中途半端に口を出す親の子どもは大成しない
―里崎さんはどういう子ども時代を過ごしましたか?
里崎 僕は小学校2年生の秋に、学校のチームで野球を始めました。僕の学年は40人の1クラスで、19人いた男子のうち3分の2が野球をしていたので、「みんながやってるから」という理由です。チームに入ってからは、練習が休みの月曜以外、毎日野球をするようになりました。だから、子どもの時は野球の思い出しかありません。
―野球について、ご両親からはどんな言葉をかけられましたか?
里崎 なんにも言われたことがないんですよ。いつも「できて当たり前」という感じで、褒められたことも一度もないんですけどね。同じチームの友達がホームランを打ったら500円もらっていると聞いて、それを親に話したら「できて当たり前なのになんでお金がいるの?」と言われましたから(笑)
でも、野球は自分が好きでやっていたから、それでなんの問題もありませんでした。僕の恩師の先生は、スポーツでも勉強でも、子どもをその分野のトップにしたいなら、親はまったくなにも知らないか、めちゃくちゃ詳しくて精通しているかのどちらかが良くて、中途半端に知っている親の子どもは大成しないと言っていました。たいした知識もないのに、中途半端に口を出すから。
―耳が痛いですね。なんとか子どものサポートをしたくて、YouTubeなどで得た知識をアドバイスする保護者は少なくないと思います。
里崎 僕もYouTubeをやっているので難しい問題ですが、
スポーツを好きでいるためには、楽しむのが一番
―付け焼き刃の知識で下手なアドバイスはしないほうがいいということですね。それでは、どういう態度で子どもに接するのが望ましいのでしょうか?
里崎 まず、子どもの指導をしていて感じるんですけど、最近の親は最初からトップを目指しすぎなんですよね。昔はその地域で飛びぬけて上手い子どもが、ひょっとして甲子園行けるんちゃう? プロ行けるんちゃう? と結果を見て評価されていました。今はなにもできていない保育園とか低学年の段階で、目指せメジャー、オリンピックですから。でも、そこにたどり着くまでにどんな道が待っているのか、わかってない。
―どんな道でしょう?
里崎 例えば、卓球の伊藤美誠ちゃんみたいに、小学校に入る前から毎日6時間、一緒に卓球できますか? リビングに卓球台を置きますか? 知り合いのプロゴルファーに「子どもの頃、どれぐらい練習してたんですか?」って聞いたら、毎日500球と言っていました。毎日500球打てる環境を整えられますか? 僕だって、8歳で野球を始めてから引退するまで休みの日に野球以外のことをしたことがないんです。ゴールデンウイークも、夏休みも、ずっと野球ですよ。プロを目指すということは、親にもそういう覚悟が必要なんです。できますか?
―……想像以上に大変な道のりですね。
里崎 大半の保護者にとって、簡単なことではないですよね。それで中途半端になるぐらいなら、一緒に練習するにしても、子どもの試合を観るにしても、ただ楽しめばいいんです。子どもがそのスポーツを好きだという気持ちを大切にして、言わなくても努力をする環境を作ったほうがいい。試合を一緒に観に行くとか、好きな選手のトークショーに参加するとか、そのスポーツが身近に感じられるようにすることで、もっと上手くなりたい、もっと練習したいと思うようになるかもしれない。子どもは、楽しければ黙っていても自分で練習しますから。
「試合に出られる環境」が大切
―子どもの「好き」「楽しい」という気持ちが高まるような接し方がポイントですね。ほかに、保護者が意識すべきことはありますか?
