目次
『シェイクスピア物語』とは?
まずは『シェイクスピア物語』の作品情報や、作者について知りましょう。
イギリスの劇作家シェイクスピアの原作を、後世に小説風にリメイクしたもの
『シェイクスピア物語』は、イギリスの劇作家のウィリアム・シェイクスピアの作品から20編を選んだ物語集です。イギリスの随筆家チャールズ・ラムと姉メアリが、子どもが古典に親しめるようにと、当時から200年前に遡るシェークスピアの劇作品を当時の言葉で再話構成し、1807年に刊行しました。
収録されている作品には、四大悲劇と呼ばれる「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」、恋愛悲劇の傑作である「ロミオとジュリエット」、喜劇の「夏の夜の夢」「ヴェニスの商人」などが含まれています。
シェイクスピアによる原作は登場人物のせりふが並ぶ「戯曲形式」で、しかも16世紀の古語で書かれていますが、『シェクスピア物語』は近代の言葉で、小説の形になっています。収載された作品は、いずれも原作をいかした語感や美しい言葉が使われ、人間の様々な感情が巧みに描かれているのが特徴です。
原題:Tales from Shakespeare
国: イギリス
作者:チャールズ・ラム、メアリ・ラム(原作はウィリアム・シェイクスピア)
発表年:1807年(原作は16~17世紀)
おすすめの年齢:小学校高学年以上
シェイクスピアってどんな人?
まずは、『シェイクスピア物語』の原典の作者であるウィリアム・シェイクスピアに焦点を当ててみましょう。
ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)は、世界でもっとも有名な劇作家です。16世紀のロンドンでさかんだった演劇界で、俳優・劇作家として活躍しました。シェクスピアは、生涯約40作品を残し、400年以上たった今でも世界中で上演されています。また、「ラブレター」や「テントウムシ」「月の光」など、2000もの新しいことば(近代英語)をつくったともいわれています。
チャールズ・ラムはどんな人?
いっぽう、シェイクスピアの原作を19世紀初頭に当時の言葉で小説風にまとめ、『シェイクスピア物語』として刊行したのはチャールズ・ラムと、その姉のメアリ・ラムです。
チャールズ・ラムは18~19世紀にかけて活躍したイギリスの作家・エッセイストで、「エリア」の筆名による随筆『エリア随筆(エリアのエッセイ)』が代表作です。東インド会社に勤めたこともありましたが、退職後、精神疾患で不安定な姉メアリとともに、『シェイクスピア物語』を執筆しました。
シェークスピアの劇作品中20編を選び、主に喜劇は姉のメアリが、悲劇はチャールズが担当したといわれています。
いつの時代の話?
『シェイクスピア物語』に収録されている原作の話の時代設定はまちまちです。「ロミオとジュリエット」は14世紀のイタリアが舞台。「マクベス」は スコットランドに実在したマクベス王をモデルとしたことから11世紀ごろ、「オセロー」は16世紀ごろの話と考えられています。
シェイクスピア物語の代表的な物語とあらすじ
ここでは、『シェクスピア物語』の代表的な物語のあらすじを、「詳しく」&お子さんへの説明に便利な「簡単に」の2種類ご紹介します。
ロミオとジュリエット
14世紀のイタリアの都市ヴェローで実際に起こった事件がモチーフとなっている話です。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
ヴェローナの名家であるモンタギュー家とキャピュレット家は、家どうしが代々対立してきた。モンタギュー家の息子・ロメオと、キャピュレット家の娘・ジュリエットは、仮面舞踏会で出会い、たがいに一目で恋に落ちる。その夜、バルコニーに出てきたジュリエットと裏庭にいたロミオは愛を誓う。
しかし、ロメオはジュリエットの従兄・ティボルトをけんかがもとで殺してしまい、街を追放される。一方ジュリエットは、両親によってパリス伯との結婚が取り決めれていた。それから逃れるためにロレンス神父の指示に従い、42時間仮死状態になる薬を飲み、死んだと見せかけて、逃げ出す計画を立てる。
ロレンス神父はロミオにそのことを知らせようとするが失敗。ジュリエットが死んだと思ったロミオは毒を飲む。目覚めたジュリエットも、ロミオのあとを追って自殺してしまう。
