子どもは社会に迷惑をかけてはいけない?そんな社会は息苦しい。いろんな子が、群れで育つ世の中に。柴田愛子さん×浅川素子さん【インクルーシブ子育て対談・後編】

「子どもの心に添う」を基本姿勢とした自主幼稚園「りんごの木」を運営している保育者の柴田愛子さん。自閉症の息子たちの日々を描いたドキュメンタリー映画「そらくんとたからくん」の続編が自主上映巡回中の、障害のある子たちの余暇サークル「リズムの会」代表の浅川さん。子どもの中でこそ子どもは育つことを実感する、目からウロコのインクルーシブ子育て対談の後編です。

二人の息子さん(現在、そらくん=19歳(左)・たからくん=16歳)が重度の知的障害と自閉症を併せ持って生まれてきた浅川素子さん。長男の通う幼稚園で悩んだことを打ち明けて以来、子育てに行き詰まると「りんごの木」の柴田愛子さんに元気をもらってきたといいます。子どもは群れで育つし、子育ては迷惑をかけるものという愛子さん。「りんごの木」は障害のある子どもたちを、誰ひとり断ることなく受け入れてきました。『一緒に育てば大丈夫』がテーマの対談の後半です。

息子たちには自分の思いを大切にして生きていってほしい~浅川さん

浅川さん-よく自己肯定感が大切っていう話があるじゃないですか。私、自己肯定感がとても低いんです。息子たちを見ていて、この子たちはこの子たちの思いがあるから、自分で選択して生きていってほしいと思えているのは、私が選んであげた道でこの子たちを幸せにさせる自信がなかったからです。

子育て中は日々お手上げ状態になることも多くて、疲れてすぐ寝ちゃうんですよ。子どもが元気に遊んでる横でソファーですぐ寝ちゃう。でもその間にもう床中が赤いマジックで絵が描かれていたこともあって(笑)「なんて素敵な星なのでしょう!」みたいな作品が出来上がっていて、私がしない発想をするところが面白かった。夫が帰ってくる前に消さないと大変なことになるので、いろんな洗剤で消すのを息子たちと一緒に楽しみました(笑)

愛子さん-「りんごの木」でね、3歳ぐらいになると油粘土を投げて壁にぶつけると落ちてこないのを発見するのよ。バンって投げると張りつくのね。それが流行った時に保育者も、天井に油粘土をバンって投げたのね。そうしたら、張りつくのよ天井にも。

それを見ていた、知り合いの園長がね「これってアリなんですか」って聞いてきたわけ。多分これ、一般的には「なし」だと思います。でもちょっとやってみたらどうですかって粘土を渡したらね、そういう人も夢中になるわけよ。

子どもがやってることを何やってんのかわかんないんだけど、とりあえずやってみるって大事よね。私たちって、いきなり大人になった人じゃないから、子どものときに喜んだ感性みたいなもの、遊び心が蘇ってくると思うのね。そこから面白いと思うと子どもに寛容になれる気がするのよ。だけど、そこをやっぱり「大人としての価値観」が崩せないと、しょうもないわからんちんにしか見えないよね。うん。だから浅川さんの中にそういう崩れない感性があったんでしょうね。

今日、この子がここにいてくれた。それだけで満足~浅川さん

家で特大のスライムを作ってご機嫌の天良くん(13才) 202010月撮影

浅川さん-たからが、学校でスライムをやって、ずっと手で触ってるのが面白かったところからハマって、家でも作りたいって言って材料を買ってきたんです。

家だと、材料を使いたい放題じゃないですか。学校は一人の分量が決まっているけど、家では洗面器いっぱいに作る。そこからどんどん大きなスライムを作るようになっていって。そんな感じでだんだん広がってって、それをやってるときの子どもの顔が、真剣で本当にいい顔なんですよね。もうそこに全集中っていうか。そうなると、彼の世界をスルーするわけにはいかないっていうオーラを感じたんです。

そらは、ぐうたらしたり、のんびりしたりするのが大好き。特技って言われることはないかもしれないけど、彼の存在感も私は好きです。

何があっても命を取られるわけじゃないんだから

この対照的な2人がいたから、面白いと思えるんだと思う。私、愛子さんの「何があっても命が取られるわけじゃないんだから」っていうのが好きなんですけど、もう本当に生きててくれさえすればっていうところが、私の子育ての中にはあるんです。

