ご存じですか? 1、2、3歳の時期は、「遊び」が子どもの脳をぐんぐん育てています。発達脳科学の第一人者で、アンパンマンやきかんしゃトーマスの「育脳ドリル」の監修者としてもおなじみの大井静雄先生に、「育脳」と「遊び」の関係についてお話をうかがいました。
目次
「好きな遊び」が子どもの脳を育てる!
1~3歳の子どもは、脳の神経細胞が大人の何倍もの速さで発達しています。脳の神経細胞同士をつなぐ結合が、刺激を受けてどんどん結ばれていくのです。
その中でも、心理的快感や喜びといった「ポジティブの感性」に働きかける刺激は、結合をより強くします。結合が強くなると、その分野の脳は発達します。つまり、子どもが「楽しい!」「嬉しい!」「大好き!」と感じながら取り組む遊びが、子どもの脳をどんどん育てていくのです。どんな習い事よりも、子ども自身が好きな遊びをすることが、最も子どもを成長させるのです。
2歳までは親子で「一緒遊び」を
ひとりで遊ぶよりも親と一緒に遊ぶほうが、親が喜んだりほめたりしてくれることで「ポジティブの感性」のレベルが上がります。また、「もっとやりたい」という気持ちが生まれて繰り返し遊ぶようになります。何度も繰り返すと脳の神経細胞同士の結合がより強化されるのです。
このとき注意したいのは、「親の先回り」です。できないことに挑戦していくとき、失敗しても怒らないなど、自身の感情をコントロールする基礎もつくられます。「この子、これはまだできないから」と親が先回りして何でもやってしまわないようにしましょう。
脳の発達は「感性」に影響を受けています
〈「感性」スケール〉
感性にはポジティブ(+)とネガティブ(−)があります。幼児期に感じられるレベルは±2程度です。成長と共に感性が発達し、感じられるレベルはプラスにもマイナスにも増えていくのです。
大井式スキッパー〔Oi-SKiPA〕 うちの子の個性をチェック!
お子さんは、今、どんな遊びが好きですか? 好きな遊びから、その子の個性、そして適性がわかります。お子さんが何に興味をもち、どの分野に適性があるのか、数値化してチェックしてみましょう。
Let’s Try! やってみよう
❶ ここにある20の遊びの中で、お子さんが最も好きな遊びに10点をつけます(何個でも可)。
1 なぐり描きを楽しむ
2 音楽を聴いて歌ったり踊ったりする
3 写真を見て楽しむ、また自分でとりたがる
4 おしゃれを楽しむ
5 シール遊び
6 積み木やブロックで遊ぶ
7 数に興味をもつ
8 図鑑を楽しむ
9 いろいろな単語を話す
10 おしゃべりが大好き
11 周囲のことばをよくまねする
12 ママやパパの言うことをよく理解する
13 動物や植物に関心をもつ
14 絵本を見る
15 おままごと遊びをする
16 人をじっと見て観察する
17 よく歩いたり走ったりする
18 ボール遊びをする
19 ジャンプしたりパパにじゃれついたりして活発に動く
20 三輪車など乗用おもちゃで遊ぶ
❷ それ以外の遊びも、好む度合いによって点をつけていきます。最低は1点です。
❸ 印をつないでできた形をざっと見て、面積が多い系統が現在の趣向です。
❹ ❸以外にも10点を取る項目があれば、系統内で得点にばらつきがあっても注目株です。
大井静雄:“発達脳経年成熟因子”の概念の提唱と「幼児の“個性”と“適性”評価スケール」(Scale for Kid’s Personality&Aptitude[Oi-SKiPA])の開発。サピエンチア聖トマス大学論叢 第48号:49-62、2014年(平成26年)2月発行
● 好みは成長と共に変化するものもあります。 6歳くらいまではSKiPAの変化を見ていきましょう。
● 年齢と共に、手先の器用さやコミュニケーション能力が必要となる複雑な遊びが上位にランクインしていくでしょう。まずは言語を介さない芸術やスポーツの領域に興味をもち、言語能力や知能の発達に伴って、他者と関わる遊びやより複雑な遊びへと発展していきます。
● ママ・パパも子ども時代を思い出してやってみましょう。
好き! だから伸びる うちの子の得意分野を育てよう
5つのうち、どの系統に当てはまるかにより、特技や適性が見えてきます。磨きをかければ、将来の職業にもつながるかも?それぞれの系統の特徴とタイプを見ていきましょう。
1~4 芸術系
アーティストタイプ
美術や音楽など、芸術的センスに優れています。
お絵描きや歌、楽器や踊りなど、お子さんが好きなこと、興味をもつことに、どんどん取り組んでいきましょう。
将来はこんなタイプに!?
俳優、カメラマン、デザイナー、ミュージシャンなど、アーティストとして才能を伸ばしていく可能性があります。幼児期はいろいろなものに出合えるよう環境を整えるといいでしょう。
5~8 自然科学系
数字に強い 理系タイプ
数量の理解や図形的センスに優れています。
積み木で遊ぶ、数を数える、数字を覚えるなど、お子さんの興味を能力につなげて育んでいくといいでしょう。
将来はこんなタイプに!?
