子どもの「10の姿」って何? 年齢別、家庭での実践について「3つの柱」「5領域」とあわせて解説

子どもを育てている人であれば、何かしらのタイミングで「10の姿」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。今回は保育用語の一つ「10の姿」について解説します。内容や具体例を知って、子育て中の親必携の保育知識を手に入れましょう。

「10の姿」の基礎知識

言葉を聞いたことがあっても、保育を仕事にしている人でなければ、「10の姿」という言葉が何を表しているかは分からないはずです。子どもを幼稚園や保育所に預けているなら知っておきたい、10の姿の基礎知識を解説します。

幼児期が終わるまでに育ててほしい姿のこと

保育用語の一つ「10の姿」は、正式名称を「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」といいます。10項目で構成されることから、「10の姿」と称されるのが一般的です。

10の姿は、2018年4月に施行された「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園 教育・保育要領」の中で、「幼稚園・保育所・こども園が目指すべき指針」として掲げられました。「幼児教育が修了する年齢までに育てておいてほしい資質や能力」を表します。

10の姿の目的は、基礎的な思考力・判断力・表現力を保育の中で育み、小学校に上がるために必要な力を養っていくことです。

出典:平成 29 年度保育士養成研究所研修会資料|一般社団法人 全国保育士養成協議会 保育士養成研究所

「10の姿」の内容

10の姿は下記の10項目で構成されています。

● 健康な心と体:挑戦やつまずきを通して、健康的で安全な生活を送れるように心と体を育てること
● 自立心:自分でやらなくてはいけないことを自覚しながら、活動や遊びを通して「やり遂げる満足感」を味わうこと
● 協同性:友だちと考えを共有したり協力し合ったりしながら、物事を進めていくこと
● 道徳性・規範意識の芽生え:ルールを守ることの重要性を理解し、与えられたルールを守ったり、自らルールを作ったりすること
● 社会生活との関わり:家族以外のさまざまな人と関わりを持ち、自分が「社会の中で役に立つ」という喜びを感じながら、社会に親しみを覚えるようになること
● 思考力の芽生え:ものの仕組みや性質について考えを巡らせたり、ものや道具を工夫して使ったりすること
● 自然との関わり・生命尊重:自然や生き物との触れ合いを通して、自然や生き物を大切にする意識を持つこと
● 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚:遊びや生活を通して数量・図形・文字などに親しみ、興味を持つようになること
● 言葉による伝え合い:会話や絵本の読み聞かせなどを通して、自分自身のことを言葉で表現することを身に付けて楽しむこと
● 豊かな感性と表現:好奇心がくすぐられる物事に触れ、そこで感じたことを自ら表現すること

「10の姿」の重要性

10の姿の重要性を語る上で注目すべきなのが、「働き方や暮らし方の多様化」という視点です。

AIの進化に代表される技術革新や世界のグローバル化の進展などにより、現代社会は働き方や暮らし方の多様化が進んでいます。今の子どもたちが大人になり社会人となる頃には、さらに多様化が進み、現代人が想像もできないような世界が広がっているかもしれません。

未知の変化が待ち構える新しい時代を生き抜いていくには、「自立した一人の人間としてたくましく生きる力=人間力」が必要です。これからの社会人に求められる「人間力」を養うには、幼少期に土台を整えておくべきといえます。そこで重要視されるのが10の姿なのです。

あわせて知りたい保育の言葉

10の姿の関連語として挙げられるのが「3つの柱」と「5領域」です。この二つの関連語についても知っておくと、10の姿に対する理解がぐっと深まります。10の姿とあわせて覚えておきたい保育用語を解説します。関連語をまとめて覚えて、保育に詳しくなりましょう。

3つの柱

「3つの柱」とは、「保育所保育指針」で提示されている「育みたい資質・能力」のことです。幼稚園や保育所に通う年齢から、義務教育である小中学校に通う年齢までに養うことが求められる能力を指します。

3つの柱は以下のような項目で構成されます。

● 知識および技能の基礎:体験を通して感じたり気付いたりすることができるようになること
● 思考力・判断力・表現力などの基礎:できるようになったことを活用して、考えたり工夫したり言い表したりすること
● 学びに向かう力や人間性など:心や態度などを育てながらより良い生活を求めていくこと

10の姿とこれから紹介する5領域は、3つの柱を基礎とする考え方です。3つの柱が育っていくと、10の姿が子どもに見られるようになります。

3つの柱を育むために求められる保育内容が5領域です。

5領域

「5領域」とは、「保育所保育指針」に記されている保育を行う上での「5つのねらい」のことを指します。「育みたい資質・能力」を身に付けるために、保育において成長させるべき子どもの能力を示します。

5領域の内容は以下の通りです。

● 健康:健康的な心身を育てること。また自ら健康で安全な生活を生み出す力を育てること
● 人間関係:他者と協力する力や自分自身のことを自分でやる力を育てること
● 環境:環境に親しむことを通じて、好奇心や探究心を伸ばしていくこと
● 言葉:自分の感じたことや考えたことを言葉にする力や、相手の話を聞く力を育てること
● 表現:感受性を養い、多彩な表現力で自分自身のことを伝える力を養うこと

