【中学受験】学習面の親のサポート、どこまでやるのが正解?専門家が指摘する「偏差値で一喜一憂しない」本当の意味

前回は「受験に対する考え方の軸を作る」という大前提と、親のサポートで何よりも大事な「生活面でのサポート」についてお話しました。今回は学習面とメンタル面です。進学塾の学習内容はとても難しいですが、親はどこまでサポートすればいいのでしょうか? またこの時期、揺れる子どもの心にどう寄り添ったらいいのでしょうか? 引き続き、お母さん目線のアドバイスに定評のある教育ジャーナリスト・中曽根陽子さんに伺いました。

学習面で必要な親のサポートは、勉強の進行管理

塾のテキストやプリントの整理をすることで、進行具合や子どもの理解度を把握できる

 入試問題の難化に比例して、進学塾の学習内容も年々難しくなっています。算数は難易度の高い特殊算などの理解も必要ですし、ほかの教科も親が中学受験した頃に比べるとはるかに難しくなっていて、単純な暗記や知識を超えた「考えさせる問題」も多く、一筋縄ではいきません。そんな状況で、親は子どもの学習をどうサポートしたらいいのでしょうか?

 中曽根さんは「基本的に親がするのはプリントのファイリングなど実務的なこと。勉強の進行管理をするのがいいと思います」とアドバイスします。

塾によっては毎回新しいプリントが大量に配られ、子どもの手には負えないほどのところもあります。親が教科別、日付別に整理したり、ファイリングしてあげたりすれば、子どもも頭のなかを整理しやすくなるでしょう。

「実際、私も娘の中学受験で経験しましたが、毎回大量のプリントが配られ、途中で‶これを全部きれいにファイルしても、もう1回やり直すなんて無理だ〟と痛感しました。親でさえプリントをすべて理解して完璧に整理するのは不可能。現実的には子どもの理解度などを考えながら、必要なものだけをピックアップして復習しやすくするなど、子どもにあった整理のしかたを試行錯誤するほうがいいと思います」

親が塾の勉強も教えないといけない?

親が家でどこまで勉強を教えるべき?

 塾の学習が難しくて子どもが理解できない様子のとき、親はどの程度関わるべきなのでしょうか? 子どもが苦労している姿を見ても、塾から「学習指導は塾にお任せください。親は教えないで」と言われたら、手を出しにくく感じます。

「やはり塾の授業を先取りして、親が‶自己流で゛教えるのはNGです。ただ塾の考え方にもよりますが、一概に‶塾にお任せして、親はまったく手を出すな〟ともいえません。ケースバイケースです」と中曽根さんは言います。

塾によっては予習を重視するところもあれば、復習主義のところもあります。難しい内容を子どもが自力で予習するにはハードルが高いとか、授業の内容が理解できていなくて宿題が難しいという場合なら、塾の勉強をうまく進めるために親が教えることも必要になってきます。親がそばについていないと勉強しないという子どもであれば、付き添ってあげることも必要でしょう。

子どもの今の学力に合わせて「やるべきところを見極める」

 親が指導しないにしても、家で子どもにどこまで宿題やプリントをやらせればいいのかはとても難しい問題です。塾のテキスト内容は年々難しくなっているだけでなく、同時に量も多くなっているからです。時間がいくらあっても足りません。

「ただ進学塾のテキストの多くは、難関校ねらいの成績上位層の子ども向けに作られているということを忘れてはいけません。中学受験をする子どもたち ‶全員〟がテキストを完璧に網羅する必要はないのです」と中曽根さん。

それよりも子どものレベルに合った適切なレベルのものを選んで取り組むことが大事だと言います。でもそれを親が見極めるのはとても難しいのも事実。

「できれば塾の先生に相談して、子どもが‶今〟やるべきところを教えてもらうのが一番です。それが難しければ子どもが少し頑張ればできそうな問題をピックアップして、取り組む問題数を絞るなどして、子どものやる気をキープしてほしいですね」

また、塾によっては子どもへの個別フォローの体制に差があり、大手塾や難関校志向の塾ほど、黙っていては手厚いサポートは望めないようです。親のほうから質問や相談するなどアクションを起こし、家庭での学習がスムーズに進められるようなアドバイスをもらうなど、塾を活用していくという姿勢が大事です。

精神面のサポートの基本は「認めて伝える」

認めて伝える、と子どもはなぜ安定する?

子どものメンタルを健全に保つために

長い通塾期間中は、子どもはやる気が出なかったり、成績が伸びずに悩んだりと精神的に落ち込むことも多いでしょう。子どものメンタルについては、親はどうサポートするといいのでしょうか?

