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「学校に行かないと社会性が身につかない」ってホント?
小幡 茂木さんには高校生の頃からお世話になってもう10年くらいたちますね。僕みたいなはみ出したやつを応援してくれる貴重な存在です。
茂木 小幡君は何歳になったの?
小幡 29歳です。
茂木 もうそんな年になったんだね、最近は活躍していてすごいよね。
小幡 いえいえ(笑)。僕は自分が不登校だったから、不登校に関していろいろ考えたり情報を集めて発信したりしているわけですけれど。そもそも公立の学校って、「給食がなかったら餓死しちゃう子がいるよね、勉強すること自体がめちゃくちゃ大変だよね」という時代に、自治体がまとめて子どもたちを集めて学問や食事面を補強するところに価値があった。今は少し時代が変わっていますよね。
茂木 昔は学校に行かないと学ぶことの情報も得られなかったけれど、今は家にいてもインターネットやチャットGTPがあるしね。それだと「社会性が身につかない」って言うけれど、小幡とオレ何歳違うの? 年齢違ってもこうやって普通に話できるし。社会ってこういうものだよね、年齢もジェンダーもいろいろって社会の中で生きるわけだから。学校で身につく社会性って同じ年齢のやつしかいなくて、それ社会って言わないじゃない、いじめとか同調圧力とかもありそうで。
みんなが同時に同じ勉強をしなくてもいいのでは?
茂木 学校の学びってなんで全員同じスピードにすすむんだろう。専門的にカッコイイことを言うと、学習がうまくいっているメジャーとして「平均点」ってあるけれど、それよりも重要な指標があって、「おちこぼれがどれくらいいるか」ってなる。算数が得意な子はどんどん先に行くけれど、まだ分数もわからない、という子がたくさんいると、なかなかよろしくない、となる。なのに授業時間は1回50分しかないという矛盾。分数ができない子は、ほかの子が先へ進んでも、わかるまでやっていればいいじゃない。なぜ全員が同じ時間で勉強してシンクロしないと行けないのか、それが気持ち悪いよね。
小幡 働く環境は非同期になっていますよね。SlackとかLINEとかでそれぞれが発信して、タイミングみて集まってとハイブリッドになっています。学校はコロナ禍が終わったらまた全員登校して同期になりました。
茂木 僕は校長をやっている学校とかいろいろ関わっている学校があるんですが、株式会社がやっているところがほとんどです。いわゆる普通の学校という形に無理がありすぎて。
よく、「子どもの個性をのばす」っていうけれど、基本的に公立学校のシステムは個性のばすのに適していないっていうのを直視しないといけない。逆にどうやったら小幡君みたいになれるの?
小幡 フリースクールが大きな転換になりましたね。フリースクールに行って友達がたくさんできた。従兄弟が不登校で、フリースクールにすごく楽しそうに通っていたので、ついて行ったのが始まりです。そこはゲームが好きな子が多くて、楽しくて、はじめて友達と呼べる仲間ができたんです。中でも僕はゲームがうまかったので、中2のときに「大会に出てこいよ」って背中を押してもらって。そこで年齢も立場も違う人とたくさん知り合ったんです。
茂木 それが社会だよね。
小幡 まさに。それで視野が広がったし、賞金もらったりスタッフをやったりしたので、ちょっとお金も稼いでいたんですね。中学生で労働もして、それが転機になりました。好きなことをつきつめたら、食べていけるんじゃないかと思ったんです。
好きなこと×社会性が成長のカギ
茂木 脳科学的な分析をすると、自分の好きなことをするとドーパミンが出て、ますますその好きなことを楽しく思う回路を強化する。単に家でゲームやってうまさを強化するのもいいんだけれど、社会性をどう持つかが大事なんです。学校の先生にほめてもらうとかじゃなくて、人と繋がって役割が与えられると社会性をのばしていけるので、そこが鍵だと思うんだよな。
小幡 僕も、ゲームはやり方で変わってくるなって思っていました。ゲームで閉じこもっちゃうタイプの子はあまりよくないなと。
茂木 推奨しないんだね。
小幡 大会に出るなどの目標があって、そのために努力するスポーツのような感覚でゲームをやってほしい。友達を増やすという目標ももってほしいですね。
茂木 WHOが定義する「ゲーム依存」とは、やっている時間の問題ではなくて、その子の生活全体を見て、ゲームをやることで本来やることができず社会生活の上でよくない方向に行くこと。大会に出る子がたくさんやるのは依存症でないんだ。
また、脳科学的にはゲームというのは人生のすべてがゲーム。コンピュータゲームだけがゲームでなくて人生そのものがゲームだということになるね。
小幡 日本のようにゲームに対する評価が低い国はないですよね。こんなに世界的に評価されているゲームをつくっているのに。
茂木 岸田さんをはじめとする政治の中枢にいる人たちが、十分に人生をゲームととらえていないから日本は負け続けているんじゃない?
