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赤ちゃん心理学の権威が、実際に子育てをしながら研究したリアリティある著書
赤ちゃん心理学を研究する奧村優子氏の著書として話題の本、『赤ちゃんは世界をどう学んでいくのか』。
実際に2人の子どもの母でもある著者が、0〜2歳の赤ちゃん、そして幼児の“あるある”を統計データを使って研究者目線で解説。難しくなりがちな内容も、子育て中のパパママにもわかりやすく共感できる内容となっています。
※ここからは「赤ちゃんは世界をどう学んでいくのかーヒトに備わる驚くべき能力ー」(光文社)より引用・抜粋しています。
赤ちゃんは顔が好き
生後間もない赤ちゃんが大人の顔を見つめてくることがあります。見つめられた大人は思わず笑顔になってしまうことも。でも赤ちゃんは大人の顔がわかるのでしょうか?

著者もこんな体験をしているようです。
私自身、娘が生後2ヶ月頃に、視線への反応を試してみたことがあります。娘の布団の周りをぐるぐるとハイハイで移動しながら、娘が私の顔を目で追うか観察しました。すると、私が動くと娘も目で追い、視線が合うと「あーっ!」と声を出して喜びました。
視線が合うと、赤ちゃんだってうれしい!
生まれたばかりの赤ちゃんが、親の顔を見てうれしそうにしているように見えることがあります。
実験では、生後間もない新生児にさまざまな図形を見せたところ、顔の形をした図形を他の図形よりも長く見つめることが発見されました。
驚くべきなのは、新生児は視力が非常に低いにもかかわらず、顔を注視していることです。赤ちゃんの視力は、生後すぐでおおよそ0.02程度であり、生後6ヶ月でも0.2程度とされています。この限られた視覚能力で、さらに、顔を見た経験がほとんどない状態にもかかわらず、赤ちゃんが顔を認識し注目することは、非常に興味深い現象です。
視線が合うことは親にとってうれしいものですが、赤ちゃん自身もうれしいようです。脳の研究でも、赤ちゃんが親と視線が合うことに喜びを感じていることが示されています。
赤ちゃんは人を選ぶ
パパママが教えたつもりはないのに、お子さんがよく知っていることはありませんか? 著者はこんな“あるある”を体験したそうです。

私の娘は、保育園の担任の先生に絶大な信頼を寄せています。晴れた日の玄関で傘を握りしめる娘に「今日は雨が降らなそうだから、傘はいらないよ」と私が言っても、「先生は降るかもしれないって言ってたから、傘持っていくよ!」と、母である私よりも先生からの情報を優先していたりします。
赤ちゃんは情報の正確さを基準に学習している
一般的に、子どもは同じ年頃の子どもよりも、大人からの情報を優先して学習することが示されています。ところが、おもちゃの機能のように、同年代の子どものほうが詳しそうな内容に関しては、大人よりも子どもから学ぶようです。
つまり、子どもは学ぶ内容に応じて柔軟に、誰から情報を受け取るべきかを選択しているのです。
子どもは、他者からの情報をただ受け取るだけではなく、情報提供者の信頼性や背景を考慮しながら、状況に応じて最適な情報源を選んで学習しています。
赤ちゃんは方言が好き
日本の赤ちゃんは、方言をどのように感じているのでしょうか。正しい日本語を教えるため、赤ちゃんには標準語で話しかけているというパパママもいらっしゃるかもしれません。

方言についても本書から興味深い実験結果をご紹介します。
赤ちゃんは生後8ヶ月頃から方言を聞き分ける
関東方言と関西方言の音声を赤ちゃんに聞かせ、その反応を調べた研究があります。
その結果、関東方言を養育環境とする赤ちゃんは、5~7ヶ月の時点ではどちらの方言にも特に選好を示しませんでしたが、8ヶ月になると普段聞き慣れている方言の音声を長く聞くことが示されました。
友達選びに関しては、関東地域の子どもは東京方言話者と、関西地域の子どもは京都方言話者と友達になりたいと考えることがわかりました。
一方、単語の学習に関しては、関東地域と関西地域のいずれの子どもも東京方言話者から学びたいと答える傾向がありました。この理由として、ニュースや教育番組、絵本など、学びの文脈で触れることが多いメディアでは、東京方言が使われることが影響していると考えられます。
赤ちゃんは人助けが好き
たとえば園にお子さんを迎えに行ったとき、お友達が「お迎えだよー!」とわが子を呼びに行ってくれた経験はありませんか? 著者もこんな経験を例に挙げています。

次女が通う保育園の0歳児クラスでは、お外遊びの時間になると、ジャンパーの渡し合いが始まるそうです。自分が着るよりも、お友達にどうぞと渡してあげたい気持ちの方が強く、追いかけ合いになることもあるようです。
まだ小さい子どもたちのお手伝いは、どんな気持ちで行われているのでしょうか。
お手伝いの感謝はご褒美よりも「ありがとう」?
実験では、1歳8ヶ月の赤ちゃんが援助行動をした際に、①何も報酬を与えない、②お礼を言う、③物理的な報酬としておもちゃを与える、という3種類の反応をしました。その後、赤ちゃんの援助行動がどのくらい続くかを比較したところ、③のおもちゃを与えられた赤ちゃんは、次第に援助行動が減少することがわかりました。
つまり、赤ちゃんは自分から進んでやっていたお手伝いを、おもちゃが与えられるとしなくなるのです。これは、赤ちゃんにとってお手伝いは、自分がやりたいからしている行動であり、おもちゃというご褒美がその動機を弱めてしまうと解釈されています。
お手伝いをしてくれたときには、ものを与えるのではなく、感謝の言葉を伝える方がよさそうです。
※ここまでは『赤ちゃんは世界をどう学んでいくのかーヒトに備わる驚くべき能力ー』(光文社)より引用・抜粋しています。
赤ちゃんは大人が思っている以上にいろいろ考え、見ている!
本書で取り上げている疑問は母である著者が、生活の中で感じた疑問を専門家としての裏付けとともに紹介しています。
今回取り上げた疑問以外にも、子育て中のパパママが知っておきたい赤ちゃんトリビアがいっぱい。
言葉を話さない赤ちゃんも、何も考えず、ボーっと過ごしているわけではないことがわかります。
実体験と研究によって明かされる、赤ちゃんの驚くべき能力。赤ちゃんに対する大人たちの思い込みが覆されることでしょう。
ぜひみなさんも本書を手に取って実感してみてくださいね。
「赤ちゃんは生まれながらに利他的である。自分の取り分が減っても他人に大事なものを分け与えるし、他者を助けることが好き。正義の味方を好み、悪者には処罰感情を持つ。(中略)そして赤ちゃんはいつも、いつでも、学びたい。効率的に学ぶことができそうな相手を選んで瞬く間に自分のものにする学習能力は、最先端AIの能力をはるかに凌ぐ」(光文社サイトより)
気鋭の研究者で二児の母でもある著者が、最先端の心理学研究を踏まえながら、「赤ちゃん」が生まれながらに持つ驚きの能力を解説。「赤ちゃん」という存在を通して人間の本質を探究します。
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文・構成/kidamaiko
