「浮いて待て」たった5文字が命を救う。水難事故から子どもを守るためにお風呂でできる“背浮き練習法”と“親子で決めておきたい水辺のルール”【専門家監修】

夏は川や海、プールなどで水辺に出かける機会が増える一方、子どもの水難事故も増える季節です。しかし、「水は透明だから見えるはず」「近くで見ていれば大丈夫」と思っていても、想像以上に水中は見えにくく、気づいたときにはすでに沈んでしまっているケースも少なくありません。

もしものとき、子どもの命を守るために知っておきたいのが「浮いて待て(背浮き)」という考え方です。今回は、水難学会理事・ 斎藤秀俊先生に、家庭でもできる背浮きの練習方法や、ライフジャケットの正しい使い方について伺いました。夏のお出かけ前に、ぜひ親子で知っておきたい命を守る知識をお届けします。

 服や靴は“浮き袋”! 水難時に命を守る「浮いて待て」の基本

——これからレジャーシーズンを迎え、水辺で遊ぶ機会も増えます。保護者としては、「もし子どもが水に落ちてしまったら」と不安になりますが、万が一の場面で大切だとされる「浮いて待て」とは、どのような考え方なのでしょうか。

斎藤秀俊先生(以下、斎藤先生):「浮いて待て」とは、水に落ちたときに無理に泳ごうとせず、水面に浮いて救助を待つという考え方です。
水面で仰向けになり、力を抜いて大の字になる「背浮き」の姿勢をとることで、人は意外と浮くことができます。パニックを起こしてジタバタ泳ごうとすると、あっという間に体力を消耗して溺れてしまう。だからこそ、まずは「落ち着いて浮き続けること」が最優先なのです。

——「浮いて、救助を待てること」が大切なのですね。万一のとき洋服や靴を身につけたまま水に落ちると、重くなってしまうような気がしますが、実際はどうなのでしょうか。

斎藤先生: 実は、大きな誤解です。むしろ服や靴は、いざというときに身体を支えてくれる「浮き袋」の役割を果たしてくれるのです。 現代の衣類やスニーカーは進化していて、繊維や靴底のクッション材の中にたくさんの空気が含まれています。そのため空気が「浮力」を生み、水着のときよりもプカプカと浮きやすくなります。
これらを知っておくだけで、万が一のときもパニックを最小限に抑え、冷静に救助を待つことができるのではないでしょうか。

水面で仰向けになり、力を抜いて大の字になる。この「浮いて待て」の姿勢をキープすることで、救助が来るまで命をつなぐことが可能に。(写真提供:斎藤先生)

海に着いたらまず「親子で練習」を。遊ぶ前の新ルーティン

——背浮きの練習をする場合、なにか特別な道具や準備は必要でしょうか。

斎藤先生:特別なものは何もいりません。水着と、かかとの付いたサンダルがあれば十分です。サンダルのかかと部分のクッションが、スニーカーと同じように浮力を生み出してくれます。

おすすめは、海で実際に体験してみることです。海に着いたら遊び始める前に、サンダルを履いたまま水に入り、まずは背浮きをしてみてください。海水は真水よりも浮力が大きいため、簡単に体が浮きます。

——遊ぶ前の準備運動のような感覚で取り入れられそうですね!

斎藤先生: そうですね。ぜひ「海に来たら、まずみんなで背浮き」を家族の新しいルールにしてほしいと思います。
一度でも浮く感覚を覚えておけば、万が一水に落ちたときにも慌てず、自然とその姿勢をとれる可能性が高くなります。遊び始める前のほんの数分が、いざというときに命を守る力になるのです。

自宅のお風呂やビニールプールでもOK!今日からできる「背浮き」の4ステップ

——お出かけ前に、自宅などでも「背浮き」の練習は可能なのでしょうか?

斎藤先生:ご家庭でも十分に練習できます。特別な設備は必要ありません。ビニールプールでもいいですし、浴槽にある程度の広さがあれば、年齢によってはお風呂でも挑戦できます。

親子でできる!背浮き習得のコツとは

段階的にサポートを減らすことで、子どもも怖がらずに「背浮き」をマスターできる。(写真提供:斎藤先生)

——家庭ではどのようにサポートしてあげればよいのでしょうか?

斎藤先生:最初は、親御さんが子どもの背中と腰を両手で支えながら、水に浮く感覚を体験させてあげてください。次の4つのステップで段階的に慣れていくのがおすすめです。

ステップ1ライフジャケットを着て支える
最初はライフジャケットを着用した状態で、背中と腰を両手で支えます。「頑張ってるね」と声をかけながら、まずは水に仰向けになる感覚に慣れさせます。

ステップ2:そっと手を離してみる
子どもが落ち着いたら、支えていた両手をゆっくり外します。ライフジャケットと靴の浮力があるため、これだけで誰でも上手に浮くことができます。

ステップ3:ライフジャケットを脱ぎ、靴だけで挑戦
ジャケットを外し、靴の浮力だけで浮く練習です。「息をいっぱい吸って止めて」「お空(上)を見てごらん」と声をかけ、あごを上げさせた姿勢をキープさせます。 

◆ステップ4:完全に手を離して完成!
ゆっくり親の手を離します。呼吸に合わせて体が少し上下しますが、脚を伸ばした姿勢を保てば、そのまま安定して浮き続けられます。

——この練習は、何歳くらいから始められるのでしょうか。

斎藤先生: 本当は1歳くらいがいちばんやりやすいんですよ。まだ状況がよく分かっていないので、水への恐怖心がまったくないんです(笑)。

2〜3歳になると知恵がついてきて、だんだんと水を怖がるようになることがあります。最初は子どもが緊張してしがみついてくることもあるかもしれませんが、「ゆっくり息を吸ってね」と声をかけつつ、力が抜けるようにサポートしてあげると、だんだんとコツをつかんでいけるはずです。小学2年生くらいまでに練習するのがおすすめです。

