道具で発達を応援するネットのお店tobiracoの店主が、発達障害の子の「困り感」を解決する道具をご紹介します。今回のテーマは、発達凸凹さんが苦手とするコミュニケーションです。
子どもにはぐくみたい、話を聴いてもらえる「安心感」と相手の話を聴く「楽しさ」
コミュニケーション力を培う二つのゲーム。「トーキングゲーム」と「ふれあい囲碁7(セブン)」
「トーキングゲーム」は、口べたな子でも安心して話せるルール
「トーキングゲーム」は、質問カードに書かれた質問に答えるだけのゲームです。「すきなくだものは?」「10年後の自分に会えるとしたら、どんなことを話したい?」「タイムマシーンがあったら、どの時代に行きたい?」など、答えやすいものから、考え込んでしまうものまで、質問はいろいろです。
ルールは、ただひとつ。答えている人の話を黙って最後まで聴くこと。できればうなずきながら聴くこと。話を遮って質問したり、答えを急がせたり、からかったりするのはルール違反です。
誰からも否定されたり、急かされたりせずに、最後まで聴いてもらえるので、口下手な子や、第一声がなかなか出にくい子でも、安心して話すことができます。
もし、話し続けて止まらなそうな子が参加していたら、ルールとして一人が話す時間を決めておいてもいいかもしれませんね。ひとり1分というように。そうしないと、まわりの子がだんだんと飽きてしまいます。
質問を通して、相手の意外な面を知ることができるのがこのゲームのおもしろいところ。
安心材料はもうひとつ。答えたくない質問には「PASS」カードを出せばパスできます。答えにくいことには「ノー」と言える。これは実生活でも身につけてほしいことですよね。
「トーキングゲーム」は、心理カウンセラーが「傾聴」(相手の話に耳を傾ける)と「自己開示」(心開いて自分の気持ちを伝える)のためのツールとして使っていたものをアレンジしています。ゲームといっても勝ち負けがないので、心穏やかに進めることができます。
コミュニケーションに苦手意識を持つ子には、まずコミュニケーションの楽しさを体験できるようにしましょう。
きいて・はなして はなして・きいて トーキングゲーム
カードのサイズ 横50×縦80㎜ セット内容:質問カード:64枚、ブランクカード:12枚、パスカード:10枚、説明書 考案 創価大学教育学部准教授安部博志 価格 2,500円(税別) 発売元・問い合わせ (株)tobiraco(トビラコ)
「ふれあい囲碁7」で、負けることを「学習」して、気持ちを切り替える練習を
「一番病」という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。
なんでも一番にならないと納得しない、発達障害の子の中にはこうした特性のある子がいます。ゲームになるとその特性が顕著になります。負けると癇癪を起こしたり、周囲が引くほど感情を爆発させたりし、ときにはズルをしてでも勝たないと気がすまない。これは「こだわり」であり「気持ちの切り替え」がうまくいかないために起きるそうです。
「ふれあい囲碁7(セブン)」は、そのような特性のある子におすすめです。とても簡単なルールですが、奥深く大人でも十分に楽しめます。
集中力が続かないADHDの子の特性も考慮し、短時間で終わるよう碁盤の目を少なくしています。負けた悔しさにこだわらずに、次勝つことに集中できるよう気持ちの切り替えの練習になります。駒は盤にはめ込むタイプ。癇癪を起こして盤をひっくり返してもバラバラになりませんね。
このゲームを開発したNPO法人えじそんくらぶは、ADHD当事者と家族のために活動している団体です。代表の高山恵子さんご自身がADHD。発達障害の子の特性をよく理解した上で作られたゲームです。
ふれあい囲碁7(セブン)
基盤のサイズ 縦190×横190×高さ5mm セット内容 駒49個, 碁盤1枚、説明書1枚 監修:囲碁棋士 安田泰敏九段、NPO法人えじそんくらぶ代表・臨床心理士 高山恵子 価格 2,000円(税別) 発売元・問い合わせ先 NPO法人えじそんくらぶ 0429-62-8683
怒りをクールダウンしてくれる、「ぬいぐるみ」のおしゃべり
気持ちの切り替えができずにいるときに必要なのは、クールダウンです。一人になれる空間で頭を冷やすことです。でも、ただ、子どもを別室に「隔離」するのは味気ないからと、面白いアイデアを考えて実践していたのが安部博志先生です。
かわいい声で、心のトゲが丸くなります「ミミクリーペット」
筑波大学附属大塚特別支援学校の教諭時代に、癇癪を起こした子を相談室で一人にしてクールダウンさせました。相談室に置いていたのが、可愛い声でオウム返しにマネするぬいぐるみ「ミミクリーペット」です。
