投資のリスクをコントロールするために…
投資のリスクはゼロにはできないけれど、コントロールして最小限に抑えることはできる──そのための方法として、前回は、下ブレを抑える分散投資で「できるだけ負けない工夫をする」ことと、積立投資で「途中で投げ出さない仕組みを作る」ことが大切であるとご説明しました。
しかし、その2つの方法だけではまだ十分ではありません。
▼前回の記事はこちら
その3「不安から逃げ出さずに時間を味方にする」
前回お話した分散投資と積立投資には、実はセットで行わなければならない条件があります。それが長期投資です。「分散と長期はセット条件」──これを常に忘れないでください。
基本的に企業は今日や明日で大変身はしません。しかし中長期的には成長する方向に進み、株価も連動して上がっていく傾向にあります。債券も期間が長いほど、利子が積み上がってリターンは大きくなります。
そもそも積立投資は一括投資と違い、金額を分割して購入するので、ある程度、長期で続けなければ量を積み重ねられません。1年くらいで少し利益が出たからといって、やめてしまうのはもったいない気がします。
連載の第1回でお伝えした通り、複利の効果が出始めるのは5年目くらいから。差が開き始めるのは10年目くらいから。
大きな経済サイクルが動くのは10年程度が節目になることが多いですから、少なくとも10年、できれば20~30年かけて資産を増やしていくのが理想です。
分散投資で下ブレを抑えつつ、長期投資で「不安から逃げ出さずに時間を味方にする」ことができれば、複利の効果が発揮されて増加スピードがしっかり上がっていきます。
分散と長期のセット条件を手軽に実現できるのが、実はNISAやiDeCoです。特にiDeCoは原則60歳まで引き出せないので、感情を排除して長期で持ちやすい仕組みです。
マーケットに居続けることが大事
ここでマーケットに居続けることがいかに重要かを少し付け加えておきたいと思います。ちょっと驚きのグラフを見てください。
上のグラフは過去10年間(120カ月)の日経平均株価の推移です。①~⑤の赤の縦線は、1カ月の上昇率トップ5のタイミングを示しています。これを見てわかるとおり、株価の大幅上昇は、株式市場が急落した直後のタイミングで発生しがちです。
したがって、もし急落の場面で慌てて売却してしまうと、大幅な反発や戻りを取れない可能性が高く、その後に投資を再開してもリターンが大きく減ることになってしまいます。
たとえば①の場面、10年前の2014年8月に100万円分投資した人が、2015年9月末に急落した17,388円で焦って売却し、それ以上は下がらないのを見て、翌10月末に19,083円で買い直したとします。感情的にはよくありそうな投資行動です。
同様に②~⑤でも、急落ですぐ投資を止めたり、少し上がってきたところで慌てて利益確定をしたりして、「大幅上昇の月」を逃してしまったとすると…?
マーケットに居続ければ10年(120カ月)で100万円は約251万円まで増えたのに、120カ月のうちたった5カ月マーケットにいなかっただけで、同じ100万円が約156万円…。ここまで大きな差が出てしまうのです。
マーケットに居続けることがいかに大事か、おわかりいただけるのではないでしょうか。
その4「もっと先の成長を信じぬく」
分散投資、積立投資、長期投資は、世界の富裕層や大きなお金を動かす機関投資家と呼ばれるプロたちが長きにわたって実践してきた最もスタンダードな投資方法です。
どれも魔法ではありませんから、リスクがゼロになるわけではありません。ただ、不確実な世の中で一定のリターンを得ようと思ったら、一定のリスクはとらなくてはならず、そのリスクをコントロールするための有効な手段であることは間違いありません。
長期投資を前提に考えると、HugKumのメイン読者層である子育て世代にとっては、ゴールはまだ20年以上先。今、大切なのは、とにかく継続すること。継続するためには途中で紆余曲折があったとしても、長い目で見たときに世界経済が成長していくと本気で信じぬけるかどうかが、たいへん重要になってきます。
もちろん国によって経済状況は違います。今後、インドやアフリカが台頭してくる可能性もあり、トップを走る国の顔ぶれは大きく変わるかもしれません。しかし多少国の入れ替わりがあったとしても、地球全体で見たときに世界の経済は成長していくと思えるかどうか。思えなければ、結局投資も長続きしません。
世界経済の成長の根拠の1つは人口
今後、世界経済が成長していくと考えられる要素の1つは人口です。あらゆる経済指標の中でも、非常に精度が高いといわれているのが人口予測です。
上のグラフを見ると、下段の世界の人口ピラミッドは、人口減少が叫ばれる上段の日本とは真逆の形であることがわかります。世界の人口は2080年代半ばがピークといわれており、人口に比例して世界経済も成長していくと考えられています。
私はよく、経済は人間の欲望ドラマだと説明しています。人口が増えれば衣食住を満たすためのビジネスへの需要が高まり、消費が増えます。しかも人間には欲があり、より良いものや便利なものを求め続けるので、さらなるビジネスチャンスが生まれます。新たな製品やサービスが開発され、企業は利益を出し、従業員の賃金が上がり、株価も上がっていく。この好循環が生まれるためには、人口は非常に重要なポイントです。
日本はこの先、グラフ上の濃い色で示した「生産年齢人口(生産活動を中心となって支える15~64歳の人口)」の減少スピードが速く、政策対応が急がれています。ただ、世界経済が成長していく中で、日本企業にも当然チャンスはあるはずですし、成長できる企業をしっかりと見極めて、投資によって応援することも大事です。投資は社会への参加権であることも、あらためて意識してほしいと思います。
人生も投資も、それが大事
前回と今回で説明した「投資のリスクをコントロールする4つの方法」をおさらいすると、以下の通りです。
- できるだけ負けない工夫をする(分散投資)
- 途中で投げ出さない仕組みを作る(積立投資)
- 不安から逃げ出さずに時間を味方にする(長期投資)
- もっと先の成長を信じぬく(世界経済の成長)
勉強でも、スポーツでも、ダイエットでも、趣味でも、結果を出すためには、できるだけ負けない(失敗しない)工夫をした上で、途中で投げ出さない仕組みを作り、待つことの不安から逃げ出さずに継続する。その間、目先ではないもっと先の成長や成功があるという大前提を信じぬく…。
鋭い方はピンとくるかもしれませんね。そう、人生も投資も大切なことは共通しているのです。
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プロフィール
個人の資産形成、ファイナンシャル・ウェルビーイングや金融経済教育の分野における啓発・普及活動を目的として、2023年10月にアセットマネジメントOne内に未来をはぐくむ研究所を設置、初代所長に。
構成/古屋江美子 撮影/五十嵐美弥