人間の歴史は戦争と深く関わっています
歴史を学ぶと、必ず触れられるのが「戦争」です。2022年2月に勃発したロシアとウクライナの戦争は、世界を巻き込みながらいまだ続いています。戦争は人々の気持ちや国の形を変えたり、世の中の新たなしくみを生んだりしている。人間の歴史は戦争の歴史でもある、と私は戦争について考えます。
石器時代からあった「戦争」
では、いったい何年前から戦争は起こっているのでしょうか? その歴史は1万2000年以上前の石器時代にさかのぼります。戦争によるものだと思われる遺骨が発見されているのです。過去の戦争を研究すれば、未来の戦争を防ぐ方法が見つかるかもしれない、戦争の歴史から何を学ぶかが大切だと、私は思います。
正しい戦争ってあるの?
戦争はなぜ起きるのか? それは「自分たちの国を守る」という気持ちが根底にあるからです。そして戦争に踏み切るのは誰か? それは、その国のリーダーです。しかし、実際の戦闘にリーダーは参加しません。戦うのは兵士たちです。戦争とは所詮「人と人との殺し合い」。自分が殺されないために相手を殺すこと、それが兵士たちの役割なんです。
誰だって人を殺すのはいやなものです。だからリーダーたちは、「自分たちが勝てば世界はもっとよくなる」「みんなが幸せになれる」「祖国のために戦って死ぬのは美しいことだ」と美しい言葉を並べて、戦争を正当化し、兵士たちの気持ちを奮い立たせます。
「人を殺す」ことは「自分を殺す」こと
「人を撃ち殺しちゃった!私が!私と関係のない人を殺したんだ!この人のこと全く何も知らないのに、殺しちゃった」──第二次世界大戦で初めて人を殺したソビエト(今のロシア)の女性兵士の言葉です。
兵士たちの多くは敵を殺し、味方が殺されているうちに、人を殺すことをなんとも思わなくなり、人間としての感情が失われます。「人を殺す」ことは「自分を殺す」こと──戦争の現実とはそういうものです。「正しい戦争」なんてないのです。
やってもいい戦争ってあるの?
さて、民間人の死者を多数出した第二次世界大戦。その反省から1945年、「国際連合(国連)」は生まれました。設立の根拠となる条約「国連憲章」では戦争を禁じています。
しかし、なぜ、いまなお戦争が世界各地で起こっているのでしょう? それは戦争を正当化できる方法があるからです。
ロシアとウクライナの戦争は自国を守る「自衛の戦い」
ほかの国から攻められたときに自国を守る「自衛の戦い」。これに関して、国連では否定されていません。そして現在起きているロシアとウクライナの戦争も、この「自衛」が口実となっています。
2022年2月24日、ロシアがウクライナに攻め込んだことから勃発した今回の戦争。攻撃されたウクライナは国を守るために、つまり自衛のために戦っています。一方、ロシアもこの戦いを「自衛」の一つだと訴えています。攻め込んだ地域の歴史を紐解くと、これまで何度も紛争が起こっており、そこに住んで助けを求めているロシア国籍の人々を守るために戦っていると主張しているのです。
そして、ロシアは今回の戦いを「戦争」ではなく、「軍事行動」だと言います。つまり「戦争」は国際社会では禁じられていると知っているからです。禁止されている戦争が、実際には世界各地で続いているのは、こうしたからくりがあるからなのです。
どうしたら戦争をなくすことができるの?
今の日本の平和は戦争の歴史の上に成り立っている
現在、日本は平和な国です。しかし歴史的に見るとたくさんの戦争を経験してきた国です。
750年前には元(今のモンゴル)が攻め込んできたり、飛鳥時代や豊臣秀吉の時代には朝鮮半島に軍隊を送ったりもしています。江戸時代末期の薩英戦争、明治時代の日清・日露戦争、そして昭和の日中戦争、太平洋戦争……1945年の第二次世界大戦の敗戦から78年。
今の日本の平和は戦争の歴史の上に成り立っているんです。
日本には二度と戦争をしないという「日本国憲法」第9条があります。ただ、ウクライナと戦争中のロシア、ここ数年ミサイルを多数放っている北朝鮮、そして台湾との統一を目指す中国など、隣接する国々ではいろいろな動きが出ています。
どうすれば平和を守れるのか? 憲法9条を変えて「戦争ができる国」にすれば平和は保てるのか?
一人ひとりが自分ごととして考えられることが大事だと思います。
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構成/tsurumaki イラスト/TOA(『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』より)