「苦手な科目の克服方法」「普段とは違った課題への取り組み方」はどうしたらよい?
夏休みに小学校で出される膨大で多岐にわたる宿題の数々。「いかに我が子に自主的に取り組ませるか」は、多くの親御さんが頭を抱える毎年の悩み事ではないでしょうか? それは発達障害児のいるご家庭でも同じことです。
そこで今回も、家庭内でできる工夫や環境設定に関するお話しを、ご自身も発達特性のある娘さんを育てる児童精神科医のさわ先生に伺っていきます。
質問1: 苦手な教科の宿題には、いつまで経っても手を付けようとしません。苦手な科目を克服させるコツがあったら教えてください。
ここがPOINT! 発達障害児の学習方法は人それぞれ。無理に苦手に挑むのではなく、その子の特性に合ったスキルを身に付けさせることが重要です。
さわ先生:苦手な分野に関しては、無理してやらせる必要はないと私は考えています。本人がやる気になる代替案を親が提案してあげたり、場合によっては手助けしてあげたりすればいいんですよ。
発達に特性のあるお子さんに定型発達のお子さんと同じ学習方法を用いても、同様の成果を期待できないこともあります。たとえばLD(学習障害)の傾向があり、書字が苦手なお子さんが、漢字ドリルのような小さな枠のなかに何十回も反復練習をする課題に取り組んでも、漢字を覚えることができないこともあります。
発達障害児にベストな学習方法は人によってさまざま。先ほどの例でいうと、反復では覚えられなくても、漢字ドリルを 2 倍 、3 倍に拡大コピーをして丁寧に1度だけ書くことで、字の形を認識し、インプットできるタイプの子もいるのです。また、時間に余裕のある夏休み中に、書字に代わるパソコンのタイピングを練習したり、音声入力のスキルを身につけるのもいいかもしれません。
勉強の方法は1つではありません。学校は多数派のお子さんに合わせたスキルを教えてくれる場なのです。夏休みなどを利用して、ぜひ親御さんが我が子の特性にあったスキルを見つけてあげて欲しいなと思います。
質問2:夏休み序盤の1日に、まずはドリルをすべて終わらせてしまう我が子。親としては毎日、少しずつ積み重ねるべきだと思ってしまうのですが、そんなやり方でも大丈夫なのでしょうか?
ここがPOINT! 本人が集中して宿題に取り組んでいる時は、黙って見守ってあげてください。好きなドリルを追加で買ってあげるのもおすすめです。
さわ先生:1日でドリルをやり切ってしまうなんてすごい! 黙々とドリルを解くのが好き、あるいは得意な教科のドリルなのでしょうか? いいじゃないですか、大賛成です。
発達障害児によくみられる特性のひとつとして、「好きなことにはぐっと集中できる」という長所があります。得意なことや好きなことにはとことん取り組み、伸ばしてあげたらいいと思います。本人がノリノリで宿題に取り組んでいる時には、親は黙って見守り、終わったら「すごいね」「できたね」と褒めてあげてください。
序盤の1日で終えてしまったことで残りの夏休み中、手持ち無沙汰になるようであれば、好きなドリルを買って追加でやらせてあげてもいいかもしれませんね。自ら進んで難易度の高い課題にチャレンジするようになったら、どんどん応援してあげましょう。
言うことを聞かない我が子にストレスをためながら、「勉強はコツコツやってこそ」などといった親御さん自身の価値観に縛られるのではなく、ぜひ我が子の「好き」や「得意」に目を向け、伸ばしてあげてくださいね。
質問3:夏休みの宿題は、親が誘導してでもなるべく前半に終わらせてしまったほうがよいのでしょうか? それとも、本人のやる気を待って後半に残ってしまっても大丈夫ですか?
ここがPOINT! 性格や特性によって好みの進め方が違うので、子どの意見を聞きながら、親子で計画を立てるのがポイントです。
さわ先生:夏休み最後の日まで毎日コツコツとやりたいタイプなのか、短期集中タイプなのか、お子さんの性格や発達の特性によって好みの進め方は違ってきます。宿題の計画を立てる際には、お子さんの意見を尊重しながら、親御さんがサポートしてあげることがポイントです。
ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ子などは、我慢をすることや先を見通すことが苦手なので、宿題を後回しにしがち。ですから、親御さんが「先に終わらせちゃいなさい」と言いたくなる気持ちもよくわかります。ただ、親が一方的に決めたことをお子さんに守らせるのではなく、子どもの意見も聞いた上で、一緒に予定をたてるのが大切なのです。夏休みの序盤に親子ですべての宿題にさっと目を通して、「どれをいつ頃にやる」という作戦を、ぜひお子さんと一緒に考えてみてください。
その上で、「宿題を早く終わらせたら、残りの夏休みは遊ぶだけで楽しく過ごせるね」「最初の1週間は好きなことをして、翌週は宿題をがんばる期間にしてみたら?」など、計画を立てる際には親御さんがサポートしてあげるのがよいと思います。
質問4:小学生の二女は読書感想文や自由研究など、普段とは違った課題が苦手です。これらの宿題に取り組ませるよい方法があったら教えてください。
ここがPOINT! 特性に合った方法で無理なくこなせる「知恵や工夫」を親御さんが授けてあげたり、やらないことを学校に認めてもらうのもひとつの選択肢です。
さわ先生:ASD(自閉スペクトラム症)傾向のあるお子さんのなかには、「想像して、ゼロから1を作り出す」といった抽象的な課題が苦手なお子さんが少なくありません。そういったタイプのお子さんには、読書感想文や自由研究が苦痛に感じるかもしれませんね。何度も繰り返しになりますが、私は「苦手なことを無理してやる必要はない」と思っているので、場合によっては学校の先生に相談をして、やらない選択を認めてもらうのもひとつです。
ただ、「自分だけ夏休み明けに自由研究が展示されない」「読書感想文を発表できない」など、他のお子さんとの違いを本人が嫌がることもあるかもしれないので、その場合は、他のお子さんと同じ方法ではなくてもいいのかもしれません。
本を読むのが苦手なお子さんには、オーディオブックを聞いて読書感想文に取り組んでみてはどうでしょう? 好きな図鑑を見て、感想文を書くことをすすめてあげるのもよいかもしれません。
自由研究も「そのために特別な何かをやる」となると困ってしまうお子さんには、夏休み中にやったお手伝いや習い事を自由研究として提出してみては? 調べものだって、今はパソコンやスマートフォンでいくらでもできる時代です。「自分の特性に合った方法で、無理なくこなす知恵」を一緒に考え、それでも苦手な部分は親がフォローしてあげる。それが悪いことだとは私は思わないのです。
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取材・文/小嶋 美樹