目次
ドイツの児童文学「点子ちゃんとアントン」ってどんなお話?
まずは、『点子ちゃんとアントン』の背景や作者についてを知っておきましょう。
エーリッヒ・ケストナーによる児童文学
『点子ちゃんとアントン』は、1931年にドイツで発表された児童文学作品。作者であるエーリッヒ・ケストナー(1899-1974)は、冒頭でも述べたとおり、『エーミールと探偵たち』や『ふたりのロッテ』『飛ぶ教室』等の代表作で知られるドイツの詩人・作家です。
・原題 :Pünktchen und Anton
・作者 :エーリッヒ・ケストナー(Erich Kästner)
・国 :ドイツ
・発表年:1931年
・おすすめの年齢:小学校高学年〜
作者のエーリッヒ・ケストナーってどんな人?
エーリッヒ・ケストナーは、貧しい家庭の生まれでした。にもかかわらず、大学まで進学し、第一次大戦では召集を経験したものの、無事に大学を卒業。その後は新聞社に勤務します。
1929年に発表した児童向け小説『エーミールと探偵たち』が注目を集めたことから、精力的に文学作品を執筆するように。ナチス政権下では圧力を受けながらも、屈せず執筆活動を継続し、戦後は西ドイツペンクラブ初代会長としても活動しました。1960年には、国際アンデルセン大賞受賞。
日本語版は1936年に初出。“Pünktchen”→「点子ちゃん」との訳が秀逸!
『点子ちゃんとアントン』は、1936年に高橋健二さんによる翻訳で、はじめて日本で出版されました。その後は、池田香代子さん他、さまざまな翻訳者によって訳され、幅広い層に読み継がれています。
原題にも用いられている“Pünktchen”は、ドイツ語で「点 (Punkt) のように小さな子」の意。語尾の“chen”は、名詞の語尾に付けて「小さなもの、愛らしいもの」を示す縮小辞であることから、日本語では「点子ちゃん」と訳されたようです。
子ども向け映画としても
『点子ちゃんとアントン』は、ドイツで1953年と1999年の二度にわたって映画化されています。1953年のバージョンは、ケストナー自身による脚本を元に、トーマス・エンゲル監督によって制作されました。
カロリーヌ・リンク監督による1999年のバージョン(記事後半で紹介)は、DVDでも入手できるため、現在の日本国内でも比較的見やすい作品です。
物語のあらすじ
ここからは、『点子ちゃんとアントン』のあらすじをご紹介。お子さんにも説明しやすい簡潔なバージョンもあわせてお伝えします。
あらすじ
裕福な家に生まれた点子ちゃん。けれども、両親はどちらも忙しくて、ほとんど家にいません。一方、点子ちゃんの親友・アントンの母親は、病気のためいつも家にいます。アントンは働けない母親の代わりに、アルバイトをしなければなりません。
ある晩から、点子ちゃんは住み込みの養育係・アンダハトさんとこっそり外出するようになりました。点子ちゃんは、アンダハトさんが彼氏に貢ぐためのお金を稼ぐのを手伝わされていたのです。盲目の母親とその娘に扮して、路上でマッチ売りをするふたり。ある日、そのことが点子ちゃんの両親にばれて……。
点子ちゃんとアントン、対照的なふたりとそれぞれの家庭模様を通して、親と子ども、家族のあり方を、鋭い視点を持ちながらユーモラスに描いた物語です。
あらすじを簡単にまとめると…
裕福な家の子でありながら、夜になると両親には秘密のアルバイトをしている点子ちゃんと、貧しい家の子で母親思いのアントン。ふたりの家族模様を通して、親と子どもや家族の在り方をユーモラスに描いた一作。
主な登場人物
本作の主な登場人物も押さえておきましょう。
ルイーゼ・ポッゲ(点子ちゃん)
物語の主人公。裕福な家の子。両親はどちらもあまり家におらず、養育係がついている。生まれてから一年もの間大きくならなかったため、「点子ちゃん」と呼ばれるようになった。
アントン・ガスト
点子ちゃんの親友。父親がなく、貧しい家の男の子。母が病気で働けないため、代わりに靴紐を街角で売るアルバイトをしている。母親思いで、家事もこなす。
ピーフケ
点子ちゃんが飼っている、ちいさなダックスフント。
アンダハトさん
点子ちゃんの養育係。甲斐性のない彼氏に貢いでいる。夜になると点子ちゃんを連れて、街角でマッチを売るようになる。
ポッゲさん
点子ちゃんの父親。ステッキ工場の父親で、あまり家にいない。
ポッゲ夫人
点子ちゃんの母親。娯楽にふけるのに忙しく、あまり家にいない。
ガストさん
アントンの母親。病気で寝込んでいる。
物語から学べること|描かれた社会問題とは?
『点子ちゃんとアントン』には、大人も深く考えさせられるような、当時の社会問題を含めたさまざまな課題が描かれています。その中でも、物語の背景として特に目を引くのが、「貧富の格差」ではないでしょうか。
運転手や養育係といった使用人が雇われる裕福な家庭に生まれた点子ちゃんと、シングルマザー家庭で貧しい暮らしをするアントン。対照的なふたりの住む場所は、実はかなり近所です。
舞台となった20世紀ベルリンの「貧富の格差」
ふたりが住む地域は、実在した街並みがモデル。二十世紀はじめ頃のベルリンには、かなり狭い地域の中に、ポッゲ家(点子ちゃんの家)のような裕福な家庭と、ガスト家(アントンの家)のような貧しい家庭が目と鼻の先にあることが当たり前でした。
本作に描かれる「物乞い」は、そんな「貧」と「富」の格差が大きく、両者が混在した地域だからこそ成り立つ存在なのです。ケストナーは、ふたつの家庭模様を通して、この状況への疑問を読者に投げかけているのではないでしょうか。
現実にはびこる課題とのリンクに注目
架空の子ども向けの物語でありながら、時代や国境を超えて、誰にとっても身近な課題と密接にリンクしている本作。
アントンを通じて「子どもの貧困問題」に注目したり、点子ちゃんの家庭を通じて「育児と仕事の両立への課題」を意識する人もいるはず。
自分なりの切り口で、本作に描かれた社会問題について考えを巡らせてみましょう。
「点子ちゃんとアントン」を読む/見るなら
最後に、『点子ちゃんとアントン』を読む際におすすめの書籍と、映画版のDVDをご紹介します。
点子ちゃんとアントン (岩波少年文庫)
2000年に発刊された『点子ちゃんとアントン』の岩波少年文庫版。他のケストナー作品の翻訳も務める池田香代子さんによる訳書で、親しみやすい言葉で書かれた一冊です。オリジナル版から続投された、ヴァルター・トリアーによるおしゃれな挿絵が目をひきます。
映画 点子ちゃんとアントン(1999年版)
1999年に公開された映画版『点子ちゃんとアントン』。設定が現代風にアレンジされていたりと、多少の改変はあるものの、点子ちゃんとアントンのあたたかく快い友情や、家庭模様とその変化は、映画版にも健在です。原作ファンはもちろん、原作未読の方たちからも支持される作品。
注目する人物ごとに、違った物語が浮かび上がる物語
今回は、ケストナーの作品『点子ちゃんとアントン』をご紹介してきました。
点子ちゃんとアントンの友情や、アンダハトさんの少々残念な恋愛模様、お父さんやお母さんの子どもに対する振る舞い等々、注目するキャラクターによっても、一味違った物語が浮かび上がる作品です。読後にお子さんと意見を交わしてみれば、きっと自分とは違った視点が楽しめるはず。
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文・構成/羽吹理美