算数ぎらいの犯人は「わり算」!?
──著書『だれでもすぐに算数が得意になる本』(Gakken)の中で、算数や数学が苦手になる根本的な原因をたどっていくと、ほぼみなさん「わり算」に行き着くとおっしゃっていますね。
あきとんとんさん:
小学1・2年生の足し算・引き算や、3年生のかけ算くらいまでは、指を使ったり具体物を思い浮かべたりして力技で乗り切れる子が多いんです。でも、わり算が入ってきたあたりから雰囲気が変わってきます。
学校のテストだと計算の手順さえ覚えれば解けてしまうので小学生の間は表面化しないことも多いのですが、中学生や高校生になったときに「実はわり算を理解していなかった」と気づいて、数学全般が嫌いになってしまうケースがすごく多いんです。
──わり算の計算はできるけれど、何をしているのか理解できていないということですか?
あきとんとんさん:
まさにその通り。「割合」や「速さ」「確率」「濃度」など、高学年や中学生でみんなが嫌がる単元がありますよね。あれらを深掘りしていくと、土台にあるのは全部「わり算」なんです。わり算の本当の意味が頭に入っていないから、その上に乗る応用単元が丸ごと崩れてしまうんですね。

──学校だと「わり算=等しく分けること」と習うイメージがありますが、それだけでは足りないのでしょうか?
あきとんとんさん:
「等しく分ける」というイメージだけで止まっていると、後で絶対に行き詰まります。僕がいつも教えているのは、わり算の本質は「基準をつくること」だということです。
──「基準をつくる」とは、具体的にどういうことでしょうか?
あきとんとんさん:
身近なお菓子で例えてみましょう。友達に「ポッキー1本ちょうだい」と言われたら気軽にあげられますよね。「ピノ1個ちょうだい」も、「まあいいか」とあげられるかもしれない。でも、「雪見だいふく1個ちょうだい」と言われたらどうですか? 「えっ、半分持っていかれるの!?」って躊躇しますよね(笑)。
同じ「1」という言葉を使っているのに、なんでこんなに感覚が違うのか。それは、それぞれのお菓子の「1箱の中身(基準)」が全然違うからです。同じ「1」と言っても、ポッキーの1本は「全体のほんの一部」だけど、雪見だいふくの1個は「全体の半分」になる。
つまり、ただ「1」と言うだけでは本当の大きさはわからなくて、「なにを基準(1箱のまとまり)にしているか」がすごく大事なんですね。
そして、バラバラにある数から「〇〇個を集めて『新しい1(1箱の基準)』をつくろう!」とまとめることが、わり算の正体なんです。

例えば、ピノの粒が60個バーッと転がっているとします。「これってピノ何箱分?」と聞かれたら、ピノは「6個で1箱」だから、60を「6」で割って「10箱分だ!」と計算しますよね。この「÷6」という操作が、「6個を集めて『新しい基準(1箱)』にセットするよ」ということなんです。
わり算とは、ただ数を小さく分けることではなく、「新しい基準(1のまとまり)をつくり出す操作」。この視点が持てると、分数も割合もすべて「なんだ、1箱の基準を変えているだけじゃん!」とつながって、算数の世界が一気に面白くなりますよ。
「き・は・じ」の公式に頼りすぎると危ない?
──速さの単元でよく使う「き・は・じ(距離・速さ・時間)」の公式がありますよね。あれを丸暗記して解く子も多いと思うのですが……。
あきとんとんさん:
結論から言うと、テストの始まりに用紙の端っこに「き・は・じ」の図を描いて解くような公式の丸暗記は、長期的にみるとすごく危険です。
もちろん、小学校の最初のテストで手軽に点数を取るテクニックとしては有効ですし、それで成功体験を得るのも大切です。ただ、公式の形だけ丸暗記して数値を当てはめているだけだと、文章題や少しひねった応用問題が出た瞬間に「どれをどれで割ればいいの!?」と解けなくなってしまいます。
さらに危険なのは、理科や数学で新しく「濃度」「密度」「圧力」「オームの法則」などが出てくるたびに、それぞれ新しい丸暗記公式を別々に覚えるハメになることです。算数が苦手な子は、これらを全部「別の難しいもの」として必死に暗記しようとします。でも算数・数学が得意な人から見たら、これらは全部「同じわり算(基準づくり)」の計算をしているだけなんです。

──速さの「速さ=距離÷時間」も、「基準をつくる」ことで理解できるのでしょうか?
あきとんとんさん:
もちろんです!「速さ」というのは、「時間(1秒、1分、1時間)を『1という基準』にしたときに、どれだけ進むか」を表した数値にすぎません。
「3時間で180km進む車」があったとします。「3時間で180km」と言われてもピンと来づらいですよね。だから、基準である「1時間あたり」にそろえたい。そこで「180 ÷ 3 = 60」として、「1時間あたり60km進む(時速60km)」という基準をつくるわけです。
このように「何で割るか」は「何を『1(基準)』にしたいか」で決まります。時間が基準なら「時間で割る」、食塩水の全体量が基準なら「全体の重さで割る(濃度)」。
この本質さえ理解していれば、「き・は・じ」の図に頼らなくても「1時間あたりの量を出したいから、時間で割ればいいんだな」と自然に式をたてられるようになります。公式を覚えるのではなく、「何をしている計算なのか」をイメージするクセをつければ、応用問題も解けるようになっていくでしょう。
3回説明してなんとなくわかれば大成功!
──「うちの子はもう算数に苦手意識を持ってしまっている……」というご家庭の場合、親御さんはどのようにアプローチすればよいでしょうか?
あきとんとんさん:
まず親御さんに一番お伝えしたいのは、「1回で理解させなくて大丈夫」ということです。
1回説明しただけで完璧に理解できる子なんていません。「3周くらい復習して、なんとなくわかってくれば大成功」くらいの軽い気持ちでドーンと構えてあげてください。親御さんが「前に言ったでしょ!」と怒ってしまうと、子どもを算数嫌いにさせてしまいます。