小幡 起業して10年やってきたんですが、これはゲーマーだからできたことです。新しいものをつくるときもサービスをつくるときも、ゲーム的な発想は大事だと思います。
茂木 小学生はゲームからいろいろ学べばいい。サーバーがどれくらいの負荷で課金どれくらいしないとだめだとか、そういうことも考えれば楽しいしね。
小幡 まさに。ゲームのなかで新しいルールつくるとか。遊戯王カードでは自分で新しい使い方を見いだせたりするんです。RPGでも公式の遊び方ではない別の遊び方を考えてみるとか。僕はそういうのが好きでしたね。
国数英社理ってどの程度大人になってから役立つだろう
茂木 日本の大学もそういうので入学をはかればいいんだよ。勉強って、いうたら言語能力と数式扱う統計とか英語はできたほうがいいと思うけれど、あとはオプションだよ。今後ますます推薦入学が増えていくだろうしね。
小幡 今でも私立大学は半数以上は推薦入学ですよね。
茂木 テストって社会人になってからそう必要ないよね。これからの時代はテストよりオーディション文化に移っていくと思うんだよ。
小幡 人として総合的に強ければいい。子どものころから、それは感じていましたね 『ドラクエ』と『ONE PIECE』は一人一人の役割があって、それで輝いていますしね。
茂木 どう勉強すべきかを自分で判断することが大切だよ。人間の脳ってやさしすぎると飽きちゃうし、難しすぎると飽きちゃうから、どういう態度で臨むかが大事。
小幡 いわゆる国数英、学校の授業は、どんな場合でもやるべきだと思います?
茂木 目的にもよると思うんですけれどね 大学行っちゃったら大学での学びって、内容にもよるけど、実はそこまで国語や数学そのものは関係ないじゃない。
小幡 衝撃でしたもん!大学には高校までの授業でやったことは本当に関係ない。めっちゃ勉強してきたのに、全く使わんの?って(笑)。
茂木 大学での勉強はプロジェクト型学習だから。あることを調べて表現することだからね。一般常識はあったほうがいいけれど、ネットニュース見ていたら常識ってある程度つくし。でも統計については、知識があったほうがいいかなと思うし、AIがどういうことをやるかなど、今後の社会を生きていくために必要な知識は得ておきたいね。でも、そういうのは学校の教科書を見たら載っているというわけではないから。国語算数理科社会ってなんだろうって思うよね。
学校のテストを受けてみると自分の力がわかる
小幡 テストに関しては人それぞれだと思うけれど、自分の場合は自己肯定感としてやったほうがよかったかなっていうのはありました。中学生のとき、不登校でも1回は学校の定期テストを受けないと評定がつかないというので、しかたなく中1の中間テストを受けに行ったんですが、500点満点で300点くらいとってました。平均より上でした。
学校にまったく行っていなくて家で好きなことやってテレビとかの知識のベースで学校のテスト受けて、300点。僕よりも下が山ほどいて。平均くらいとっておけば自己肯定感としてありかなって。
茂木 アメリカでは、標準的なテストをやると、ホームスクーラーのほうが学校行っている子より点数が高いんだよね。「学校に行かないと常識つかないっていうのは、そうでもないんじゃないですか?」って言える。だからこそ、学校に行っていなくても、ときどき標準的なテストをうけてみるといいかもよ、趣味で。
小幡 意外とできるかもしれないし、できなかったらちょっと勉強がんばろうって思うかもしれない。
茂木 オジサン(※自身のこと)はおなかが出てるから、毎日体重計にのっている。この体型で東京マラソンも走るしね。成績もときどき測定してみるといいかも。
教科書は悪くない。なんやかんやいっても学校はすごい
茂木 教科書も暇つぶしで読んでみればいいんじゃないかなと思うね。小学校、中学校のカリキュラムってそんな悪いものじゃないんだよ。
小幡 なんやかんや言っても、学校はすごい。日本どこにいても同じことが学べますし。
茂木 学校のいいところは使ってもいいと思うよ。強制じゃなければ楽しくやれるんじゃない?あと、スポーツ、大事でしょう。
ゲームで頭を使ったらスポーツでも頭を使おう
小幡 僕はあんまり運動はやってこなかったので……。「逆上がりできるまで帰れない」みたいなのがトラウマになっています。
茂木 運動は脳の回路にいい影響を与えるよ。スポーツこそが頭使う。得意不得意関係なく、楽しんでほしいな。脳の発育を考えると、スクリーンタイムが長いなら、バランスを取るために身体を動かすことをしてほしいかな。サッカーでも水泳でも好きな運動でいいから。
小幡 運動不足がそろそろヤバいなって思っていて。僕もそろそろアラサーなんでリングフィットでも……。
茂木 どうしてもゲームのほうにもっていくんだな(笑)。デジタルデトックスっていう意味ではスクリーン関係なくやれるといいなって思うけど。
小幡 あとは友達が大事。茂木さんに「一緒に走ろうよ」って言われたり、友達から「フットサル行こう」と言われたらやるっていうのはあると思います。
茂木 今日は楽しい時間だった、そろそろ終わりかな。じゃ、最後、結論出そう。「学校行かなくても大丈夫だよ、小幡くんみたいになれるから。でも運動はしたほうがいいよ~」
小幡 あはは、わかりました!
吉藤オリィさんの不登校経験はこちら
「不登校は不幸じゃない」YouTube配信はこちら
プロフィール
脳科学者。作家。ブロードキャスター。1962(昭和37)年、東京生れ。脳科学者/理学博士。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部卒業後、同大大学院物理学専攻課程を修了。理化学研究所、英ケンブリッジ大学を経て現職。クオリア(意識のなかで立ち上がる、数量化できない微妙な質感)をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。著書多数。