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「分身ロボット」を開発してどんな人も行きたいところに行ける社会を
小幡 いきなり聞いてしまいますが、オリィさんがしているこのメガネは……?
オリィ これ、右目はふつうに前が見えるんですが左目は下が見えるようになっていて、仰向けになると寝ながらテレビがみられるメガネなんですよ。起きているときは歩きスマホしても前が見られると同時に下の位置のスマホも見られるので危なくないよ、という。ここに持ってきたのは、小幡さんと対談しながら、タブレットに出てくるYouTubeのコメントが同時に見られるかなと。
小幡 すごい……。オリィさんは物作りをずっとされている方で、ロボットコミュニケーターという肩書きですよね。子育てや単身赴任、入院など距離や身体的問題によって行きたいところに行けない人が分身ロボット「OriHime」を行きたい場所に行かせることで、そこにいるかのような臨場感を味わえる。そんな画期的なことをされています。
オリィ 寝たきりの人とか無菌室にいる人とかがOriHimeを使って就職し、働く場を確保できたら、という思いがあります。
小幡 実際僕は、オリィさんが運営している日本橋の『分身ロボットカフェDAWN』にも何回か行きましたけれど、OriHimeが、お客さんが注文したコーヒーを運んで来るんですよね。それを操作しているのは離れたところにいる障害のある方だったりします。行くたびにどんどんパワーアップしていて、感激しますよ。
オリィ 最近はキャッシュレスマシーンを用意して、OriHimeごしに物品をSuicaで買えるようになりました。今、OriHimeはハンバーガー屋でも働いているし、小幡さんの故郷の和歌山でいうと動物園のレストランの前で整理券を配ったりもしています。操作をする人は病気で寝ていたりもするんですが、そういう働き方を増やしたいなぁと。
父が勤務する小学校に自分も通うことの苦痛
小幡 オリィさんも小さい頃は不登校だったんですよね。
オリィ 小学校3年生から5年半ですね。うちは特殊な事例なんですが、父は私が通っていた小学校の熱血教師でした。そして私が不登校になった3年生のときに、スポーツ万能で明るい妹が小学校に入ってくる。自分だけが別物のような気がして、無気力になって3年半天井を眺め続けたり、ゲームもあまりできずに、笑い方すら忘れて滑舌も悪くなって。日本語をしゃべる能力を失っていったんですね。
とにかく人と話せなくてお腹が痛くなったし、高校のときに車椅子の開発をしていたときに、自分の研究発表をするのも話せないから大変で。
そんな中、何気にいちばんよかったのは、野外活動なんです。うちの父は奈良県屈指のキャンプファイヤーの達人で、教師を退いて奈良県の教育委員会の一員となり、奈良のキャンプ場に勤務していたんですよ。そのキャンプ場に行って自然観察して絵を描いたりする中で好奇心が出てきましたし、つらいときには森林浴をしたり。
大学生になるとキャンプ場で案内役のバイトをし、父親を上司としていろんな人と2時間くらい話す、これはむちゃくちゃ人見知り改善の修行になりました。
ただ、私がやったことがだれにでもあてはまるとは思っていないですよ。「オレにできたんだからおまえもできる」って謙虚か傲慢かわからない言動は多様性理解度がなさすぎる。「大丈夫だ、オレも不登校だから君も克服できるよ」は違います。しかし、メガネをかければだれでも視力が回復できる、車椅子があれば脚力を補える。それと同様にコミュニケーションに支障がある人にコミュニケーションツールを作ろうという発想で生まれたのがOriHimeです。
小幡 オリィさんのすごいところは、思ったらそれを実現するツールを作ってしまうことですよね。
オンラインの世界でアバターを身にまとったら
小幡 オリィさんがオリィという名前を使うようになったのは……?
オリィ 私は本名が吉藤「健太朗」なんですが。健康で太ってて朗らかって、全部自分と違う(笑)。アイデンティティがなかった。自分のビジュアルもきらいでした。オンラインゲームってキャラクターをつくれるじゃないですか。じゃあ、リアルキャラクター・リメイキングしようっていう考えで、「オリィ」になりました。折り紙が得意だったので。
小幡 名前を変えるのってアリですね。
オリィ これからは増えるのではないでしょうか。オンラインの世界でアバターを身にまとうとすごくラクになるってこと、あるじゃないですか。
小幡 V Tuberとかも?
