「舌下部がぷっくり腫れてる」「急に下顎が痛む」・・・唾液腺が詰まっているかも。【唾石症、粘液嚢胞、ガマ腫】について歯科医が警鐘

暑い季節を迎え、のどの渇きを感じることが増えると思いますが、もしかすると唾液腺がつまって正常に唾液が出ていないのかもしれませんよ。今回は、唾液腺にできる結石――唾石症など、唾液の流出に関わる疾患について論じます。

執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

唾石症とは?

身体にできる「石」と言えば、尿管にできる尿路結石や胆嚢にできる胆石などが知られていますが、一方で、口の中の「石」と言えば、まず歯石が思い浮かぶ人が多いと思います。

実は、唾液を分泌する唾液腺にも石ができることがあります。

唾石症とは、唾液を作り出す大唾液腺(顎下腺や耳下腺、舌下腺)の中や唾液を排出する管(導管)の中に結石ができ、唾液流出障害や炎症が起きる病気で、特に顎の下にある顎下腺が多く(約8割)、次いで耳の下にある耳下腺に多く認められます。

唾石ができるメカニズムは、唾液腺や導管内に侵入した小異物や細菌、脱落した粘膜上皮などが核となって、周囲に石灰質が沈着して形成されます。唾石の主成分として、リン酸カルシウム(約75%)や炭酸カルシウム(約25%)などが明らかにされています。

症状としては、食事の際に片方の顎下部が急に腫れて痛みを伴ったり、唾液が出なくなったりすることが多いですが、唾石が小さなときは症状がないことも少なくありません。

唾石症はすでに1歳頃の乳幼児期から発症することが報告されており、成人になるまでは年齢の増加とともに発症率が上昇することが知られています。

子どもにおける唾石症の研究調査

2021年に横浜市立大学の研究グループが、2007年1月~2018年8月までの期間に、同大学附属病院の歯科口腔外科・矯正歯科を受診し、唾石症と診断された1583例の患者のうち、初診時16歳未満の患者111例(全唾石症患者の約7%)を対象として統計を出しました。

図1. 年齢別にみた小児唾石症の発症数

その結果、初診時の年齢は15歳が19例となって最も多く、次いで11歳が14例となり、3歳以下には認められませんでした(図1)。

性別では男児が61例、女児が50例で、受診時の症状は唾液分泌障害による腫張(腫れ)が70.3%と最も多く、疼痛(強い痛み)が26.1%、舌下部の異物感が2.7%となりました。無症状で偶然発見されたケース(歯科治療のパノラマレントゲン撮影でたまたま唾石が写っていた)も1例認められました。

また、唾石ができた部位は9割以上を顎下腺が占めて、残りは耳下腺でしたが、唾石の個数では1個が81.8%であったのに対し、残り20%近くが複数個となり、5個以上あったケースも数人認められました。

唾石の大きさは5mm未満が8割を超えましたが、中には10mmを超えるものも数例認められました(図2)。

図2. 唾石の大きさ

唾石症の診断と治療

では、唾石症の診断方法と治療方法にはどのようなものがあるのか、具体的に見ていきましょう。

診断法は・・・

症状や触診、超音波検査(エコー検査)、レントゲン検査などで診断できることが多いです。触診では口の中の粘膜下に、硬い石の感触を触れることができます。

また、レントゲン写真では円形や類円形の白い像が写ります(図3)。ただし、微小で判別しにくい唾石の場合は、CT検査(断層撮影検査)が必要なこともあります。

図3. 子ども(10歳)にできた唾石

治療法は・・・

まずは抗菌薬や鎮痛薬などの内服薬、あるいは含嗽薬(うがい薬)などで炎症を抑えることが大切です。

唾液分泌が活発になる食事中や食後に一時的に腫れて痛みを伴うことが少なくありませんので、食後にはしっかりと唾液腺マッサージ(顎下腺の場合は下顎のラインの内側、耳下腺の場合は耳の下辺りの頬を優しくもみほぐす)をすることも重要です。

