「子どもの権利条約」はポーランドから。何が禁止されていて、何が課題なのか。4つの原則とその背景を紹介

不安定な世界情勢が続く昨今、子どもの未来のために何ができるのか悩む人は多いでしょう。「子どもの権利条約」を知ると、子どもに必要な環境や社会の在り方などを考えるきっかけとなります。この条約が生まれた背景や、4つの原則などを解説します。

子どもの権利条約とは

子どもの権利条約は、子どもの人権に焦点を当てた内容となっています。条約の概要や日本が行っている取り組みを見ていきましょう。

世界中の子どもの人権について定めた条約

子どもの権利条約とは、1989年に国連総会で採択された人権条約です。全ての国の18歳未満の子どもを対象に、大人と同じようにひとりの人間が持つさまざまな権利を認める内容となっています。

この条約が採択されるまでにさまざまな話し合いが行われ、先進国では十分に子どもの権利が守られているとする意見もありました。ただし、たとえ豊かな国に生まれたとしても、子どもが置かれる環境はさまざまです。

国の発展に関係なく、子どもが困難な状況に陥らないようにすることが大切であるため、全ての国の子どもを対象とする方向となりました。

日本が行っている取り組み

日本政府は1994年に子どもの権利条約を批准しました。批准とは、条約に調印した国がいったん自国に持ち帰り検討を重ねた結果、最終的な承認を得ることです。

子どもの権利条約が批准されてから、日本では子どもの権利に関してどのような課題があるか議論されるようになりました。また、一部の自治体では各地域の特性を考慮し、独自の「子どもの権利に関する条例」を制定しています。

例えば、東京都世田谷区では「世田谷区子ども条例」を設け、子どもの人権擁護機関を設置しました。大人と子ども両方に向け、子どもの権利について理解促進を図るための活動もしています。

参考までに、自分の住んでいる地域で、子どもの権利を守るためにどのような施策をしているかを確認してもよいでしょう。

子どもの権利条約が生まれた背景

子どもの権利条約が生まれる前後にどのような動きがあったのかを知ると、子どもの権利に対する考えをより深められます。これまでに、国連で採択されてきた子どもの権利に関する内容を見ていきましょう。

世界大戦後に「世界人権宣言」が採択

中世のヨーロッパには人権という概念が存在していましたが、すぐに世界の人の共通認識として広まっていったわけではありません。1948年に「世界人権宣言」が採択され、世界中の誰もが人権を持っていることが、初めて公式に宣言されました。

その後、「人種差別撤廃条約」「女子差別撤廃条約」も採択され、弱い立場にある人の状況が国際的に注目されるようになり、子どもの権利への関心が高まりを見せます。2度の世界大戦で多くの子どもの命が失われた経験を持つポーランドが、子どもの権利条約を作ることを先導しました。

さまざまな子どもの権利

1948年の「世界人権宣言」以降、国際的に子どもの人権を守るためのさまざまな意見が交わされ、国連で採択されてきました。

1959年 「児童の権利に関する宣言」を採択
1978年 ポーランド政府が「子どもの権利条約」の草案を国連人権委員会に提出
1979年 「国際児童年」として子どもに関する諸問題への取り組みを開始
1989年 国連総会で「子どもの権利条約」を採択
1990年 「子どもの権利条約」が発効、「子どものための世界サミット」が開催
2000年 「武力紛争における子どもの関与に関する選択議定書」「子どもの売買、買春および児童ポルノに関する選択議定書」を採択
2002年 「国連子ども特別総会」が開催、世界150カ国以上から400人以上の子どもが参加
2011年 子どもの人権が侵害された際、救済を求めるための「通報手続きに関する選択議定書」を採択

世界中の子どもの権利を主体とした条約が制定され、条約の内容を補うための文書が作られています。

子どもの権利条約における4つの原則

子どもに与えられるべき権利と聞いても、具体的にどのようなものかピンと来ない人もいるでしょう。子どもの権利について理解するための基本となる、4つの原則について紹介します。