「基本的な親のスタンスは、子どもがやっていることを認める、または共感して、それを言葉で伝えていくことでしょう。そこから子どもは自信をつけたり、自分の得意なことを意識できるようになっていきます。この時期の子どもには褒めるよりも‶認めて伝える〟がいいのです」と中曽根さんは言います。

 例えば塾のテストから帰ってきた子どもに、親は悪気なく「どうだった? テストできた?」と聞いてしまいがちですが、それがプレッシャーになる子もいます。塾に行ってテストを受けたこと自体、子どもががんばっている証拠。「テスト受けてきたんだね」と、子どもの努力を認め、気持ちをこめて「おつかれさま」と労をねぎらほうが、子どもは「親は自分を認めてくれる」と安心し、自己肯定感をもてるのです。

「偏差値で一喜一憂しない」という本当の意味

偏差値を上手に活用するためには?

親が偏差値を正しく理解すれば、戦略を練る材料になる

 親の声掛けや態度でやってはいけないのは、子どもに「勉強は辛いもの」「本当はやりたくない苦行」と感じさせること。成績を上げたい一心で親が「あれもやりなさい」「これもやりなさい」と言い続ければ、子どもはやる気を失います。

「中学受験のために塾に通うということは、それまでの学校での学習スピードやレベルとはまったくレベルの違う世界に入っていくことなんです。まずは‶子どもはハードルの高いことに挑戦しているのだ〟と親は絶えず意識してほしいですね」

模試での偏差値が50以下であっても、全国の小学生のなかでは平均以下どころか、むしろ上位にいるのです。偏差値で一喜一憂するのは意味がないこと。親はわかってはいても、いざ塾の成績が悪い我が子を目の前にすると「どうしてこんなにできないのだろう」という感覚に陥りがちです。その意識から発する言葉が子どもを傷つけたり、やる気をダウンさせたりしないよう、注意が必要です。

もしテストで偏差値が40だったら、単純に「うちの子はこんなにできないのか」とがっかりするのではなく、「今回はこの部分ができなかったから40だった。その原因はなんだったのか。これからどうやってあげていくか」という戦略を練るための材料にして考える姿勢を親が見せていくことは、子どもに「次はがんばろう」と前向きな気持ちに切り替えさせることにつながるでしょう。こういうときこそ「ピンチをチャンスにする」ということを具体的な行動で経験させるよい機会なのです。

すぐに反発するタイプの子に手こずるとき

反発する我が子に悩む受験生の親も多い

「言うことを聞かない=悪い子」ではない。親の発想の転換が大事

受験生活で親が子どものメンタル面で扱いにくいと感じるのは、明らかに「従順でまじめなタイプ」よりも、「親からの指示、強制されるのがイヤで、人の話を聞かない自由人タイプ」でしょう。

従順でまじめなタイプは放っておいても大人の言うことを聞くし、淡々と課題をこなしていきます。親も「がんばっているね」と日ごろの努力を認めるポジティブな言葉がけをしやすく、寄り添いやすいのです。

人の言うことを聞かない自由人タイプの子は、親から「すぐに口答えや反抗する子=自分の思うようにならない子=悪い子」というレッテルを貼られがち。ですが、逆の発想をすれば、そういう子は自分の意志や考えをしっかり持っているのです。

「これを強みとして活かすという発想の転換ができるといいですね。こういう子は何でも‶自分でやりたい、自分で決めたい〟という考えが強いので、自走力もあるのです。例えば学校選びでもいろんな学校を見せて、‶材料は集めるけど最終的な決定はこの子に委ねよう〟と子どもの意志を尊重していくことで、上手に伴走できると思います」

「親はどうしても子どもができていないところに目が行くようにできている」と中曽根さん。「でも大事なのはそれを自覚することです。そしてできないところを強調するよりも、できるところをもさらに伸ばすという発想の転換をして、子どもを見守ってほしいですね」

親の伴走でいちばん大切なサポートとは?
お母さん目線のアドバイスに定評がある教育ジャーナリスト・中曽根陽子さんに聞いた親のサポート前編はこちら>>>

https://hugkum.sho.jp/608353

お話を伺ったのは

中曽根陽子さん|教育ジャーナリスト・マザークエスト代表

小学館を退職後、女性のネットワークを活かした編集企画会社を設立し、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」立ち上げる。現在は執筆のほかポジティブ心理学や脳科学をベースにした子育て講座、社員・教員向け研修、講演活動も精力的に行っている。著者に『一歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験 最新版』(ともに晶文社)『成功する子はやりたいことを見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)など多数。

取材・文/船木麻里

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