高感度抜群の清純派女優・土屋太鳳と、「おっさんずラブ」で大ブレイク後、映画やドラマに引く手あまたの田中圭が、新鋭監督・渡部亮平の商業映画監督デビュー作『哀愁しんでれら』で共演。本作のメインビジュアルは、シンデレラさながらのドレスをまとった土屋さんですが、実はこの映画、ざっくり言えば“戦慄のサスペンス”というジャンルの衝撃作です。
本作は、映画企画のコンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」のグランプリ受賞作。言わずとしれた売れっ子のおふたりには、普段から数多くの魅力的な作品のオファーが殺到するわけですが、本作もそのなかの1本でした。興味深いのは、土屋さんはなんと本作のオファーを3回も断り、田中さんは出演を即決したという大きな違いです。それくらい本作のストーリーは、かなり強烈なインパクトがあったようです。
土屋さんが演じるのは、児童相談所で働く福浦小春役。彼女は母に捨てられた過去を抱えながらも、⾃転⾞屋を営む実家で、⽗や妹、祖⽗と慎ましやかに暮らしていました。ところがある日、怒涛の不幸に襲われ、⼀晩ですべてを失ってしまいます。そんななか、ある踏切で酔っ払って電車で轢かれそうになっていた開業医の泉澤⼤悟(田中圭)を助け、恋に落ちます。
どうやら⼤悟は妻を事故で亡くし、8 歳の娘・ヒカリを男⼿1つで育てているようです。その後、⼤悟からプロポーズされ、不幸のどん底から⼀気に幸せの頂点へと駆け上った小春でしたが、このおとぎ話のようなシンデレラストーリーが中盤から一転し、壮絶な展開を見せていきます。やがて、小春は社会を震撼させる凶悪犯罪に手を染めることに!
土屋太鳳が3回断った難役に挑戦した理由とは?
映画が始まってすぐ、小春が児童虐待をしているらしき家庭を訪問するシーンがあります。その時に彼女は「バカな親。あんな親にはなりたくない」とつぶやきますが、自身も10歳の時、いきなり母親から「あなたのおかあさん、やめました」と心無い捨て台詞を吐かれ、捨てられたという悲しい経験をしていました。
そんな小春は貧しいながらも清く正しい人生を歩もうとしていましたが、ある日、祖父が風呂場で倒れたことをきっかけに、あれよあれよという間にとんでもない不幸が雪だるま形式に大きくなり、気がつけば茫然自失状態に。最初のこの展開だけで、ぐいぐいと物語に引き込まれます。
そこで出会った白馬の王子様と結婚し、まさに人生の逆転満塁ホームランかと思いきや、嫁いだ先ではとんでもないパンドラの箱が用意されていました!そこは観てのお楽しみですが、じわじわとサスペンス的な小ネタが散りばめられていき、思わずゴクリと息を呑みます。
なるほど、土屋さんが出演に二の足を踏んだ理由は大いにうなずけました。そのくらい覚悟が必要な役柄だったかと。
ちなみに、土屋さんはイベント登壇時に、それでも出演を決めた理由について「1つ目は大悟というすごく重要な役を田中圭さんがやられるとうかがって、圭さんの大悟を小春として見たいと直感的に思いました。もう1つは4回目に私の前に台本が来た時に、小春が『誰か私を見つけて。この感情を伝えてほしい』と迷子のような気持ちで泣いている感覚があって、これは受けさせていただいたほうがいいなと思いました」と答えていました。
個人的には、この難役に対して果敢にトライした土屋さんと田中さんの勇気と気骨さを大いに称えたいです。やっぱり役者さんには守りに入ってほしくないというか、常にチャレンジして、新境地をどんどん開拓していってほしいと思っています。
女性の幸せとは?いい母親でいることの葛藤とは?
本作で描かれるのは「女性の幸せとは?」という普遍的な問いです。いわゆる玉の輿にのった小春ですが、どこをどう間違って、犯罪者の道をたどることになったのかが非常に気になりますよね。でも、彼女はただ、良き妻、良き母になろうとして頑張っただけなんです。
ちなみに娘のヒカリ役でスクリーンデビューを飾ったのは、8 歳で 63 万人以上のフォロワーを持つファッションインスタグラマーの COCO。演技初挑戦とは思えないナチュラルな表情で、土屋さんや田中さんと堂々わたり合っています。おそらくママたちは、小春の目線で観ていくと思いますが、少女ならではの純真無垢な可愛らしさと残酷さを兼ね備えたCOCOちゃんに圧倒されること、間違いなしです。
そんなヒカリと⼤悟の隠された秘密や、モンスターペアレンツ問題などを巧みに織り交ぜ、見ごたえのあるサスペンスでに仕上った本作。観終わったあと、幸せの価値観について改めて感じさせられそう。下手に手を出すと火傷しそうな作品ではありますが、きっと観始めたら前のめりになるほどおもしろい展開の作品なので、ぜひ劇場でごらんください。
脚本・監督:渡部亮平
出演:出演:土屋太鳳、田中圭、COCO、山田杏奈、ティーチャ、安藤輪子、金澤美穂、中村靖日、正名僕蔵、銀粉蝶/石橋凌…ほか
公式HP:aishu-cinderella.com
文/山崎伸子
©️2021 『哀愁しんでれら』製作委員会