「カメレオンくん」はSNS発信の初期からのキャラクター
――最初に、ストーリー絵本『まねっこカメレオン』がどのように生まれたのか、制作のきっかけを教えてください。
絵本の主人公となった「カメレオンくん」は、僕がSNSに投稿してきた作品の中に初期から登場していたキャラクターです。カメレオンの男の子がテントウムシやネズミなど、いろいろな小さな仲間たちと出会うんですが、切り絵は色が変えられないので、模様で相手のまねっこをする。それがファンの方たちから好評で、これまでにいろいろなパターンの作品を発表してきているんです。
あるとき、「カメレオンくんの作品たちをまとめて一冊の絵本にしませんか」と編集の方から提案をいただいて。最初、それほどピンときてなかったのですが、考えてみたら、ふだん僕は作品にタイトルしかつけていないのに、このカメレオンくんシリーズだけは、SNSに投稿するときにも、それぞれの作品にストーリーをつけていたんですよね。
それで、そのストーリーをつなげてこの絵本を制作していくうちに、カメレオンくんがどんな男の子なのか、どんどんイメージが膨らんできて、「だったらラストシーンの作品は新しく作ろう」とか「表紙の作品はこうしよう」とか、僕自身もこの絵本にじわじわ愛着がわいてきたんです。
――カメレオンは好きな生きものだったんですか? 絵本には仲間たちと出会う生きものはカメレオン以外にもいろいろ登場しますが。
僕は爬虫類が好きで、本当はカメレオンを飼いたかったのですが、飼育が難しいので、その代わりにカエルを1匹飼っているんです。もう7~8年になります。
そんな気持ちが「カメレオンくん」を作品に登場させたのかもしれませんね。
幼いころから僕は、ウサギや犬、猫といったかわいい生きものより、爬虫類や恐竜とか、深海魚や昆虫といった、どちらかというと気持ち悪いものだったり、マニアックなものが好きなんですよね。
リアルな生き物も愛着を持ってもらいたいとリトさん風にかわいくアレンジ
だから幼いころは絵本より図鑑が大好きで、ページをめくっては、そこに掲載されているインパクトのある奇妙な生きものたちが、どんな世界でどんな一日を送っているのか想いを馳せていたんです。
そんな子どもの頃に抱いていた想いが、僕の作品には反映されているんじゃないかと思います。そういった生きものはリアルに表現すると怖いので、デフォルメしてかわいく表現しているつもりです。例えば、イモ虫やヘビは丸みを付けたりして、作品をご覧になる皆さんが受け入れてもらえるように配慮しているつもりなんです。
子どもたちに観てもらいたい!という思いが形になった絵本
――これまでもたくさん作品集を出されいますが、今回はなぜ、絵本にしようと思ったのですか?
僕の作品を、子どもたちに観てもらいたかったからです。
葉っぱ切り絵を始めてから、これまで大人の方たちからの作品への感想は、さまざまな形でお聞きすることができたのですが、子どもたちからのメッセージを、直接聞くことはなかなかできなかったんですよね。だから、子どもたちが親しみやすい形で作品を発信して、その反響を知りたいと思いました。
だから、この絵本を手にした子どもたちがどんな反応をするのか、今からとても楽しみなんです。物語だけじゃなく、作品そのものも楽しんでくれて、切り絵にも興味をもってもらえたら、うれしいです。
カメレオンくんは、5歳くらいの好奇心旺盛な男の子
――絵本では「カメレオンくん」が過ごした、ある一日が描かれているんですね。リトさんの中で「カメレオンくん」というのは、どんな男の子なんでしょうか。
「カメレオンくん」は、僕の中では大体5歳ぐらいの男の子で、まだ自分中心に世界が回っていると思っているんです。好奇心旺盛で、周囲の人と自分を比べて卑下したり、臆したりしない。だから、初めて出会った虫たちやネズミに対してもすぐになじんで、ミノムシさんの布団で「寝てみたい」とか、クモの巣を見て「かっこいい」とか、自分の想いを口にしちゃうわけです。
絵本では、そんな純真な「カメレオンくん」が、朝から元気いっぱいに外出して、いろんな人たちと出会い、夕方まで楽しい時間をたっぷりと過ごした一日を描いています。
これまで発表した作品の「カメレオンくん」の集大成
――出会った虫たちも「カメレオンくん」を拒絶したりせず、みんながみんな、すぐに受け入れてくれていて、どのシーンもほっこりしていますね。
ええ。「カメレオンくん」が出会う仲間たちは、僕のイメージでは「カメレオンくん」より少し年上なんですよね。だから、自分より年下の「カメレオンくん」を、みんなかわいく思って、食べ物をごちそうしてくれたり、音楽を演奏してくれたりして、優しくもてなしてくれるわけです。
絵本に収録した作品は絵本用に創作したものもありますが、多くはこれまで発表したものなんです。だから、この絵本は「カメレオン君」シリーズの作品集でもあるんですよね。絵本の文章の部分で「 」で囲んだ言葉は、発表したときの作品タイトルになっています。
――そう言われて見てみると、絵本に登場する「カメレオンくん」の表情や、虫のフォルムなどが、ページごとに違いますね。リトさんの作品の変遷もわかるから、子どもたちだけでなく、既存のファンの方も楽しめますね。
絵本では、カメレオンくんの表情の変遷も楽しめる仕掛けに
ええ。絵本には2021年に発表した初の作品集『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』へも収録している「カメレオンくん」がいるんですが、それは初期の作品なので、彼は口を開けているだけなんです。でも、最近創作した作品では、口の中から舌を出していたり、眠っていたりと、表情が豊かで動きがある感じになっているんですよね。
そんなふうに、僕の作品集として眺めてもらえたら、今回の絵本はこれまで応援してくださったファンの方たちにとっても、楽しんでもらえるんじゃないかと思います。
――この絵本には、いろんな秘密が隠されているんですね。
僕は子どものころ『ウォーリーをさがせ!』シリーズが大好きだったんですよね。あの絵本と同様に、何度も本を開いては、楽しんでもらえたらうれしいです。
絵本刊行を記念してイベントも開催。イベント限定グッズも販売します
この絵本の刊行を記念して、7月26日(水)~8月8日(火)、東京の『丸善 丸の内本店』4Fギャラリーでイベントを開催します。『まねっこカメレオン』も、この会場でのみ、ひと足早く7月26日より発売に。
ボールペンの細密画から創作をスタートした僕が、葉っぱ切り絵に出会い、絵本に辿りつくまでの道のりを作品とともに公開する展覧会です。イベント限定グッズをはじめ、関連書籍なども販売しますので、お近くへおいでの際は、ぜひ立ち寄っていただけたらと思います。
展覧会の初日には在廊して、サイン会も行わせていただく予定です。たくさんの方に出会えることを願っています。
『まねっこカメレオンくん』刊行記念イベント リト@葉っぱ切り絵展 ボールペンから始まった小さな冒険
【会場】丸善・丸の内本店 4Fギャラリー
【期間】2023年07月26日(水)~08月08日(火) 09:00 〜21:00 ※最終日は15:00閉場
*リトさん在廊 7月26日(水)10:00~15:00(予定)
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取材・構成/山津京子 写真/さいとうりょうこ