ロレンス神父からことの真相を聞いたモンタギュー家、キャピュレット家の両夫妻は、この悲劇の原因が自分たちにあることを知り、和解するのだった。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
ヴェローナの名家であるモンタギュー家とキャピュレット家は、家どうしが代々対立してきた。モンタギュー家の息子・ロメオと、キャピュレット家の娘・ジュリエットは、仮面舞踏会で出会い、たがいに一目で恋に落ちる。
しかし、ロメオはジュリエットの従兄をけんかがもとで殺してしまい、街を追放される。一方ジュリエットは、両親によってパリス伯との結婚が取り決めれていた。それから逃れるためにロレンス神父の指示に従い、仮死状態になる薬を飲むが…。
ハムレット
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」というセリフで有名な作品です。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
ハムレットは、デンマーク王国の王子。父である王が亡くなり、叔父のクローディアスが母である王妃・ガートルードと再婚して王に即位したことに不満をもっていた。
ある日、ハムレットは従臣から、「夜になるとエルシノアの城壁に父の亡霊が現れる」という話を聞く。ハムレット自身が確かめに行くと、父の亡霊に会い、クローディアスによって毒殺されたことを知る。復讐を誓うハムレットだったが、確かな証拠を掴めず、理性と衝動のはざまで思い悩む。
やがて、ハムレットはクローディアスが父を暗殺した確かな証拠を掴み、復讐を決意する。しかし、クローディアスと間違えて殺してしまったのは侍従長ポローニアスだった。ポローニアスの娘で、ハムレットの恋人・オフィーリアは、悲しみのあまり川で溺死する。
ポローニアスの息子・レアティーズは、父と妹の仇をとろうとハムレットに怒りをつのらせる。クローディアスはハムレットの存在を恐れ、レアティーズと手を組み、剣術試合で毒が塗られた剣と毒入りの酒を使い、ハムレットを殺そうと画策する。
剣術試合の日、ガートルードが毒入りの酒を飲んで死んでしまう。ハムレットとレアティーズは、毒剣で傷を負う。レアティーズは死にゆくなかで、毒が塗られた剣と毒入りの酒でハムレットを殺そうとしたことを伝える。それを知ったハムレットはクローディアスを殺す。ハムレットは、親友・ホレイシオに事の顛末を新たな王となるフォーティンブラスに伝えてくれといい、息を引き取る。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
ハムレットは、デンマーク王国の王子。父である王が亡くなり、叔父のクローディアスが母である王妃・ガートルードと再婚して王に即位したことに不満をもっていた。ある夜、父の亡霊に会い、クローディアスによって毒殺されたことを知る。復讐を誓うハムレットだったが、確かな証拠を掴めず、理性と衝動のはざまで思い悩む。
夏の夜の夢
この作品は、劇中劇(劇のなかに劇が挿入されている)構造になっている、ドタバタ喜劇です。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
夏至の夜、ハーミアとライサンダーは駆け落ちして、妖精たちが集う森に行く。ハーミアは親友のヘレナに、駆け落ちの計画を打ち明ける。その計画を知ったヘレナは、片思いしている相手・ディミートリアスに漏らす。ディミートリアスはハーミアに想いを寄せていたことから、駆け落ちを阻止するために森に行く。ヘレナもディミートリアスを追いかける。
ちょうどそのころ、森では妖精の王・オーベロンと、妃・ティターニアがけんかをしていた。腹をたてたオーベロンは「目覚めて最初に見た人を好きになる」という恋の花の汁を妃の目に塗ろうと仕掛ける。さらに、森で見かけた恋人たちがうまくいくように花の汁を塗るよう、妖精のパックに命じる。パックはディミートリアスに塗るべき花の汁を、ライサンダーに塗ってしまう。人違いをしたせいで、ライサンダーとディミートリアスがヘレナに恋をしてしまう。すると4人はけんかをはじめる。また、パックは森にいた職人の頭をロバに変えてしまい、目を覚めたタイターニアは、ロバに頭が変わった男を見て恋に落ちる。
その後、オーベロンは「もとどおりになる薬」をパックに渡し、みんなもとどおりになる。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
