういう気持ちもわかってあげたいです。「いまこんなにどうして勉強しなきゃいけないの?」と聞かれたときに、私は答えられなかったんですが、おおたさんの本の5講を読んで、なるほどそういうことなんだと思いました。机の上での勉強もあるし、経験での勉強もある。受験をしたうえでの結果はどうであれ、人生はずっと勉強していくものなんだよと今度伝えてみたいと思います。

 

中学受験のいいところって?

ズバリ、皆さんの考える中学受験のいいところって何ですか。

世の中のニュースが正しく理解できる

原さん:受験を経験するということは、継続してがんばる力がつくというのはもちろんのこと。リスクだらけの世の中で、生き残っていくためには、基本的な正しい知識を早いうちに身につけてほしいという思いが根本にあります。

いま娘と一緒に勉強しながら思うのは、世の中のニュースは中学受験で勉強していることにすべて結びついているということ。先日も複数の河川の河口にある低い土地は輪中といって、水害を防ぐための対策がとられているという学習をしました。これは最近の豪雨被害のニュースにもつながってくる知識です。知っていると世の中で起きていることを小学生でも正しく理解できる。そして娘が将来、専門分野に進んだ時に、正しい知識を持って編集力や発信力のある人になって飯を食えたらいい。そういう意味で、勉強はサバイバルできる手段だと思う。

ーその学習は高校受験では遅いですか。

おおたさん:小学校のいわゆる初等教育では、りんごが2個とみかんが3個で、という目に見えるもので一通りの世の中のニュースがわかるくらいは網羅します。それが中等教育(中高)でもう一度学習するとき、たとえば水がH2Oになり、つるかめ算が連立方程式になって、抽象的な概念の中で操作しようということになります。

小学校で一通りやってさらに中学・高校で知識を進化させるというときに、小学生のときに一回しっかりとやっておくと中高での学習に結びつけやすいかもしれません。その意味で中学受験の勉強は小学校の学習の総復習と考えてもいい。最難関を目指すというとなかなか大変なんですけど、初等教育の土台を固めてから卒業するという意識で中学受験をするという手もあります。中学受験の機会がある地域であれば、子育てのひとつのやり方として利用すればいいんじゃないかと思います。

自分を捉え直す経験ができる

与田さんおおたさんの本の92講にすごく共感しました。まさにいま中学に入った娘がいて、休校明けで中学校がスタートして1ヶ月。娘は小6夏から受験勉強をスタートしたので、親も「え、やるの?」という感じでした。それまでダンスやスケートを熱心にやっていたので、そちらも中途半端にやめることは親も良しとせず、小6の10月にスケートの次の級のテストを合格するまで続けました。

受験したのは区立の中高一貫なんですが、区民枠で入っているので倍率も高くなく合格。でも半分は都民枠で入っているのですごく優秀です。実際に入ってみると、課題は遅れるし、遅刻をしたら厳しく叱られる。小学校では自分は優秀だったけど、中学ではそうではないという状況。娘には捉え直す経験をしてほしいと思っているところです。親が心配しても仕方ないんですけど、親も乗り越えていかなきゃいけないと思います。前向きに捉え直して人生を楽しんでほしいです。

不条理も含めてすべて経験になる

佐々岡さん:僕の経験になりますが、中学受験を小6の夏休みにスタートしたんです。一番偏差値が高いところは落ちて、第2志望は合格、国立は学力テストは合格したけど抽選で落ちた。自分が努力しても何かしらの結果を受け取ることがあるという不条理を経験したんです。当時、悔しさも含めて経験としてはよかったと思います。第2志望にいってしっくりくることもある。就活も一緒だと思うんですが、この感覚を早めに実体験で味わえたことがいま振り返ってもよい経験でした。

原さん:運だよねとよく言いますが。運ももちろんあるけど、チャンスを掴むためにはそれまでの努力があったからこそ。受験も就活も転職もそれまでの努力があってこそです。そこまでの努力って大事なんじゃないかな。

佐々岡さん:スーパー余談だけど、僕は就職浪人してですね、2年連続で就活落ち、人生の不条理を二度味わった。でも中学受験で落ちることはリスクがあんまりない。この本でそれを振り返ることもできて本を読んでよかった(笑)

正解を自ら作り出せる人間になるチャンス

おおたさん:90番台のページはお父さんお母さんに向けて書きました。自分たちが当たり前だと思っていることが当たり前じゃないんだよね、という気持ちで子供と接してほしいという思いがあります。

正解がわからないといわれる世の中で重要になってくるのは、正解を自ら作り出す力。これは結局自分なりに努力をした上で得たものです。思い描いていた理想とはちょっと違うかもしれないけど、これを正解としようよ、というふうに人間はできるんです。得られた環境やチャンスを活かして、たとえ二番手や三番手だったものでも、後から作り変えていける人間が強いんです。逆に「思い通りにならなかったら終わりだ」と考える人はものすごく脆い。レジリエンスといわれますが、中学受験は精神的なタフネスをつけるチャンスにもなり得ます。

またそういう経験をしていれば、もしかしたらあっち側だったかもしれないという紙一重を想像できるので、他人への眼差しを学ぶ機会にもなると思います。

◆つづきは後編「中学受験は恵まれた選択肢?結果が出たとき、子どもにかけたい言葉とは」へ!

 

「二月の勝者 中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉」

 画/高瀬志帆 著/おおたとしまさ 定価:本体1500円+税

親子で目指せ!「二月の勝者」

ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。

 

著者

教育ジャーナリスト
おおたとしまさ

1973年東京生まれ。育児・教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートを脱サラ独立後、育児・教育をテーマに取材・執筆・講演・メディア出演などを行う。中高の教員免許を持ち、小学校教員の経験もある。著書は『ルポ塾歴社会』、『名門校とは何か?』、『ルポ教育虐待』、『ルポ父親たちの葛藤』、『なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?』、『21世紀の「男の子」の親たちへ』『21世紀の「女の子」の親たちへ』など計60冊以上。おおたとしまさオフィシャルサイトhttp://toshimasaota.jp

 

文・構成/HugKum編集部

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