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不登校の子が集う「菊名和み塾」
東横線・菊名駅から歩いて約10分。マンションの一室にある「菊名和み塾」は、不登校の子どもたちが、学んだり、スタッフと話したりしながら過ごせる場所です。この日、ここで過ごしていたのは小学6年生と中学2年生の2人。
ボランティアスタッフと一緒に、イソップ童話「金のおの」を題材に対話していました。1人目、2人目のきこりの話を振り返ったあと、その続きを描いた「3人目のきこり」が登場します。
「1人目のきこりは、なぜ正直に言ったの?」
「2人目のきこりは、何がいけなかったんだろう?」

登場人物の行動について考えながら、「自分だったらどうする?」と、それぞれの考えを言葉にしていきます。
答えはひとつではありません。誰かの意見を聞いて、「そういう考え方もあるんだ」と気づくことも。そんなやりとりも、大切な学びです。
その後は、それぞれのペースで勉強をしたり、みんなでお菓子をつまんだり。お菓子タイムでは、政治の話から学校の話まで、子どもたちから話題がポンポン飛び出します。決まった時間割に縛られることも、「正解」を求められることもない。そんな場所で、子どもたちはそれぞれの時間を過ごし、笑顔で帰っていきました。
元校長の齋藤先生が始めた「学校の外の居場所」
「菊名和み塾」(以下、和み塾)を開いたのは、元横浜市立中学校長の齋藤浩司先生です。校長時代、校内に不登校の生徒たちの居場所「和みルーム」をつくった齋藤先生。早期退職後は、旅をしながら少子化による廃校などを目の当たりにし、「自分にできることは何だろう」と考えるようになりました。
その後法人を立ちあげ、事務所として構えた部屋を見て、「ここで小さな教室をやってみよう」と思い立ちます。2023年5月に始め、翌6月には最初の親子がやってきました。
和み塾で大切にしているのは、「来る日があっても、来ない日があってもいい」ということです。その背景には、齋藤先生が校長時代から大切にしてきた、3つの考えがあります。
「子どもが安心して過ごせる環境を整えること」「大人が無理なく関われる仕組みをつくること」そして「子どもの過ごし方を大人が決めつけないこと」です。
「来ている子たちに対して、何かをさせなきゃ、というのはありません。遊んでいたっていいじゃないですか」
勉強しても、話をしてもいい。何もしないで過ごしてもいい。現在は、齋藤先生をはじめ、大学生から母親まで7人のボランティアスタッフが、小学生から中学生の子どもたちをサポート。週3回開室し、1回につき2人ほどのスタッフが子どもたちと過ごしています。必要に応じて在籍校とも情報を共有するなど、学校とのつながりも大切にしています。
学校の外に出て、見えてきたこと
「複雑で、いろいろなことが絡み合っていると思います」不登校の要因について、齋藤先生はそう話します。
「学校の風土や文化は、本来は変われるはずなのに、なかなか変わっていない。変えたいと思っている先生はたくさんいます。でも、教員の多忙化や人手不足など、変えるきっかけや時間、パワーが足りないんです。一方で、社会の側では、多様な学びを受け入れようとする動きが広がってきていると感じています」
和み塾には、「教室がうるさく感じる」「急かされるように感じる」「先生に強く叱られる」といったことが重なり、学校に行けなくなった子もいます。けれど、齋藤先生が見ているのは、「学校に行けない子」という一面だけではありません。
ボランティアスタッフの遠藤隆人さんは、初めて和み塾を訪れたとき、「どんな子がいるのだろう」と少し緊張していたそうです。ところが、実際に子どもたちと会ってみると、「これまで接してきた子どもたちと、何も変わらないんだ」と感じたといいます。
「構えず、そのまま接していこう」と思うようになったという遠藤さん。子どもたちと過ごすなかで、少しずつ変化していく姿も見てきました。
「勉強への意欲がなかなか持てなかった子が、今では『勉強したい』と言って、問題を渡すとすぐに解くんです。和み塾の授業でしっかり自分の意見を述べたり、将来の夢を語ってくれるようにもなりました」(遠藤さん)
齋藤先生も、こう言います。
「この空間の中で、今まで出せなかったエネルギーを出せるようになった子もいます。大人との距離が近くなり、冗談を言ったり、いろいろな考えを口にしたり。人にわかりやすく話す力もついてきました」
学校側ができる工夫もある
一方で、齋藤先生は、学校の側にも、子どもが過ごしやすくなるための小さな工夫があると考えています。たとえば、学校を休みがちな子のプリントが、机の中にたまったままになっていること。齋藤先生は、こうした小さなところに目を向けることが、大きな進歩につながると話します。
「誰一人取り残さない」という言葉だけでなく、プリントを整理して渡す、必要なものをきちんと届ける――。小さな配慮の積み重ねが、子どもにとっての「過ごしやすさ」をつくっていく。齋藤先生が学校の外から見ているのは、そんな学校の姿でもあります。
学校に行っているかどうかとは別に、子どもたちは人と関わり、考え、自分なりのペースで変化していく。和み塾で子どもたちと過ごす齋藤先生が見ているのは、一人ひとりの子どもが今何を感じ、どう過ごしているのかという姿なのかもしれません。
すぐに答えを見つけなくていい。親はまず受け止めて
では、子どもが学校に行きづらくなったとき、保護者はどんなところに目を向ければいいのでしょうか。齋藤先生が挙げるのが、子どもの身体や普段の様子に表れる小さなサインです。
「朝になると、『お腹が痛い』『頭が痛い』『気持ちが悪い』などと言う。こうした身体症状が、最初のサインになることは少なくありません。その背景には、友達関係や勉強のこと、自分の特性と学校生活との間に生じたずれなど、さまざまなことが考えられます。何かのミスマッチやすれ違い、いわゆる不適応のようなことが起きているのかもしれません」
こうした身体の変化を、「問題が起きているサイン」と捉えるだけでなく、子どものつらさや困りごとに早い段階で気づくきっかけとして受け止めてほしいと、齋藤先生は話します。
ただし、その理由を、子ども自身がすべて言葉にできるとは限りません。
「無理に聞き出そうとするのではなく、表情やしぐさ、食欲、睡眠など、普段の様子を見てほしいんです。この段階で気づいてよかった、と後から思えることもあると思います」
「学校に行かせなければ」と焦るのではなく、まずは子どもの状態を見る。早急に答えを求めず、「無理しなくていいよ」と受け止めることも、その一つです。

