「with コロナ」の生活を送る上でマスクは必須となっています。子どもの場合、マスクをつけられない事はずいぶん社会が容認してくれるようになりましたが、発達障害のお子さんは、周囲の大人がマスクをすることに抵抗のある子どもも多くいるそうです。発達障害を持つ⼩学校1年⽣から⾼校3年⽣を対象とした放課後等デイサービス「Luce(ルーチェ)」を運営している、藤原美保さんに、予防への対策や留意点を教えていただきました。
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自分だけではなく、家族がマスクをつけるのを嫌がる子
発達障害の子がマスクを嫌がる理由として「感覚の問題」が良く聞かれます。皮膚疾患もさることながら、触覚的、嗅覚的な部分の感覚に過敏さがあることは社会的に随分理解が拡がってきました。
しかし、自分がつけられないだけではなく、自分の周囲の人がマスクをつけるのを嫌がる子がいます。家族がマスクをつけることを嫌がるのです。一見すると子どもが我儘でつけさせてくれないと思ってしまいがちなのですが、自閉スペクトラム症の子の中には認知発達に偏りがある子が存在し、我儘では片づけられない事もある事を知っていただきたいのです。
子どもの場合、マスクをつけられない事はずいぶん社会が容認してくれるようになりました。しかし、大人がマスクをしない事はマナー違反、と白い眼で見られたりすることがあります。
特にデパートや食べ物を販売するところでは「マスクのない方は入店をお断りします」と言う表示が多く、マスクをつけられない方はさぞかし心苦しいだろうと思います。
見えないものは、そこに存在しないと認識してしまう、という特性がある場合が
幼く不安が強いお子さんの場合は、身体年齢では判断するのではなく、認知発達からお子さんの対応を考える必要があります。
ピアジェ(スイスの心理学者)の提唱した認知発達段階説は、発達理論として非常に有名ですが、その中で0か月から24か月の時期に「対象物の永続性の理解」や「表象機能」を獲得するとあります。この時期は感覚運動期と表現されます。
この「対象物の永続性の理解」が未発達のお子さんの場合、マスクを怖がる可能性があります。
おもちゃを布で隠すと、おもちゃがなくなってしまったと理解
「対象物の永続性の理解」とはどういうことでしょう?
個人差はありますが、「対象物の永続性の理解」6か月頃から発達し始めると言われています。この理解が進んでいないと、例えば、おもちゃを布や箱などで隠すと「対象物(おもちゃ)」が、隠されてもそこにあるということがわからないのです。そして、そのおもちゃ自体がなくなってしまったと思うためその「対象物(おもちゃ)」に興味を示さなくなります。
「対象物(おもちゃ)」が、自分の視界から「見えなくなっても存在し続けているという認識(永続性の理解)」ができていれば、おもちゃの存在がわかるので、その布を見つめたり、布を外そうとします。
マスクに隠れた顔がなくなって見える!?
では、「対象物の永続性の理解ができない」とはどういうことなのでしょうか。
一つの仮説として、見えなくなるものは存在しなくなる訳ですから、マスクで隠された部分の顔下半分が存在しなくなると思ってしまう可能性があります。
もし、手を伸ばしてマスクを外そうとするのであればおそらくマスクの下に口や鼻がある事は理解できていると思います。
しかし、マスクをした顔を見た途端泣きだしたり、パニックになる場合は、もしかしたらこの認知の偏りが原因で不安になってしまっている可能性があります。
この場合は、透明なフィルムやプラスチックのシートを顔の前に当て、お子さんの反応を試してみてください。もし、それで拒否反応がない場合はマウスシールド等で対応するのも一つの手です。
気温や湿度の変化で体調を崩す子も
発達障害はもともと神経発達症と言われ神経系の発達に不具合があると言われていた疾患にカテゴライズされていました。
そのため、発達障害のお子さんの中には自律神経の働きが影響するお子さんがいます。交感神経と副交感神経の切り替えがうまく行かず気温や湿度などの変化によって体調を崩してしまうのです。
マスクやフェイスシールドなど使用の際は、典型的な発達のお子さんより身体への負担が大きくなる場合がある事を理解してほしいと思います。
重要なのは「知ってもらうこと」と「防ぐこと」
身体的な面だけでなく精神的な面にも影響が出てくると気持ちの切り替えが難しい彼らの場合、本人も家族もしんどい思いをすることがあります。
周囲の方々にも、発達障害のお子さんが抱える特性への理解を是非、深めていただきたいと思います。
YouTube子育て塾「子どもの対応がうまくなるおたすけチャンネル Mamma Mia!」でも、紹介しています。
教えていただいたのは
発達障害のお子さんの運動指導の担当をきっかけに、彼らの身体使いの不器用さを目の当たりにし、何か手助けができないかと、感覚統合やコーディネーショントレーニングを学ぶ。その後、親の会から姿勢矯正指導を依頼され、定期的にクラスを開催。周囲の助けを受け、放課後等デイサービス施設「ルーチェ」を愛知県名古屋市に立ち上げ現在に至る。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めにしっておきたい47のルール』(健康ジャーナル社)『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。