児童精神科の看護師【こど看さん】に訊く、子どもの心の守り方。お=おびやかさない、す=すぐに助言しない…9つのポイント「おすしさいこうかよ」とは?

『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』の著者である精神科認定看護師の「こど看」さん。6歳〜18歳の子どもたちの心をケアする児童精神科病棟に勤務し、入院する子どもたちと誰よりも長く接しています。一児の父でもあるこど看さんにインタビューし、子どもの心を守るために親ができること、接し方のポイントなどを伺いました。

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X(Twitter)やYouTubeを通して子どもとの関わり方について発信をしている「こど看」さん。2023年11月発刊の著書『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』では、精神科認定看護師として、心の傷や行動の問題を抱えた子どもたちと関わる中で実践している方法を紹介しています。

子どもの心の健康を守り、安心して毎日を過ごすために親ができることとは、どんなことなのでしょうか。

子どもに自信を持たせるなら、「自信を失わせない」関わりを

バツ印でカッとなってしまう子どもも

――最近は子育てにおいて「自己肯定感を高める」ということが重要視されていますね。子どもの自己肯定感を高めるために、親は子どもにどのように関わっていくのがよいのでしょうか。

こど看さん:本にも書いていますが、子どもに「自信を持たせよう」というアグレッシブな関わり方より、「自信を失わせないようにする」というやわらかな関わりの方が、結果として子どもの自信につながると考えています。最近は小学生でもスマホを当たり前のように持つようになり、情報があふれている中で、子どもたちの理想像が高くなっているように感じます。インフルエンサーのようなきらびやかな人を見ていると「自分なんて・・・」と比較してしまうんでしょうね。だから、大人から「君ならできる!」とか「自信を持って」と励まされても、素直に受け取れないんだと思います。

また、自己肯定感が高くなりすぎて、ちょっとしたミスをしたときに、そんな自分が認められずにイライラしたり、情動的な行動に出てしまう子もいます。失敗したときに、「自分はそれでも大丈夫」と思えないんですよね。そういう子は、学校でもテストやドリルの間違った箇所にバツ印を書かれると爆発してしまうこともあったりします。

そんなとき、大人はつい子ども怒らせないように(例えばバツ印をつけるのをやめるなど)しがちなのですが、それよりも子どもの激しい気持ちを「わかった、わかった」と共感しつつおさめながら、その子自身が自分の失敗や嫌な部分に向き合う機会を作ることが大切かなと。高い目標があっても、それを子ども自身で下方修正しながら積み重ねていくという経験が成長につながるのだと思います。

親が外側から「君はこうだから」「君はここがすごいから」と言うのは、本当にエッセンス的に、ポイントで伝えるくらいで充分です。

子どもに積極的に休憩を促して、「頑張りすぎない」経験をさせることも大切

子どもに休憩を促すときはぜひママパパも一緒に休憩を

――本の中に、「子どもに休憩を提案することも大切」と書かれていました。どんなふうに声をかけるのがよいでしょうか。

こど看さん:大人は経験的に、「今疲れてるわ〜」「これ以上やったらまずいかも」というのがわかりますが、子どもは「自分はどのくらい疲れているのか」「いつ、どうやって休むのか」をあまり理解していません。ですから、大人から休憩を促していくのはすごく大事かなと思います。

ただ、頑張り過ぎている子に「頑張らなくていいよ」とだけ伝えると、「今までの頑張りを認めてもらえなかった」「自分は頑張りたいのに、勝手に判断しないで」と感じさせることもあります。そのため現場では「○○さんはかなり頑張っているし、少し休んでもいいんじゃない? って思っているんだけど…正直休んでもいいと思えてる?」のように伝えています。「今すぐ休みなさい」と指示するのではなく、休憩を何回か提案していく、という感じですね。

休憩の仕方としては、親子でごろごろしたり、おやつを食べたりするのがおすすめです。一人で熱中しすぎるゲームは頭がなかなか休まらないので、一緒に遊べるゲームがいいと思います。大人が一緒に休むことで、子どもも「休んでいいんだ」と経験的に理解することができます。

大人の不機嫌が、子どもをいい子にさせてしまっている

――本の帯に書かれている「大人の不機嫌は子どもを無理やり”いい子”にさせる!?」という言葉を見たときはドキッとしました。

こど看さん:子どもは大人の不機嫌を見ると不安や恐怖を感じ、「大人を怒らせないようにしよう」と一生懸命頑張るので、周りからはいい子に見えるのです。ですから、私は子どもが「いい子にしてるな」と思った時に、自分の不機嫌を子どもに向けていないかな?と自問しています。

