元モーグル日本代表・上村愛子さんが絵本の作画に初挑戦!温暖化で減少する「雪」への想いを込めて

「ゆきゆきだいすき」は、元モーグル日本代表選手である上村愛子さんが、初めて作画を担当したことでも話題になっている一冊です。
世界中の雪に触れてきた上村さんご本人に、雪を題材にした絵本をつくることになったきっかけや絵本を通して伝えたい想いについて伺ってみました。

環境問題について考えるきっかけをくれる絵本「ゆきゆきだいすき」

近年、地球温暖化の影響により、増加していると言われる自然災害。ゲリラ豪雨や大型台風など私達の暮らしに直接影響を及ぼすものも多く、一刻も早く向き合うべき問題として「気候危機」という言葉で表現されることも増えています。
雪に関する問題もその一つ。以前は雪がたくさん降っていた地域に、雪があまり降らなくなってしまったり、反対に一晩でたくさんの雪が降るなど、様々な問題が懸念されています。

そんな、”雪”という大切な資源について、改めて考えさせられる絵本「ゆきゆきだいすき」。作画を担当された上村愛子さんに、絵本に込められた想いについてお話を伺いました。

HugKum:“ゆきゆきだいすき”はどのような経緯でうまれた絵本なのでしょうか?

上村さん(以降上村):この絵本は、雪資源を守っていこうというプロジェクト「SAVE THE SNOW PROJECTS」の中でうまれました。“雪”という存在に近いメンバーが集まっているので、「雪って素敵なものだよね。大切にしていきたいよね」という想いをみんながそれぞれ持っていて…。
どうやったらその想いを、広く、様々な人達に届けられるかということを、みんなで話し合っている中で、「絵本はどうだろうか」という案が出てきたんです。
子ども達はもちろん、その親御さんや、雪にあまりなじみのない方達にも “雪という存在があることの大切さや楽しさ”を知ってもらう最初のきっかけになって欲しいという想いを込めて、みんなでつくりあげていきました。

HugKum:今回、上村さんは初めて作画を担当されたということですが、いかがでしたか?

上村:描くことはもともと好きで、以前からお手紙などにちょっとイラストを描いてお渡ししたりしていたのですが、今回は今まで描いたことがないものもたくさんあったので、どれくらいの時間がかかるのか、想像できなくて…(笑)
最初は紙と鉛筆で描いていたのですが、デジタルも駆使して、仕上げていきました。

とにかく、雪への想いはみんなたくさんあったので、最初はもっとテキスト部分が多かったのですが、みんなで意見を出し合いながら、極力、文字を少なくして、絵にできるところはできるだけ絵に置き換えていきました。
そんなこともあって、絵コンテにした時には、「これ全部自分が絵で描くんだよな」とちょっと心配になった瞬間もありました(笑)

HugKum:主人公あいこちゃんと風景や動物たちのイラストのテイストが少し違っていますが、あえて変えているのでしょうか?

上村:実際には、動物や風景などを、あいこちゃんと同じようなキャラクターのテイストで描くことが逆に難しかったので、本物っぽいテイストになっているんです(笑)
雪の結晶なども本物と同じように描いているんですが、読んだ子ども達が、実際の雪や動物、風景を見た時に「あ!絵本と一緒だ」と思ってもらえたらいいなという想いもあります。

あいこちゃんのイラストに関しては、顔の表情や滑っている姿などで、どういう子なのかを伝えないといけないので、とにかく良く笑い、天真爛漫さが伝わるように描いていました。
私はスキーする時に、三角帽子をかぶるので、主人公のあいこちゃんにも三角帽子をかぶせています。この三角帽子は最初の頃から描いてきたキャラクターにかぶせていたように思いますね(笑)。

赤い三角の帽子がトレードマークのあいこちゃん

実際に、読んだ方からは、どんな感想が届いていますか?

上村:雪を題材にした絵本は色々あるけれど、“雪を大切にしよう”という内容の絵本は今までなかったと、雪になじみのある方達からもお声を頂くことが多くて、つくってよかったな~と感じています。

絵本の後に、大人が読んでも雪について学べるページがあるところも、他の絵本にはなかなかない点ですよね?

上村:そうですね(笑)最初はああいった学べるページをもっと多くしようかという案もあがっていたんです。
子ども達に読み聞かせをするのは、大人だと思うのですが、だからこそ、親御さん側にも雪に興味を持ってもらえるようなページをつくりたいと思っていて、雪について学んでもらえる情報もいれこみました。
「なんで雪って降るの?」とか「どうして雪って大切なの?」という子ども達の疑問にも、知識がないと答えられないですし、大人になると“知らないことを知るって楽しい”という気持ちにもなりますよね!

HugKum:最後に、絵本を通して、上村さんが伝えたい想いについて教えてください。

上村:以前に比べて、雪解けが早かったり、雪が降り始めるのが遅かったり…冬の期間が短くなっていると言われている中で、「雪」という存在が、ひとりでも多くの方達の人生の中に残って欲しいなと思って、絵本に向き合いました。
この絵本を手にした皆さんに、雪があることの大切さを改めて感じとってもらえたらいいなあと思っています。
今まで、世界各国、様々な場所の雪に触れてきましたが、生まれ育った土地ということもありますが(笑)日本の雪がやっぱり一番好きです。
「次、雪が降ったら、遊びにいってみよう」という会話がうまれたり、雪を守るために、どんなことが出来るのかを考えるきっかけに、この絵本がなってくれたら、本当に嬉しいです。

絵/上村愛子 作/八尾良太郎1650円(税込)

素晴らしい雪のある風景をいつまでも残していきたい。みんなに伝えたい想いからこの絵本がうまれました。自然を守るために、雪を守るために、大人と一緒に考えられるページも満載。「SDGs」を理解する第一歩として最適な一冊です。

お話を伺ったのは…

元フリースタイルスキー・モーグル日本代表

上村愛子さん

アルペンスキーからモーグルに転向して4年。初出場した長野五輪で一躍注目を集め、日本のエースとして常にメダルを期待される存在となる。
世界トップ選手のひとりとして、日本勢の成績を数々塗り替えた。
ワールドカップ種目別年間優勝、世界選手権優勝を果たし「No.1」の称号を手に入れる。残る五輪のタイトルを賭けて通算5回の出場ですべて入賞を果たすも、悲願を達成することは叶わなかった。3Dエア(コークスクリュー720)を最初に完成させ、カービングターンを武器とするなど、世界の女子モーグル界における技術の先駆者としても知られる。
現在はスキーや雪との触れ合いの楽しさを伝えるため、広くメディアやイベント等で活動を行っている。

絵本を通して「自然」を考えるきっかけに

50年後、100年後の未来も、美しい雪景色を楽しむために、日々の暮らしの中で私達はどんなことができるのか。
環境問題と雪について、愛らしいイラストとやわらかな言葉を通して、知り、考え、学ぶきっかけをくれる一冊「ゆきゆきだいすき」。
親子でページをめくって、「雪」の魅力や大切さについて、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

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取材・文/茂木雅世 構成/HugKum編集部

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