5領域は、保育士が子どもの保育計画を策定する際に不可欠な考え方です。10の姿は5領域を踏まえた考え方といえます。

年齢別「10の姿」の具体例

10の姿は、子どもの年齢によって伸ばせる資質や能力が変わってきます。子どもの年齢に合ったアプローチをしていけば、10の姿を効率的に伸ばしていくことが可能です。

年齢別の10の姿の具体例を解説します。

0歳

0歳においては、子どもの求めに積極的に応じてあげ、心と心を通わせる機会を積み重ねていけば、「豊かな感性と表現」を育てていくことが可能です。

抱っこに代表される子どもの「甘えたい」という欲求に対して、保育者が適切な行動を取ってあげると、子どもの感性を育むきっかけになります。

安心して生活したり遊んだりできる環境の中で、保育者との間に愛着を育てていけば、「健康な心と体」を育てることにつながります。健康的な心身をのびのびとはぐくめる環境づくりが大切です。

1歳

1歳においては、日常のふとしたシーンで「道徳性・規範意識の芽生え」を育てることができます。

例えば、大好きなおもちゃを友だちと共有する場面では、遊ぶ順番を決めて交代しながら遊ぶことで、「世の中には順番というものがあること」を感じ取っていきます。

遊びのシーンでは「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」も伸ばすことが可能です。「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」を伸ばす代表的なおもちゃが「型はめ」です。ブロックを触りながら、「世の中にはいろいろな形があること」を学んでいきます。

2歳

「身の回りのことを自分でやりたい」という気持ちが湧いてくる2歳ごろには、着替えや片付けなどを本人にやらせていけば、「自立心」を養うことができます。

着替えのように、2歳児が一人でやるには難しい行動については、適宜、保育者がサポートしながら、「達成感」を味わえるようにしてあげるのが大切です。

2歳ごろは、何に対しても「なんでなんで?」と質問してくる「なぜなぜ期」が始まる年齢でもあります。子どもの「なぜ」に遭遇したら、その場で答えを教えてあげたり、一緒に答えを探したりすると、「思考力の芽生え」を後押しできます。

3歳

3歳は、一緒に生活している友だちに興味を持ち始める頃です。隣の子どもと同じ遊びをしようとしたり、意思の疎通を図ったりすることで「協同性」を育むことができます。

時折、ささいな擦れ違いが子ども同士のトラブルに発展するシーンもありますが、それも含めて「協同性」を伸ばすことにつながります。

人としてさまざまな経験を重ねた結果、自分の気持ちをコントロールできるようになってくるのもこの頃です。保育者が自分の気持ちを受け止めてくれることを経験する中で、「道徳性・規範意識の芽生え」が育まれていきます。

4歳

4歳は、少しだけレベルアップした遊びを楽しむ中で、「自立心」を育てることができる年齢です。

例えば、砂場で砂山を作るとき、「今までで一番高い山を作る」とゴールを設定しながら取り組めば、目標に向かって粘り強く努力することを学べます。

また4歳は、課題を前に、友だちと協力し合いながらより良い方法を一緒に考えていけるようになる年齢でもあります。試行錯誤を繰り返す中で、「協同性」として「協力する大切さ」や「協力すると課題解決に近づけること」などを学び取っていくのです。

5歳

5歳ごろは、地域社会との関わり合いを通して「自分も社会に貢献できる」と知る時期です。

地域で開催されるイベントやボランティア活動に参加し、地域の人々と交流を深めながら「社会生活との関わり」を伸ばしていきます。

子ども同士で話し合いができるようになるのも5歳ごろといわれています。おもちゃを使う順番を決めたり、トラブルの解決法を探ったりする中で「言葉による伝え合い」を養っていくことが可能です。保育者は子どもたち同士の話し合いがスムーズに進むよう、司会役に徹するのが大切といえます。

「10の姿」を家庭でも実践するには

10の姿は、幼稚園や保育所などの保育の現場で意識すべき方向性を表すものです。しかし工夫次第で、10の姿の考え方は家庭でも取り入れられます。子どもとの接し方に迷ったときの指針として、または子どもの能力を伸ばすためのヒントとして活用可能です。

家庭で実践できる10の姿の例には、以下のようなものがあります。

・幼稚園に行く準備を子どもと一緒にやってみる→「自立心」を育む
・絵本を読んだ感想を親子で言い合う→「言葉による伝え合い」を育む
・家事を手伝ってもらう→「協同性」を育む

10の姿は家庭のさまざまな場面で活用が可能です。応用できる場面を探しながら子育てと向き合っていきましょう。

「10の姿」を知って子育ての指針を手に入れよう

「10の姿」とは幼稚園や保育園で目指すべき保育の指針です。幼児期における「子育てのゴール」を表すものではないので、「小学校に上がるまでに10の姿を絶対に身に付けていなくてはならない」と考える必要はありません。10の姿の考え方を理解して、子育てに迷ったときの羅針盤を手に入れましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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