「楽しい! が、すべての原動力」
引原有輝先生によると、体力と学力には相関関係があり、記憶力や情報処理能力をチェックするテストでは、体力や運動能力が高い人はテストの成績がいいというデータもあるそう。そう聞くと子どもにスポーツをさせようと考えがちですが、先生は、遊びの中で「体を動かすのは楽しい」という感覚を身につけることが重要と語ります。
「競技としてのスポーツにはルールがあり、習い事やスポーツクラブでは『教えられたことを指示に沿って受動的に行う』という側面があります。一方、遊びは能動的であり、内発的。楽しいからやる、飽きたら別のことを考えるという経験で脳はフル回転します。同じ動作であっても、動かされるのと自ら動くのでは質が異なるのです」
もちろん自ら楽しんでスポーツをしているなら能動的に取り組めますが、体力づくりのために無理矢理習い事をさせる必要はありません。さらにスポーツ教室などで̋教えられて動く̋だけでは育めない力があるそう。「学校教育には教科教育で学力を高める役割があるため、どうしても『教えられる』側面があります。
渋谷区の児童館でのJUMP-JAMの様子。
授業に加えて放課後もスポーツ教室や学習塾で『教えられる』教育が続くのは、子どもにとって大変です。その環境では、自分たちでルールを決める、新しいアイデアを出して試行錯誤していく力は育まれにくい。とはいえ、昔と違って放課後遊びの選択肢は少なく、遊びに必要な『さんま(仲間、時間、空間)』の確保が難しい現状もあります。ですので私は、放課後に児童館を活用するのをおすすめしています。ある程度安全が確保された場所で自主的に遊ぶことは、現代において貴重な体験になります」
親が「子どもには遊びが必要」というマインドを持てるようになると、放課後の選択肢が習い事だけではないことに気づきます。児童館のように自由に遊べる環境を見つけてあげることもそうですし、親子で一緒に遊ぶことも選択肢のひとつです。「私が子どもとよくやっていたのは、陸上の10種競技のように遊びを組み合わせた『10種バトル』。ボールや的当てなど遊びはなんでもいいのですが、ルールやネーミングを親子で一緒に考え、トータルで勝負を競います。
大切なのは、親が遊びを与えるのではなく、一緒に考えて子どもの遊び心を刺激すること。新しい遊びを考えて工夫する経験は、学力だけでなく思考力や社会情緒的スキル(積極性、感情制御、思いやり、回復力)といった能力を育むことにつながります」
家の中でできる運動遊び
テクニックつなひき
床にマスキングテープなどでラインを引き、タオルを2枚それぞれの手に持って押し引きをする。1枚でやるより駆け引きが必要で、力任せでは勝てなくなる。
キャッチ・ザ・キャップ
ペットボトルのキャップを両手に20~30個のせ、相手ができるだけ多く受け取れるように投げる。2組のペアで行い、キャッチできた数を競っても楽しい。
スパイダー・ホッケー
ラインを3本引き、ペットボトルのキャップを並べる。上の絵のような姿勢になり、制限時間(1分間など)を定め、足の親指を使って相手陣地にキャップを押し込む。相手から飛んできたキャップも押し返し、終了時に自分の陣地にキャップが少ないほうが勝ち。
ヒラヒラ+イライラ紙吹雪
折り紙を適当な大きさにちぎって紙吹雪をつくり、椅子の上などから散らす。制限時間を定め、その間に多くの枚数をつかみ取ったほうが勝ち。慣れてきたら、カラフルな折り紙の中から赤色をつかむなど難易度を上げても。桜の時期には花吹雪で挑戦してみて。
都内の児童館で運動遊びのプログラム「JUMP-JAM」を実施!
JUMP-JAMとは、スポーツと遊びを合体させた新しい運動遊びプログラム。都内100か所以上の児童館で、トレーニングを受けた児童館職員が実施しています。引原先生は、子どもたちが遊ぶ、運動の要素を取り入れたゲームを監修。ウェブサイトではゲームのやり方を紹介しているので、自宅や公園で楽しめるゲームを探してみては?
記事監修
引原 有輝 教授
千葉工業大学創造工学部教育センター/同大学大学院工学研究所 デザイン科学専攻所属。博士(体育科学)。東京都統一体力テスト分析委員会委員などを務める。専門分野は発育発達学、健康体力学、行動科学。
『小学一年生』2021年12月号 別冊『HugKum』 構成・文/山本章子 イラスト/別府麻衣