オリィ まさに。バーチャルキャラクターなら踊れるってこと、よくありますよね。
うまく話せなかったからロボットを開発できた
オリィ 今になって思うんですけれど、私は学校に自分で工作したものをでクラスの子に遊んでもらったり、折り紙を折っておもしろがってもらったりすることで、なんとかやってきた。私がもしおもろいことを話せる人気者だったら、工作も折り紙もしていないかもしれない。人前でうまくしゃべれなかった代わりに行う表現方法だった気がするから。ある意味、うまく話せなかったから物作りの力をのばすことができたのはよかったですね。
小幡 なるほど。
オリィ 評価されなくてもずっとやり続けていると、時代とか地域とかコミュニティが変わるそのきっかけで評価されることがあります。私の場合は物作りの原点は折り紙や牛乳パックでの工作です。
この間SNSで「ロボット研究者が教えるロボットアーム入門」みたいなことをやったんです。段ボールで工作して、子どもたちはワクワクしていて。みんなこういう工作が好きなんですよね。そうやってできたものを肯定してくれる大人がいて評価してくれたらいいなと思っていて。そのワクワクが未来のロボット研究者につながるかもしれない。なんでもやれる場って大事です。
謙虚と親馬鹿なら親馬鹿のほうがいい!
小幡 親御さんが理解してくれないから肯定されないってありますね。うちの子はゲームばっかやってるって、否定になってしまう。部屋の中で世界大会に出ているのに評価されないとか。
オリィ 「うちの子は(世界で認められるなんて)無理だ」って最初から思ってしまう。親馬鹿と謙虚をどちらか選ぶなら、親馬鹿のほうがいいです。
小幡 絶対いい! ほめられたほうが絶対いいし、ほめられたらのびると思う。日本には身内を下げる文化があると思う。
オリィ ありますね、日本。豚もおだてれば木にのぼるほうがいい(笑)。うまくほめられなかったり、そのことについてよくわからないなら、たとえばゲームならゲームの専門家にみてもらうのがいいと思う。うちの場合は結果的にそういう場に連れて行ってもらったなと思っています。
気軽に誘って気軽にやめてもいいと言える親はありがたい
オリィ うちの母は、起きられなくて寝ている私の枕元で「あんた折り紙好きだろ、折り紙好きならロボットつくれるに決まってる、ロボットの大会に申し込んでおいたから、あんたいってらっしゃい」って。
小幡 お母さんが、息子をタレントにしたくて勝手にタレント事務所に応募するみたいな(笑)。
オリィ 折り紙が好きならロボットができるんだって、母の謎の思い込みですけれど、偶然もいろいろあって翌年の全国大会で準優勝したんです。*他媒体ではエリア大会で優勝
小幡 お母さん、すばらしいですね。子どもがまだわかっていない、向いていることを見つけてあげて、そっちにつなげてあげている。
オリィ 母は見つけてはいないんですが、思い込みで(笑)。気軽にいろんなものに申し込む親だったんです。だから向いていないものもありましたよ。一番向いていなかったのはミニバスケット、あとはピアノやらせてみたり、少林寺拳法、水泳……。無人島に1週間入れられたりとか、おばあちゃんところでボランティやったり。結果的にいろんな環境を与えてくれた親に、今は感謝しています。
小幡 親御さんが「すぐやめてもいいからとりあえず、だめなら引っ込める」っていうのはいいですね。子どもがかなり気が楽です。また、信頼できる仲間がいて、「こいつが言うならやってみようかな」というのも、自分の好きなことをみつけられる一つの方法かもしれませんね。
オリィ 小幡くんもいろいろやるもんね。
不登校の親は大変。今だからわかる親の苦労
小幡 ただ、子どもの頃はそうでもなかった。親は勉強もスポーツも好きで学校も好き、みたいな子どもを想定していたのに僕がそれを全部否定していやだって言ったから、どうしたらいいだろうって思っただろうな。この年になって、あのときの親は大変だったやろなと思う。
オリィ 間違いない。
小幡 けれど、ゲームもやらないし起業もわからないのに、最終「好きにしなさい」って、信じて認めてくれた。それは感謝しています。子どもたちもこの対談を見ていると思うけれど、学校に行きたくない子にゼロから向き合う親御さんも大変なんだよ。
