きょうだいで不登校に。5年間の暗闇トンネルから抜け出せたのは、子どもの心のエネルギーが溜まったから。「専門家に相談してよかった」

顕著に増加している不登校の子どもたち。不登校には、さまざまな背景があります。今回お話を聞いたのは、5人きょうだいの子育てに奮闘しているYさん(東京都在住)。第3子の兄(当時 小学3年生)に続き、第4子の弟(当時 小学1年生)も小学校低学年のときに不登校になりました。後編では、長かった寄り添い生活とそこから得たものについて、お母さんに伺いました。

我が家の不登校生活の実態

おうちでの様子はどうでしたか?

お兄ちゃんは、教科書とか筆箱とか、学校のもの見ると、それだけで心がザワザワするのか、様子がおかしくなっちゃう感じでした。勉強を教えようとしても、学校のドリルを嫌がるから、私がイラスト入りのドリルを手作りしたのですが、それも受け入れず…。レゴで立体のものを作って遊んだり、プラレールをしたりする毎日でした。教育テレビを見せることもありました。

―ずっとおうちの中で過ごしていたのですか?

たまには体を動かしたほうがいいと思い、公園での外遊びや買い物などに誘ったのですが…。不登校になりたての頃は、「今、外に出てもいい時間なの?」と人目を気にしていました。「一緒に買い物に行こう」と誘ってもついて来なくて…。仕方なく「じゃあ、急いで買い物してくるから、お留守番していてね」と言って出かけると、5分ごとに電話がかかってきて「まだ、帰ってこないの?」と泣かれてしまうんです。

― それは、ストレスがたまりますね。

ゆっくり外出できなかったのは、ストレスがたまりました。

弟さんは、どうでした?

兄が学校に行かず、家で過ごしている様子を見て、弟も年長さんの3学期からだんだん登園を渋るようになりました。家には、大好きなお兄ちゃんがいるわけですから、家で遊んでいたほうが楽しいようでした。

弟さんの小学校への登校は?

コロナ禍での休校、分散登校などを経て、いざ学校が始まると、勉強面でついていけないようになりました。休校のとき、学習プリントが配られたのですが、それで「ひらがなは学習済み」という前提で、6月からの授業が始まったのです。でも、うちは、お兄ちゃんのことで手一杯で、弟の勉強を見る余裕はありませんでした。

突然の休校や分散登校などで、学校も保護者も子どもたちも混乱しましたね。特に、新1年生には、大きく影響しましたね。

母 学校が再開されて早々、音読の宿題が出ました。弟は、ひらがなもろくに読めない状態でしたから、学校に行ってもおもしろくないわけです。ついに、二人そろって不登校になってしまいました。一人だけなら、不登校への不安や心細い想いをすることもあるかと思いますが、二人なら平気。タッグを組んで「おれら、学校行かない」という状態に突入しました。

W不登校の長期戦を覚悟

兄弟ふたりで黙々と遊ぶようになり……。

二人の不登校に、ストレスは倍増したでしょう。

確かに心配事は増えましたが、でも、いい変化もありました。兄にとって、「不登校は自分だけじゃない」と安心できる材料ができて気持ちが落ち着きましたし、弟は弟で大好きなお兄ちゃんが家で遊んでくれるから楽しいわけです。2人で黙々と遊ぶようになったら、お留守番もできるようになり、急いで買い物や用事を済まさなくちゃ、と焦ることはなくなりました。そういう意味では、私のストレスは減ったと思います。

最強のタッグですね。

本当にそう! きょうだいというより、親友感覚でした。その姿を見て、これは長くなるなと覚悟しました。

そういう状態に私自身はあまり不安はなく、「まあ、そうなるよね」という受け止め方でした。さてさて、この先、二人をどうしようか、不登校にがっつり向き合わなくちゃいけないなと思いました。

がっつり向き合うというと、インターネットなどで情報収集をしたのですか?

不登校児を抱えている親は、支援教室やフリースクールなどについて、インターネットで検索することが多いようです。でも、ネットにはいろんな情報があって、私にはどれが正しいか分からない。代わりに、信頼できるカウンセラーさんに相談して、話を聞くことにしました。お兄ちゃんのときの経験から、「この人は、うちの子に関心が薄いな」とか「この人なら、親身になって話を聞いてくれる」とかぎ分けられるようになり、相談先が定まっていきました。

相談先は、どんなところを選んだのですか?

東京都の教育相談所です。その頃から、私の味方が少しずつ増えて、心に余裕ができました。子どもたちにも「今は、無理だよね。家でしっかりエネルギーチャージしようね」と言えるようになったのです。

長く続いた不登校の出口

月1回のペースで通った教育相談所。「専門家に相談して本当によかった」

W不登校生活が変化したのは?

