もっちもちの3DCGしんちゃんたちが活躍する感動のSF大作
タイトルに“しん次元”とあるように、しんちゃんたちが3DCGのキャラクターとなって登場する本作。立体化したしんちゃんは、おしりとほっぺのもっちもち&プッリプリぶりが一層愛らしいです。冒頭からいきなりしんちゃんが、母のみさえに追いかけられ、スクリーン狭しと動き回るアクションシーンが始まり、つかみOK。続く物語は、予測不能なSFスペクタクルの様相を見せていきます。
なるほど!これは3DCGのフォーマットで描くにふさわしい物語でした。CGを手掛けたのは、大ヒットした『STAND BY ME ドラえもん』シリーズで知られるCG のプロフェッショナル集団の白組なのでクオリティーはお墨つき。SFの世界観だからこそ、映画館で観るとたっぷりと没入感を味わえそう。
そういえば、2Dアニメから3DCGアニメにバージョンアップした劇場アニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』(公開中)のメガヒットも記憶に新しいところ。令和の時代に入り、表現手段は以前よりバリエーションが広がり、映像はより進化してきました。でも、一番大切なのは作品の根底に流れるスピリットです。そういう意味で、原作コミックや2Dアニメをリスペクトしつつ、今の世相を反映した深い人間ドラマとSFスペクタクルをこれでもかというほど盛り込んだ本作は、この夏イチオシの1本となりました。
『バクマン。』の大根仁監督が初めてアニメの監督にトライ!
ある日、自宅で夕飯を待ちわびていたしんちゃんに、宇宙から落ちてきた白い光が命中します! するとしんちゃんの体に不思議なパワーがみなぎり、なんと物を動かせるテレキネシス(念動力)を使えるようになりました。そう!“エスパーしんのすけ”の誕生です。
一方、別の場所では黒い光を浴び、暗黒のエスパーとなった男の名は、非理谷充(ひりやみつる)。彼は何をやっても上手くいかず、唯一の心の支えとなっていた推しのアイドルも結婚して、「泣き面に蜂」状態。挙句の果てに、暴行犯と間違われ警察に追われる身となりました。そんな彼が悪の力を手に入れたことで、この世界への復讐を誓います。非理谷は、なんとしんちゃんが通うふたば幼稚園にたてこもったため、しんちゃんはテレポートして、先生や友だちを助けに行きます!
今回、特筆すべき点は、映画『モテキ』(11)や『バクマン。』(15)などで知られる大根仁が初のアニメーション監督にトライしたことかと。大根監督は笑いと感動を過不足なく盛り込める人間ドラマの名手でありつつ、人間の性(さが)も鋭く描ける監督です。大根監督が昨年演出したTVドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」も、社会派ドラマとして大いに見応えがありました。
なんと制作に7年も費やしたという本作。大根監督は脚本も手掛けていますが、とことんコメディに振り切った爆笑シーンがあれば、今の世相を反映した厳しい現実を突きつけるシビアな台詞もあり、観る者の心をがっちりとつかんでいきます。中でも非理谷というキャラクターが、なぜ“悪”の道を選んでしまったのかがきちんと掘り下げられている点が秀逸かと。
例えば、ティッシュ配りをしている非理谷充が、心ないサラリーマンから「社会の底辺くん」とさげすまれるシーンにはドキリとさせられました。世知辛い世の中、最近では様々な犯罪が連日ニュースで報じられますが、本作では「人はなぜ犯罪に手を染めてしまうのか?」というプロセスが子どもにもわかりやすく描かれます。
気骨な大根監督は、エンタメど真ん中の「クレヨンしんちゃん」映画で、そういう犯罪者を生みださないためにはどうすればいいのか?という一歩踏み込んだ課題に挑みました。そこが素晴らしい。
果たして我らがしんちゃんは、闇落ちした非理谷充とどう向き合って行くのか?そのプロセスが非常に胸を打ちます。
ロボット同士のバトルも展開!結末では感動の嵐
非理谷VSしんちゃんの凄まじい戦いは、やがて2人が操縦するロボット同士のダイナミックなバトルへとシフトしていきます。しんちゃんが超能力で操縦するガンダムではなく“カンタム”は、絶妙な笑いも取っていくのでご注目。また『ワイルド・スピード』さながらのカーアクションをはじめ、いろんな作品へのオマージュがちらつく点もツボでした。
ここからは「クレヨンしんちゃん」のお約束どおり、母のみさえや父ひろし、妹のひまわりたち野原一家も巻き込まれつつ、全力でしんちゃんを応援。そして、勝負の決め手となる最終兵器(!?)が、ある“アイテム”なのですが、その落としどころが最高でした!ネタバレは避けますが、きっとママやパパがぐっと来るものとなっております。
また、ゲスト声優は松坂桃李、お笑いコンビ空気階段の鈴木もぐらと水川かたまり、鬼頭明里ですが、アフレコのスキルの高さに驚きました!敢えて役柄は言いません、というか、前知識なしで観ていただきたいです。
もちろん鬼頭さんといえば、『鬼滅の刃』の禰豆子役でお馴染みの人気声優ですが、松坂さんは俳優業、空気階段の2人はお笑いが主戦場なはず。ところが意外なキャスティングも功を奏し、見事にキャラクターと同化していて、御本人の顔がまったくちらつきませんでした。そこって大事ですよね。
ということで、笑いと涙で感情が揺さぶられっぱなしの本作。観終わったあと、きっと小さなお子さんでも、大切なメッセージを持ち帰ることができる秀作になっていますので、ぜひこの夏、ファミリーで鑑賞していただきたいです!
監督&脚本:大根仁 原作:臼井儀人(らくだ社)/「月刊まんがタウン」(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ…ほか 声の特別出演:松坂桃李、空気階段(鈴木もぐら、水川かたまり)、鬼頭明里
公式HP:shinchan-movie.com
文/山崎伸子
©臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会