オリィ でも、行き詰まったら専門家をみつけてくるってあるかもしれない。親から見て何の価値もないと思えても、同じことやっている人に連絡とって聞いてみるとか、そういうことはできると思う。
小幡 そこは一番伝えたいですね。親御さんが体験したことで「コレが正解」って思っていたとしても、時代が違えば、子どもが絶対同じルートをたどらないといけないなんてことは、なかなかないから。
オリィ 親御さんは「自分がわからないところに行かせるのはこわい」って思うでしょうしね。
小幡 だから学校に行かせたい、学校はある意味「信頼」ですよね。文部科学省が管轄していて問題ないようにつくられている。
オリィ ある意味一番保証されている。
小幡 でも、やはり社会は変わっているから。たくさん情報があるから難しいけれど、時代にあったことを選択していかなくてはいけなくて、それがこれからは一番必要な力ですね。情報を仕入れて、自分なりの答えを出す。よくない情報を切り捨てる。判断力も必要だし、情報を整理して自分なりの答え出す力も必要。これは、学校では教えてもらえませんからね。
オリィ 大人の方たちは、若い世代の友達を作るのもいいと思います。人間って年功序列だけれど、テクノロジーって逆年功序列なんです。テクノロジーの知識はインターネットでも仕入れられるけれど、体験とかは子どものほうが今のテクノロジーを使うことで、大人に教えてあげる立場じゃないですか。大人も子どもに教えてあげることはありますし、お互いにうまく補完できる関係をつくるって大事かな。
小幡 たしかに! 異年齢同士で教え合ったり刺激し合ったりすることは大事ですね。今、クリエイターや作曲家でも、めちゃめちゃ若い子が多いじゃないですか。高校生とか20歳くらいでもすごい子がいて、才能を感じます。
オリィ 我々がもっと若い世代に教えてもらうことも多いですよね。これからはもっと年齢が関係なくなる流れになるかな。聞くことってはずかしくなくなっているんです。大人が子どもっぽくふるまうのもはずかしくないし、大人はなんでも知っているわけじゃないっていうことは、子どももわかっています。お互いに完璧である必要はないんじゃないでしょうか。今、男女差別はある程度しない、海外の人の差別もそう大きくないかもしれないけれど、年齢による差別は大きいかもしれない。それを変えていけるといいですね。
小幡 ホントですね。
オリィ そのために、私が意識的にやっていることがあって。敬語をデフォルトにしてるんです。だれに対しても敬語にすることで、年下も年上もフラットに友達になりやすくなった気がしますね。
小幡 なるほど、年齢によって敬語、タメ口と分けないんですね。そうすると人との関係も変わる。
オリィ テクノロジーを使うことで年齢を乗り越えられることもありますよ。50歳の男性で車椅子の人が、OriHime使うと、出会って30分もたっていないのに遠隔で操作して子どもたちと「だるまさんころんだ」をやっているんです。ぜひ技術でいろんな壁を越えてほしいなと思います。
吉藤オリィさんのインタビュー記事はこちら
小幡和輝さんと茂木健一郎さんの対談はこちら
「不登校は不幸じゃない」YouTube配信はこちら
記事監修
本名吉藤 健太朗。オリィ研究所共同創設者 代表取締役 CEO。ロボットコミュニケーター。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。この功績から2012年に「人間力大賞」を受賞。 開発したロボットを多くの人に使ってもらうべく、株式会社オリィ研究所を設立。「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参加できる未来の実現」を理念に、開発を進めている。趣味は折り紙。2016年、Forbes Asia 30 Under 30 Industry, Manufacturing & Energy部門 選出。日本橋に、家にいるパイロットがOriHimeを操作して店舗の来訪者に接客する『分身ロボットカフェDAWN』をオープン。