発達専門小児科医・西村佑美先生「発達特性がある息子を最初は受け入れにくかった…」葛藤を経て、普通じゃないからこそ魅力的と愛せるようになるまで

「ゆみ先生と呼んでください」と笑顔で話すのは、発達専門小児科医で、最重度自閉症のきょうだい児として育ち、自身も発達特性がある12歳の息子の母である西村佑美先生。9月に、母としての自身の経験と、発達専門小児科医としての視点からまとめた『最新の医学・心理学・発達支援にもとづいた子育て法 発達特性に悩んだらはじめに読む本: 1歳から入学準備まで 言葉の遅れ かんしゃく 多動…病院や園では解決できない“困った”に対応』(Gakken)を出版されました。
そんなゆみ先生が何度も向き合ってきた葛藤と、その乗り越え方とは。

言葉の遅れ、多動。「まさか息子は発達特性?」

振り返ってみると息子は1歳になるまでは、言葉を話し始めるのも早く、いろいろなことに積極的で、「よくできる子だな」という印象がありました。

でも、1歳半くらいの頃、言葉の発達が少し遅く、動き回ることが多くて集団の中で一人浮いているような感じがあったんです。2歳になった頃、思ったように言葉が増えず、会話がスムーズにできないなど、発達特性が目立つようになりました。

初めての子どもだったので、一緒にカフェに行ったり旅行に出かけたりしたいな、とあれこれと理想を抱いていましたが、全然連れていけるような雰囲気じゃない。外食もできないのですから。発達専門小児科医として、何らかの診断名がつくかもしれないと思うようになりました。

崩れていくキラキラした子育て

「こんな予定じゃなかった、もっとキラキラした子育てのはずだったのに……」。自分が思い描いていた子育てができないのではないかという不安が先に立ち、どうしても受け入れたくありませんでした。

10年ほど前の当時はまだ、発達障害という単語しかない時代。発達外来の医師として働いていましたが、母親の立場になると、客観的にわが子を見たり、ポジティブになったりなかなかできなくて。他のお母さんたちとは違うんだ、子育てに夢を持っちゃいけないのかもしれない、とネガティブになった時期もありました。

親であれば「普通の子であってほしい」という気持ちが強いのは当たり前ですよね。発達外来をもつ私でさえ、発達の専門家として多くの子どもを見てきたにもかかわらず、難しかったのです。今、同じような悩みを抱えていらっしゃる皆さんは、それ以上に不安なのではないでしょうか。

受け入れられないのは私の問題。下を向いていていいのか

ただ、受け入れられないのはあくまで私の問題です。目の前の息子は私のことが大好き。落ち込んでウジウジしてばかりいてはいけません。息子が生きていくために必要なことを教えたり環境を整えたりしていかなければ。

私は普段、発達外来の仕事で忙しかったのですが、一緒に過ごす時間を息子の成長にとって充実したものにしたいと思い、専門家に相談することを決めました。

私自身も専門家としての道を歩んではいましたが、まだ学ぶべきことが多いと感じていたので、臨床心理士で発達支援のエキスパートである友人に相談したんです。

学んで気づいた。「寄り添う」と「甘やかす」の違い

アメリカで最新の発達支援の技術を学び、それを実践している彼女からは、たくさんのことを教えてもらいました。それはもう目からウロコの連続。詳しくは拙著にまとめましたが、いちばん大きかったのは、「寄り添っているつもりが、実は甘やかしすぎていたんだ」ということ。そこから接し方を少し変えたところ、子どもが急に変わっていったんです。子どもを愛するがゆえに甘やかしてしまうことは誰にでもあるんだと気づきました。

「小児科医だから子育てが上手なんですよね」と言われることもありますが、実際は私も他のお母さんたちと同じで、悩んだり迷ったりすることばかりです。

小さな一言が出れば、印象は180度変わる

息子が幼稚園の面接で、園長先生の帽子に興味を持ってつい取ってしまったことがありました。そのとき、「帽子を見せてください」と言えたら、印象は全然違ったはずです。むしろ、活発で好奇心旺盛な子だとポジティブにとらえられたかもしれません。

でも、当時は言葉が追いつかず、行動で表現してしまいました。こうした小さな「一言」が言える練習をしておけば、問題児扱いされることはありません。お母さんの声かけの積み重ねで違ってくるのだと後から気づきました。

スーパーで子どもが走り回るのだって、見方を変えると、子どもが探検を楽しんでいることになります。子どもは、棚に何が並んでいるか、昨日と違うものがないかが知りたいんです。それならば、スーパーが空いている時間に行って「何があるかな?」と一緒に探検してみると、親も少しストレスが減るのではないでしょうか。

子どもの好奇心を否定するのではなく、「面白いよね、いろんなものがあるもんね」と共感することで、子どもは「ママは自分をわかってくれている」と感じます。発達特性をどう捉えるかは、私も含め、親のマインド次第なのです。

