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子どもはみなアーティスト!
――自宅で子どものアート教室を開いたきっかけは?
10代からアートが好きで、イラストやグラフィックの仕事に就きたいと目指していました。美術の学校を卒業し、就職して広報誌を作り楽しかったのですが、結婚・出産で育児に専念。
ある日、家で娘とお絵描きをしていたとき、娘が大人にはできない描き方をしていて、ハッとしました……。「子どもは、大人の想像がつかない表現ができる。ほかの子もいろいろな表現ができるはず。子どもにアートを教えて、個性的な表現をもっと広げたい」→「子どものためのアート教室を開こう!」と思い立ちました。
――そこで、ご自宅の一部をアート教室の場に?
そうです、自宅なら費用を抑えられます。娘が「うちでお絵描き教室やるよ~」と絵付きカードを作って、幼稚園でお友達に配ってくれて。最初は自宅のリビングにテーブルと座布団を用意して始めました。
初日は、幼稚園のお友達3人が来てくれまして。するとクチコミで広まり、幼稚園のクラスの子全員が来てくれたことも。
徐々に生徒が増え、レッスン回数の増加に伴い、自宅近くに教室を構えたり、近所にあった世田谷ものづくり学校、外部ワークショップ等でも教えたりしていました。
仕事を続ける3原則+“自分が楽しむ”

――家事と講師業の両立、どんな工夫で乗り切りましたか?
やはり体が資本ですので、自分も含めた家族の体調管理を徹底しました。風邪を引くと、生徒を教室に呼べなくなりますから。
それから、タイムスケジュールの管理。教室は、幼稚園や学校の放課後の時間帯ですので、1日の流れを決め、夕方以降バタバタしないように午前中で家事をできるだけ終わらせておく。というと、完璧に聞こえるかもしれませんが、大変なときの夕食はお惣菜を用意するなど、工夫していました。
あとは、教室のカリキュラムをきちんと作り、レッスンを習慣化。会社員の方の日々の通勤のように、講師業を毎日習慣化すると流れができ、体も慣れます。家のことも、仕事を始めたばかりの頃は大変に感じても、だんだんやりくりのコツが掴めました。
そして……アートが好き、子どもが好きで始めた仕事ですので、“自分が楽しむ”気持ちを大事に。楽しいから続けられるわけで、自分が楽しめるレッスンをする、それが基盤です。

対面の教室が大打撃を受けて……
――対面で長年レッスンをされていらしたとのこと。オンラインで子ども向け、大人向けの講座を始めたきっかけは?
それは……コロナ禍がきっかけでした。世の中が停止し、対面の教室が開けなくなって。自宅近くで開催していた教室は閉め、自宅でオンラインレッスンのみを続け……。
「これからのレッスンはどうするとよいだろう?」と、かなり考えました。そして「今後、教室の指導は対面でなくてもできる!」と確信し、現在のオンライン講座のアイデアが生まれました。このスタイルなら、全国に広められます。
子ども向けのオンラインアートクラスを開講した後、以前からアシスタントさんをしてくださる方や周りから「子どものアート教室を開く夢があるので教えてほしい」という声があったことを思い出しました。そして、「子どものアート思考を養う教室が全国にあれば!」と閃いたのです。それが大人向けの講座開講に行きつきました。
「絵で自己表現したい子ども」「子どもにアートを習わせたい親」、私のように「アートを仕事にしたい大人」が繋がるといいな、と思ったのです。

子ども向け、大人向けのオンライン講座が誕生!
――コロナ禍の試練が新たな講座を生んだのですね……! “アートを仕事にしたい”大人向けのオンライン講座は、どのような内容でしょうか?
大きく分けると2本の講座があります。
ひとつは、子どものアート教室を始めたい方のための自宅学習用の動画講座「L’atelier DADA」。初心者向けで、好きな時間にご自身のペースで学べ、当教室の人気講座である7人の名画を模写するガイド動画、名作を粘土で作るガイドテキストなども含まれます。
もうひとつは、子どもにアートを教えるカリキュラム提供の講座「Kids Art Dada」です。受講生は、自宅学習で学んだ方、アート講師や保育士の先生でカリキュラムを学びたい方などが多いです。カリキュラムをZOOMでグループレッスンし、それぞれの表現を見比べたりしてアート思考を深めます。

教室運営+レッスンの注意ポイント
――大人の講座も楽しそうです。では実際、アート教室を運営するうえで気をつけることは? 費用を抑えるポイントなども教えてください。
自宅で対面教室を始める場合は、机と椅子が必要ですが、椅子は3~4人分で充分と思います。自宅のダイニングテーブルと椅子を利用すれば、初期費用を抑えられます。最初は画材を購入する必要がありますが、カリキュラムを構築し、画材を有効利用する内容にすれば費用の圧縮ができます。
「オンラインで子どものアート教室を始めたい」という方も時折いらっしゃいます。物理的にはパソコンと手元カメラがあれば可能かもしれませんが、実際、対面レッスンで教えた経験のない方にはおすすめしません。子どもの行動や発言を予測・察知し語りかけながら進める、分かりやすく伝える、間の取り方、これらはリアルな対面教室経験があってこそ。
まずは、対面レッスンで教える経験を積み、コツを掴んでオンラインレッスンへ進む。すると、オンラインレッスンもスムーズに進めやすいと思います。

パリで自由に! 自分の表現も開花
――子育てが一区切りつき、アートの先生として新しいことは始めましたか?
娘が社会人になり、「もっと自由にやっていこう!」と思った矢先のコロナ禍でしたが、それが落ち着き、「見たかった! やりたかった!」ことをやるチャンスが来まして。
飛行機が得意ではないのに、フランスのジベルニーにあるモネの家を訪れたり、芸術家のミュージアム巡りをしたり、パリでアパートを借りてアートのオンラインレッスンをしたり。結果、新しいレッスンのカリキュラムを考えることができました。

また、子どもたちの作品を発表し、その様子を見守ってきましたが、あるとき「先生の作品を見たい!」と言われ……。今年は、自分が描きたいものを描き、個展を開催しました。
30~40代のときは、仕事以外に新しいことをする時間は取れず締めていたので、何かやりたいと考えも及びませんでした。でも卒育すると、心の隅でやりたいと願っていたことが叶えられ、それがアート教室を続けてきたことに結びついていて……。
物事にはタイミングがあり、チャンスは巡ると確信しました。やりたいことを信じて行動すること、大事です!
――好きなことを仕事にし、家庭と両立し、卒育後、心に秘めていたことを叶える人生は、励みになります!

▼わかこ先生の「オンラインで名画模写」についてはこちら
お話を伺ったのは

横浜美術大学グラフィックデザイン卒業、中学校美術教諭免許取得。バンタンデザイン研究所イラストレーション卒、セツ・モード・セミナー卒。2004年、東京都世田谷区で幼児から高校生までの絵画造形教室【こどものアトリエ@三宿】を開講。アート大国フランスをはじめとした海外の美術教育方法を取り入れた指導を行う。2021年AmazonのKindleで『自宅でできるアート教室のはじめ方』を出版。オンラインアートクラスを開講。2022年からアート講師の養成講座を開講。
取材・文/伊藤菜朋子