夏至の夜、妖精たちが集う森にふた組のカップルがやってくる。ちょうどそのころ、森では妖精の王・オーベロンと、妃・ティターニアがけんかをしていた。腹をたてたオーベロンは「最初に見た相手を好きになる」という恋の花の汁を妃の目に塗ろうと仕掛ける。さらに、森で見かけたカップルたちがうまくいくように花の汁を塗るよう、妖精パックに命じる。パックが人違いをしたせいで、人間たちの恋の行方はどんどん混乱していき…。
オセロー
「4大悲劇」のひとつです。「人を疑うこと」が悲劇の引き金となってしまいます。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
ヴェニスの軍人でムーア人のオセローは、美しいデズデモーナと愛し合う。デズデモーナの父・ブラバンショーは反対するが、それを押し切って半ば駆け落ちのように結婚する。
オセローの部下・イアーゴーは、オセローを嫌い、また自分よりも先に昇進した同輩・キャシオーも妬んでいた。そこでイアーゴーはオセローに、キャシオーがデズデモーナと密通しているというウソをつく。そのことが本当であるかのように、イアーゴーは、オセローがデズデモーナに送ったハンカチを盗みキャシオーの部屋に置く。
オセローは、イアーゴーのウソを信じてしまい、怒りのあまりキャシオーを殺すようイアーゴーに命じる。オセローは激しい嫉妬に苦しんだ末、自らの手でデズデモーナを殺してしまう。その直後、イアーゴーの妻・エミリアが、ハンカチを盗んだのは夫であると告白。真実を知ったオセローは妻を殺したことを嘆き、同じ場所で自らの命を絶つ。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
ヴェニスの軍人でムーア人のオセローは、美しいデズデモーナと結婚する。オセローの部下・イアーゴーは、オセローを嫌い、また自分よりも先に昇進した同輩・キャシオーも妬んでいた。そこでイアーゴーはオセローに、キャシオーがデズデモーナと密通しているというウソをつく。オセローは、イアーゴーのウソを信じてしまい…・
マクベス
「4大悲劇」のひとつで、オペラにもなっています。マクベスが王になるために、その野望が我が身を滅ぼしてしまうというお話です。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
スコットランド軍の将軍であるマクベスとバンクォー。ふたりはノルウェー軍に勝利し、陣営に戻る途中だった。そんななか、マクベスとバンクォーは3人の魔女に出会う。3人の魔女は「万歳、マクベス、コーダーの領主!」「万歳、マクベス、やがて王となるお方!」などと口々にマクベスを称える。そこへスコットランド王・ダンカンの使者が現れ、マクベスが新しくコーダーの領主に任命されたと言う。3人の魔女が言ったとおりになったことに、マクベスとバンクォーは驚く。
マクベスたちは城に帰還すると、ダンカン王に迎えられた。王はマクベスとバンクォーの功績を讃えながら、息子であるマルカム王子を王位継承者に定めると言った。マクベスはそれを聞き、ある決心をする。
その夜、ダンカン王がマクベスの家へ来ることになった。マクベス夫人は王の部屋付きの護衛に薬を盛った酒で酔いつぶれさせた。マクベスは王を刺殺する。
朝になり、ダンカン王の遺体が見つかって大騒ぎになる。マクベスは部屋付きの従者を殺し、口を封じた。王子たちは自分たちの命も危ないのではないかと、マルカム王子はイングランド、ドナルベイン王子はアイルランドへと逃げる。
こうして、マクベスは王に即位する。しかし、精神が不安定になり、刺客をやとって友人であるバンクォーとその息子・フリーアンスを狙わせる。このとき、バンクォーは死に、フリーランスはのがしてしまう。マクベスは心の安定させるため、魔女のもとに向う。「女の股から生まれたものはマクベスは、倒せぬ」「マクベスは決して滅びぬ、バーナムの森がダンシネーンに来るまでは」との予言を聞き出す。
その直後、マクベスは有力な貴族・マグダフがイングランドに逃げたことを知る。マグダフはイングランド王のもとに身を寄せるマルカム王子に、打倒マクベスの決起を呼びかけた。
ある日、イングランド軍がマクベスの城を攻めた。「バーナムの森が動くかのように」攻めてくるイングランド軍に城が落とされていく。マクベスはマグダフと対峙し、母親の「割いた腹から生まれた」マグダフの剣がマクベスの首を討ち落とす。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