水中で使うのはかえって危険? ライフジャケットを着るべきタイミングとは

——安全対策としてライフジャケットの使用を検討する際に、まず押さえておくべきポイントを教えてください。

斎藤先生:サイズが体に合ったライフジャケットを選ぶことはもちろん大切です。ただ、その前に知っておいてほしいのがライフジャケットの目的です。

ライフジャケットは、本来水の中で遊ぶためのものではありません。万が一、陸地から水に落ちてしまったときに沈まず、呼吸を確保するための「緊急時の備え」なのです。この目的を誤解したまま川や海で泳ぐために使うと、かえって危険につながることがあります。ライフジャケットには強い浮力があるため、水深がそれほど深くなくても足が底から離れやすくなり、そのまま流されてしまうことがあるのです。

——「水中で着るもの」ではなく、「陸上で着るもの」ということでしょうか。

斎藤先生:その通りです。さらに、救助する側の視点から見ても重要なのは、ライフジャケットを着た人が水の中にいると、「何らかのトラブルが起きていて救助を必要としている人」と誤解されてしまう点です。本来は緊急時に命を守るための装備だからこそ、水の中で常時使うことを前提にした道具ではないということを理解しておいてもらえればと思います。

——では、具体的にどのようなタイミングでライフジャケットを着用するのが正しいのでしょうか?

斎藤先生:たとえば川辺でバーベキューをしているときなどです。大人は水に入るつもりがなくても、子どもは興味を持って水辺に近づいてしまうことがありますよね。
そんなときにライフジャケットを着せておけば、万が一足を滑らせたり、目を離した隙に川へ落ちたりしても、すぐに沈まず呼吸を確保できます。陸上で過ごしているときの安全対策として考えてもらえたらと思います。

【子どものルール】川や海は「ひざ下までの深さ」を約束に

——水辺に行く前に、子どもと約束しておくべきことはありますか?

斎藤先生: いちばん大事なのは、「必ず自分の足で深さを確認しながら入る」ことです。特に川や海では、ひざ下までの水深を基本にしてほしいですね。ひざを超える深さになると、水の流れを受ける面積が一気に大きくなり、体が浮きやすくなります。そうすると足が踏ん張れなくなり、そのまま流されてしまう危険があるのです。

——水面から見ただけでは、深さが分かりにくいこともありますよね。

斎藤先生: そうなんです。水の中は「光の屈折」のせいで、実際よりも浅く見えたり、「まだ浅そうだから大丈夫」と思って一歩進んだら、急に深くなったりすることも珍しくありません。だからこそ、見た目で判断するのではなく、自分の足で確かめながら進むこと。そして、ひざを超える深さになったらそれ以上は入らない。このルールをぜひ親子で共有してほしいです。

【親のルール】水辺では「手の届く距離」で見守る

——では、親が子どもを見守るときには、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。

斎藤先生:大切なのは、「目の届く範囲」ではなく「手の届く範囲」にいることです。手の届く距離にいれば、万が一バランスを崩したり、流されたりしても、その場ですぐに引き上げることができますし、子どもが「ひざ下ルール」を守れているかどうかも一緒に確認ができます。

——親も一緒に水に入ること自体が、安全対策になるのですね

斎藤先生:そうですね。「ちょっとそこで遊んでいてね」と子どもだけで水に入らせるのではなく、ぜひ親も一緒に水に入って遊んでほしいです。そして、親の手の届く範囲で、同じ時間を過ごすこと。それが、子どもの命を守ることにもつながります。

正しい知識で最高の夏の思い出を!

——最後に、この夏、水辺へお出かけする保護者の方へメッセージをお願いします。

斎藤先生:夏は水遊びが楽しい季節。ぜひ正しい知識を親子で学んで、たくさん水遊びに出かけてほしいですね。「怖いから行かない」と諦めてしまうのは、とてももったいないと思います。水辺での体験は、子どもにとって一生ものの素敵な記憶になるはずですから。

——親子でしっかりルールを守っていけば、過度に恐れる必要はないということですね。

斎藤先生: その通りです。今回お話しした「ひざ下までの深さ」「親の手の届く範囲」、そして「浮いて待て」の考え方を意識するだけで、水の事故は十分に防げます。ルールを守れば、水辺は決して怖い場所ではありません。
ぜひこの夏、家族みんなで知識をアップデートして、最高の思い出をたくさん作ってもらえればと願っています。

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お話を伺ったのは

斎藤 秀俊さん 長岡技術科学大学教授・一般社団法人水難学会理事

工学博士。長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会理事。「水難は神の領域」と考えられてきた水域での事故や事件について、工学、医学、教育学、気象学など多角的な視点から検証・研究を行う。風呂やプール、河川、海、雪氷環境などを対象に、実験や現場調査を重視した研究活動を展開。全国各地で発生する水難事故の調査や、水難偽装・業務上過失事件に関する科学捜査にも数多く携わっている。テレビ、新聞、雑誌、Webメディアなどでも水難事故防止に関する情報発信を続けている。主な著書・監修書に『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)などがある。
◆一般社団法人水難学会 公式ホームページはこちら

この記事を書いたのは

牧野未衣菜 ライター

子育てや教育分野を中心に取材・執筆。また、認定NPO法人で、不登校やさまざまな困難を抱える子どもたちと関わっています。2児の母としての子育ての実感も重ねながら、日々の悩みや、子育てのリアルな声を丁寧にすくい上げ、やさしく伝える記事づくりを心がけています。

取材・文/牧野 未衣菜

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