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すでに“あるもの”から絵本を作るのはおもしろそう! ファンのことはビビっていた!?
――バーチャルシンガー「初音ミク」(※)の絵本と聞いて驚きましたが、どういうきっかけで執筆されましたか?
たなかさん 編集担当の方からお話があったのがきっかけです。初音ミクの権利元が絵本に興味を持っていることを知り、絵本を作るなら「想像できないことになったらおもしろいな」と私にお話をくれたようです。
(※)初音ミクとは
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発した、歌詞とメロディーを入力して誰でも歌を歌わせることができる「ソフトウェア」であり「キャラクター」です。大勢のクリエイターが「初音ミク」で音楽を作り、インターネット上に投稿したことでムーブメントとなりました。現在はバーチャルシンガーとしてグッズ展開やライブを行うなど多方面で活躍し、人気は世界に拡がっています。
――最初に聞いたときはどう思われましたか?
たなかさん すでに”あるもの”から絵本を作るという経験があまりないので、おもしろそうだなと、やりたいと思いました。

でもよく考えてみると、自分自身がブームになっていた頃の初音ミクを通っていなかったので知識がなかったことと、コアなファンの方がいらっしゃるコンテンツだと思うので、下手に突っついたらヤバいのではないかと思いました。多少なにかを言われるんだろうな、とビビっていたところはあります。今もうっすら覚悟はしてはいますね……。
――(笑)。そこから初音ミクについて知っていったのですね。
たなかさん 編集の方に教えていただくなかで、割と自由にいじられてきたキャラクターで、ファンの方も「そういうところもミクのよさだ」と受け止めていると聞いて、それならこのぐらいのラインはいけるかな、みたいな感じで制作を進めました。
初音ミクの長い髪の毛は普通に考えたら地面に擦るよなと気づき、”そこでいくか! ”
――人気のある有名キャラクターを描くことの楽しさはどんなところでしたか?
たなかさん 何かのイメージを壊すなど、これまで壊す作業を常々してきていました。だから公式が「壊していいよ」と言ってくれたのでワクワクしかなかったです。
内容がいきすぎてしまえば編集や公式の方がそう言ってくれると思ったので、線を引くのは僕でなくていいやと。実際、これはさすがにという内容は結構省きました。
――初音ミクがたなかひかるさんの色に染まっているところにおもしろさがありつつ、ちょっと切ないところもあって。ストーリーはどのように思いついたんでしょうか。
たなかさん 僕のなかで初音ミクは、明るくてニコニコしていて、髪が長いというイメージでした。そのなかで僕が拾える特徴が“髪”だったので、髪の毛を使ってなにかやろうと、そこから作っていきました。
調べてみると、イラストレーターさんによって髪の長さはまちまちだったのですが、この長さは普通に重力を考えたら地面に擦るよなというイラストが多かったので、そこでいくか! と。
――途中で出てくる初音ミクさんの家がすごく庶民的でしたね、あれはあえてですか?
たなかさん 割と真逆な感じのものを書きました。僕もよくやっちゃうんですけど、部屋に飲み残しのペットボトルがすごくたくさんあるんです。
――どのページも見どころ満載ですが、特にお気に入りのページや表現を教えてください。
たなかさん 自転車に髪の毛を踏まれているところが、文章なしでも困ってる状況が一目で伝わって、いいバランスで描けたなという感じがしました。特に説明がないけれど、状況の意味がわかるといいますか。

――絵本を描く際はそういうところを大事にしていらっしゃいますか?
たなかさん 説明は極力しないようにしていますね。今回は初音ミクがしゃべってる感じで書いているので、文字数はそれなりにあったような気がしますが、なるべく説明はさせないようにはしてます。
お父さんお母さんが手に取って、子どもも好きになってくれたら
――大人が読んでもおもしろい絵本ですが、特に子ども向けに限定せず、いろいろな方に向けて作られましたか?
たなかさん 絵本ということで最初は子ども向けというイメージで作り始めましたが、そもそも初音ミクに食いつく世代はそんなに若くないかもと思いまして。
そこから、子どもも意味がわかるのは前提で、どちらかと言えば初音ミクを知っているお父さんお母さんが手に取って、子どもも好きになってくれたらいいなと思いましたね。
――今のところ、初音ミクが好きな方からの反響が多いですか?
たなかさん Instagram、Xなどの反応でみるとアイコンが初音ミクの方が多く、根強いファンの方がいらっしゃるんだなと思いました。恐れていた辛辣なコメントもなく、「これが初音ミクの真理だ!」と言ってくれる方までいて、安心しているところです。
お笑いやギャグ漫画を海外に持って行くのが難しい。絵本ならそれが叶うのではないか
――絵本は子育てにおいて大切なツールだと思いますが、たなかさんが思う絵本のよさや魅力はどんなところでしょう。
たなかさん 個人的な魅力としては、これまでお笑いをやってきて、お笑いを海外に持って行くのが難しいなと感じていたところなんです。笑いの文化が違うので、例えば漫才をそのまま持って行ってもなかなか難しい。ギャグ漫画も同じで、和田ラヂヲさんや僕が描いているようなものはいまいちピンと来ないようです。
それを絵本に落とし込んだら、うっかり芸術だと勘違いして受け入れる外国の方がいるんじゃないかな、そんなところを魅力に感じています。
――絵本だったらイラストやストーリーの力で、海外の方にも広まりそうですね。
たなかさん 例えば日本人の人口が100人だったとしたら、100人全員に刺さるものは多分作れないですし、作りたくない、楽しくないと思うので、100人中1人が「好きやな」って言ってくれたらええなみたいな感じで思っているんです。
でも、本はたくさん売れるとうれしいじゃないですか。そうなると分母側を増やしたいなという思いもありますね。
これまで影響を受けたのはダウンタウンや板尾さん。絵本作りはまず映像を思い浮かべる
――たなかさんの絵本は独自の視点や発想が印象的です。これまでに影響を受けたものや人はいますか?