兄が刺激を求めるようになりました。「つまんない! 今すぐ、どこかに連れていって」と猛アピールするようになったんです。

心のエネルギーが溜まってきて、外に気持ちが向くようになったんですね。

そうですね。教育相談所には、月1回のペースで相談していたのですが、子どもの状況を伝え、さて、どこに通わせたらいいかという相談も始めました。

適応指導教室に通われたのですね。

私としては、早く通わせたい気持ちだったのですが、なかなかカウンセラーの先生からGOサインが出ず、ちょうどいいタイミングを待ちました。結果的に、4年生になる前にGOサインが出て、適応指導教室に行き始めました。

カウンセラーのアドバイスは役に立ちましたか?

専門家に相談して良かったと思います。時期が早すぎると、「やっぱり家にいる」と逆効果になってしまいますから。その子にとっていいタイミングはあるんだなと思いました。

弟さんの様子は?

最初は、きょうだいの絆があまりにも強く、うまく二人を切り離せませんでした。弟が、兄から離れられなかったんです。「行かないで!」と泣き叫んで暴れました。でも、兄にとって外へ出るタイミングだったし、弟にとっても、兄から離れる練習の時期に入ったと思いました。

どのくらいのペースで通いましたか?

最初は月に2回、1時間ずつです。その後、週に1回2時間の午前コース、週2回ずつの午前コース…とだんだん増やし、お弁当を持って通えるまでになりました。

適応指導教室に通い始めたお兄ちゃんの反応は?

とても気に入ったようで、「毎日行きたい」と言うようになりました。本人が外との関わりを求めていたし、学校のようにチャイムが鳴らないから緊張しないようでした。「適応指導教室は、学校にいけないお友達がいくところだよ」という説明にも、安心したようです。「行ってきます」と言って通えるようになりました。

素晴らしい成長ですね。

少しずつ、兄と弟が別々に過ごす時間が増え、ようやく離れられるようになりました。一時は、二人とも引きこもりになるのかと思っていましたが、その時が来れば、外に出ていけるようになるんだなと感じています。

今の弟さんの様子は?

日によって波があります。癇癪を起すことも多いのですが、それは「今は自分と向き合って」と私に訴えているのかなと受け止めています。考えてみると、お兄ちゃんの件で教育相談室に通ったり、学校行事に参加するお兄ちゃんに付き添う際に一緒に弟を連れていったり、常にお兄ちゃんがメインでしたから。

専門家の力を借りてよかった。悩みを話し合える場にも参加してほしい

今、振り返ってみて、どんな思いがありますか?

当時、周りから「お母さん、頑張りすぎないでね」とよく言われました。でも、どんなに言われても、その意味が分かりませんでした。「私がここであきらめちゃったらいけない」と思い込んで、必死でした。「今なら、そんなに思いつめる必要はないな」と笑い飛ばせるんですが…。

思いつめる必要はないと思えたのはなぜですか?

お兄ちゃんは、繊細で敏感な分、私がキッチンでもの音を立てただけで、「大丈夫?」と心配してくれるやさしい子です。一方、弟は、うれしいとぴょんぴょん跳ねるような感情豊かな子。勉強の遅れは取り戻せるけど、心の傷は取り返しがつかないので、「何が何でも学校に行かせなくちゃ」と、子どもを追い詰める必要はないと思います。

子どもの不登校に悩むお父さんお母さんにメッセージはありますか?

子どもの不登校に悩むおうちはたくさんあると思います。信頼できる専門家に相談するほか、悩みを話し合える場やネットワークに参加してみるのがおすすめです。私は、たまたま「うちの子も、不登校になって長いのよ」と声をかけられた方と情報交換するようになりました。それをきっかけに親のグループを作り、今、100人くらいがつながっています。無料で、参加しても参加しなくても自由な会です。不登校はうちだけじゃない、悩んでいるのは自分一人じゃないと知ったら、親の心が早く回復することにつながると思います。

お子さんに対する思いも教えてください。

子どもたちは親の敷いたレールの上を走っていくわけではないと実感しています。私の知らない人生があること、いろいろな生き方があることを子どもに教えてもらっていると思います。自分の居心地のいい場所を探して、元気で笑って過ごせられればいいなと願っています。

ありがとうございました。

 

2人の子の不登校と、ひたむきに向き合ってきたYさん。不安、葛藤、焦り…さまざまな感情を乗り越え、笑顔を取り戻した素敵なお母さんです。子どもたちとの日々がますます豊かで充実したものであるよう、お祈りしています。

前編はこちら

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