【世界の不登校】アメリカでは警察が家庭訪問、イギリスでは親が罰金? 海外の不登校事情とその対応を見ると…

一学期も終盤と向かいつつあるこの時期、不登校の問題が注目されることも。文部科学省によると、小・中学校における長期欠席者数は493,440人、そのうち、不登校による欠席者数は346,482人だとされています(令和5年度の情報)。
この不登校の問題、世界の学校ではどういった状況になっているのでしょうか。日本国内だけではなく、外国の状況が分かると、いろいろな視点から不登校を考えられるはずです。そこで今回は、諸外国の統計情報や公的な情報を基に海外の不登校事情を調べてみました。

世界の国々でも不登校は増加傾向に

世界の不登校というと、どんなイメージがありますか? 不登校に関するニュースを聞いていると、なんだか日本だけの特殊な事情のような気もしてきます。しかし、結論から言えば、発生している背景こそ違う部分がありながら、世界の国々でも不登校は増加していると分かります。

例えば、英国教育省の統計によると、不登校の比率は英国でも年々上昇していて、長期的に学校を欠席(persistently absent)する子ども(全授業の1割程度を欠席)は全児童のうちの23.5%、深刻な不登校(severely absent)の状態にある子ども(全授業の5割以上を欠席)は1.4%存在します。

イギリスを代表する日刊紙『ガーディアン』でも、イギリスの子どもたちの不登校を取り上げた記事があり、12~18歳以下のイギリス人の中高生のうち28%、10人に3人が学校を欠席していると報じられています。

事情はアメリカでも同様です。アメリカの教育専門メディア『Education Week』によると、2018年の時点で15%だった不登校(chronic absenteeism)児が2023年には26%まで増えているといいます。この場合の「不登校」とは、理由に関係なく、年間の授業日数の1割以上を欠席する状態です。

さらに、この数字は、経済的に貧しい地区になると上昇します。同様の内容を『The New York Times』も報じています。

アメリカの場合、米国保健統計センターによると、富裕層の子どもと比べて貧困地域、特に高貧困地区の子どもに欠席率が高いと確認されているそう。そうした地域での不登校には、子ども本人の事情というより、親の教育への意識の低さ、経済的理由による就学困難などの理由があると考えられます。

その意味で、日本の不登校とは、必ずしも状況が一致しない可能性があるという前提で読み進めていただけると幸いです。

場合によっては警察が家庭訪問も

もう少し詳しく、各国の不登校事情を探っていきます。まず、アメリカの不登校に関しては「不登校は法律違反、刑事犯罪になる」といったショッキングな情報がインターネット上にあります。この点については本当なのでしょうか。

近年、非犯罪扱いに向かった州もあり、少し緩和の動きがあるようです。ただ、親への罰則規定がいまだにある州も存在します。

例えば、法的措置のあるノースカロライナ州の法律「Compulsory Attendance Law」によれば、義務教育の学校の無断欠席が3日続くと、学校から親に通知がいきます。6日になると違法を示唆する通知が郵送されます。その間、家族と学校のソーシャルワーカーで協力し解決策を探ります。場合によっては、警察も家庭訪問できるのだとか。

無断欠席が10日を超えると、親の姿勢が問われます。努力が不十分な場合は、地方検察官と児童福祉局が、保護者に対する法的措置や福祉対応を検討し始めるとされています。

繰り返しになりますが、同じ不登校でも日本とは前提となる状況が異なる可能性は十分にあるものの、親の姿勢いかんでは警察まで家に来るという展開はちょっと驚きではないでしょうか。

原因究明と戦略策定

では、親として「努力している」と評価される対応とは、どういった行動を意味するのでしょう。

ノースカロライナ州の非営利法律支援団体「Legal Aid of North Carolina(LANC)」によると、スクールカウンセラーとの面談を通じて、親が根本的な原因の究明と、解決のための戦略策定をしているかどうかが問われる様子。

例えば、住む場所の不安定さが問題で不登校が起きているのか、交通手段の問題で不登校が起きているのか、障がいが存在するために不登校が起きているのか、いじめが問題で不登校が起きているのか、理由によって当然、解決策も変わります。

それぞれの問題に応じて各種の支援を要請し、各種のサポートを受けながら、根本的な原因に保護者が対処していきます。言い換えると、不登校の「問題」に対して綿密な支援制度が存在するので、システマティックに毅然と対処していく姿勢が求められるわけです。

行動改善計画やカウンセリングについては、罰則を設けない州、地方教育委員会や学区ごとに対応策を決定させる州など、厳罰化しない他の州でも共通して行われています。

また、ロンドン大学のペトリー博士の研究によると、教育の義務を定めながらも、いわゆる「学校」に就学させなくてもよいとする国は多く存在するらしく、アメリカの場合も、適切な手続きを踏めば就学義務が免除されます。

