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グループ運営アプリを開発・導入し、PTAの係をエントリー制にした
人口が増え続ける調布市の住宅街にある上ノ原小学校は総生徒1000人に迫るマンモス校です。そのPTA副会長である遠藤晃弘さんは3児の父。同校に子どもを通わせている安東裕二さんとは小学、中学時代の同級生であり、その縁から安東さんが経営するアプリ開発会社OpenDNAでグループ運営アプリ「Hi!(ハイ)」を開発し、無償提供することによって、今回の改革に大きく貢献しました。
遠藤さん:これまで『旗振り』と呼ばれる通学路の安全見守り係だけでも年間約900回分を手作業で割り振っていました。しかし、この6月から『Hi!』で募集してみると、9割以上が進んでエントリーしてくれる保護者で埋まるように。これだけ手を挙げてもらえるとは思っていなかったので、びっくりしています。
アプリ画面では「4月11日 見守り。あと2人」などとアイコンで募集要項が表示され、場所や時間など詳しい情報を見てから応募できます。応募は前日でもOK。保護者がエントリーすると、予定がアプリ内のイベントカレンダーに登録されるので、日時をうっかり忘れることもなさそうです。
遠藤さん:これまでは、ひとりひとりの都合を聞くことができず、平日に仕事がある人でも一方的に担当する日時が決められていました。なので、旗振り当番を嫌がる人もいたのですが、今年度、みずから手を挙げて参加してくれた人は『楽しい』と言ってくれています。ポジティブな活動にマインドチェンジできつつあると思いますね。
これまでは「召集令状」「免除の儀式」があって、みんなが辛かった
それまでは、上ノ原小学校でも全国のPTAによくあるシステムで組織が運営されていました。年度始めに保護者は希望する係をプリントに記入し、係が決まると活動に参加する日時を決められたお知らせが配られ、それが「召集令状」のように受けとめられていたとか。
そして、役員選出係になった人が会長・副会長などの本部役員候補を決め、候補者が引き受けられないときは、みんなの前で「できない理由」を話さなければいけないなど、「免除の儀式」とでも言うべき段階を踏んでいたそうです。遠藤さんと安東さんは同校の卒業生でもありますが、自分が保護者の立場になってみると、PTAの実態を知って驚いたそうです。
遠藤さん:本来、PTAは任意のボランティアであるはずなのに、なぜみんなが苦しむような状態になってしまったのだろうと…。役員ができない理由は人それぞれあるだろうし、その個人的な事情を明かす必要もない。そんなことをしていると、保護者同士の精神的な距離が離れていってしまいますよね。いろんな係でも、保護者が平等に負担できるように、意味のない仕事をどんどん細分化し、わざわざ不要な業務を生み出していたところがありました。
遠藤さんはそこからPTAを変えたいと一念発起。2021年度に副会長となり、役員会などで業務のスリム化と挙手制を提案。これまで保護者会で決めるときに押し付け合いになりがちだったクラス役員の制度も思い切って廃止しました。
遠藤さん:とにかく強制的な雰囲気をなくしたかったので、『できることを できるときに 無理のない範囲で』をモットーに活動することにしました。PTA活動の中で残すべきものは何かと考え、学校行事のサポート、登下校の見守り、地域行事のサポートの3つに絞り、担当してくれる人を募集することにしたんです。
エントリー制にするとPTAが立ち行かなくなるという反対もあったが…
しかし、PTAを改革するとき、壁になりがちなのが、今のやり方のままでいいとする考え方。エントリー制にするに当っては、当時の役員から「それでは人が集まらなくなる」という反対意見も出たそうです。
遠藤さん:そういった意見に対しては『もし、人が集まらなかったら、集まらない理由を考えよう』と言い続けました。募集の仕方が悪いのか、やはり平日は無理なのか…。いっそ人が集まらない係は廃止してもいいという考え方もできますよね。会員からの反対の声に対しては、丁寧にアンケートを取って、返信してという過程を得て、賛成多数になったので変えることができました。
そこで、安東さんが助け舟を。CEOを務める会社でPTAの運営に最適化したアプリ「Hi!」を開発し、遠藤さんたちに提供しました。
安東さん:うちの会社は『身近な課題にアプリでアプローチする』というのがコンセプト。そこになんらかの事情で苦しんでいる人がいて、自分の持っているスキルでそれがもう少しやりやすく、もっとハッピーにできるのであればという気持ちで開発しました。
アプリを提供するのもボランティアであり、社会貢献の一貫と考えているそうです。
遠藤さん:今回の改革はアプリがなければ絶対にできませんでしたね。
現在、PTAに加入しているのは全体の7割ていど。その中の5割ほどがアプリを活用しているそうです。それでも旗振り係などに人が集まるのは、上ノ原小の場合、そもそもの生徒数、保護者の数が多いということもあるかもしれません。
遠藤さん:学校のため純粋なボランティア活動をしたい人もいるし、子どもたちと触れ合える活動したい人もいるし、忙しいけれど朝だけなら…という人たちも。例えば、ベルマーク収集は廃止案もありましたが、希望者が意外に集まったので、サークル活動のような位置づけで続けています。あらゆる人がPTAの中でやりたいこととそうでもないことを言っていいんだと思いますね。
将来的にはアプリでPTA運営費を捻出!? 地域の活動に広げていく考えも
「Hi!」では、ボランティアの募集と応募のほか、お知らせの投稿と一覧、イベントカレンダーの登録やポイント機能の設定などができます。ただ、メッセージのやり取りはできないので、運営側のPTA役員はメールやLINEグループで連絡しあうなど、組み合わせて活用するとよさそうです。
遠藤さん:PTAからのプリントは、子どもが親に渡してくれなかったり、家の中でどこかに行ってしまったりしがちなので、アプリ内でチェックできるのはすごく便利ですね。学校行事のスケジュールも入力しているので、例えば夏休み前は給食が何日までなどの情報も見られます。
安東さん:将来的にはアプリに広告を入れ、マネタイズし、PTA会費を捻出するということも考えています。また、PTAだけでなく、ゴミ拾いや公園の整備など、地域のボランティアでも使ってもらえれば、近年、参加する人が減り高齢化している活動の活性化に貢献できるのでは。
PTAを変えようと決断し周囲を動かしながら実行に移していく人と、それを最新の技術でサポートする人。その両者がそろっていたからこそできた改革ですが、こうした先行例とアプリなどのツールは既にあるわけなので、全国のPTAで改革を考えている人たちにとっては大いに参考になりそうです。
取材・文/小田慶子
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