1.命が守られる権利

子どもの権利条約の第6条に、「世界の子どもの命が守られ、成長できる権利を有している」と、掲げられています。

ただ生きられる環境にあるというだけでなく、全ての子どもが健全に成長できるように、最大限の教育や医療、生活への支援が確保されなくてはなりません。

大人に比べて子どもの立場は弱く、貧困や暴力などで健全な生活が脅かされることがあります。子どもが生まれ持った能力を高め、健やかに発達するために、何が求められるのかを考えて行動することが大切です。

2.意見が尊重される権利

子どもの権利条約の第12条に「子ども自身に関係のあることに関して、子どもが自由に意見を発言できる権利がある」と定められています。また、司法や行政などの手続きにおいて、意見を求められる権利も認められなければなりません。

自分の意見をうまく言葉にできない年齢であっても、発言する権利自体はあります。大人は子どもの発達に合わせて十分な考慮をしながら、子どもの意見を尊重することが必要です。

尊重とは、相手の意見や権利そのものを価値があるものとして認めることを意味します。

3.最善を考える権利

子どもの権利条約の第3条に「公的・私的の両面で、子どもにとって最善の利益を考慮すること」と定められています。子どもは日々成長して、時間の経過とともに社会の状況なども変わっていくものです。何が最善なのかを決めるのは、簡単なことではないでしょう。

具体的に、どのような基準で最善だと判断すればよいかの規定は設けられていません。誤った行動を取らないためには、子どもの意見をしっかりと受け止め、判断していくことが重要です。

4.差別されない権利

子どもの権利条約の第2条に「差別されない権利」が定められています。命が守られる権利・意見が尊重される権利・最善を考える権利の全ては、差別なく保証されなくてはなりません。

人は肌の色や言語の違い、宗教的・政治的意見の相違、国民性など、さまざまな理由で差別を受けることがあります。子どもが差別によって必要な保護が受けられないということがないように、条約締約国は適切な措置を取ることが必要です。

日本における子どもの権利条約の課題

日本で子どもの権利条約が批准されてから30年以上の時間が経過し、大きな課題が浮き彫りになっています。子どもの権利に対し、日本ではどのような課題が挙げられているのか見ていきましょう。

法整備が遅れている日本

日本では子どもの権利への反発が強く、理解が遅れているとされます。国際的に子どもの支援活動をする団体「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が2019年に行ったアンケート調査によると、「子どもの権利条約について聞いたことがない」と答えた大人の割合が約40%でした。

子どもの権利を知っていても、子どもの権利を過剰に振りかざした一部の大人が、家庭教育を妨げるのではないかとの懸念を持つ人や、教育現場での扱い方などを問題視する人もいます。

子どもの権利条約の精神に則った「こども基本法」の施行が2023年である点を見ても、日本の法整備の遅れが分かるでしょう。

国連が日本の多くの課題を指摘

2017年に日本政府が提出した報告書に対し、国連の子ども権利委員会から多くの課題が指摘されました。中でも、以下の項目は早急に対応しなければならない課題として挙げられています。

●差別の禁止
●子どもの意見の尊重
●体罰
●家庭環境を奪われた児童
●リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)および精神保健
●少年司法

これらの中には、初回から勧告を受けていたにもかかわらず、改善していない課題も含まれています。

課題によってどのような対策をすればよいかは異なりますが、子ども・大人にかかわらず人権教育を徹底することや、個人の意識の改革などが求められるでしょう。

子どもの権利条約への理解を深めよう

子どもの権利条約の4つの原則は、子どもを取り巻く環境を整える上で役立つ考え方です。子どもとの接し方や教育などについて、何が最善かを考えるために役立てましょう。

日本では子どもの権利についての法整備が遅れ、早急に対応しなければならない課題も多いと言えます。大人と子ども双方が子どもの権利について理解を深め、どのように行動すべきかを考えることが大切です。

子どもの未来をより豊かなものにするために、守られなければならない権利について家庭でも話し合ってみるとよいでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

出典:子どもの権利条約 (児童の権利に関する条約) 全文(政府訳) | 日本ユニセフ協会
世田谷区子ども条例 | 世田谷区ホームページ
3万人アンケートから見る子どもの権利に関する意識|セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
こども基本法|こども家庭庁
国連から見た日本の子どもの権利状況|日本弁護士連合会子どもの権利委員会

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