【中学受験】通塾生活はまるで長距離マラソン。親の正しいサポートと我が子が「自走」するコツは?専門家に聞いた

中学受験をする子どもの多くは4年生から塾に行き始め、入試本番までの約3年間、合格を目指して勉強します。多くの塾では月例テストや模試はもちろん、毎週のテストにたくさんの宿題など、気が抜けないことがたくさん! 長距離マラソンのような受験生活の中で、親はどんなスタンスで子どもの通塾生活を支えたらいいのでしょうか。お母さん目線のアドバイスに定評のある教育ジャーナリスト・中曽根陽子さんに伺いました。前編では、精神面と生活面のサポートをお伝えします。

中学受験の勉強で子どもが「自走」するのは難しい

中学受験の「よき伴走者」とは?

 親は子どもに「人からいちいち指示されなくても自分で考えて行動できる力=自走力」のある子になってほしい、と願うものです。目標に向かって自発的に行動する力は、これからの社会で一層求められる大事な力。自走力のある子どもなら、親もそれほど手がかからないという点でも、理想の子どもの姿の一つかもしれません。

ましてや中学受験では3年間の通塾が一般的という昨今、親としては子どもが家庭学習でも自走してほしいと思うのではないでしょうか。ですが、中曽根さんは今の塾事情ではそれはなかなか難しいと言います。

親は子どもの「伴走者」になるのがベスト

 「というのも塾での学習内容は、小学生が理解する勉強としてはとても難しく、とくに上位難関校を目指すクラスほど年々難化しているからです。しかも5年生までに全ての範囲を終わらせて6年生からは入試対策に注力するなど、学習スピードもとても速い塾が多いです。宿題やプリントもたくさん出されます。もちろん選んだ塾のシステム、子どもの性格や学力にもよりますが、子どもがすべて自分で管理して自力で勉強し、親はノータッチというのはかなり無理があると思います」

かといって親が何でもやってあげていては、自走力も自主性も育ちません。中曽根さんは「親は自走させるのではなく、自ら子どもの‶よき伴走者〟になってほしい」とアドバイスします。

「子どもにお任せ」でも「なんでもやってあげる」でもなく、上手にサポートしながら、子どもを無理なく「自走モード」に導いていくような関わり方ができるのが理想ですね。

受験に対する「考え方の軸」を作ろう

なんのために受験をするのか?

とはいえ、これまで多くの受験生親子にアドバイスをしてきた中曽根さんは、「親は伴走しているつもりが、いつの間にか先走って子どもを引っ張るようになり、それが親子間のトラブルに発展してしまうことがあるので注意が必要です」と続けます。

そして、そうならないために大切なのは、「受験に対する自分軸」、言い替えれば「家庭の中学受験に対する考え方」をしっかり持つことだと言います。ポイントは3つ。

①なんのために受験させるのか?

言うまでもなく大前提です。「友だちが受けるから」「私立校のほうがいろいろ充実しているから」など「なんとなく」の理由ではなく、「うちの子にはこんな中学生活を送ってほしいから(受験させるのだ)」という現段階でのビジョンを作り、それを家族で共有することが大事です。

②どんな受験生活を送っていこうか?

「ウチの子にとっての最高の受験って?」「どんなゴールにしていこうか?」と考えることです。そのためには習い事をやめて通塾に専念するのか、家族イベントはどうするかなど、親がさせたいことではなく、子どもを主人公にして考えることが大切です。

③「今」の学校状況や中学受験の実態を理解しているか?

親が経験した中学受験とは「まったく様変わりしている」のが今の中学受験の実状です。さらに大学受験も大きく変わってきています。親の古い価値観で学校を選んだり、塾のカリキュラムを理解せずに一方的な意見を押し付けたりしてはいけません。

 これら3つのポイントを軸にして、通塾する子どもを見守りながら、適切なサポートを考えていくのが伴走者としての親の役割になるでしょう。

「この軸を作ると作らないとでは、長い通塾生活での親子や夫婦といった家族の人間関係の良好な状態に大きな差ができます」と中曽根さん。そして一度作ったから「こうでなくてはいけない」と固執するのではなく、子どもの状況にあわせて振り返り、話し合いながら軌道修正していくことがとても大事だと強調します。

最も大切な親のサポートは、子どもの「生活リズム」を守ること

何より大切なことは、睡眠時間の確保

 ところで親のサポートは学習面、メンタル面、生活面と多方面にわたります。そのなかで、いちばん重要なのは「生活面でのサポート」だと中曽根さんはきっぱり。現在の塾のシステムのなかで子どもの生活リズムを守っていくことは、簡単なことではないからです。でも親も仕事などで忙しいなか、何からすればいいのでしょうか?

