オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁止
2025年12月、オーストラリアで16歳未満のSNS利用を全面的に禁止する法律が施行されました。これは、デジタル技術が子どもの精神的・身体的成長に与える影響について、国家レベルで「待った」をかけた世界初の画期的な事例です。
この動きは、単なる一国の政策にとどまらず、今や世界中の国々が直面している「デジタル時代の保護」という共通課題に対する、一つの極端かつ象徴的な回答といえます。
オーストラリア政府がこの厳しい措置に踏み切った最大の理由は、若者のメンタルヘルスの深刻な悪化にあります。SNSを介した陰湿なネットいじめ、身体的なコンプレックスを助長する投稿、そしてアルゴリズムによって過激なコンテンツへと誘導される「ラビットホール(ウサギの穴)」現象が、子どもたちの自尊心を損ない、時には自死に追い込む悲劇さえ招いている現実があります。
違反した企業は最大50億円規模の罰金
アルバニージー首相は「SNSは子どもたちに害を及ぼしており、私はそれに終止符を打つ」と明言しました。これまでの個人の責任や家庭での教育に委ねるアプローチでは、巨大テック企業の巧妙な仕組みに対抗できないという判断が背景にあります。
この法律の大きな特徴は、罰則の対象をユーザーである子どもや親ではなく、プラットフォーム企業側に置いている点です。年齢制限を破ることを許容した場合、企業には最大50億円規模の莫大な罰金が科される仕組みとなっており、企業の責任を明確に問う姿勢を鮮明にしています。

フランスやアメリカも規制を強める方針
この流れはオーストラリア一国に留まらず、フランスやアメリカの一部でも、形は違えど同様の規制が現実のものとなってきています。
フランス政府では2026年9月から、15歳未満のSNS利用を全面的に禁止する方針を固めています。マクロン大統領はオーストラリアの事例を支持し、さらに踏み込んで高校での携帯電話使用禁止もセットで進めています。
フランスの狙いは、子どもたちの睡眠の質の向上や対面での社会性の回復にあります。これまでも15歳未満のアカウント開設には保護者の同意が必要でしたが、実効性が乏しかったため、より強制力の強い「デジタル成人年齢」の確立へと舵を切った形です。
アメリカでも州単位で動きが加速しており、フロリダ州では2025年、14歳未満のSNSアカウント保持を禁止する州法が施行されました。ここでは特に、無限スクロールやプッシュ通知といった「依存を引き起こす機能」が、未成年の脳の発達に有害であるという視点が重視されています。表現の自由を巡る憲法論争も起きていますが、「中毒性のある製品から子どもを守る」という論理が、これまでの自由放任主義を上回りつつあります。

プライバシー保護や大人の目を盗んで利用するといった課題も
これらの動きは、子どもたちをデジタル空間の危険から守るという点では画期的ですが、同時に大きな課題も抱えています。まず、実効性のある年齢確認を行うために顔認証や身分証の提示が求められるようになりますが、これがプライバシー保護とどう両立するかが焦点となります。また、一律に禁止されることで、かえって大人の目が届かない場所で子どもたちがSNSを利用し、リスクが潜在化するという懸念も拭えません。
世界は今、SNSを単なる「自由な交流の場」から「管理が必要な公共の場」へと再定義しようとしています。オーストラリアの決断が、子どもたちの笑顔を取り戻す処方箋となるのか、それとも新たな摩擦を生むのか。その成否は、今後の日本を含む各国の政策判断に決定的な影響を与えることになるでしょう。
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバルサウスの研究に取り組む。大学で教壇に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