和み塾のボランティアスタッフ・タクミさんも、不登校を経験しています。小・中・高のそれぞれの時期に学校に行けない経験があり、小学生の頃は、自分でもなぜ学校に行けないのかわからなかったといいます。
「親に『なんで学校に行かないの?』って聞かれるのが、いちばんつらかったです」(タクミさん)
当時、タクミさんが求めていたのは、「とにかくほっといてほしい」ということでした。けれどそれは、「(自分を)見捨てていいよ」ということではありません。自分の中で「このままじゃいけない」と思える時期が来たとき、母親がさりげなく通信制高校のパンフレットを置いてくれた。それをきっかけに、「見学に行ってみようか」と思えたといいます。
「ほっといてほしい時期はある。でも、親が何も言わなくなると、見捨てられたのかなと思う子もいると思うんです」(タクミさん)
子どもを急かさない。でも、決して関心を失わない。タクミさん自身の経験から語られるこの距離感は、齋藤先生が和み塾で大切にしている「子どもを見る」という姿勢とも重なります。

子どもを育てるだけでなく、子どもから学ぶ
子どもの様子が変わると、保護者もまた、「これからどうなるんだろう」と不安になります。何をしたらいいのかわからず、まるで「霧の中を歩いているような状態」になることもあるでしょう。
そんなとき、齋藤先生が勧めるのは、親だけで答えを出そうとしないことです。
「遠慮なく情報を得て、遠慮なく相談をしてほしいんです。何も悪いことをしているわけじゃないんですから」
学校以外にも、地域の相談窓口や子どもの居場所、同じ経験をした保護者の会など、アクセスできる場所はあります。インターネットや生成AIで、子どもの心理や居場所について調べることもできます。
そしてもう一つ、「子どもを他の子と比べない」ということです。
同じ学年、同じテストの点数……。学校には、子どもを見るさまざまな物差しがあります。でも、それがその子のすべてではありません。
「子どもは唯一無二の存在です。比較せずに育ててほしいんです」
とはいえ、頭では「比べないほうがいい」とわかっていても、他の子の成長や学校での様子が目に入れば、つい比べてしまう。わが子を心配するからこそ比べてしまう。そんな気持ちを抱くのも、無理のないことなのかもしれません。
だからこそ、学年やテストの点数といった目の前の尺度だけにとらわれず、その子がこれからも生涯にわたって学び続けていくことを大切にする。そんな視点を持ってほしいと、齋藤先生は話します。

子どもを「どう育てるか」だけではなく、子どもから学ぶ。齋藤先生は、そんな姿勢も大切にしています。
「子どもから学ぶという姿勢はずっと持ってないと、いずれきつくなる。子どもの発見や興味、関心、ポロッと発した言葉などから、いくらでも学べます」
子どもを他の誰かと比べるのではなく、目の前のわが子を見る。子どもを育てるだけでなく、子どもから学ぶ。
「霧の中を歩いているような状態」だからこそ、ひとりで答えを探さなくていい。情報を得て、誰かに相談しながら、その子を見ていく。
学校に行けるか、行けないかだけではなく、その子は今、何を感じ、何に興味を持ち、何をしようとしているのか。齋藤先生が学校の外で子どもたちと過ごすなかで見つめてきたのは、そんな「その子自身」の姿なのかもしれません。
お話しを聞いたのは
「一般社団法人とえはたえ」代表理事・不登校学習支援「菊名和み塾」主宰・明蓬館高等学校中等部スクールマスター・経産省 未来の教室 EOL(イノベーション・オープン・ラボ)メンター。横浜市立中学校にて37年間勤務。退職後は全国&世界の教育現場を視察。地元で「菊名和み塾」で、不登校児童生徒への学習支援を無償で行っている。教育視察のコーディネートや、「不登校支援」についての講演活動、多様な進路についてのセミナーなどに取り組んでいる。
この記事を書いたのは
フリーライター・エディター、認定子育てアドバイザー。教育、子育て、PTAなどの分野で取材・執筆、企画編集を行う。著書に『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』(厚有出版)など。All About「子育て・PTA情報」ガイド。2025年7月、PTAを取り巻く環境をより良くすることを目的に「PTA・保護者組織を考える会」を共同代表として立ち上げ。対話の場の創出や、PTAオンライン相談窓口の運営を通じ、保護者が無理なく楽しく関われる「これからのPTA」の形を模索・発信している。
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