「東京での子育ては頭を下げてばかりで…」新聞記者で3児の母が悩んで見つけた“親子ワーケーション”という突破口 仕事も子育ても諦めない新たな選択肢

子どもにさまざまな経験を積ませたいけど、仕事をなかなか休めない…。子育てをしながら働く中でそう思うことはありませんか?旅先で仕事をしつつ、子どもは現地の自然や文化に触れる「親子ワーケーション」は、そんな悩みを解決する新しい働き方・休日の過ごし方かもしれません。
実際にワーケーションに子どもと一緒に参加してから、その楽しさにハマって自ら事業も立ち上げた、毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者で3人の子どもを育てる今村茜さんにその魅力を伺いました。

「旅先で働く」すごくいいなと思った

――今村さんにとって、今やワーケーションはライフスタイルの一部ですが、どのようにワーケーションに興味を持たれたのですか?

今村さん:2020年の東京オリンピック開催に向け、企業に大会期間中にテレワークをしてもらう準備として、政府が「テレワーク・デイ」を最初に設けた2017年、当時経済部にいた私は「日本航空がワーケーションという目新しい制度を導入する」と聞き、取材したのがきっかけです。

もともと旅が好きだったので、旅先で働くというスタイルを知って「すごくいいな」と思ったんです。ただ、うちは、夫も記者で多忙。当時は子どもを連れてワーケーションをするというのは、なかなか現実的ではありませんでした。また、2017年頃はまだコロナ禍前で、子連れでワーケーションができるような施設や環境もほとんど整っていませんでした。

――当時はまだ今ほどワーケーションという言葉も一般的ではなかったですよね。

今村さん:そうなんです。そんな中、2018年に仕事でワーケーションの実証実験に参加する機会がありました。ちょうど上の子が小学校に上がったばかりで、共働きの我が家は、長い夏休みに子どもを学童に預けっぱなしにすることに、どこか申し訳ないような気持ちがあったんです。せっかくの夏休みなのに、親が多忙でなかなかまとまった休みも取れず、お盆にどこかへ行こうにも混んでいるし高いし…と悩ましく思っていました。

仕事を休めなくて子どもに罪悪感…それがなくなった!

――それで参加してみていかがでしたか?

今村さん:実際に参加してみて、これは素晴らしいなと思いました。親がリモートワークをしている間、子どもたちは市の職員さんなどが水族館のバックヤードツアーや自然散策などに連れて行ってくれるというプログラムだったんです。仕事を休めなくても穴をあけることもないし、子どもには普段できないようなさまざまな経験をさせてあげられる。しかも、親が仕事をしている間、子どもたちは地域の方々とふれあっていてすごく楽しそうなんです。罪悪感を全く持たず過ごすことができました。

和歌山県白浜町の白良浜で仕事をする今村さん

今村さん:その後、いくつかワーケションに参加するうちに、こういう形がもっと広がったらいいなという思いが強くなり、毎日新聞社の新規事業制度に手をあげて事業として立ち上げました。2020年に第3子を出産したのですが、その頃にはコロナの追い風もあって、観光業界の回復を目的としたオンラインイベントも活発化、本格的に“親子ワーケーション”という概念が浸透し始めました。

「家族旅行よりも楽しい」第二のふるさとができて娘も喜んだ

――ワーケーションへの参加について、娘さんの反応は?

今村さん:それが、すごく良かったんです。長女は今中学生ですが、小学2年生の頃から色々なワーケーションに連れて行っていました。長女は「家族旅行よりもワーケーションの方が楽しい」と今でもずっと言っています。

――家族旅行とワーケーションでは、お子さんにとって何が違うのでしょうか?