人と比べてできないことがあるとか、そういうことで落ち込むことはなく、今日この子がここにいてくれたっていうことだけで満足なんですよね。

人に迷惑をかけないようにするという社会は息苦しい~愛子さん

愛子さん-社会の常識はどんどん変わっていく。「正しさ」を求められて、○か×かの世界になっています。「トゲトゲ言葉」と「ふわふわ言葉」って知ってる? 「あんたなんて大嫌い」はトゲトゲ言葉なのね。お互いに傷つけないで、仲良くしようね。大好きは○で、ふわふわ言葉。そのトゲトゲ言葉とふわふわ言葉が一覧表になっている小学校と保育園があるそうです。

そんな風に、どんどん人に不快感を与えないように、人に迷惑をかけないようにっていう風になってきてるような気がする。そんな時代の流れの中にある息苦しさも感じます。

区役所はいろんな人が来るからと咎められて。この子だって、いろんな人の一人ですよって言いたかった~浅川さん

浅川さん-たからと一緒に区役所に行った時に、ちょっと機嫌が悪くなっちゃったんです。彼は、機嫌が悪くなると感情コントロールできなくなって大きな声を出しちゃう。そこから、急に走り出したりして、その中でちょっと暴れちゃったんですよね。そしたら、何事だって大騒動になり区役所の人に「ここは公共の場でいろんな人が来るから、こういうのは困る」と言われてしまって。

うちの子も「いろんな人」なんですけど!と思いました。さらに「たからを落ち着けろ」とも言われて、「いやいや公共の場なんだからこういう人もますよっていうことを、区役所側も受け止めてくれないことには、この人たちいつまでたっても街を堂々と歩けませんよ」って言いたかったけど言えなかったんです。

愛子さん-子育て支援、少子化対策で税金を使うのはいいにしても「私に迷惑をかけないでね」という感じが伝わってくる。 我が身になっていないのね。

浅川さん-「一緒にいるのが当たり前」なら騒いじゃう人がいたっていいじゃないって思うんですけどね。声を出しているこの子も、今困ってる状況なんですよって説明をするのは全然構わないんですけど、「その子自身を何とかしろ」って言われたところで私にも何ともできないし……。

だんだんと大きくなって、今では身長も170㎝になって、声も太くなってきて。すごく目立ちますしね。なるべく、気持ちが落ち着くようにとは思ってはいますけど、でもやっぱりそこのところで、何ていうのか、気持ちを押し込めることはしたくないっていうか、感情ってやっぱりすごく大事だと思うんですよね。

喜びと楽しさだけで人間は生きていけないし、やっぱり悲しみがあったり、怒りがあったり、落ち込んだり、そういう感情もすごく大事にしないと、なんか人間ってね、生きてるのがつらくなっちゃうだろうなって思うんです。だから、それを表現できる、たからって意外とすごいね、素直に表現ってなかなかできないもんね、と思います。私たちの代わりに表現してくれてると思うと大したもんだって思うんですけどね。

自分の言うことに耳を傾けてくれる大人との出会いで変わったショウゴくん

愛子さん-昔、ショウゴくんっていう子がいたのね。3歳からりんごに来ていて、やっちゃいけないことばっかりやるのね。物置とか高いところにどんどん上がってっちゃったり、あらあらっていうようなことをするの。

5歳児の子どもの集団っていうのは、ちょっと変わったことをやる子は人気者になるのよ。その子がする遊びが流行ったりもするわけね。それでね、誰が面白いとか誰が好きっていう話をしたときに、圧倒的にショウゴくんが人気だったわけ。それで、「面白いもんねって」何気なく言ったらね、ユウキくんがね「そういうことじゃないよ」っていうの。

「僕が高い所に登ってみたいなって思ったとするでしょ。でもねどうしようかどうしようかってずっと考えてんだよ。そこでショウゴが、バババって登るんだよ。そうするとね。自分もやれるって思うんだ」って。「それって、ショウゴに勇気をもらうってこと?」って聞いたら、「そうなんだよ」って。それでね、遠足に行くときも他の子がショウゴがあちこちに行っちゃうから手を繋ぐのよ。そしたらね、その子が「(ショウゴを)大切にしたいから手を繋ぐ」って言うのよ。いいわよね〜。