中曽根さんは、まずは「睡眠時間を確保して、朝型の生活リズムにすること」をすすめます。

塾の帰りが遅くなるなら、夕飯は食べなくていい

 通塾を始めると、子どもはどうしても塾を中心とした生活になっていきます。6年生になると帰宅が21時を過ぎる子どもも少なくありません。それから夕飯を食べてお風呂に入って、塾の宿題をして……となると、あっという間に23時を過ぎてしまいます。

「21時以降の食事だと寝てからも腸は消化活動を続けているので、熟睡ができず睡眠の質が悪くなります。それなら塾から帰ってからの夕飯は無理に食べさせなくてもいいと思いますね。それより塾に行く前や塾の休み時間に軽食をとれるなら、そのほうがいいでしょう。帰宅後はなるべく早く寝て、そのかわり早起きして朝ごはんをしっかり食べるほうがはるかに健康的です」と中曽根さんはアドバイスします。

夜更かしして睡眠不足になり、生活リズムが崩れていくと、脳の状態にもよくないといいます。朝、気持ちよく起きて日光を浴びることで、神経伝達物質「セロトニン」が分泌され、精神的に安定し集中力も高めやすくなります。人は10歳ごろから脳の一番大事な部分である前頭前野が発達しますが、その時期に生活リズムが乱れると脳の発達にも影響があり、「怒りっぽい」とか「きれやすい」という症状を起こすこともあると言われています。夜更かしは子どもの脳には「百害あって一利なし」なのです。

早起きのメリットを親が納得して、子どもに理解させる

親が夜更かしタイプだと、子どもの寝る時間にも甘くなり、「やることもあるし、無理に早く寝させなくてもいいのでは?」と考えがちですが、子どもの脳は大人とは違うことを肝に銘じるほうがよさそうです。寝る前のスマホやゲームも、大人以上に子どもの脳に悪い影響を与えることを知れば、「いくら注意してもやめないから……」とあきらめてはいけないと思うのではないでしょうか。

「ただ、親がいくら‶早く寝なさい〟と命令口調で連発しても、うまくいかないでしょう。効果的なのは早く起きるメリットを親がまず納得して、それを子どもが理解できるまでていねいに説明すること。親の本気を伝えることが大事です。できれば親子でいっしょに朝型の生活にしていくといいですね」

親子で充実した時間「クオリティタイム」を必ず作る

一日一回でもいいから向き合う時間を作る

 もう一つ、中曽根さんが提案するのは「一日のどこかでクオリティタイムを作ること」です。クオリティタイムというのは「大切な人と過ごす充実した時間」という意味がありますが、親子関係においては「親が何かをしながらではなく、子どもと11で向き合って、お互いが充実感を持ちながら過ごす時間」と考えるといいでしょう。

「親も忙しいですが、短時間でいいので一日一回は子どもとしっかり向き合う時間を作ってほしいですね。子どもと好きなドリンクを飲みながらおしゃべりするとか、ベッドタイムなら読み聞かせとか、子どもが喜ぶことならなんでもいいのです。私は娘の中学受験期に、よく足裏マッサージをやってあげましたが喜んでいましたね。いいスキンシップだと思いました」

クオリティタイムのおすすめ「ノートで振り返り」 

親向けの講座でアドバイスをしている中曽根さんが、最近受講生に進めているのは、「ノートで振り返り」をすることだそう。

「親子がそれぞれ今日の良い出来事を3つ思い出してノートに書くのです。お互いの良いところを出し合うのもいいですね。‶あなたが塾から帰ってきたとき、元気にただいまと言ったので、お母さんも疲れが吹き飛びました〟のような些細なことでいいのです。少々照れくさくても、お互いに伝えあうことはうれしく、優しい気持ちになります。クオリティタイムでやるのもおすすめですよ」

 

今回は通塾サポートの大前提でもある「受験の軸づくり」と、親にしかできない「生活面のサポート」についてお話しました。後編では「学習面」「精神面」についてのサポートについて解説します。

お母さん目線のアドバイスに定評がある教育ジャーナリスト・中曽根陽子さんに聞いた、学習面で必要な親のサポートの具体例とは?後編はこちら>>>

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お話を伺ったのは

中曽根陽子さん|教育ジャーナリスト・
マザークエスト代表

小学館を退職後、女性のネットワークを活かした編集企画会社を設立し、数多くの書籍をプロデュース。2013年、「親を人材育成のプロに」というコンセプトのもと、母親自身が新しい時代をデザインする「マザークエスト」立ち上げる。現在は執筆のほかポジティブ心理学や脳科学をベースにした子育て講座、社員・教員向け研修、講演活動も精力的に行っている。著者に『一歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験 最新版』(ともに晶文社)『成功する子はやりたいことを見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)など多数。

取材・文/船木麻里

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