里崎 僕は、スポーツをするうえで試合に出ること以上に重要なことはないと思っています。練習するのは、試合のため。試合があるから楽しいし、成長も実感できる。逆に、いくら強いチームに所属していても、ずっと補欠で試合に出られなかったらつまらない。だから保護者には、「試合に出られる環境」を選んでほしいですね。
―これも子どものモチベーションに関係しますね。
里崎 はい。一番いいのは強いチームに所属して、そこで試合に出ることです。でも、そこで補欠になるぐらいなら、レベルを落としてもレギュラーになれるチームに移ることをお勧めします。僕自身、そういう道を選択してきました。鳴門市立鳴門工業高校は甲子園に行ったことがなかったし、帝京大学は当時、ほとんど無名でした。僕がロッテのドラフトで指名された1998年は、ロッテは18連敗して最下位が定位置でした。でも結果的に、大学でもプロでも優勝できました。
僕の感覚では、9割の親が子どもを強いチームに入れたがりますが、それは「ブランド物の服を着たい」という見栄と同じ。子どもに練習という努力を求めるなら、努力の成果を発揮できるチームに入れてあげてほしいですね。
―強豪チームは周囲のレベルが高いから、自分の子どもも上手くなるのでは? と考える保護者も多いと思います。
里崎 もし、僕の息子を野球チームに入れるなら、近所にある和気あいあいとしたチームに入れますね。小学生の強いチームにはよく、大きくて目立つ「スーパー小学生」がいるじゃないですか。でも僕は、
成長のバランスがあるので、下手くそでもいいから、好きという気持ちを失わせないように楽しんでプレーさせるのが一番。そして、楽しむためには、試合が必要なんです。楽しく練習しながら基礎技術を身につけておけば、身体が成長した時にそれが活きますよ。
小学校は準備体操みたいなもの
―息子さんは今なにかスポーツをしていますか?
里崎 いま小学校1年生で、水泳に通っています。これは僕の持論ですが、低学年くらいまでは団体スポーツのチームに入らなくていいと思うんですよ。頭も身体も幼くて技術を教えてもできないから、練習でも試合でも遊んでるだけになりがちですよね。
それなら、小さい頃は水泳、体操、柔道みたいな成長が実感できる個人競技で体力を強化しておいて、団体スポーツはちゃんと練習や試合ができるようになる3年生くらいから始めればいい。最近、息子も「野球やりたい」と言い始めているんですが、まだちょっと早いと答えています。僕の感覚では、小学校1年生から野球を始めても、3年生から始めても、上達スピードは変わりません。
低学年のうちは個人のスクールで体を鍛えながら、休みの日には家族旅行をして、子どもと楽しい時間を過ごしたほうがいいですよ。大きくなったら自然とそういう時間はなくなるので。
―昨年末、学童野球チーム「帝京ベースボールジュニア」の会長に就任されました。このチームでは子どもが複数の競技を体験するマルチスポーツを取り入れるなどこれまでにない取り組みをされています。どのようなチームを目指していますか?
里崎 とにかく楽しむことを重視しています。そのために、子どもたちには複数のポジションを経験してもらうし、ほかの競技にも触れてもらいます。勝たなきゃいけない試合の時はそのための戦略を取りますが、毎回、同じことをしてもつまらないから、例えばバントをしない試合をすることも考えています。小学校は準備体操みたいなものだから、無理せず慌てず、野球を好きになってほしいですね。
―里崎さん、ありがとうございました。
プロフィール
里崎 智也
1976年徳島県生まれ。鳴門工高(現・鳴門渦潮高)、帝京大を経て、98年のドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団。ロッテ時代には2度の日本一に貢献。北京五輪日本代表。強肩・強打の捕手として16年間プロ野球で活躍し、2014年に現役を引退。15年より千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーを務め、日刊スポーツの野球解説者ほか、ラジオ・テレビにも多数出演中。YouTube『里崎チャンネル』の登録者数は47万人を超える。二児の父。
著書に『非常識のすすめ』(KADOKAWA)、『エリートの倒し方 天才じゃなくても世界一になれた僕の思考術50』(飛鳥新社)、『捕手異論 一流と二流をわける、プロの野球「眼」』(カンゼン)、『勝者になるための84の提言』(学研プラス)、『プロ野球の“常識”を疑え!』(洋泉社)、『プロ野球解説者「無敵バッテリー」がゆく 野球の正論』(共著・徳間書店)など。
Twitter @satozakitomoya
取材・文/川内イオ
写真/藤岡雅樹(小学館)