【中村憲剛さん】15歳、14歳、8歳、3人の父親として、子どもたちへの接し方のポリシーは?サッカーをする長男には「アドバイスしたい気持ちをグッと堪えています」

厳しいプロサッカーの世界で、18年間もピッチに立ち続けたサッカー元日本代表・中村憲剛さん。日本代表として68試合に出場し6得点を果たしつつ、所属していたJリーグチーム「川崎フロンターレ」を優勝へと導くなど、サッカー史に残る記録を打ち立てました。‘20年に引退した後は、コーチ、解説者として多角的に活動。著書『中村憲剛の「こころ」の話 今日より明日を生きやすくする処方箋』(小学館クリエイティブ)も版を重ねています。後進の育成にも力を入れており、中学生を対象としたサッカースクール「KENGO Academy School」を主催。プライベートでは一男二女の父であり「教育方針は、チャレンジ精神と努力で人間性を育むことです」と語ります。優れた指導者でもある中村さんに、夏休み前に知っておきたい、親の心構えを中心にお話を伺いました。

 

努力に勝る才能はありません

――中村憲剛選手といえば、誰もが知るスター選手。トップに立つ人を見るとつい、「才能に恵まれたのだ」と思ってしまうもの。しかし、全くそうではないといいます。

中村「才能はもちろん大事です。でもそれ以上に大事なのは努力です。基礎練習を続けるうちに、センスが磨かれていくのです。そう言い切れるのは、僕のサッカー人生は挫折だらけだからです。プロサッカーチームも、練習生として参加したところから入団内定を勝ち取りましたから。その後、怪我もありましたし、メンタルもさほど強くなかった。でも、練習を重ね、壁を乗り越え続けることで、心身ともに成長しました。その結果、ピッチに立ち続けることができたのだと思います。これには家族の存在も大きく、誰よりも妻に感謝しています」

家庭では妻が監督、僕はコーチ。ふたりの意見をすり合わせる

――人間的な成長も妻によってもたらされたと言う中村さん。全幅の信頼を置く妻と二人三脚で、現在15歳(長男)、14歳(長女)、8歳(次女)の3人の子どもを育てています。夫婦間で重視していることはどんなことなのでしょう?

中村「子育てといっても、大部分は妻がやってくれています。それはあとで話すとして、まず、教育ですよね。僕たちの考え方は、“子どもの人生はその子のもの”だということ。選択肢を用意するのは親ですが、それを選ぶのは子どもたちという考え方を、もともとお互いが持っていました。

その上で、妻とコミュニケーションをとってを合わせることけています。一緒にいる時間が長く、信頼しているとはいえ、夫婦は他人です。意見の食い違いは絶対に出てくるもの。だからこそ、いのえをすり合わせた上で子どもたちと接するように心がけています。例えば、“今日、子どもの学校のテストの結果が来る日だよね、あの勉強の様子だとこのくらいの結果だろうから、どうやって言葉をかける?”というような感じです。

これは話す機会をわざわざ作るのではなく、日常会話の延長です。そして、子どもが成績を持ち帰ってきたら、夫婦間で互いに意見を話し合います。それから本人に意見を伝える。成績が良い・良くないは、本人がその理由をいちばんわかっていますから、僕から多くは言いません。妻から伝えることの方が多いですね。彼女はポジティブ思考なので、未来につながる的確な言葉を伝えています。

同時に子どもたちの目標を聞き、それに向かって努力ができているかなども話し合っています。ごまかしたり嘘をついても、自分に還ってくることは皆がよくわかっているので、結果が良くなくても“じゃあ次、頑張ろう”で話は着地します。

妻との意見のすり合わせを重視しているのは、子どもたちにとって、両親の存在が大きいから。父と母、それぞれが別の意見を述べていては、子どもはどこに進めばいいかわからなくなり混乱してしまいます。サッカーで言うなら、妻は監督、僕はコーチです。監督とコーチが同じことを考えているから、子どもたちは未来に向かって進むことができるのではないでしょうか。

ただ、我が家の場合、サッカーへの目標設定は僕、学校の成績に対して厳しめな意見を述べるのが妻であることが多いです」

――時間ができる夏休みに、夫婦間で意見をすり合せたいと思う人は多いはず。しかし、中村さん夫妻のように、冷静かつ客観的にコミュニケーションできるか、自信がありません。

中村「とんでもない!! 家族だから感情的であり、主観的です。今は説明しているから、冷静に聞こえますが、実際、家庭内では私たちも子どもたちも、思いをぶつけ合っています。ただ、親として子どもたちがどう受け止めるか、反応態度はしっかり見た上で建設的にの話をするように心けています。家族とはいえ“それを言ったらおしまい”という発言は、互いに自制しなくてはならない。

