イマドキ「爪楊枝」ってどうなの? 子どもが使っても大丈夫? リスクとマナーについて歯科医師が解説

食後に歯の間の食片を取り除いたりする爪楊枝ですが、マナー的な問題だけでなく、安全面でも気を付けたいアイテムなのをご存じでしょうか。これからの秋の行楽シーズン、お弁当の爪楊枝で思わぬ事故に至ることがあるかもしれません。今回は爪楊枝の使用について、マナーや危険性の観点を中心に論じます。

執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

食後の爪楊枝、どれくらいの人が使うの?

爪楊枝(つまようじ)は、料理でばらけやすい食材をまとめたり、タコ焼きのような料理を口に運んだりするときに使う「フードピック」と、食後の歯の詰まりを取る「トゥースピック」に分けられますが、いずれも日常的に目にする機会の多いアイテムだと思います。

中でもトゥースピックは飲食店のテーブルに置かれていたり、コンビニやスーパーで購入するお弁当の箸袋に入っていたりして、食後の歯の詰まりの改善には欠かせないものだという認識があるようです。

2021年に2000人を対象に実施されたアンケート調査によると、「あなたは、食事の後、つまようじを使ったことがありますか」という質問に対して88.4%が「ある」と回答し、爪楊枝の使用が日本では深く根付いていることがうかがえました。

一方、「ある」と答えた人にその頻度を聞くと「たまに使う」が87.7%、「毎回使う」が12.3%となり、必要なときだけ使う人が多数を占めていることがわかりました(図1)。

図1. 爪楊枝を使う頻度

爪楊枝を使う“歯の詰まり”はなぜ起こる?

食後に爪楊枝が必要なとき、つまり歯の周りに食片が詰まる原因をいくつか挙げてみましょう。

・虫歯がある
・歯周病で歯ぐきがやせている
・歯並びが悪い
・噛み合わせに問題がある

つまり、虫歯で歯に穴がある場合はもちろん、歯周病で歯ぐきがやせて歯間に大きな隙間ができたような場合、食片が詰まりやすくなります。

また、歯並びに問題があって歯の間に隙間があったり歯が重なったりする場合や、噛み合わせのアンバランスで特定の部位に力がかかるようなとき、食片が挟まりやすくなることもあります。

つまり、様々な原因で食片が詰まって多くの人が使うことになる爪楊枝ですが、そもそも食後の使用は果たして正しい行為なのでしょうか?

食後の爪楊枝使用はマナー的にどうなの?

「武士は食わねど高楊枝」。これは、武士は食べるのに困るほど貧しくても見栄を張って食べたフリをすることを表す慣用句で、食事と爪楊枝の関係は古くから知られています。

また、爪楊枝を口にくわえて歩く姿は、満足した食後の風景を象徴するシーンとして、映画などで使われることもあります。

では、このような仕草はマナー的にはどうなのでしょうか?

先述のアンケート調査で、爪楊枝を使ったことが「ない」と回答した人の理由で最も多かったのが「人前で使うのが恥ずかしい」で、36.7%を占めました。つまり、人前で爪楊枝を使うのはマナー的に好ましくないとの認識を持つ人が少なからずいることを示しています。

食事の後に、そのままテーブルで爪楊枝を使用するケースだけでなく、手で口元を覆って爪楊枝を使うケースがありますが、いずれも周りに不快に思う人がいる可能性があります。つまり、人前で爪楊枝を使うこと自体がNG、という人もいるということです。

正しいマナーとしては、爪楊枝を持って化粧室やトイレに行き、鏡の前で使うのが良いでしょう。しかも、鏡を見て汚れを落とすことができるため、よりキレイにできて一石二鳥です。

食後の爪楊枝の使用は、時や場所を選んで、周りの状況を見て行いましょう。

爪楊枝は使い方次第で、危険な道具に!

