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子どもの数は減っているけれど中学受験者は増えている!
――2022年度の中学受験は、コロナ禍まっただ中の昨年、一昨年の受験と比べ少し落ち着き、受験者も増えているのではないでしょうか。
そのとおりですね。この2月に迎えた2022年度の中学受験では、1都3県の私立国立中の受験者総数は、推定5万2,600人に達し過去最多となり、受験率も17.8%と過去最高になりました(*首都圏模試センターによる推定)。
とはいえ、実は、2020年に新型コロナウイルスの影響が始まってからも、受験者数は増えていたんですよ。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災の頃は中学受験生が減り続けていましたが、2014年を境に下げ止まり、ここ8年間は漸増していました。子どもの数は減っているのに、これは注目すべきことですね。
――なぜコロナ禍にも関わらず、受験生は増えてきたのでしょうか?
いろいろな要因があると思いますが……。2020年から始まったコロナ禍では、公立の小中学校の学びは大変な困難にさらされました。一斉休校になって子どもが学校で学べなくなり、「各自、家で勉強は進めてください!」というような指示が学校から出たりと、混乱しましたよね。オンライン授業もなかなか進みませんでした。
その一方で、私立の中学校などはネットワーク環境が整備され、オンライン授業の対応も早く、その授業内容も充実していました。「学びを止めない」がしっかりと実行されていた現実を見せつけられたことが、みなさんを中学受験に向かわせた大きな要因になっていると思います。
大学入試改革の影響も出始めた
また、大学受験改革も、中学受験に大きく影響しています。今や一般入試よりも推薦型が注目され、学校推薦型選抜や総合型選抜が、私立大学の入試全体の50%以上を占めるようになっています。これまでは一般入試の勉強に力を入れられるからこそ中高一貫校が有利、というイメージがありましたが、実は推薦型入試の面でも、やはり私学のほうがアドバンテージがあります。なぜなら多くの私学では推薦型入試の受験対策もしっかりとっていますし、指定校推薦の枠も総じて大きいといえます。大学から来る推薦枠は、その高校の卒業生の学業成績や功績などによって決まりますから、私学が過去から積み上げてきた実績やノウハウがものを言うのですね。つまり、一般入試でも推薦型入試でも、私立中高に期待できると思われる保護者が多いのだと思います。
特待制度や高等学校就学支援金制度で、経済的負担も軽減
――私立中学・高校は何かとお金がかかりますが……。
たしかにそうなのですが、最近では多くの私立中高が特待制度を設け、成績が優秀なら授業料の免除を行っています。高校の高等学校等就学支援金制度が充実し、私立の高校でも経済的負担を軽減できる世帯が広がりました。こうしたさまざまな要因、そして少子化もあいまって、お子さんが1人、2人のご家庭では、「うちの子、中学受験をさせようか」という機運が高まっているのだと思いますね。
これは大都市での傾向で、地方の都市では、やはり今も公立中学から進学校と呼ばれる公立高校に入るのが受験の王道でしょう。地域差はあります。ただ、首都圏や関西圏などでは、進学実績のしっかりした私立や国立の中高を目指すケースが多いでしょうね。
上位の学校にチャレンジする傾向
直近の2022年度の受験では、コロナ前の上位志向の入試に戻り、偏差値の高い難関校へのチャレンジ層も多くなっていました。コロナ禍がもっと激しかった昨年、一昨年は安全志向で無理をさせない傾向でしたが、いわゆる強気の受験も目立ちました。その分、厳しい戦いになった学校も多かったようです。ただ、中堅レベルの中高一貫校も非常に人気で、偏差値にかかわらずまんべんなく受験者は多かった印象です。
――そうした2022年を踏まえ、2023年度の中学受験は、どのような傾向になりそうですか?
首都圏の新小学校6年生の児童数は約6000人少ないようです。しかし、昨年の5年生の大手模試の受験状況を見ると、それほど減っていません。したがって、来年の中学受験者数自体も減らないかもしれません。児童数が減ることをもって受けやすくなるとは言えないようです。
国際化、共学化、附属化……人気を集める学校の条件は
――そんな新受験生にとって、いわゆる人気校とは?
最近の傾向としては、いわゆる国際教育に力を入れている学校は軒並み人気ですね。授業を英語で行うなど、学校にいながらにして英語力や国際感覚を身につけられる多様なカリキュラムを備えている中高一貫校です。こうした学校はとても人気で、偏差値もどんどん上がっています。学校名もそれに従い変更しているところが多く、村田女子から広尾学園小石川、戸板女子から三田国際学園、さらにさかのぼると順心女子から広尾学園、といった具合です。なお、今年色々と注目を集めた芝国際(東京女子学園)
こうした学校は女子校から共学に変わり、それに伴いますます人気と偏差値が上がる傾向です。こうした私学の共学化は、ある意味では時代の趨勢によるものと言えます。
大学への推薦枠が保証されている学校も人気
また、付属校や付属校並みに系列や提携の大学の推薦をとれる中高一貫校も人気です。たとえば、日本学園は2026年度から明治大学付属世田谷中学校・高等学校となり、明治大学への付属高等学校推薦入学試験による入学者の受け入れを2029年度から行います。このときには、卒業生のおよそ7割が明治大学に進学できるようです。
香蘭女学校が立教大学への推薦入学制度があることは古くから知られていますが、浦和ルーテル学院は「青山学院大学系属」という冠がつき、現在は経過措置ですが、2031年度からは卒業生全員の大学への系属校推薦入学を目指しています。横浜英和中学高等学校も、同様に2014年から青山学院との系属関係を締結しています。
プレゼンテーションで合格!?受験のしかたも多種多様
――受験教科や受験のスタイルも多様化していますね。
はい、本当にそうです。4教科型、2教科型だけでなく、4教科の中から自分の得意な1教科や2教科を選べる入試もあれば、学科試験の負担を小さくして、別の方法で受験生を評価する「新タイプ入試」も増えています。たとえば、英会話やプログラミングによる入試や、自分の好きなテーマによるプレゼンテーション入試など、受験生の個性や適性など重視する入試です。公立の中高一貫校が実施している思考力や表現力を問うような適性検査型の入試を行っている学校もあります。
それらは、私たち塾側も細かく情報収集をするのですが、各学校とも変更も多く、毎年情報を更新していく必要があります。
――いっぽう、開成や駒場東邦、桜蔭など、高い進学実績を誇る伝統的な男子校や女子校は、変化がありますか?
そのあたりの伝統ある学校は大きく変化していません。4教科でしっかりと学科の問題を解いていくスタイルです。男子校、女子校というありかたも変わりませんね。しかし、そのぶれない伝統や校風こそに魅力を感じる保護者や受験生も多いのではないでしょうか。
このように中学受験は百花繚乱、受験校選びの幅もどんどん広がっています。HugKum読者のパパママの中には、ご自身が中学受験を経験している方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、今の入試のしくみや人気校は、パパママの受験当時とはかなり違っています。ご自身の記憶や経験にこだわりすぎず、フラットな視点で情報収集を行い、それをもとに、お子さんの受験校を決めていっていただきたいですね。
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取材・構成/三輪泉