エンジニア、科学者、パイロット、建築家など、理系の分野で活躍する可能性があります。
好きなことに熱中するタイプなので、どんどん応援して伸ばしましょう。
9~12人文科学系
言葉のセンスに 優れた文系タイプ
言葉や文章、人の話を理解する力に優れています。
しりとりやダジャレなどの言葉遊びをしたり、たくさんおしゃべりをしたり、言葉に触れる機会をつくるといいでしょう。
将来はこんなタイプに!?
作家、新聞記者、コピーライター、翻訳家など、言葉を扱う分野で活躍する可能性があります。一緒に絵本を読んで、言葉との出合いをさらに増やしましょう。
13~16 人間科学系
コミュニケーション 能力に優れた文理系
コミュニケーションやユーモアセンスに優れています。
おままごと遊びを通してさらに会話力を磨くといいでしょう。動物のお世話もいいですね。
将来はこんなタイプに!?
医師、看護師、教師、通訳、弁護士、ホテルスタッフ、キャビンアテンダント、コンサルタント、警察官など、人と関わる仕事が向いている可能性があります。
17~20 スポーツ系
身体能力に優れた 運動系
運動能力に優れています。
楽しみながら思い切り体を動かせる機会をたくさんもてるといいでしょう。幼児期の運動は、その後の発育にも影響します。
将来はこんなタイプに!?
アスリート、スポーツトレーナー、運動用具開発、登山家、インストラクター、体育教師など、身体能力を活かした分野で活躍する可能性があります。
Q&A
Q:うちの子が、なんの遊びが好きなのかわかりません
A :この時期は、「これが好き!」とはっきりと定まらず、さまざまな遊びに興味をもつ子も多いものです。好きな遊びを見つけるには、子どもが自由に動ける安全な空間を整え、いろんな分野の遊びができるよう準備して、子どもが好きなように遊べる環境をつくってみましょう。多少声をかけて誘いながら様子を見ていると、その子の好きな遊びが見えてくるはずです。
Q:ずっと同じ遊びばかりできになってしまいます
A:繰り返し遊ぶということは、とても素晴らしいことです。夢中になって遊んでいるとき、その系統の脳の回路づくりが強化されています。「しめしめ、今、強化されているな」と心の中で思いながら、見守って応援してあげてください。
少しずつ難しいことに挑戦できるようにしてみるのもいいでしょう。目標をもってチャレンジすると、脳全体が活性化されます。
Q:一緒に遊ぶときに気をつけることはありますか?
A:一番重要なのは、遊びを強要しないこと。親がしてほしい遊びではなく、子ども自身が熱中できることで遊ぶようにしましょう。
また、声がけや会話も気をつけて。叱られたりネガティブな言葉をかけられたりすると、不快や悲しみの感性が働き、脳も活性化しません。あたたかい笑顔と和やかな雰囲気を心がけながら、ポジティブな言葉をかけるようにしましょう。
Q:好きなことばかりして、苦手なことはやらなくていいのでしょうか?
A:幼児期は必要ありません。苦手なことを無理にやろうとすると、ネガティブな感性で情報が入り、その分野の発達が止まってしまいます。
日本では、学校に入ると「トータル力を上げる教育」がなされているので、小学校に上がると苦手なことにも取り組むことになります。それまでは、好きなことだけに熱中して、ポジティブな感性をたくさん働かせるといいでしょう。
Dr.育脳 大井静雄先生からのメッセージ
幼少期は「遊び」が 何より大切
1歳、2歳、3歳の子育ては、公園に行ったり家でも遊んだりと、朝から夜まで遊んでばかり。「今日、子どもと遊ぶことしかしてない」「こんな一日でいいのかな」と思っているかもしれません。
しかし、ここまで読んでいただいて、あなたが今やっていることが、お子さんにとって何よりも重要だということが、わかったのではないでしょうか。有意義なことをやっているんだ!と、親自身も楽しむといいですね。
好きなことができる環境を
幼児期の子どもは、まだ自分から遊ぶ環境をつくることはできません。この子は何が好きかな? どんなことに熱中するのかな? そんなふうに親もわくわくしながら、好きなことができる環境を整えてあげるといいでしょう。
今の遊びがこの子の未来をつくっているのだと思うと、今このときが大切なものに思えてくるのではないでしょうか。
お話をうかがったのは
大井 静雄先生
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授などを経て、現在はポートアイランド病院脳科学医療福祉センター長を務める。小児脳神経外科・発達脳科学のエキスパート。
楽しみながら脳が健やかに育つ、大井先生監修の「育脳ドリル」シリーズも大人気発売中!
イラスト/ハラユキ 取材・文/洪 愛舜 構成/童夢 『ベビーブック』2019年3月号