先述したように爪楊枝はフードピックとトゥースピックに分けられますが、いずれも先端がとがっている形状をしています。この形のために、爪楊枝が時には危険な凶器になることがあるのを知ることも大切です。

まずフードピックとしての爪楊枝では、2020年に日本小児科学会の委員会が子どもの重大な事故事例を報告しています。

この報告書によると、1歳7か月の男児が母親手作りのお弁当のハンバーグに使われていたキャラクター弁当装飾用のピックを飲み込んでしまい、救急搬送されました。

およそ3時間後に食道からピックは摘出されて命に別状はありませんでしたが、母親が4歳の姉に注意を払っている間に誤飲したと推測されています。

通常、キャラクターの絵柄が描かれている部分は外から見えますが、料理に突き刺しているとがった部分は埋もれて見えません。

危険意識が発達していない小さな子どもは、大好きなキャラクターに喜んで安易に飲み込んでしまう可能性があり、要注意です。

トゥースピックとしての爪楊枝の事故事例

日常的に使う人も少なくない爪楊枝ですが、鏡を見ずに手探りで歯間の食片を取り除くのは、実は危険な行為です。一歩間違えれば、とがった先端部が歯ぐきを傷付け、出血したり細菌感染を起こしたりする可能性があります。

また、爪楊枝が途中で折れたりして飲み込み、腸などの消化管を傷付けて重篤な状態になった症例も報告されています。

2023年の横浜新緑総合病院・消化器センター外科の報告では、78歳の女性が飲み込んだ爪楊枝がS状結腸に突き刺さって細菌感染を起こし、肝臓に膿瘍を作る原因になりました。

一方、2020年に秋田赤十字病院・消化器外科が報告した症例では、足の大腿(太もも)の痛みで受診した患者を詳しく調べたところ、爪楊枝が直腸に突き刺さって貫通しており、神経を刺激していたことがわかりました。

実際、私の病院でも折れた爪楊枝が歯の間から抜けなくなって急患で来院され、麻酔をして取り除いたケースがあります。

これらの症例のように、爪楊枝が消化管の粘膜に突き刺さって内視鏡などの手術で取り除くという重大な事態に至ることがあり、胃を通り越して腸まで達するケースも多い(図2)ことから、爪楊枝の使用には注意が必要です。

図2. 誤飲した爪楊枝の刺入部位

爪楊枝の正しい使い方の提案

人前で使うのは控えましょう

食後の詰まりは、やはり気になるもの。できれば早く取り除きたいという気持ちが湧くのは当然です。しかし、不快に思う人も少なからずいることを考慮し、人前で使うことは極力避けましょう。

歯間の食片は、歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロス(糸ようじ)など、歯の清掃の専用用具を洗面所で使うことをおすすめします。

鏡を見ながら安全に

爪楊枝を手探りで歯の間に入れるのは危ないため、鏡を見ながら慎重に行いましょう。ただし、鏡では動きが左右逆になるため気をつけてください。

子どもは使わないほうが安全

子どもは生えかわる途中の不安定な歯があったりするだけでなく、歯ぐき自体が弱いため、爪楊枝のちょっとした刺激で歯ぐきが傷付いたり出血したりしやすいです。

安全面を考慮するなら、子どもには使用しないほうがいいでしょう。

子どもの前では使用を控える

子どもは、大人がしていることを真似する傾向があります。爪楊枝を使うことを習慣化させないためにも、子どもの面前で使うことは控えましょう。

特に歩行しながらの爪楊枝は、子どもが真似すると大変危険なため、子どもの前ではやめましょう。

正しく使って口臭予防に

日本では北海道などでハッカ風味の爪楊枝があり、海外でもミントやシナモンといった多くのバリエーションがあります。食後の口臭対策として効果的に活用しましょう。

フードピックの使用にも要注意

特に子どもが小さな場合は、食事中は子どもから目を離さないようにしましょう。

*   *   *

以上より、爪楊枝はマナーや安全面に配慮しながら、正しく安全に使うようにしてくださいね。

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記事監修

島谷浩幸|歯科医師・歯学博士

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。Twitterも更新中。

参考:Yahoo!JAPAN:つまようじアンケート調査.10月19~20日実施,2021.
:日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会:Injury Alert(傷害速報)No.92 弁当用ピック誤飲による下咽頭異物.日本小児科学会雑誌124(8),128-130,2020.
:佐々木一憲ほか:肝膿瘍を繰り返した爪楊枝によるS状結腸穿通の1例.日本消化器内視鏡学会雑誌65(3),257-262,2023.
:升田晃生ほか:大腿痛で発症した爪楊枝による直腸穿通の1例.日本臨床外科学会雑誌81(4),730-735,2020.
:Steinbach C et al: Accidentally ingested toothpicks causing severe gastrointestinal injury: a practical guideline for diagnosis and therapy based on 136 case reports. World J Surg. 38, 371-377, 2014.

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