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自分で次の進路を選べる「中学3年生の夏休み」がひとつの目安
――本田先生は著書のなかで、具体的にいつまで休ませればいいのかの一つの目安が、「中学3年の夏休み」だとおっしゃっていました。
本田先生:その頃になると、三者面談や高校進学の話が本格的になってきます。この時期までに、子ども自身が「次の進路をどうしようか」と冷静に考えられる心の構えができているといいですね。それまではしっかりとエネルギーを蓄えさせる期間だと捉えてみてください。
――そうなるためには、どう過ごせばよいですか?
本田先生:家での親子関係がしっかりと安定している必要があります。不登校が続いていても、親子の信頼関係ができていれば、中学2年や3年になったとき、子どもは進路について自分から相談し始めます。このとき、相談相手は親や学校の先生だけでなくても構いません。フリースクールや塾といった「サードプレイス(第3の居場所)」の先生、相談センターの人、私のように医師など、本人が信頼して何でも話せる「学校外の第三者」とつながっておくことが非常に大切です。子どもが一人で抱え込まない環境を作ってあげてください。
今の時代、全日制だけでなく、通信制、定時制と、入れる高校は必ずあります。小中学校にほぼ全く通っていなかったとしても、です。もし、高校に行かずに「浪人」という選択をしたとしても、自分で決めたことならそれでいいのです。クリニックにもそうして社会に出た子がいます。
子どもが「自分で進路を決める」のを待つ
――不登校のお子さんが、将来的に社会へ出て自立していくために必要な力を育てるために、家庭の中でできる工夫があれば教えてください。
本田先生:一番大切なのは、自分の人生を自分で決める「自己決定力」と、困ったときに他人に助けを求められる「相談力」です。これらを家庭で育てるために、親が今日から実践できる工夫は、驚くほどシンプル。それは、子どもに対して「命令」「アドバイス」「禁止」をしない、ということです。親はつい先回りしてアドバイスや禁止をしてしまいますが、これらはすべて子どもの自己決定の機会を奪います。
また、親が正論でアドバイスばかりしていると、子どもは困ったときに「どうせ相談しても怒られるか、アドバイス通りにできない自分が責められるだけだ」と感じてしまい、相談する力を失っていきます。

日常の小さなことから、子どもが自分で考えて決めるのを待ってあげてください。そして、子どもが自分の決断を伝えてくれたときは、「あなたがそう決めたなら、それでいいよ」と認めてあげることです。もし夫婦間で教育方針が違ってギクシャクすることもあるかもしれませんが、一番良くないのは子どもの前でお互いの意見をぶつけ合って責め立てること。
まずは片方の親だけでも、子どもの話をただただ否定せずに聞く、という役割を始めるだけで十分です。家の中に一人でも自分の決定をそのまま認めてくれる大人がいれば、子どもは自立していく力をつけていくことができます。
「特性に合わないカリキュラム」は、かなりの苦痛

――発達障害をお持ちのお子さんが不登校になるのにも理由があるそうですね。
本田先生:一般的な不登校の場合、友達関係のトラブルが大きな要因になることが多いです。一方で、発達障害やグレーゾーンのお子さんの場合、もともと友達関係があまり得意ではないことが多く、そこに「学校の活動自体に興味が持てない」「学校の環境が自分の特性に合わない」というプラスアルファの要因が重なることで不登校になるケースが目立ちます。
学校のカリキュラムは、基本的に平均的な子どもが中くらいに楽しめるものとして作られています。しかし、発達障害のあるお子さんは興味の偏りや、集中力の持続時間に特性がある。興味の持てないものを一斉にやらされたり、集中力が切れているのに「最後まで頑張りましょう」と強いられたりする環境は、居心地の悪さを植え付けられる場所になってしまうのです。