学校以外で教育を受けさせる場所の代表例として、アメリカの場合「home education/homeschooling(家庭教育)」が存在し、2024年の段階で370万人(全就学児童の6.73%)が、家庭学習を選択していると示す調査結果も公開されています。

日本でも、いじめや精神的な問題で通学が困難な状態、不登校の子ども本人の意思を尊重する場合などは「正当な理由」とされ、学校以外の学びの場が整備される方向に向かっています。しかし、ホームスクールを実践している世帯は、一説にはまだ約3,000世帯程度しか存在しないとの情報もあります。今後の発展が期待される分野ではないでしょうか。

最悪のケースでは保護者の刑事責任が問われる

イギリスの場合はどうでしょうか。イギリスの不登校に対する対処の流れを見ると、アメリカとほぼ似通っていると分かります。

欠席の傾向が見えてきた段階で、学校、保護者、生徒本人が面談をして、不登校の根本的な原因を探ります。問題の原因に応じて、専門家との面談や支援が行われます。それでも効果が出ず、保護者の対応にも問題がある場合は、改善通知が発行されます。

改善通知後にも状況が変わらない場合は固定罰金通知が発行され、£80(約1万6千円)、21日以内に支払わなかった場合は£160(約3万2千円)に増額した罰金が科されます。

それでもなお状況が改善しない場合、保護者の刑事責任が問われ、さらなる大きな罰金、最悪のケースでは禁固という流れになります。こちらも、日本人の感覚からすればたいへん厳しいルールに思えます。

ただ、イギリスもアメリカと同じく、教育の義務はありながら、いわゆる「学校」に通わなければいけない就学の義務までは存在しません。

イギリスの教育法では、規則的に学校に出席させるか、本人の特別なニーズに応じた適切な教育を受けさせるか、いずれかの義務を課しています。言い換えると、「home education(家庭教育)」が法的根拠を与えられています。

政府の調査結果を扱ったイギリスの日刊紙『ガーディアン』の記事によると、2022年度の学年末時点で、約126,000人の児童が家庭教育を受けているとされています。2018年度の時点と比較しても60%増加しています。イギリスでも、家庭教育の選択肢が一般的なのですね。

「不登校になって半年経ってから教育支援センターを知った」

アメリカにせよイギリスにせよ、問題解決に向けた専門家の綿密なサポートが存在し、ホームスクーリングなどの「出口」に関する選択肢も存在すると分かります。

一方で、日本の場合、ホームスクーリングの選択肢はまだまだ一般的とは言えず、専門家のサポートは存在するものの、その利用率が低いという課題があります。

日本の認定NPO法人「カタリバ」が実施した実態調査によると、教育委員会が設置する教育支援センターの存在は知りながらも、不登校の子どもに実際に利用させている保護者の割合(利用率)はわずか10%にとどまっています。

“不登校になって半年経ってから、教育支援センターの存在を知った”(子どもの権利条約をふまえた学齢期の教育の在り方-イギリスの動向とわが国への示唆-より引用)

といった声もあるようです。日本でも、学校によっては不登校専任の教員が在籍し、スクールカウンセラーが常駐しているケースもあります。学校以外では医療機関があり、教育支援センターも存在します。

国によって状況が異なり、不登校の内情も違い、ホームスクーリングの有無など選択肢も違うため、参考にできる部分、できない部分がありますが、早い時期に専門家の支援に頼るという点は参考になるはず。

ホームスクーリングなどの整備はさらなる進展を期待しつつ、不登校のサインが見られる、不登校が目立つようになってきたなど、気になる状況がある場合は、当事者や家族だけで悩まずに専門家に相談するといった考え方も大事かもしれませんね。

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構成・文/坂本正敬

参考: School refusal: mapping the literature by bibliometric analysis – National Library of Medicine
OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)Programme for International Student Assessment~ 2018 年調査国際結果の要約~
無断欠席するのはだれか? – OECD
: MPs launch new inquiry into persistent absence and support for disadvantaged pupils
: 英国の不登校が危機的水準 コロナ禍後も増加続く – 教育新聞
26%を超える不登校が「ニューノーマル化」 米国の実情 ー 教育新聞
: Chronic Absenteeism Could Be the Biggest Problem Facing Schools Right Now – EducationWeek
: Chronic Absenteeism – U.S. Department of Education
: Truancy & Attendance Struggles – Legal Aid of North Carolina
: School anxiety and refusal: How parents can help their child get through tough times – BBC
「不登校傾向」が5年間で8万人増。カタリバ独自調査と支援現場の声で考える不登校の課題とこれから – KATARIBA
: Working together to improve school attendance – Department for Education

Children from low-income families in US more likely to miss school for health reasons – The Guardian
‘I felt absolutely lost’: the crisis behind the rising number of UK children being homeschooled – The Guardian
Exploring Homeschooling Trends – KUTEST KIDS

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