長男や長女は思春期ですから、心や体が急成長して自分自身が困惑している様子が見て取れることもありますし、人間関係や成績への悩み、将来への不安を考え始めることです。彼らが今、何を悩んでいるのかについては、サッカーをやっている長男は僕と、高校受験を来年に控えた長女は妻とよく話をしています」

子どもに「こうしなさい」と指示しない理由

――長男がサッカーついて悩むこと、抱えている問題については「自分が通った道だけに、手に取るようにわかる」という中村さん。

中村「でも、息子と僕は別の人間です。だからこそ、言い過ぎないようにしています。でも、サッカーを事にしてきた父親としては、そこを指そうとしているに“こうしなさい”と言ったほうが、正直楽なんです。だって、その経験を積んでいますし、どうすれば良いかもわかっていますからね。

しかし、それを先回って伝えてしまうのは本人の成長につながらない。重要なのは、本人が悩みの本質をつかむこと。そしてそれを言語し、この結果なのか、現を打するには、をすきかにらがいて、 “ 自分の意思で”行動することです。人が成長するために必要なのは、暗闇の中で苦しみ、自分と向き合い、足掻き続ける経験や時間です。

僕は高校、大学、プロサッカー選手になってからも、ずっとそれを続けてきました。自己嫌悪する暇があるなら、自分にベクトルをけ、自分の現在を知り、の上で目標定する。そして、目標を達成するためにいま何が足りてないか、どう進めばいいかを考えるのです。できてないからメではなく、今はないだけで努力をしてできるようにすればい。全ての動は自分ってきますら。

とはいえ、当然我が子はつまずいてしくはないので、「ここに気づけばいい」というポイントに気づくと、ついヒントを出してしまう。言いたい気持ちをグッと堪えたいのに、伝えちゃうんですよね。そのたびに妻から“口出ししすぎ!”と言われます(笑)」

――自ら考え行動することが重要さは、サッカーのみならず、スポーツ全般、習い事、勉強など全てに通じるようにも感じました。

中村「僕の人生は、今までもこれからもサッカーとともにあります。圧倒的な才能も身体能力も、自ら考え行動しないことには、活かせません。ですから、“今苦しんでいることは、将来大きな力になる”と声を大にして言いたい。これは、子どもたちはもちろん、主催するサッカースクールの『KENGO Academy School』の生徒たちにも伝え続けていきます。

あとは、“すべきことに手を抜かない”ということも子どもに伝えています。僕自身、サッカーと勉強を両立してきたからこそ、大学までサッカーをすることができました。 サッカーだけになるのではなく、文武両道であるべき。宿題や提出物は忘れずにやる、授業はしっかりと受ける、一定水準以上の成績をとるなど、好きなことを続けるための基準を設けています。

勉強は成績不振時の方が原因特定がしやすいですよね。勉強の方法が良くないのか、やる気がないのか、基礎力がないとかいろんなパターンがあります。結果だけでなく「なぜそうなったか」を分析することは、成長に欠かせないプロセスです。

それに、学校の勉強はたり前ですがちんとしたほうがいいんです。授業かせることは論理的思考につながりますし、自分の言葉で話す力を磨くこともできます。得意なことだけを続けていると、必ず限界はきます。勉強で苦労をすることもまた、幅を広げる一なります

 人間の成長は時間と労力がかかり、“コスパ”と“タイパ”とは程遠い世界です。それを気長に見守る中村さんの話を伺い、そこに伴走する妻・加奈子さんの偉大さを感じました。

後編の記事では妻との信頼関係をどのように築いていったのか、夫婦関係について詳しく紹介していきます。

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中村憲剛の「こころ」の話

中村憲剛×医師、異色コンビのメンタル本
「心って、一体なんだろう?」

そんな究極の問いを出発点に、サッカー元日本代表の中村憲剛さんが、人生における普遍的なテーマについて全力で考えました。それを1冊にまとめたら、みんなのメンタルを潤して、今日より明日がちょっと生きやすくなる人生の“処方箋”ができました。
サッカー選手×ドクター、異色のコンビが贈る新感覚のメンタル本です。

著/中村憲剛  監修/木村謙介  小学館クリエイティブ 1650円(税込)

プロフィール

中村憲剛|サッカー指導者・解説者
1980年東京都出身。中央大学卒業。‘03年に川崎フロンターレに加入し’20年に引退するまで所属。‘06年から5年連続でJリーグベストイレブン受賞。’06年に日本代表にも選出され、‘10年ワールドカップに出場。’16年にJ1史上最年長のMVPを獲得。‘17年’18年と川崎フロンターレを優勝へと導く。現在は指導者、解説者として活躍中。

 取材・文/前川亜紀 撮影/五十嵐美弥

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