そしたら去年お母さんから「今日は嬉しい話をしに行きたいです」って連絡が来たの。ショウゴが描いた絵がね駅に展示されたんですって、その絵が載った本を見せてくれたの。あるきっかけで、アートの教室に通うことになって「あなたはどんな絵が描きたいの?」「何色が好きなの?」って耳を傾けてくれる大人と出会って、ショウゴくんはその人が大好きになったわけ。それでね、描く絵が黒っぽかったのが、カラフルになったのよ。こんな風に、1人の人を、人が変えられるのよね。

子ども同士の関係性の中で育つことで、いろんなことが生まれる~浅川さん

浅川さん-本当にそう思います。やっぱり障害のある子だと、「対大人」とか、「対支援者」っていう形で関わりがどうしても増えてしまうんですよね。

たからは、最初は養護学校に入学して、5年生の時に地域小学校に行きたいって言って支援級のある学校に転校したんです。そうしたら、学校に行きづらくなってた子たちが、「たからが学校に来るから俺も学校行かなきゃ」って、学校来るようになったそうなのです。「たからを助けてやらなきゃいけないから」という理由で。体操服着替えるのも手伝ってもらって、王様のように扱われて(笑)。

たからは、先生には「それやっちゃ駄目」とか言われてもやめないのに、その子たちに言われると、「はい」って言うことを聞くんです。そんな関係性の中でいろんなことができるようになっていったんです。大人だとどうしても上から目線になっちゃったりとかする場合が多いけど、子ども同士の中でだと、すごくいろんなことが生まれるなっていうのを感じます。

大事にされて育った子は、人を信じられる子に育つ

浅川素子さんの二人の息子さん。蒼良(そら)くん14才(右)、天良(たから)くん11才 2019年5月ごろ撮影

愛子さん-やっぱり大事にされて育った子の人相って違うよね。障害があってもなくても「人を信じられる」っていうことを、身体が受け止めている子っていうのはすごく安心できる気がするの。だからそれがあるから、「たからくんがいるなら行かなくちゃ」っていう発想が出てきたのだと思います。たからくんだから友達が来たのよ。何かしてあげたくなっちゃう空気を出しているのよ。

体育大会の大縄跳び。「たからを飛ばせてあげたかった」と泣いたクラスメイトたち

浅川さん-6年生の時のことなんですけど、普通級で市の体育大会に大縄跳びで出ることになったんです。支援級のたからも、通常級の方に参加してみんなと大繩飛び100回を目標に飛ぼうっていうのが目標でした。

でも結局最後まで、たからは1回も跳べなかったんです。1回も跳べない中で、クラスの目標は達成できたんです。達成はできたんだけど、同級生たちが「俺たちはたからを飛ばせてあげたかった」って言って泣いてくれたんですよね。

そういうことを思うと、「障害」が「ある子」と「ない子」とかっていうふうに分けるんじゃなくて「一緒に育つ」っていうことの意味を考えてしまいますよね。

でも、今、そんなたからが2本の縄でやるダブルダッチを始めたんですよ。先生が、どんな飛べない子も上手に飛ばせてくれる先生で。そらもたからもやっています。色々な人の中で育つと、おもしろそうだとか、やってみたいとか、いろんなことで触発されますよね。

授業がわからない普通学級。でも、みんなの中に行きたいたからくん

愛子さん-でも一方では、授業がわからないで1時間も座ってるのは、残酷だと思いませんか?と言われることもあるのよね。

浅川さん-私も負担が大きいなとは思ってたんですよね。やっぱり楽しくないところに行かせるのはかわいそうかなっていう思いもあった。でもたからを見ていると「みんなの中に行きたい」っていう思いがすごい強かったんです。

つまらない中にいてもね、何かしら見つけようとしてるっていうか。だから、授業で何を達成するかっていうところは難しいかもしれないけれど、この空間の中にて自分に必要なものを選び取る力はたからにはあると思ってるので、何か「いればいいじゃん」「いたくなかったら出ていけばいいし」っていう、そんな感じになったから、かわいそうとは、もう最近思わなくなりました。

困ってる子を助けてあげたいとか、何とかしてあげたいっていうのが大人側の善意ではあると思うんですけど、その「善意」がややこしくしてるのかなと思います。

子どもが大人の事情で動かなくちゃいけない。これこそが迷惑なこと〜愛子さん

愛子さん-支援級がどんどん多くなってますよね。この間伺った学校も、支援級が8クラスもあって、全部「支援級」にしちゃえばいいんじゃないのかしらと思いました。何かやっぱり迷惑をかけちゃいけないっていうのがすごく根底に流れてて「迷惑=犯罪レベル」に最近はなってるのかなっていうのはすごく思いますよね。

