「うちの子、発達障害かもしれない」と思ったら
発達障害に気づくためには
自分の子が「発達障害かもしれない」と気づくために、親はどのようなことに注意して子どもを見ていったらいいのでしょうか。
原先生によると、きょうだいがいる場合は上のお子さんと比較して、“何かちょっと違うな”と気づきやすいのですが、初めてのお子さんの場合はわかりにくく、「子どもはこういうものだと思っていました」と言われることが多いのだそうです。
「初めてのお子さんの発達で気になることがある場合、家族や子育て経験がある第三者の意見を聞いてみてください。時には、ご両親にとって受け入れにくいことを言われることもあるかもしれませんが、第三者から言われた言葉が頭に残っていると、子どもの発達障害に気づくきっかけになります」。
第三者から言われたことをご両親の中ですぐに受け止められなくても、頭の片隅に留めておくことで、生活のしづらさが出てきた場合に次のステップに進みやすくなります。
支援の窓口、どこに相談に行ったらいい?
発達障害がある子の支援の窓口として、原先生の著書では以下の4つが挙げられています。
①市区町村の障害者福祉関係課
②児童発達支援センター(18歳以下)か発達障害者支援センター(18歳以上)
③市区町村や県の教育委員会
④児童相談所や子育て支援センター
初めて相談に行くにはハードルが高く感じる保護者もおられるかもしれません。最初にどこへ相談に行ったらいいのでしょうか。
これについて原先生は「まずは一番相談しやすい人で大丈夫」と言います。
保健師さんや保育園の先生、子育てセンターの先生などもいいかもしれません。そこで、もっと詳しい話を聞きたいと思ったら専門家につないでもらい、話を聞きに行ってみてください。
医療機関には行った方がよい?
子どもに発達障害が疑われる場合は、医療機関を受診し、つながっていたほうがいいのでしょうか。
原先生によると「医師は、何百人、何千人のお子さんを診ているため、お子さんの状況を的確に把握してくれます。そして、今だけでなくその先の小学校や中学校、高校、就職…と長期的にさまざまなお子さんの事例を知っているので、成長とともにさまざまな壁にぶつかった時にも、相談しやすいでしょう」とのことです。
ただ、医療機関では何かしらの「診断」がつくことがあるから不安という保護者もおられるかもれません。日々、多くの保護者から相談を受ける原先生は、保護者の葛藤もわかるので、とりあえず受診してみなさいとは言わないそう。
「受診は、次のステップに進む助けになることがある一方で、親にとっては大きく心をゆさぶられる出来事。病院に行くのは、ある程度受け止める覚悟が持てたタイミングが良いかもしれません」。
子どもに言う?言わない?「発達障害」の伝え方
発達障害、本人にどう伝える?
子どもに発達障害があることがわかった時、その事実を子ども本人に伝えたほうがいいのでしょうか。
「発達障害がある子どもたちは、成長や人との関係の中でうまくいかないことが起こると、“自分のせいだ”と思い、自分自身を責めてしまうことがあります。しかし、発達障害のある子どもの生きづらさは脳の特性からくるものであって、その子のせいではありません。告知によって、うまくいかないのは特性のせいであり、自分が悪いわけではなかったと思えることで楽になることはあります。
そして告知は「本人が得意なことや苦手なこと、その他の多様な特徴をもつ自分というものをよく深く理解すること、そして自分自身を深く知ることで、穏やかに、前向きに生活していけるようになることをめざして行うもの」だと原先生は言います。
いつ告知するか?
告知のタイミングについて、原先生は以下のようにいくつかのタイミングがあると言います。
①学童期に他の子どもとの違いに気づき始める小学校高学年ころ
②思春期に友人関係につまずき自尊心が低下するころ
③青年期に進路選択に悩むころ
④成人期に職場での対人関係で悩むころ
課題は、誰がそれを伝えるかです。保護者、特に母親が伝える場合が多いようですが、原先生は医師から伝えてもらうのが望ましいと考えているそうです。
「専門家である医師が伝えることで要点が冷静にクリアに伝わりますし、その方が保護者が子どものサポートに徹することができると思う」と原先生は言います。
親が子どもに伝えるより前に、子どもたち自身が他の子との違いに気づくことも多いそうです。告知について原先生は「必ずしも診断名を出す必要はありません。診断名は言わずにあなたは“これが苦手” “これが得意という伝え方でもよいのではないでしょうか」とアドバイスします。
きょうだいにはどう伝える?
きょうだいは、発達障害のある子の苦手さをサポートする機会が多くなるので、障害名ではなく、「○○が苦手で」という伝え方をするのが良いそうです。
また、きょうだいの中には、障害があるきょうだいや親に気を遣い、必要以上に良い子になってしまっている子もいます。原先生は「きょうだい児ががんばりすぎないように、親から何かをお願いするとしても時間を区切ってお願いするようにしてほしい」と話します。
「家族の生活は、どうしても障害がある子中心にまわってしまいがちです。しかし、きょうだいのために愛情を確認する時間もぜひ作ってあげてください」。
「療育」は二次障害を防ぎ、本人が幸せに生きるためのもの
療育とは?
発達障害の子のサポートとして耳にする「療育」という言葉。意外とよくわからない人も多いのではないでしょうか。
原先生によると、「療育は、発達障害の特性がある子が持つ生活のしにくさを軽減し、二次障害と言われる、うつや無気力といった症状を防ぐためのものです。しかし、それはあくまでもスタートライン。目指したいのは、“今と将来に向けて、本人が幸せを感じて生きること”」だと話します。
この「幸せ」な状態について、原先生は「多様な仲間とともに、自分らしく、前向きに、ワクワクしながらやりたいことにチャレンジしている人」という、慶應義塾大学の前野隆司教授の言葉を挙げます。
療育の場は、本人がこのような状態で過ごすために利用する場と考えると、イメージしやすくなるのではないでしょうか。
どうしたら療育を利用できる?
では、療育を利用するにはどうしたらいいのでしょうか。原先生の著書では、療育を利用するまでの流れについて、いくつかの実例が紹介されています。
療育ができる場所としては
①医療機関
②児童発達支援センター(療育センター)
③児童発達支援事業所(就学前)
④放課後等デイサービス(就学後)
があります。具体的な施設等がわからない場合は、保健センターや児童発達支援センター、市区町村の窓口などに相談すると、つないでもらうことができます。
さまざまな療育機関がありますが、選ぶ際には「①国家資格を有する人がいること②子どもの状態を客観的に見て、その子にあった対応ができているかどうか」の2点をポイントにするのが良いそうです。
自分たち親子のサポーターを増やすことが大切
子どもに発達障害があるかもしれないとわかると、保護者はつい子どものことばかりに目がいってしまいがちです。しかし、保護者が孤立感や孤独感を感じないようにすることが大切だと、原先生はおっしゃいます。
「まずは保護者自身の不安を相談できる場所をみつけましょう。そこをきっかけに、福祉などさまざまな社会資源の情報が集まり、親子を取り巻く人たちが少しずつ増えていきます。
発達に関する知識や経験を持っている人たちに出会うことは、療育の根っこであり、子どもの生活のしづらさを軽減して二次障害を防ぐ肝になります。“私が一人でがんばらなきゃ”という心のロックを外し、不安です、困っていますとSOSを発して、なるべく多くのサポーターを作りましょう」と語ってくれました。
今、まさに困り感を抱えている保護者がおられたら、弱音を吐ける場所を探し、ぜひ多くの人とつながっていってもらえたらと思います。
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お話を聞いたのは
取材・文/佐藤麻貴 構成/HugKum編集部