たなかさん 世代的にもダウンタウンさんとか板尾創路さん、絵も描いていたので芸術の方々からの影響も強いです。ギャグ漫画だけで言うと和田ラヂヲさんですね。ほかにも音楽など、いろいろなものの影響を受けていると思います。
――アイデアはどんな風に浮かぶのですか?
たなかさん 「今からこの題材でアイデアを出そう!」みたいな感じで考えたりしますね。文字よりは先にやりたい映像やシーンがいくつか浮かびます。こうなったらおもろいなぁというのがあって、どういう経路で行ったらおもしろくなるか、説明をちょっとどっかでしていきたいよなとか、それをどうくっつけるかを考えていきます。
両親ともに教師で本に囲まれた幼少期。絵を描き始めたのも母親がきっかけ
――「即興お絵描きワークショップ」やサイン会など読者の方と触れ合うような機会を多く設けられています。その際に印象に残っていることはありますか?
たなかさん 即席お絵描きワークショップは、子どもにリクエストされたものを即興で色紙に描いてプレゼントしています。そのときにお題をすごい頑張って描き始めたりして、この子のクリエイティブな部分に火をつけられたかな、と思う瞬間はめちゃくちゃうれしいですね。
誰かのものを作る気持ちに触れられたり、人生に少し携われたりしたこと。大人と違って子どもの頃のそういった一度や二度の経験が、その後の人生が変わることもあると思うので、そうなればいいなと思います。
――たなかさんご自身は小さいときにそういった人生が変わるような出来事や経験をされたのでしょうか。
たなかさん うちの両親がともに小学校の先生で、おそらく本が好きだったんでしょう。家に本、絵本、児童書などそういうものがあふれていました。それらを引っ張りだしてきて読んでいましたが、中にはむっちゃ怖いやつとか、たまにアダルトな内容のものがあってびっくりしたこともあります。なかでも長新太さんは印象に残っていますね。
――絵はいつから描いていますか?
たなかさん 幼稚園のときに描いた絵が町の小さな賞かなにかをもらって褒められたんでしょうね。母親も絵を描いていたことがあったようで、気をよくしたのか、愛用の油絵の具をくれました。みんなと遊びに行きたいのになぁと思いながら絵を描いていた気がします。
将来の夢も「絵描きさんになりたい」ではなく、「絵などを描いて生きていくんだろうな」と思っていましたね。
――幼少期の家の雰囲気や環境が大事だということは、実感としてあるんですね。
たなかさん 父親の方針だったかもしれませんが、遊び方が限定されているおもちゃは与えられなかった気がしますね。ブロックや積み木、画用紙のような感じでした。ファミコン買ってくれへんタイプの家だったので。
――ファミコンはいずれ買ってもらうときは来たんですか?
たなかさん 多分買ってもらっていないと思います。いまだにゲームを買っても、する癖がついてないから全くしないですね。そういう意味で、幼少期の経験、環境は大きいような気がしますね。
――最後に絵本の見どころなど、読者に向けてメッセージをいただけますか。
たなかさん あくまで僕の初音ミクの描き方なので、違っても怒らないでください。ビビってしまって、絵本についている帯の文言が言い訳ばかりなんですよ。
――(笑)。怒らないと思いますよ。今日はありがとうございました。
初音ミクはじめての絵本!
それなのに……
「これ公式がOK出したんですか?」
担当部署内からもとまどいの声が続々。
「だって、自由にやっていいって言われたから……」
たなかひかる
バーチャルシンガー初音ミクと、数々の受賞歴を持つ絵本作家界の鬼才、たなかひかる。
けっして交わらなそうなふたりが、絵本という舞台で出会いました。
どんな内容になったかというと……正直、説明できません。
でも、予測不能のストーリーは、いつの間にか夢中になってページをめくってしまうはず!
こどもにも大人にも、そのままの感性で楽しんでほしい一冊です。
お話を聞いたのは
京都府出身。グレープカンパニー所属。漫画家としての代表作に『サラリーマン山崎シゲル』、『私たち結婚しました』(小学館)、『つまねこ』(講談社)などがある。絵本に『ぱんつさん』(第25回日本絵本賞受賞)、『ねこいる!』(以上ポプラ社、第6回未来屋絵本大賞3位、MOE絵本屋さん大賞2022総合第5位、第3回TSUTAYAえほん大賞7位)、『おばけのかわをむいたら』(文響社、第13回リブロ絵本大賞入賞、MOE絵本屋さん大賞新人賞第3位/静岡書店大賞第2位)がある。漫画連載の他、広告、テレビ番組とのタイアップなど活動は多岐に渡る。
この記事を書いたのは
子育てや教育、エンタメにまつわる方々への人物インタビューを多く取材・執筆。大人はもちろん、子どもたちから話を聞くのも好きです。3兄弟を育てる母でもあり、同じように子育てに向き合っている方たちが共感できたり、悩みや困りごとに寄り添えるような記事を発信しています。
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