ただ、このことを言うと、ドキッとする大人も多いと思います。これは決して「大人は不機嫌になってはいけない」というメッセージではないんです。ただ、「ちょっと言い過ぎちゃったかも」「子どもに気を遣わせちゃったかも」と思ったら、そのままその子に伝えればいいと思います。「いや、さっきなんかイライラしちゃってて、 本当はそんなこと思ってないのに、ちょっと言っちゃったんだ」と素直に伝えて、誠実に謝ることができれば、子どもは「自分が大切にされている」と感じるはずです。

さらに、「もし今度イライラしたら、ママ(パパ)はちょっと別の部屋にこもるね」のように改善策を子どもに示して、実際にイライラしそうになったらそれを実行する、などもおすすめ。自分の気持ちが落ち着いたら子どものところに戻って「もう大丈夫、待っててくれてありがとう」と伝えたらいいですね。

口先だけで謝るだけではなく、実際に行動するという大人の姿を見せられると、子どもも安心できると思いますよ。

「おすしさいこうかよ」を意識して、子どもの心を守ろう

子どもと関わるときに意識したい9つのポイント

お・・・おびやかさない

す・・・すぐに助言しない

し・・・叱責しない

さ・・・最後まで話を聞く

い・・・意向を軽視しない

こ・・・子どもが使う言葉を使う

う・・・疑わずにいったん信じる

か・・・感情を否定しない

よ・・・余計なひとことを言わない

――本でも書かれていた、こど看さんが子どもと関わる時に意識している9つのポイント「おすしさいこうかよ」もぜひHugKum読者に紹介したいです。また、子育て中の読者へのメッセージをお願いします。

こど看さん:子どもと関わる時の意識をまとめようと思ったときに、まず最初に思い浮かんだのが「おびやかさない」でした。親が言う「おやつなしだよ!」「○○するなら遊びに連れて行かないよ」という言葉は、子どもからすれば立派な脅し文句なんですよね。「みんながやっているんだから」と、子どもが苦手としていることを強要するのも、子どもをおびやかす行動の一つです。私たち大人の言動によって、子どもの居場所を簡単に危険な状態にしてしまう事実を忘れてはいけないと思っています。それが、この本の『子どもの傷つきやすいこころの守りかた』というタイトルにもつながっているんです。

「〇〇なしだよ!」など、つい脅し文句を使ってしまいがち。「おびやかさない」を心に留めたい

また、子どもの話を遮らずに最後まで聞くというのもとても大切だと思っています。子どもって突拍子もないことを言ったりしますよね。でも、そういうときに子どもを否定するのではなく、「あなたはそう考えてるんだね」という感じで話を聞いてあげてほしいです。親に話を聞いてもらえたという経験はポジティブにその子の中に残るので、じゃあ自分も他人の話をちゃんと聞いてみようという視点が生まれると思います。

ただ、これらの9つのポイントや、私が本に書いた内容を完璧にしようとする必要はありません。本を読むとつい「1個もできてない」「自分はダメな親だ」とか、そういう視点になりがちなんです。でも、そんな方だって、客観的に私たち支援者から見ると、できていることがたくさんあるし、優しいお母さん、優しいお父さんなんですよね。ですから、自分ができそうな時に、「そんな言葉もあったな」と思い出してみてください。うまくいかないことがあっても自分を責めないでくださいね。

そして、もし子どもの様子を見ていて、家族の中で抱えるのが難しいという状況になった場合は、ぜひ早めに精神科のクリニックを受診してください。「精神科」と名前がつくところを受診するのは心理的なハードルが高いかもしれませんが、子どものためにも、家族のためにも、早めに医療や福祉につながることをおすすめします。

――力づけられます。本日はありがとうございました!

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こど看|精神科認定看護師
精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務しながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。その他講演会やメディア取材なども通し、小~高校生への関わり・対応についてのヒントを、 現役子どもの精神科病棟勤務医ならではの視点で、分かりやすく、ゆるく解説中。
X(Twitter) @kodokanchildpsy
YouTube @kodokanchildpsy

取材・文/平丸真梨子

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