浅川さん-迷惑の度合いも人によって違うのに、特に過敏な人に合わせて基準を作っちゃってるからどんどんどんどん厳しくなって来ますよね。迷惑をかけても「助けて」って言ってもいい良い社会が一番だなあと思うんですけど。

愛子さん-この間ね、あるお母さんに迷惑をかけないと子どもなんて育てられないという話をしたのよね。だって子ども自体が迷惑なものなんだからさ(笑)。でも「子どもってのはそんなもんさ」とかさ、「子どもだから仕方がない」っていう言葉があったじゃないですか。

それが今、子どもでも、大人の事情に合わせて動かなくちゃいけないみたいな、それが「迷惑」よねって話をしました。そうしたら、そのお母さん、「私、そんな考え方初めて知りました。自分が育ったときも迷惑をかけていけない、人に頼ってはいけない」と親に言われ続けてきたから」って。

それで、その後、2人目を出産するので実家に帰ったときに、お母さんに「頼らないでくれる」って言われたんだって。それで朝ご飯作ってくれなかったんだって。それから、親を頼らない、絶縁したいくらいなんだって言っていたの。だから、「絶縁すればいいんじゃない、親だってそのうち歳とるからさ」って言ったら、「今まで、頼らず頑張ってきた。だから私も子どもに迷惑をかけてはいけないって言い続けてきた。これは違ったんでしょうか?」って泣き出しちゃったの。

「そうは言ったって、子どもなんだから迷惑はかけちゃうでしょう。幼稚園で迷惑かけてるんじゃないの」って言ったらね、なんて返ってきたと思う?「あそこはお金を払ってるからいいんです」って言ったの。お金を払ってるとこは迷惑かけていいのよね。つまり迷惑料ね(笑)「お金を払ってるから、代償はもらえます。だけどそうじゃない所には頼れない」そんな人が増えているのかもしれないですね。

1年浪人して、たからくんは高校生になった

2024年4月、高校生になった、たからくん

浅川さん-たからは、特別支援学校じゃなくて、同級生たちが行く高校に行きたいって言って、去年、高校受験をしました。残念ながら不合格だったので、浪人をして再受験して、もう1回落ちたんです。でも、2次募集で受けた高校に無事合格して4月からは高校生になりました。

入学説明会の時、体育館で椅子に座ってみんなと同じように話を聞いてる、たからの後ろ姿を見てた先生たちが「絶対卒業させような」って言ってくれていたという話を後から聞いて本当に嬉しかったです。たからは、改革する人なので、多分周りを巻き込みながらいろんなことを変えてってくれて、いろんな影響力を発揮するんじゃないかなと思ってます。

愛子さんー子どもなりに必然があって、期も熟して、発達も熟して、自ら変わっていくのよね。やっぱり子どもは子どもの群れで育つ。いろんな子がいなくちゃいけないなって思います。

対談の前編はこちら

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ドキュメンタリー映画「そらくんとたからくん 2~卒業編」が昨年完成。自主上映の巡回を続けています

特別支援学校高等部3年生のそらくん、公立中学校支援級3年のたからくん(2023年)。自閉症の兄弟2人の卒業に向けた日々が描かれた記録映画が昨年完成しました。

上映情報はこちらから↓↓↓

にじメディアのHP(https://nijimedia.net/)

Facebook(https://www.facebook.com/nijimedia)

柴田愛子さん|保育者。「りんごの木」代表
保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。「りんごの木」で、子供の気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて42年目を迎えた。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。
浅川素子さん|「リズムの会」代表
そらくんとたからくんの母。障害のある子たちの余暇サークル「リズムの会」代表。「ともに学びともに育つ」学校や社会について地域の中で学び合うための学習会『鶴見で一緒に学んじゃおう!「ともに学ぶ教室」のこと』を主催

取材・構成/齋藤美和(しぜんの国保育園) 写真/五十嵐美弥(愛子さん、浅川さん) そらくんとたからくんの写真提供/浅川素子さん

*3月30日に神奈川県・横浜市の馬場ケアプラザで行われたイベント「一緒に育てば大丈夫」での対談を元に構成

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