北村匠海が、中川⼤志とのW主演は「宿命だった」と語った映画『スクロール』が描く絶望と希望とは?

YOASOBIの⼤ヒット曲「ハルジオン」の原作者として知られる橋⽖駿輝のデビュー⼩説を、北村匠海×中川⼤志のW主演で映画化した『スクロール』が2⽉3⽇(⾦)より公開。若者たちを通して、希望と絶望という対局のものをリアルに描いた本作は、日々を流されて生きる大人たちに、大切な言葉を投げかけてくれます。

ずっと“同士”だった北村匠海と中川大志が紡ぐ特別な1作

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

北村匠海、中川⼤志といえば、まさに日本のエンタメ業界のド真ん中にいる人気若手俳優です。

近作でいえば、北村さんは俳優として、2部作で公開される話題作『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命-/-決戦-』(4月21日公開、6月30日公開)が待機中で、リーダーを務めるロックバンドDISH//の活動も順風満帆です。中川さんは大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でのシリアスな演技から『ブラックナイトパレード』(公開中)やCMなどのコミカルな役まで、守備範囲の広さで観る者を圧倒しています。

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

とはいえ、この2人はどんなに売れっ子になっても決して浮き足立つことなく、地に足をつけてきちんと作品に臨んできた印象を受けます。

同じ事務所に属し、ともに子役時代からキャリアを重ねてきた2人は、よくオーディションでも競い合ってきたとか。本作の完成披露舞台挨拶で、北村さんが「小さいころからの仲間である大志とW主演という形で共演するのは“宿命”であり、それがこの作品で良かったと思います」と感慨深く語っていたのも印象的でした。

2人の共演作といえば、中川さんの主演映画『砕け散るところを見せてあげる』(21)が記憶に新しいところですが、同作で彼らが顔を合わせるシーンはありませんでした。それだけに、大人になった2人が、俳優としてがっつり共演した今回の『スクロール』は、両者はもちろん、彼らのファンにとっても特別な1作になったのではないかと。

若者たちのもがきが生々しいからこそ共感を呼ぶ

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

2人が演じるのは、学⽣時代の友⼈である〈僕〉(北村匠海)とユウスケ(中川⼤志)。社会人となってから、理想と現実の間で揺れ動く若者たちのリアルを、北村さんと中川さんに加え、ヒロインの古川琴音、松岡茉優の4人が、時にヒリヒリと、時にセンシティブに体現しています。

〈僕〉は職場で上司からのパワハラに苦しみ、「死にたい 死んでしまいたい」とSNSで苦悩を吐露。そんな彼に同じ職場で働く〈私〉(古川琴⾳)が近づいていきます。一方、テレビ局で働くユウスケは楽観的で、毎日が楽しければそれでいいという刹那主義者のよう。そんな中、ある友人の死をきっかけに〈僕〉と再会。また、ユウスケは結婚がすべてという価値観を持つ菜穂(松岡茉優)と出会い、うっかり求婚してしまいますが……!

ユウスケは、亡くなった友人が死ぬ前に、自分のスマホに電話をかけてきたことを知り、愕然とします。でも、彼はその友人のことをよく覚えていなかった。そして、今更ながら、〈僕〉とともに亡くなった友人に想いを馳せ、改めて人生を見つめ直していくことに。

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

若さだけで突き進んでいけた学生時代とは違い、ほろ苦い現実と否が応でも向き合うことになる〈僕〉とユウスケ。2人が心の内で抱えている孤独感と焦燥感が実に生々しく描かれていきますが、Hugkumのママパパ世代も、思い当たる節がきっとあるはず。

自分に生きていく意味があるのか?」といった、ある意味、手垢のついたような重い台詞も出てきます。日々忙殺されている中で、そこを掘り下げることなんてなかなかないと思いますが、本作ではそこに至るまでの葛藤を、丁寧に紡いでいくので、ぐさりと胸に刺さります。

過去の記憶に向き合うことで、ようやく今が見えてくる。前へ進むだけではなく、時には立ち止まったり、振り返ったりすることも大切なことなんだと、しみじみかみしめました。

“僕”役が3度目の北村匠海と、内面を露呈”していく役に挑んだ中川大志

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

ちなみに、北村さんが“僕”という役を演じるのは、『君の膵臓をたべたい』(17)、『明け方の若者たち』(21)に続いて3度目で、彼自身も舞台挨拶で「〈僕〉という役を演じるたびに、俯瞰的な感覚を持っていないといけないなと思うんです」と語っていましたが、大いに納得。そして、この何気ない“一人称”である役をここまでフラットに演じられること自体、稀有な才能だなと思ってしまいます。

北村さんが〈僕〉を演じることで、無色だった役柄が天然色になっていくというか、観る者は彼に自分の気持ちをすっとシンクロさせられるし、気づけば共鳴しているという現象が毎回起きています。加えて今回はナチュラルな演技に定評がある相手役の古川さんとのアンサンブルも相まって、言葉の1つ1つが生き生きと動き出します。

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

また、中川さんは、入口が「テレビ局で働く軽薄そうなモテ男」であるユウスケの実はナイーブな一面を、少しずつ見せていくというグラデーションのあるアプローチに挑んでいます。“変化”する役ではなく、どちらかといえば内面が“露呈”していく役で、そこは中川さん本来の人間力がにじみ出ていくせいか、ユウスケの人間らしさや優しさに、観る側も感情移入していけます。

優柔不断なユウスケに斬り込んでいく恋人・菜穂役の松岡さんとのやりとりも、まさに「あるある」な感じで、特に女子は大いにうなずいてしまいそう。そんな4人が織りなすアンサンブルドラマは、心の奥にしまっていた大切なものを掘りおこしてくれるのではないかと。

観終わったあと、自分の人生も改めて“スクロール”したくなるような本作。多くの方々に観ていただきたい作品です。

『スクロール』は2月3日(金)より全国公開中
監督・脚本・編集:清⽔康彦 原作:橋⽖駿輝「スクロール」(講談社⽂庫)
出演:北村匠海、中川⼤志、松岡茉優、古川琴⾳…ほか
公式HP:scroll-movie.com

文/山崎伸子

©橋⽖駿輝/講談社 Ⓒ2023映画『スクロール』製作委員会

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