スコットランド軍の将軍であるマクベスとバンクォー。ふたりはノルウェー軍に勝利し、陣営に戻る途中、3人の魔女に出会う。3人の魔女は「万歳、マクベス、コーダーの領主!」「万歳、マクベス、やがて王となるお方!」などと口々にマクベスを称える。そこへスコットランド王・ダンカンの使者が現れ、マクベスが新しくコーダーの領主に任命されたと言う。
マクベスたちは城に帰還すると、ダンカン王に迎えられた。王はマクベスとバンクォーの功績を讃えながら、息子であるマルカム王子を王位継承者に定めると言った。魔女の予言に自信を得たマクベスはとある決心をし…。
『シェイクスピア物語』が読み継がれている理由
『シェイクスピア物語』がこれまで読み継がれているのには理由があります。その理由を解説していきましょう。
現在でも多くの国で上演され、さまざまなエンターテイメントの題材に
シェイクスピアの戯曲は、イギリスのみならず、現在も多くの国で上演されています。また、戯曲がそのまま読まれるだけでなく、映画や絵画、音楽の題材など、エンターテイメント化しているのも、シェイクスピア作品の優れた点です。
近代の言葉で小説風に構成され、読みやすい
名作といわれるシェイクスピアの原作戯曲ですが、16~17世紀の古語英語で書かれているため、英語圏の人にとっても読みこなすのは難しい古典です。それを近代の言葉でわかりやすい小説構成にあらためた『シェイクスピア物語』は、英語圏のみならず世界中に翻訳され、現在「シェイクスピア」というと、この『シェイクスピア物語』を指すほど広く読まれるようになりました。
色褪せず、現代人でも共感できる
シェイクスピア作品は、「生と死」「愛と憎しみ」「出会いと別れ」といった人間の普遍的なテーマが描かれています。これらのテーマは現代人であっても本質的なところは変わりません。また、さまざまに解釈できることもあることから、色褪せない作品といえます。
四大悲劇
「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」は四大悲劇と呼ばれ、シェイクスピア作品の中でも特に有名です。現代も多くの国で上演されているこの四大悲劇のストーリーを小説風に読めるのも『シェイクスピア物語』の魅力です。
名言や名ゼリフがたくさんある
シェイクスピアの戯曲には、名言たるセリフや名ゼリフが出てきます。「ハムレット」には、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」、「マクベス」には、「慢心は人間の最大の敵だ」、「ロミオとジュリエット」の「ああロミオ。あなたはどうしてロミオなの」などです。聞いたことがあるセリフもあるでしょう。これら原典の中の名セリフも『シェイクスピア物語』では見事に生かされており、現代に伝えられることとなりました。
名作「シェイクスピア物語」を読むなら
ここからは、そんな『シェイクスピア物語』のおすすめの本をお伝えします。本作に興味を持ったらぜひ手に取っていただきたい3冊です。
シェイクスピア物語(上)
「あらし」「夏の夜の夢」「冬ものがたり」「むださわぎ」「お気に召すまま」「ベローナの二紳士」「ベニスの商人」など10編が収録されています。
シェイクスピア物語集―知っておきたい代表作10
ラムによる『シェイクスピア物語』の翻訳版ではありませんが、原典となるシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」「ヘンリー5世」「リア王」などの名作10編をわかりやすい物語風に紹介しています。それらの作品に加えて、シェイクスピア名言集も収録されています。
小学館世界J文学館
この1冊で125冊の電子書籍を読める新時代の児童文学全集です。『シェイクスピア物語』はもちろん、世界名作、現代児童文学、日本やアジアの古典、SF、詩までを網羅。ほとんどを新訳で収載し、日本ではじめて読める作品も収められています。
『シェイクスピア物語』を声に出して読んでみよう
『シェイクスピア物語』はもともと戯曲形式で書かれたものなので、登場人物のセリフがたくさん出てきます。声に出して読んでみてもおもしろいかもしれませんね。
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文・構成/HugKum編集部