今村さん:家族旅行は、もちろん楽しいのですが、良くも悪くも家族だけで完結しますよね。でもワーケーションの場合、行った先々で新しい友達ができるんです。旅の中でのふれあい、自然との出合い、地域の方々との絆が、ただの“非日常”ではなく、娘の成長にとって重要な刺激や素晴らしい体験になっています。

たとえば、鳥取・大山町に行ったときには、現地の同年代の子どもたちと一緒に活動するプログラムに参加して、そこで友達ができました。長女に「あの子たちに自分の友達も会わせたい」と言われて、東京の長女の友達を一緒に連れて鳥取に行ったこともあります。

鳥取県南部町にて。子どもたちはBBQを楽しみ、今村さんは仕事をしています

今村さん:現地で出会った同年代の子どもたちともすぐに打ち解け、“第2のふるさと”のような親密な関係を築くことができたと思っています。このワーケーションで築いた関係はとても素敵で、その後も4~5回もリピートで訪問しています。地域の方々と親戚のような関係を構築でき、子どもたちの成長を楽しみにしてくれています。こういった体験から、私はどんどんワーケーションの魅力にはまってしまい、2021年度からは、ワーケーションを開催する側になりました。

東京の生活しか知らないことに危機感があった。生きる力をつけてほしい

――今村さんの考える、ワーケーションの醍醐味とは?

今村さん:私自身が鹿児島の田舎出身で野山を駆け回って育ったせいか、東京生まれ東京育ちのわが子に対して「生活力がないな。このままでは不便を知らないまま育ってしまう…」そんな都会育ちの危うさを感じていました。

買って、消費して、捨てる、お金でさまざまなことがいとも簡単に済んでしまうのです。もちろん便利で快適ですが、その便利さゆえに、自分の頭で考えて工夫する機会が少ないのではないかと。地方に行って、あえて不便さを味わうことで、子どもたちにもっと自分で考えて行動する力を養ってほしいという思いもありました。

鳥取県南部町でタケノコ掘りをする娘さん

今村さん:畑を耕して野菜を栽培したり、収穫したり、川で遊んだり、お魚をさばいたり…。自分で何かを考えて作り出す、何かがダメなら代替案を出す、修理や工夫をする。お金では買えない“生活の力”を育むことこそが、ワーケーションの真骨頂だと感じています。

同じような年代のお子さんを持つ家庭からも、「都会ではできないことを体験させたい」という声が多く寄せられており、ますますワーケーションが果たす役割が大事だと感じています。

謝ってばかりの東京での子育て。疲れたとき、拡張家族の存在が支えになる

――親子ワーケーションに参加することで、親御さん自身にも何か良い影響はありますか?

今村さん:東京で子育てをしていると、特に子どもが小さい頃は電車に乗るだけでも一苦労で、ベビーカーを押しているだけで肩身の狭い思いをすることもあります。実際、4歳から中学生まで3児を育てながら働いていると、子どもの急な発熱で休んだり、保育園のお迎えがギリギリになったりして、周囲に頭を下げてばかりで子育てと仕事の両立に疲れてしまうんです。

だから、疲れたら地方にワーケーションへ行くことにしています。地方に行くと、地域のおじいちゃんおばあちゃんたちが「よく来たね」と温かく迎えてくれて、子どもを産んで良かったんだなと心から思える瞬間があります。

お子さんをおんぶしてワーケーションに参加することも

今村さん:わが子のことをまるで親戚のように迎えてくれる “拡張家族”のような存在ができることも心強いです。自然災害や不登校など、家庭だけでは対応しきれない社会課題が起きた際に、“別の地域にもうひとつの居場所がある”というのは、親にとっても子どもにとっても大きな心の支えとなるのではないでしょうか。

それでもわが子の成長が目に見えてわかる

――今村さんの主催するワーケーションで重要視していることとは?

今村さん: 自分が欲しいと思ったサービスを具現化しつつ、その自治体と連携し、無理のない範囲で子どもたちに豊かな学びを提供できる場をつくっています。参加した子どもたちは、社交性が高まったり、未知の体験にも物怖じしなくなったりと、目に見える成長を遂げています。実際、引っ込み思案だった次女も、田植え体験などを通じて少しずつ変化して行ったことは、母として印象深かったです。

千葉県南房総市でお子さんと一緒に田植えをする今村さん

金銭面や交通面はまだまだ課題もあるけれど、そのぶん支援も

――ここまで魅力たっぷりのワーケーションですが、デメリットもあるのでしょうか?