「面白いんじゃない?  普通じゃなくてよかった」

小学校に入る頃も、まだ会話力が追いついていなかったり、少し多動があったりした息子も、一生懸命学校に通いました。その姿を見ながら、78歳ぐらいになってからでしょうか。「うちの子って、面白いんじゃない? 普通じゃなくてよかった」と、ポジティブに捉えられるようになりました。それまで、ポジティブな捉え方の練習を積み重ねてきたこともよかったと思います。

小さいうちは、つい他の子と比べてしまうことってありますよね。でも、ポジティブに見る練習はできると思います。例えば、「じっと座っていられないうちの子は駄目だな」と思うのではなく、「うちの子はいろんなことを考えているから、つまらなくなったら他に興味があるところへ行くんだ」と考える。それだけで少し気持ちが楽になりませんか。

昭和レトロ、英会話、プログラミング。好きなものには没頭

現在、息子は12歳になりました。英語教室では、カナダ人の先生とマンツーマンで話が盛り上がることもあります。好きなことに対する知識が半端なく、今は古今東西のサブカルに夢中で、塾に通う時間の合間を縫ってテレビやNetflixを見ています。

新しいものが好きなのかと思っていたら、実は昭和レトロなものも大好き。2025年の大阪万博に向けて、1970年代の最初の万博の資料が欲しいと言うので買ってあげると、当時の広告や昭和の古いレポートなどを本当に楽しそうに見ています。田舎に行くと、古い信号機にも興味を示すんですよ。どういうふうに生かせるかはまだまだこれからですけど、そういう感性を持っている子だったのだと分かるようになりました。

でこぼこも個性。好きなことを伸ばしてあげたい

プログラミング教室の体験を受けた時、息子の好きなマインクラフトで楽しく学べるかと思いきや、「どう?通ってみる?」「いや、自分でできるからいいよ」って。思わず笑ってしまいました。好きなことは教えられなくてもできるようになるようです。

もちろん嫌いなことや興味のないことには苦手なでこぼこもありますが、そうした個性も含めて、その子らしさなんだなと感じます。それを見つけつつ、好きなことを伸ばしていくサポートができたら、親としてもわくわくできるかなと思います。

「行ってらっしゃい。愛してるよ」「僕も」

今も、学校へ行くときに「行ってらっしゃい。愛してるよ」と言うことをずっと続けています。言い始めた時は「うん」だけだったのが、だんだん「僕も」と言ってくれるようになり、それが本当に嬉しいです。

あなたを大切に思っているという気持ちは、きちんと子どもに伝わるのだと思います。これはすぐにでもできることなので、ぜひ、やってみてほしいです。

障害のある子を育てるかわいそうな親じゃない

私たちは、大変な子どもを育てるかわいそうな親ではありません。確かにちょっと手がかかり、上級者コースを走っているような気分になることもあるかもしれませんが、これからの時代に向けて、面白い子育てをしているんだって思うことにしています。

少し癖があったり、普通じゃないことができたりする子って、実はすごく魅力的で、新しいことを始める力を持っています。これから必要とされる人材の卵でもあるのです。大人になった時、「発達障害があるのですみません」ではなく、「特性があるのでどうぞ活かしてください」と言える自己肯定感の高い人材になれるかどうかは親にかかっています。

私も悩みながら頑張っている最中。発達特性のある子どもを持つ親御さんにも「一緒に頑張ろう」と思ってくれたら励みになります。決して諦めないで進んで行きましょう。

後半では先生が始めたママたちのコミュニティについて伺いました

「発達障害ではなく〝発達特性〟という言葉で少しでも前向きに」自身も発達特性のある息子、重度自閉症の姉をもつ小児科医・西村佑美先生が初の著書に込めた思い
発達特性のある息子、重度自閉症の姉。誰よりも当事者だから分かる かゆい所に手が届く本にしたい 発達特性のあるわが子をどうにか上手に伸ばし...

著書はこちら

『最新の医学・心理学・発達支援にもとづいた子育て法 発達特性に悩んだらはじめに読む本』

西村佑美著/定価1760円(税込)/Gakken

1万組以上の親子を診た豊富な臨床経験と、自らも発達特性のある子を育てた実体験に基づく医師&母親目線のアドバイスが詰まっています。発達障害の不安や手のかかる子育ての悩みを抱える親御さんに寄り添い、子どもの成長や日々の関わり方について何度でも頼れる、西村佑美医師による初の著書。

お話を伺ったのは

西村佑美|小児科医

発達専門小児科医/一般社団法人 日本小児発達子育て支援協会 代表理事。日本大学医学部卒。小児科専門医。子どものこころ専門医。日本大学医学部附属板橋病院小児科研究医員。発達特性を持つ長男を含む3児の母。最重度自閉症のきょうだい児として育ち、障害児家族に寄り添える仕事がしたいと医師を志す。第一子出産後、発達特性を持つ親としての経験を活かし発達専門外来を開設。2020年より「ママ友ドクターR」プロジェクトを立ち上げ、SNSやアカデミーでママたちの支援を行う。2024926日(木)に『最新の医学・心理学・発達支援にもとづいた子育て法 発達特性に悩んだらはじめに読む本』(Gakken)を発売。Instagram

取材・文・写真/黒澤真紀

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