3~5歳は「体験」を通して自然と学ぶのがおすすめ

「マネ育」は、おおまかに3~5歳、6~12歳の2段階で考え、お子さんそれぞれの発達に合わせて積み重ねていくとよいと、キャサリンさん(写真左)とナンシーさん(写真右)。
今回お話しをうかがう3~5歳は、就学前ということもあり、数字やお金の概念があやふやな場合も多い年齢。具体的に教えるよりも「体験」から自然と学ぶのがよいそうです。
ただ近ごろはキャッシュレス化が進み、現金を使う機会が減りました。どのように体験させればよいのでしょうか。
キャサリンさん 「そもそもお金を見たことがないお子さんもいると思うので、おうちで小銭やお札を見せてあげるのも一つの体験です」

キャサリンさん 「また、遊びを通して体験するのもおすすめ。たとえば、模擬通貨やレジスターのおもちゃを使ったお買い物ごっこ。お買い物をする人、お店の人、両方体験しておくといいですね。わが家では、『はじめてのおつかい』のように、お買い物がテーマの絵本を読み聞かせたりもしました。
具体的にお金を使う体験をさせるなら、お祭りの出店やコンビニでお子さんと買い物をする場合は、現金にしてみるのはいかがですか。また、バスに乗るときは現金で支払ったり、電子マネーにチャージしたりするのもよい体験です」
こうした体験を通して、“お金”というものがあること。“お金”と“ものやサービス”を交換して、ほしいものをゲットすること。そして、使うとなくなるといったことが、きちんと頭で理解できるようになるのだとか。
キャサリンさん 「小学校で講座を開くこともあるのですが、幼少期のお金体験が少ないお子さんは、100円でどれぐらいのものが買えるのか。おつりはいくらもらえるのかなどといったことが、パッと理解しにくい傾向にあります。まずは現金での体験があって、それからキャッシュレス化することも、のちのちのお金の使いすぎを防ぐ意味でも大事。小さなころから、日常的にお金の体験を積み重ねてみてくださいね」
お金の価値を伝える「ありがとうのしるし」

3~5歳は、「お金は大切」「ものを粗末にしてはいけない」などといった、道徳的なことを伝えることも大切な時期なのだそうです。しかし3~5歳の幼児が、言葉だけで本当に理解するのは時間がかかりそう……。
おふたりのおすすめは、「ありがとうのしるし」です。

キャサリンさん 「お金のルーツは、ものやサービスと交換する道具でした。それは今の時代も変わりませんよね。つまりお金は、ものやサービスに対する感謝の気持ちを伝える道具で、“ありがとうのしるし”なんです」
たとえば、バスの運転手さんが運転してくれるから、行きたい場所に行ける。バスの運賃を払うのは、運転手さんへの“ありがとうのしるし”。レストランで料理を作ってくれる人、運んでくれる人がいるから、おいしいものが食べられてしあわせ。だからお金を払うのは、コックさんや店員さんへの“ありがとうのしるし”などといった伝え方です。
これを応用したお手伝いシートも、キャサリンさんのおすすめ。お手伝いがきちんとできたときに必ず褒め、「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えるとともに、表にシールを貼るなどして「対価(お金)」を得る体験をします。

キャサリンさん 「わが家では、靴をそろえるといった些細なことでもお手伝いをしてくれたときに、『ありがとう』の言葉と一緒にシールを渡していました。自分からお手伝いをする習慣が身につきましたし、がんばった結果が『ありがとう』につながる。そして、『ありがとう』が貯まるとお小遣いがもらえてしあわせで、一所懸命にお手伝いしてもらったお金は大切、と理解できたのではと思います」
ポジティブな言葉で、丁寧にわかりやすく、繰り返し伝える
ふたりの娘さんの母であるナンシーさんは、小さなお子さんにも「暮らしにお金は必要で、一つひとつにかかっている」と伝えるべきだといいます。実際に娘さんたちにも「パパやママが仕事をしているから日々の暮らしが成り立っている」「お金は一所懸命に働いたしるし」ということを、小さなころからオープンに話してきたそうです。

ナンシーさん 「お恥ずかしながら、わたしはずいぶん大きくなるまで暮らしにお金がかかっていることを知らずに育ちました。その経験も踏まえて、小さなころから水や電気など普段の暮らしにもお金がかかっていることや、保護者の仕事について等身大に話すことも大切だと思います。
ポイントは、ポジティブな言葉で、丁寧にわかりやすく伝えることです。たとえば『お仕事をしないと暮らせない』ではなく、『パパがお仕事をしているから、おいしいものがみんなで食べられてしあわせだね』『◯◯ちゃんが保育園に行っている間、ママはお仕事をがんばっているから、お水や電気もちゃんと使えて楽しく暮らせるね』などといった、やさしい言葉を使います。
親が仕事をした結果がお金の結びつき、お金があるから今の暮らしもあるのだと感じられるように、繰り返し話してあげてください」
キャサリンさん 「繰り返しもポイントですね。一度じゃ伝わりません。わたしの長男は大学2年生ですが、幼いころから伝えてきたことが少しずつ身について、今は自分らしいお金との付き合い方ができていると感じます。言葉は蓄積されていると、成長した今わかります」
一緒に楽しく体験しながら基礎を身につけよう

3~5歳に家庭でできる「マネ育」は、一生付き合うお金との基礎を築くものばかり。親御さんが教えようと力むのではなく、一緒に楽しみながら体験することがいちばん、とナンシーさん。
ナンシーさん 「お金がなかったら不幸とか、反対にたくさんあったらめちゃくちゃしあわせとかではありません。日々の暮らしで、お金にはどのような役割があるのか。なぜお金は大切なのか。お子さんと一緒に、楽しく体験しながら学んでみてくださいね。それが6〜12歳へのマネ育や、もっといえば今後の人生におけるお金の価値観につながっていくはずです」
取材・文/ニイミユカ
記事監修
証券会社出身で子育て中のファイナンシャル・プランナー二人が、お金のお医者さんとして公立小学校や金融庁など公的機関を中心に授業を行っている。2022年4月に株式会社マネイクを設立。子どものお小遣いの話から株式や旬な経済の話まで、大人も子どもも夢中になれる「実践的なお金の学び」を全国で展開。小学生向け・親子向け金融教育、大人向け投資教育の講座実績は 800講座を超える(2025年11月現在)。金融教育に関する監修・コンサルティング、テレビ出演、各種メディア掲載実績多数。