「どうせ、ぼくなんか」と子どもがふてくされながらぶつくさ言うと、瞬時にミミクリーペットが可愛い声で「ドーセボクナンカ」と、再生します。しかも体を上下に揺さぶりながら。愛嬌がありますよね。自分のモノマネをされた子は、そのうちニコッとして教室に戻っていくようになるそうです。
クールダウンすると、自分を客観視することができます。でも、何もない部屋に放り出されても気持ちの整理はなかなかつきません。そんな時、可愛い声で自分の気持ちを「代弁」してくれるミミクリーペットがいると、気持ちのトゲトゲが丸くなってきます。
子どもの気持ちを代弁することに心砕いてきた安部先生ならではの工夫には、いつも驚かされます。
ミミクリーぺット
パッケージサイズ 幅120×高さ×150奥行き130mm 電池 単4形アルカリ乾電池×3(別売) 対象年齢 6歳〜 価格3,200円(税別) 発売元・問い合わせ先 タカラトミーアーツお客様相談室 tel.0570-041173
ネガティブな言葉も見方を変えるとポジティブに
発達凸凹の子は、そうでない子に比べて失敗が多いためよく叱られます。ネガティブな言葉を浴びせられているうちに、自己肯定感が低くなって、自暴自棄になったりもします。
前述の安部博志先生は、見方を変えるといいところが見えてくるよ、と子ども達に伝えたくて「かえるカード」を作りました。
気持ちがほぐれ、他の子のいいところも見えるようになる「かえるカード」
写真のようにかえるのイラストが描かれたカードです。カードを裏返すとポジティブな言葉に変わります。「あと、5分しかない」も「まだあと5分もあるよ!」見方や言葉のかけ方をかえるとポジティブになれます。
「落ち着きがないなあ」は「いろんなことに興味がもてるんだね」、「自己中心的だね」は「いつも自分の意見をしっかりもっているね」というように。
かえるカードは、ウォールポケットに入れて使いますが、子どもの目につくところにかけておくのがポイント。普段言われて気にしている言葉を、子どもが裏返して見ることができるようにします。
安部先生は相談室の入り口にかけていました。相談する前に緊張している子がカードを手に取ることができるに。そうするとカウンセリングがうまくいくようになるそうです。子どもの気持ちがほぐれるのかもしれません。
「かえるカード」は、他の子のいいところも見えるようになってきます。友達の欠点も欠点ではなく、いい面があることに気づくわけです。
相手の欠点だけではなく、いい面も見ながらつきあうのは人間関係を築く上でとても大切なことですよね。安部先生は、思春期前に使ってほしいと話します。思春期の多感な時期は、それでなくても自己肯定感が下がりがち。早いうちから、自分や人のいい面を見ることができる「力」をつけてほしいというのです。
見る目をかえる 自分をはげます かえるカード(専用ウォールポケット付)
カードのサイズ 縦90×横100mm ウォールポケット:縦500×横350mm セット内容 カード:テキスト入り45枚、ブランク5枚 専用のウォールポケット:1枚 考案 創価大学教育学部准教授安部博志 価格3,900円(税別) 発売元・問い合わせ先 (株)tobiraco(トビラコ)
今回ご紹介して、改めて気づくのはコミュニケーションの基本は、安心感であり、自己肯定感、他者肯定感であるということです。ご家庭でも、そんなことをちょっと意識してお子さんに接していただければと思います。
発達障害の「困った」、道具であっさり解決しましょう。
次回も素敵な道具たちをご紹介します。
『発達障害の子のためのすごい道具』(安部博志・著 tobiraco・編集)小学館
トビラコ店主
元子育て雑誌編集者。編集者時代に出会った特別支援学校の先生と現場で効果のあった教材を商品化。「tobiraco」というネットショップで販売。ヒット商品は「きいて はなして はなして きいて トーキングゲーム」「見る目をかえる 自分をはげますかえるカード」。「療育アロマ」も快走中。
第4回tobiraco療育アロマのセミナー&ワークショップのお知らせ
発達障害の子の緊張の緩和や気持ちの切り替えにアロマを活用してみませんか。発達障害の子へアロマセラピーを行なっているセラピスト兼薬剤師が講師となって、アロマの基礎、アロマオイルを使ったハンドマッサージの効用をわかりやすくお伝えします。セラピストによるハンドマッサージのワークショップも行います。初心者の方、大歓迎。お気軽にご参加ください。
- 日時:6月27日(木) 10:00〜12:00
- 場所:オリエンタルアロマセラピィカレッジカフェ(東京都葛飾区亀有)
- 参加費:2,500円(材料費・税込)
詳細とお申し込みはこちらからどうぞ。