【前回までの流れ】
●試験当日は「平常心」が何よりも大切。直前まで落ち着いて準備を進めたことが、試験への自信につながった。
●「できた!」の言葉は、時に信頼できない。これまでの経験から、「できた!」=合格ではないことを痛感。過信せず、結果が出るまでは油断しないことが重要。
●「合格」の知らせは、適切なタイミングで伝えるべき。第2候補の結果を伏せたことで、息子は最後まで本気で第一志望に挑むことができた。受験生の心理を見極めることも、親の役割のひとつ。
長かった受験生活、ついに結果発表の日
合格発表まで5日ほどあるので、発表を待つ間、息子が試験当日に持ち帰った問題用紙と解答を源先生に渡し、採点をお願いしました。
翌日、源先生はにこやかな顔をして、採点の結果を知らせに来てくれました。
「4教科総合の点数は、昨年の合格最低点を20点ほど上回っていました。算数に至っては今まで解いた過去問の中で『過去最高の出来』です。なかなかの強運ですなぁ」と持ち上げて褒めました。
その言葉に、「えっ、本当ですか? 先生!」と息子は身を乗り出しました。
小さいときから運のいいところがありましたが、こんなときにも運のよさが発揮されるなんて…。
これには先生も苦笑しながら「もう合格している気分ですか?」と息子に問いかけました。
「先生、そんなこと言うのはやめてください。お調子者の息子ですから、すぐその気になってしまうので…」と私が言うと、先生も「そうだよね。浮かれているとロクなことはないから、気を引き締めて結果を待ちましょう」と言って帰られました。

震える指でクリック… 運命の瞬間
ついに、運命の合格発表の日がやってきました。朝から息子はソワソワと落ち着かない様子。
「結果を待つ時間って、試験のときよりも緊張する…」と言いながら、部屋の中をウロウロ。私も息子も、9時の発表時刻が近づくにつれ、無言になっていきました。
そして、いよいよ発表の時——。
息子と二人、パソコンの前に座り、手を震わせながら合格発表のページにアクセス。息子の指がカーソルを動かした瞬間——。
「………」
沈黙。
「………え?」
しばし固まる息子。その目には、確かに映っていました。
「合格」
数秒間、息子は画面を見つめたまま硬直。
それから突然、「うわぁぁぁぁ!!!」と絶叫し、椅子を蹴飛ばして立ち上がりました。
「やったぁぁぁぁぁ!!!」
部屋中を走り回り、狂喜乱舞。そして次の瞬間、号泣。
「うえええええん!! うわあああああん!!!」
大の字に寝転がり、泣き叫びながら、嗚咽を漏らし何度も「やった! やった!」と繰り返していました。私もその姿を見て涙が溢れ、「よく頑張ったね…!」と両手で頬を包みながら、しばらく一緒に泣きました。
ようやく少し落ち着いたところで、源先生に電話。しかし、電話口でも息子は言葉にならず、またも号泣。
「先生、あ、あの、ううう…受かりましたぁぁぁ…!」
先生も笑いながら「おめでとう!」と祝福してくださいました。私からも、「本当に、この間お世話になりました。先生のおかげです」とお礼の気持ちを伝えました。心の中では(さすが合格請負人!と称される先生だな)と実感。一時的とはいえ、先生の教え方や勉強法に不安を抱いたり、疑ったりしたことについて恥ずかしく思いました。
その後、祖父母や河田さんなどお世話になった方々に次々と報告し、合格発表の日は一日中お祝いムードでした。
そして夜は久々に外食。「一年分の焼き肉を食べる!」と意気込み、息子は肉を貪るように食べ尽くしました。
私は心の中で、(試験当日は、きっと受験の神様が降りてきてくれたに違いない)と思いました。
中学受験を受けるまでの3年間で得たもの
翌朝、あらためて息子に聞いてみました。
「周りの友達がみんな塾へ行くからということがきっかけで始まった中学受験だけど、あなたは何を学んだの?」
すると、息子はしばらく考えてからこう言いました。
「一生懸命努力するとはどういうことなのか、理解できた。そして、周りの人の協力なくしては何一つできないこともわかった。お母さんにも、源先生にも、河田さんにも、塾の先生にも、おじいちゃんおばあちゃんにも、みんなに助けてもらったからできた。そのことがよくわかったよ」
その言葉を聞いた瞬間、私は思いました。
(この3年間の受験生活は、合格以上に大切なものを息子に与えてくれたのかもしれない。)
母子家庭での子育て。正直、私は多くのことを息子に教えてこなかったし、躾も甘かった。でも、息子は塾や源先生、周囲の人々と関わることで、「自分一人でできることは限られている」「だからこそ人に感謝しなければならない」ということを学んだのだと思います。
受験は、親子にとって大きな試練でした。しかし、その試練を乗り越えたことで、息子にとっても私にとっても、人として大きく成長できたような気がしました。

喜びは束の間… 新たな試練の始まり
厳しくも辛い受験勉強から解放されて、息子は元の生活に戻ったかのようにのんびりと過ごしておりました。
合格発表から1か月後、入学説明会へ行くことに。
まるで合格祝いの旅行にでも出かけるかのようにウキウキと出かけたものの、帰り道はまさかのどんよりムードになってしまいます…。
会場に到着し、説明が始まると、徐々に息子の表情は暗く沈んでいきました。
入学までにやるべき宿題が出され、そのプリントの量と厚みに驚き、「やっと受験が終わったのに、これからもっと勉強しなきゃいけないんだ…」と息子は言いました。「そんなこと、はじめからわかっていることでしょ!」と私。

向かうときとは真反対の、まるでこれから中学受験をするかのような重苦しい顔で、帰路につきました。翌日から、息子にとっては受験以上にハードな日が始まりました。
そんな日が続きましたが、無事に入学の日を迎えます。
母としては、こまごまとした心配事から解放されるかと思いきや、入学1週間後には寮長から「寮生活の態度に問題がある」と言って電話がかかってくるわ、成績について呼び出されるわで、新たな悩みが増えてしまいました。
第一志望の学校に合格してハッピーエンドかと思いきや、なかなかそうはいきません。「好事魔多し」、人生とは悩み多しですね…。
その後の息子と寮生活にまつわる様々なエピソードについては、また別の機会があればご紹介したいと思います。
今回の学びと葛藤《まとめ》
●支えてくれた人への感謝こそが最大の成長。
●中学受験は親の試練でもある。「いつ励ますべきか」「いつ突き放すべきか」その判断の連続。親の関わり方一つで、子どもの未来が変わることを痛感。
●合格はゴールではなく、新たな試練のスタート。「受験が終われば楽になる」は幻想。しかし、中学受験で得た「努力し続ける力」が、息子の新しい挑戦を支えてくれるはず。
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執筆/清宮ゆう子