小さな唾石は自然と排出されることもあるため、しばらく経過を観察しますが、改善しない場合や大きな唾石の場合は手術適応になります。

唾石手術の種類や時間などについて

手術の際、唾液の出口に近い唾石ならば局所麻酔下で口の中から摘出することが可能ですが(口内法)、唾液腺の中にあるような深部の唾石は全身麻酔下で摘出術を行う必要があります(口外法)。

先述した横浜市立大学の研究報告では、手術時間の平均が口内法による唾石摘出術(46±38分)、内視鏡下唾石摘出術(65±47分)、両者の併用術(56±28分)となり、およそ1時間前後の手術時間であることが判明しています。

また同調査では、手術に伴う合併症として口内法の5.1%に術後に舌神経麻痺が起きたことを報告していますが、薬物治療などにより1か月以内で改善しています。

このように、唾石の大きさや形成された場所などにより治療法が大きく異なりますので、治療方針については主治医と十分に話し合って決めていくことが重要です。

粘液嚢胞とガマ腫

唾石症は唾液の分泌を妨げる大きな原因の一つですが、これに関連する疾患を紹介しましょう。

粘液嚢胞(のうほう)は口の中にある小さな唾液腺や導管(唾液の流れる管)が、小さな異物(微小な唾石も含む)や外傷による組織損傷でふさがれ、唾液の流出が妨げられてできる小水疱のことです。

小唾液腺は口唇などの口腔粘膜全般に認められますが、粘液嚢胞は腫れはあるものの痛みがないことが多く、口内炎のような周囲の赤みがないことも特徴です。

数日で自然治癒することが多いですが、食事の妨げになったり再発を繰り返したりする場合は、麻酔して外科的に切除することもあります。

一方、唾液の流出障害が三大唾液腺の一つである舌下腺(舌の下部にある)に起きると、口底部(舌の下部)の、中には数センチにも及ぶ腫れが生じることがあります。ガマガエルがのどを膨らませている見た目に似ていることから「ガマ腫」(別名ラヌーラ)と呼ばれています(図4、高齢者のケース)。

図4. 舌の下にできたガマ腫

子どもでも発症するガマ腫

ガマ腫はあらゆる年齢に発症しますが、15歳以下の小児でも比較的多く認められる疾患です。

2004年に琉球大学の研究グループが行った報告では、1986年1月~2003年12月までの18年間に同大学医学部附属病院・歯科口腔外科を受診し、臨床的にガマ腫と診断された15歳以下の小児67人について統計を出しています。

初診時の年齢は生後4か月から始まって10歳が最も多くなり、平均年齢は8.7歳でした。

男女比としては1:1.8で女児に多い傾向が認められ、主要症状として口底部の腫れが91%を占めました。

治療法としてはおよそ6割の症例に手術が実施され、嚢胞開窓術(嚢胞を切開し、貯留した唾液を排出する手術)を中心に嚢胞摘出術などが行われました。

以上より、唾液の流出障害を起こす疾患は子どもでも決して少なくなく、「痛くも赤くもないけど、口の中の粘膜が腫れている」といった異常があれば、速やかに歯科医院を受診することが大切です。

先述したように唾石の始まりは小さな異物が核になることですから、唾石の核ができないように口の中を清潔に保ち、唾石症を防ぎましょう。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考:北島大朗ほか:小児に生じた唾石症の臨床的検討.日本口腔外科学会雑誌67(5),2-8,2021.
:小林泰輔:唾液腺手術:唾石症とガマ腫の治療.日耳鼻121,771-776,2018.
:山田桂子ほか:小児のガマ腫に関する臨床的検討.小児口腔外科 14(2),18ー22,2004.
:大西将美;ガマ腫を合併した顎下腺唾石症の1例.日咽科13(1),115,2000.

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