キャッチコピーが“爽快快活健康的不倫ムービー”ということで、非常に気になっていた『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(9月10日公開)。本作で描かれるのはW不倫ですが、決してドロドロした作風にもっていかず、確かに観終わったあと、実に爽快な気分になれる快作となっています。
人気と実力を兼ね備えた黒木華と柄本佑がW主演を務めた映画と聞いただけで、面白さが担保されていたのですが、その展開は予想の斜め上を行っていました!
本作はオリジナル作品の企画コンテスト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2018」で準グランプリに輝いた作品です。これまでに、長澤まさみ✕高橋一生共演の『嘘を愛する女』(18)や土屋太鳳✕田中圭共演の『哀愁しんでれら』(21)など、予断を許さない巧妙なストーリーテリングの作品で、観るものをあっと言わせてきましたが、本作もしかりで、「そう来るか!」とうなる1作となりました。
妻が自分たちを想定したW不倫の漫画を描き、夫は大慌て!
主演の2人が演じるのは、結婚5年目の夫婦です。2人とも漫画家で子どもはいません。夫の俊夫(柄本佑)は現在、新作が描けないスランプ状態で、妻の佐和子(黒木華)は連載に追われているよう。そんな夫が不倫をしていたのは、よりにもよって佐和子の担当編集者・千佳(奈緒)でした!
佐和子は、いつか夫が家を出ていくのではないかと考え、自動車免許を取りにいきますが、自動車教習所で、若くてイケメンの指導教官、新谷(金子大地)と出会います。そして、いつしか新谷は、佐和子にやすらぎを与える存在になっていきます。やがて夫の不倫を確信した佐和子は、自分たちを想定したW不倫の漫画を描いていきますが……!
ちなみに、佐和子が描く漫画を見て、慌てふためく俊夫がかなり滑稽です(笑)。俊夫はこっそりと妻が通う教習所に行って、新谷の顔を見に行ったり、2人が路上の教習に出た時も車であとをつけ、うっかり見つかりそうになったりと、見ていてかなり失笑もの。ただ、佐和子の心の内ははっきりと明かされず、見ているほうはドキドキハラハラさせられます
6月に公開され、スマッシュヒットとなった菅田将暉主演のサスペンススリラー『キャラクター』(21)も、殺人現場を目撃した漫画家がそれをベースにした作品を連載するという内容でした。ですが本作では、劇中の不倫が、完全な佐和子の創作なのか、それとも単なる彼女の妄想なのか、その境界線を曖昧にすることで、観ているほうも佐和子に翻弄されていくという点がミソです。
結婚5年目の夫婦あるあるにも共感しつつ最後はスッキリ!
ちなみに、本作では不倫についての道徳観をつきつけたり、ご都合主義の展開になったりという想定内の結末は迎えません。ただ、愛する人の裏切りを受けた佐和子の葛藤が、そんなに盛ることなく、等身大で描かれているので、観ていてかなり感情移入できるのではないかと。
また、結婚5年目という「倦怠期」や「馴れ合い」に陥りがちな夫婦間のやりとりも実にリアル。おそらくママたちが佐和子の憂鬱さを見たら「わかるわあ」と共感すること請け合いです。
個人的に非常に感心したのは、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』というタイトルの絶妙さです。脚本のスキルがキレキレで、そこで心を持っていかれました。もちろんネタバレ厳禁な映画なので、本編でそこは楽しみにしていただきたいです。
ちなみに、完成披露試写会で、黒木さんは「佐和子の選択や俊夫のあたふた感を楽しんで観てほしい」と、柄本さんは「悶々とした気分をスカッと爽やかに払拭してくれる、デトックス効果のある爽快快活健康的不倫ムービーです」としっかりアピールしていました。コロナ禍で、なかなか憂さ晴らしができない中、ぜひママたちにおすすめしたいイチオシ映画です。
脚本・監督:堀江貴大
出演:出演:黒木華、柄本佑、金子大地、奈緒/風吹ジュン…ほか
公式HP:https://www.phantom-film.com/watatona/
文/山崎伸子
©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会