今村さん:ワーケーションには、まだまだ課題もあります。最大のネックは金銭面や交通面。とはいえ、自治体によっては補助金が出るプランもあり、観光繁忙期を避ければ比較的リーズナブルに参加できるので、事前のリサーチが重要です。

自治体によってはワーケーションの費用を補助してくれる制度があるので、そういったものを活用するのも良いと思います。「ワーケーション 補助」などで検索すると、福島県や富山県、福井県、北海道の富良野市など、色々な自治体の情報が出てきますよ。

交通に関しては、やはり車があった方が便利なのは事実です。ただ、首都圏の女性で運転ができないという方は非常に多いので、ワーケーションに参加するにあたり車の運転がネックにならないように、企画する際には、駅や空港からの送迎バスを手配していることもあります。

意外とハードルは高くない! 仕事も子育ても諦めないで

――これから親子ワーケーションを始めてみたいという初心者の方に向けて、行き先を選ぶ際のポイントやアドバイスはありますか?

今村さん:「移住」「定住」「リモートワーク」などのキーワード検索、さらには自治体のHPを見たり、直接連絡してみたりするのも有効です。私が運営に関わっているFacebookグループ「親子ワーケーション部」では、企画の主催者がイベント情報を投稿しているので、そういったところで探してみるのも良いかもしれません。夏休み前や春休み前など、時期に合わせてチェックしてみてください。

親子ワーケーション部」(Facebookコミュニティ)をチェックしてみて

今村さん:糸魚川市の「See You Againプロジェクト」のように、小規模校体験や保育園留学と連動した取り組みもあり、未就学児の参加が可能な例もあります。関東近県ならば、小田原や秩父など、鉄道会社が企画したものなど、まずは近場で1泊から、というのも始め方としてはおすすめです。一度参加して土地勘や知り合いができれば、ワーケーションへのハードルもグッと下がると思いますよ。

――今後、この親子ワーケーション事業を通じて、どのようなことを目指して行きたいですか?

今村さん:やはり、自分自身の経験からも、子どもに色々な体験をさせたい、でも自分のキャリアも諦めたくない、そう思う人がどちらも両立できる社会になってほしいという思いが根底にあります。子どもはもちろん大事だけれど、自分が好きで就いた仕事も続けたい。子どもを産んだことをデメリットにするのではなく、相乗効果を生んで行きたいです。

今村さんが企画するワーケーションをチェック!

今村さんがおすすめする、夏休みの親子ワーケーション。まずは情報収集から始めて、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

昨今、価格高騰で世間をにぎわすお米と、それにまつわる食育の話は必見です!

「食育×自然体験! “米”を学ぶファミリーワーケーションin福島・古殿町をご紹介  #働くを考える vol.25」

日時:2025年6月3日(火)正午~午後1時
手法:オンライン(見逃し配信あり)・参加無料

詳細・申し込みは>>こちらから

【夏休み・2泊3日】食育×自然体験! “米”を学ぶファミリーワーケーションin福島・古殿町

日程:2025年7月21日(月祝)13:00集合 ~7月23日(水)12:30解散
場所:福島県古殿町
対象:首都圏等の都心部に住む、小学3年生~中学生のお子さんがいる親子を10人(目安3組)募集
参加費:大人1人2万円、子ども1人1万円(予定)
主催:福島県県中地方振興局

詳細・申し込みは>>こちらから

お話を伺ったのは

今村茜 毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者

毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者。2006年毎日新聞社入社、経済部等を経て親子ワーケーションのルポ記事執筆を機に新しい働き方を模索する新規事業Next Style Lab(編集企画「リモートワーク最前線」)発足。2020年からは記者を兼務しながら毎日みらい創造ラボで事業展開。

親子ワーケーション部は>>こちらをチェック

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取材・文/羽生田由香  写真提供/今村茜

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