泣いたら抱っこは正解です。子どもの自立に欠かせない「アタッチメント」ってなあに?【専門家に聞く赤ちゃんの成長のヒミツ】

日々の成長がめざましい赤ちゃんは、体と共に感情も成長しています。子どもの安定した成長に欠かせない「アタッチメント」について、NHKEテレ『すくすく子育て』コメンテーターでもおなじみの、東京大学大学院教授・遠藤利彦先生に解説していただきます。

子どもに安心感を与えるアタッチメント

子どもの成長・発達に関するキーワードとして、「愛着」「アタッチメント」といった言葉がよく使われるようになってきました。

「愛着」は、「アタッチメント(Attachment)」を意味の近い日本語に当てはめたもの。「愛」という文字がはいっているために「愛着=愛情」と受け止めてしまい、「子どもにしっかり愛情を注げばよい」と捉えている人が少なくありません。でも、子どもの発達に関する用語として使う場合、「愛着」と「愛情」はまったく意味が違うのです。

アタッチメントの意味は、「アタッチ(Attach)=くっつける」。子どもが大人にくっつくことを指します。

アタッチメントはスキンシップとは違います

「くっつく」というと、体の触れ合いを楽しむスキンシップと混同されることもありますが、アタッチメントはスキンシップとは違います。

もちろん幼いうちは、子どもをケアする際に抱っこすることも多いでしょう。でも、その場面で重要なのは、物理的に触れ合うことより安心感を与えること。

体ではなく、心がくっついていることに意味があるのです。たとえ子どもを抱っこしていても、おざなりな対応をしていたのでは安心感は生まれません。

反対に、見守る、話しかける、笑いかける、といったことで子どもが安心できるのであれば、必ずしもスキンシップをとらなくてもよいのです。

アタッチメントは、子どもがくっつきたいと思う人との間に生まれます

アタッチメントについて考える際、重要な点がふたつあります。

ひとつめのポイントが、特定の相手との間に成り立つこと。くっつくことさえできれば誰でもよいわけではなく、子どもが「この人にくっつきたい」と思うことが肝心なのです。この場合の「特定の相手」は、ひとりとは限りません。

たとえば、家庭では母親、園では担任の保育者、のように場面に応じてくっつける相手がいる場合もあります。また、いちばんは母親だけれど、母親がいないときは父親、のように複数の相手が対象となっていることもあります。

子どもが不安になったときに必要なのがアタッチメント

ふたつめのポイントが、子どもの感情がくずれたときに生じるものであること。

元気に楽しくしているとき、子どもはくっつくことを求めていません。恐れや不安などを感じたときに、子どもは「あの人にくっついて安心したい」と感じるのです。ネガティブな気持ちになり、助けを求めたくなったタイミングでくっつけることに意味があるのです。

つまりアタッチメントとは、「子どもが不安になったときに特定のおとなにくっついて安心感を得ようとする気持ちや行動」と定義することができます

子どもが泣いたらすぐに抱っこしていいのです

怖いときや不安なとき、幼い子どもはその気持ちを泣いて表現します。泣き声を聞いた大人はすぐに抱っこするなどしてなぐさめ、安心させる。これがアタッチメントの基本です。

子どもは自分で感情を立て直すことができないため、大人の手助けが必要なのです。

「泣いたらすぐに抱っこ」というと、「甘やかしている」と感じる人もいるかもしれません。少し我慢する経験をさせたほうが強くなり、早く自立できるようになる……というイメージもありますが、実際は逆。

くっつくことを求めたときに応えてもらえないと、子どもはくっつくことに固執するようになります。その結果、くっつきたい相手から離れることを不安に感じ、しがみつきや後追いが激しくなる傾向があることがわかっています。

アタッチメントが不足すると子どもの自立に影響が!

泣いて訴えてもケアしてもらえないと、子どもは「もう二度と怖い思いをしたくない」などと感じます。自分の身を守るため、新しい挑戦をするより、親のそばなどの安全なところにとどまることを選ぶようになるでしょう。

そうなると自分の世界がなかなか広がらず、新しい経験をしたり、挑戦に成功して「できた!」という喜びを感じたりする機会も少なくなってしまいます。

子どもが親のそばを離れて自発的な行動をとるようになるためには、幼児期に「くっつきたいときにくっつける」経験を重ねることが必要なのです

構成/野口久美子

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記事監修

遠藤利彦先生 東京大学大学院教授

東京大学大学院教育学研究科教授。専門は発達心理学・感情心理学。おもな著書に『赤ちゃんの発達とアタッチメント』(ひとなる書房)、『「情の理」論』(東京大学出版会)、『入門アタッチメント理論』(編・日本評論社)などがある。

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