──なるほど!算数の苦手意識をなくすために、家庭でできることがあれば教えてください。
1.日常の買い出しや料理で「算数あそび」を取り入れる
あきとんとんさん:
スーパーでのお買い物は最高の算数教材。「50%増量」や「割引」を見たとき、「50%増量と50%オフってどっちが得なんだろうね?」「大容量パックって書いてあるけど、実は小分けしたものと単価は一緒だね」なんて会話を親子でしてみてください。
料理のお手伝いやお釣りの計算でも構いません。日常の中で数字を使う体験をしていると、学校の文章題を見たときに「あ、これお母さんとスーパーで計算したやつだ!」と頭の中でイメージできるようになります。
2.まずは「点数を取らせて」自信と勘違い(!?)を育てる
あきとんとんさん:
根本理解は大切ですが、子どもにとっては「テストで良い点数を取る」ことが一番のモチベーションです。まずは簡単な計算テクニックでも何でもいいので、目の前のテストで点数を取らせてあげてください。
点数が取れると、お子さんに「自分は算数ができるかも!」という良い勘違いが生まれ、それが自信につながります。そのノリに乗った状態で「実はこれってね」と後から根本理解を追いつかせるのがスムーズです。
3.子どもの前で、親が楽しそうに勉強してみせる
あきとんとんさん:
子どもって、親がおいしそうにビールを飲んでいると「ビールってそんなにおいしいのかな?」と興味を持ちますよね。勉強もまったく同じです(笑)
親が「うわ、この計算面白い!」「こうやって解くとスッキリするね!」と楽しそうにしている姿を見せること。「こんな解き方があるんだって!」と親自身が感動していると、子どもも自然とひきつけられます。
算数の問題を解くときは笑顔で!
──最後に、算数・数学に苦手意識を持っているお子さんや、悩んでいる保護者の皆様へメッセージをお願いします!
あきとんとんさん:
算数が苦手な人に僕がいちばん伝えたい秘訣は……「とにかく笑顔で解いてみること」です!
「えっ、精神論ですか!?」と思われるかもしれませんが(笑)、これ本当なんですよ。勉強が苦手な子は、問題を見た瞬間に「嫌だなあ」「解けなかったらどうしよう」と引きつった顔や不機嫌な顔になっています。そうすると脳が「これは嫌な作業だ」と判断してフリーズしてしまう。

だから、嘘でもいいからニヤニヤしながら、口角を上げて問題を解いてみる。「フフッ、この問題解いてやるか!」って笑顔をつくるんです。そうすると脳が錯覚して、不思議と嫌な気持ちが和らぎ、集中力が増して解けるようになっていきます。僕の教え子たちにも「授業中はずっと笑っといてね!」とやらせていましたが、本当にできるようになるんです。
そして、親御さんもぜひ、お子さんが問題にチャレンジできたプロセスや、昨日の自分より成長した部分をたくさん褒めてあげてください。
どうしてもやる気が出ないときや、「もっと楽しく学びたい!」というときは……ぜひ僕のYouTubeチャンネルを覗いてみてください。画面の向こうで待っています! (笑)
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お話を聞いたのは
1996年大阪府生まれ。高校時代に成績最底辺から猛勉強して立命館大学理工学部に合格し、京都大学大学院修士課程を修了。楽天グループ勤務を経て独立。自身の苦労や塾講師の経験を活かし、SNSを中心に「勉強が苦手でも楽しく学べる」授業動画を配信中。SNS総フォロワー数は180万人を超え、2024年TikTok Awards Japan (High Quality Content Creator of the Year)、2025年TikTok Awards Japan 「 Learning Creater of the Year」を受賞。著書に『だれでもすぐに算数が得意になる本』(Gakken)など多数。
SNS総フォロワー数180万人超のプロ算数YouTuber・あきとんとん先生による、算数嫌いを克服するための決定版!本書ではつまずきの最大の原因である「わり算」を「基準をつくる作業」と捉え直すことで、割合・分数・速さといった難関単元がスイスイ解ける“魔法の考え方”を解説します。冒険形式で楽しく学べ、お子さんはもちろん、数学に苦手意識がある大人や脳トレしたいシニアにもおすすめの一冊です。
この記事を書いたのは
愛媛県出身。大学時代まで自然豊かな愛媛で過ごし、都内の学習塾に勤務した後、2011年よりフリーライターへ。教育分野を中心に、医療やライフスタイルなどのテーマで執筆しています。息子たちが小学生の時に大学院を受験し、2019年、お茶の水女子大学大学院修士課程修了(社会科学修士)。子育てもひと段落。最近、俳句を始めました。
衣装協力/OPTICAL TAILOR CRADLE
スタイリスト/鍛冶古翔三 写真/杉原 賢紀