「夫が居なきゃ・・・・」の前提を見直す
「2歳の子どもがいます。夫の不倫が発覚して一緒に住むのは心身ともに限界に近いのですが、共働きで実家も遠く、夫の協力なしでは子どもを育てられないため、離婚はためらっています。どうしたらよいでしょうか?」
働く女性が増え、夫婦で育児をする家庭が多くなった近年、こういった「離婚はしたいが、一人では子育てができないから踏み切れない」という相談が増えています。
「家族を裏切っているひどい夫だけど、子育てには協力的なので居てくれないと困る、でもやっぱり不倫は許せない」・・・・・・そう言って法律相談の場で泣き出してしまう女性をたくさん見てきました。
さて、ご質問への回答ですが、あなたが子どものために夫の不倫を許す覚悟がなければ、離婚の方向に舵を切ることをおすすめします。
思い切って、「夫が居てくれないと子育てができない」という前提を見直してみましょう。
まずは実家の両親が手伝ってくれるかが大きなポイントになります。
……と私が言うと、多くの方は「実家の両親には頼れないんです」と即答されます。しかし、本当にそうなのでしょうか。自分の娘が夫に裏切られてつらい思いをしていても、絶対に助けてくれないのでしょうか。「まずは現状を親御さんに話して、あなたがどれだけ苦しんでいるのか、気持ちを正直に打ち明けてみてください」」と促した結果、「何かあったら助けるから」と言ってくれた__と言うケースがほとんどでした。
体調が悪くなった時だけ泊まりで来てもらう、長期休暇のときだけ預かってもらう、週のうち一日だけ迎えに行ってもらうなど、手助けの範囲は人それぞれですが、何かしら助けてもらえることがあるはずです。
実家が遠い場合は、仕事との兼ね合いを考えつつ、実家に引っ越すか、両親に引っ越してきてもらうことも想定してみます。
他にも、行政や民間の子育て支援サービスを調べてみましょう。職場と話し合って、部署や勤務形態、働き方を変えてもらったという人もあります。ママ友や近所の人に助けてもらったケースも見てきました。
このように、夫に頼らない子育ての段取りができたら、別居や離婚に向けての動きを取り始めましょう。
困っていると正直に打ち明ければ、周囲はきっと助けてくれる
こういった悩みを抱え、相談にいらっしゃる方は、仕事にも家庭にもまじめに取り組む、とても責任感が強い方が多いんです。そのため、つらくても周りに弱音を吐けず、「一人で子育てできないから離婚できない」ということ自体、弁護士である私に相談するまで誰にも言えなかったと聞きます。
真面目なのはよいことですが、一人で抱え込むと、悩みがどんどん大きくなってしまいます。
離婚して子育てをするには、周りの助けが必要不可欠です。耐えるしかないと思い詰める前に、困っていると正直に打ち明ければ、周囲はきっと助けてくれます。
夫からもらえる教育費の金額を知りたい
「離婚を考えています。中学生の子どもがいるのですが、私一人で育てる場合、子どもの将来の学費が夫からもらえるのか不安です。離婚によってもらえるお金を教えて下さい」
離婚する時に一番不安になるのは、経済面ですよね。
私が離婚の相談を受ける時は、まず最初に、離婚した後のお金の見通しをお伝えするようにしています。
離婚する場合にもらえるお金には、「財産分与」「年金分割」「養育費」があります。不倫や暴力などの事情があれば慰謝料が発生する場合もあります。
「財産分与」は、婚姻期間中に増えた夫婦の財産を半分ずつに分けるのが原則です。
「年金分割」は、婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金を分割して、それぞれが受け取ることができます。
「養育費」は、子どもがいる場合、子どもを育てる親(実際に子どもと同居している親。この質問の場合は母親)が月々受け取れます。金額は、夫婦双方の収入や子どもの人数に応じて、裁判所で基準額を定めた算定表があるので、それが元になって決まります。
一般的には、支払いは子どもが満20歳になる月まで、大学に進学した場合は、満22歳になった後の3月まで支払うという取り決めが行われるケースが多いです。
養育費の金額を決める際、妻が無職で収入がなくても働ける可能性(稼働可能性といいます)を考慮して、一定の収入額があるとみなされる場合があります。「養育費を多くもらうために仕事はしない方がいいですか」とおっしゃる方が多いのですが、しっかり働いた上で養育費ももらった方が、毎月の手取りが多くなります。
この先、子どもにかかるお金全てを養育費から出さないといけないと考える方が多いのですが、月々の養育費に含まれるのは、子どもの生活費、教育費(学用品代など)、医療費です。
進学でかかるお金(授業料や入学金など)、私立学校や大学の授業料、不慮の事故や病気による入院などの治療費といった特別出費については、当事者間で別途協議します。多くの場合は、双方の収入比率で支払うことになります。
意外と多い「夫の収入を知らなかったため低い金額で合意」の悲劇
養育費については、協議離婚の場合でも、離婚の際に書面に残しておくことをおすすめします。
こういったお金の取り決めが話し合いでまとまらない場合は、まずは家庭裁判所で調停を行うことになります。調停で合意ができなければ、家事審判に移行して、裁判官が結論を出します。
離婚に伴うお金の動きは、おおまかにこのような流れになります。
意外と多いのが、急いで離婚をしたから養育費のことを取り決めなかったとか、夫の収入を知らなかったため算定表より低い金額で合意してしまった、というケースです。
毎月適正額の養育費をもらうのは、子どものためにとても重要なことです。何を特別出費に含めるかという合意は、学費など大きな出費の負担に関わってきます。離婚の時こそお金についてはしっかり調べて、弁護士に相談するようにしましょう。
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記事監修
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。
離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。
『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『モラハラ夫と食洗機』(小学館)『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)などがある。
3時間を超える説教、一瞬の休憩も許されない家事地獄、エアコン禁止で死の恐怖に襲われた夏、夢見た新居はなぜか「空っぽ」………こんな夫からのモラハラ事例が、本書には15例も登場します。そして
・妻が別れを決意した〔モラハラの実態〕と具体的な希望、
・それらを踏まえた〔別れるための戦略〕、
・モラハラ夫が生まれてしまった理由や背景を探る〔分析〕
――が、2000件を超える離婚・恋愛トラブルを扱ってきた弁護士だからこその視点と説得力で語られます。