――学校全体の活動そのものが、その子にとっての苦痛になってしまうということですね。
本田先生:その通りです。たとえば音楽の授業で「みんなで元気よく大声で歌いましょう」と言われると、全体の音程がずれて悪くなります。発達障害のお子さんの中に非常に正確な音感がわかる子がいるのですが、その子にとって大声のズレはただの騒音にしか聞こえず、激しい苦痛になってしまうのです。
このように、自分の感覚や興味、時間配分といった学校で求められるすべての要素が、自分の特性とフィットしない確率が非常に高くなります。
ただ、最近、文部科学省のモデル校などでは、通常の学級内で授業の進め方をフレキシブルに変える試みが始まっています。同じ教科を学ぶにしても、一斉に同じペースでやるのではなく、一人ひとりがバラバラの自分のやりやすい方法でその時間を過ごせるようにアレンジする。
ほかにも、みんなが帰った放課後の誰もいない時間に登校して先生と少し話をしたりプリントのやり取りだけをしたり。給食の時間だけ行く、あるいは相談室での自習ならできるといった形で、学校側が「これならいける」という部分的な居場所を工夫し、細々とでもつながりを保つことでうまくいっている事例はあるので、これが広がっていったらいいのにと思いますね。
目指すべきは学校に戻ることではなく、「家族関係の安定」

――「再登校は目標にすべきではない」というお話は、親御さんにとってハッとする視点だと思います。学校に戻ること以外のゴールを、親はどこに設定すればいいのでしょうか。
本田先生:親が設定すべきゴールは、親子関係・家族関係を安定させることです。学校に行く・行かないに関わらず、親子が普通に会話をして雑談し、一緒にご飯を食べたり買い物に行ったりできる関係を作る。家が安心できる場所になれば、子どもは誰に強制されなくても、自分の力で「これからの自分の人生をどうしていくか」を自分で考えるようになります。ゴールは学校への復帰ではなく、子どもの心が元気な状態を取り戻すことなのです。
――不登校に悩む親御さんに向けて、最後に先生からメッセージをいただけますでしょうか。
本田先生:子どもの長い人生の中で、学校が占める割合はほんの一部に過ぎません。ところが今の日本の教育システムでは、特に15歳までは昼間は学校に行くという選択肢しかほぼ与えられていないため、どうしても親子で行き詰まって息苦しくなってしまいます。
だからこそ私は、家(ファーストプレイス)と学校(セカンドプレイス)以外に、本人が居心地よく過ごせる「サードプレイス(第3の居場所)」を、なるべく小さいうちから見つけておくことを提案しています。「学校はつらいけれど、あそこに行けば楽しい時間が過ごせる」という場所が一つでもあるだけで、過度なうつ状態や自己肯定感の低下は十分に防ぐことができる。学校がつらそうだなと感じたら、ぜひ学校以外の場所で、子どもが楽しく過ごせそうなサードプレイスを一緒に探してあげてください。
お話を聞いたのは
精神科医・医学博士。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授、同附属病院子どものこころ診療部部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。1988年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年以上にわたり発達障害の臨床と研究に従事。山梨県立こころの発達総合支援センター初代所長などを歴任。発達障害分野での学術論文多数。主な著書に『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』(バトン社/フォレスト出版)ほか多数。
子どもが「学校に行きたくない」と言い出すのは、大人からは「問題の始まり」に見えますが、子どもにとっては“学校に行く自分”を捨てた「最終段階」です。そうなったら、大人はすぐに対応する必要があります。
・まずは休養
・相談しやすい環境づくり
・親子関係を良好に保つこと
この3つが不登校の対応の基本です。さらに、親や教師に「やってほしい対応」から「やってはいけない対応」まで。すぐに対応するための支援策を網羅!臨床経験30年以上の児童精神科医が、保護者も教師もしっかりサポートします。
主には発達特性がある子を対象とする話ですが、この本の内容の多くは、特性が目立たない子にも通用します。お子さんの不登校に悩んでいる保護者の方や学校の先生方、子育て・教育に関わっている支援者の方々に、ぜひ読んでいただきたいと思います。
この記事を書いたのは
愛媛県出身。大学時代まで自然豊かな愛媛で過ごし、都内の学習塾に勤務した後、2011年よりフリーライターへ。教育分野を中心に、医療やライフスタイルなどのテーマで執筆しています。息子たちが小学生の時に大学院を受験し、2019年、お茶の水女子大学大学院修士課程修了(社会科学修士)。子育てもひと段落。最近、俳句を始めました。